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親子

……………………


 ──親子



「と、説明はこれぐらいデス。人工筋肉の密度が増しただけ、破損した場合の整備には時間がかかる。そして、人工筋肉を入れ替えるときには新しい死霊術ネクロマンシーのために魔道式演算機ウィズ・システムを弄る必要があるということはしっかりと分かっておいてもらいたいデス」


 クラウスが去ってから、呼び出されたフーゴにアリアネがそう説明する。


「ふうむ。整備の頻度はあがるのか。それに予備の人工筋肉を用意しておかなければならない。整備兵として悪夢のような機体だな」


 フーゴはそう告げて、ニーズヘッグ型魔装騎士を見上げる。


「まあ、今後の機体ではもっと整備性を向上させるということで意見は一致してるデス。人工筋肉の入れ替えについても、もっとやり易い方法を準備するということで。今回の機体では生体装甲がモジュール化されているのがその兆候デス」


 そんなフーゴに同情するようにして、アリアネがそう告げた。


 流石に本国軍もこのままではよくないと考えているようで、機体の整備性についてもっと性能を上昇させるようにと要求し、開発を請け負っているレムリア重工でも整備性の上昇について意見が一致していた。


 今回のニーズヘッグ型魔装騎士は人工筋肉こそ面倒な入れ替え手順があるものの、装甲に関してはモジュール化されている。装甲が不必要な平時は、装甲を取り外しておけるし、万が一生体装甲の入れ替えが必要になったときも、スムーズに生体装甲が入れ替えられる。


「ああ。スレイプニル型の増加装甲と同じ要領ですな」

「そんなところデス。あれと同じで、装甲の入れ替えは自由自在デス。レムリア重工の規格に収まっている間はデスけど」


 フーゴが頷くのに、アリアネが同意してみせた。


「人工筋肉のモジュール化はまだ先の話、かな?」

「そうでもないデス。人工筋肉はある程度はモジュール化されているデス。ただ、やはり全身を駆動させる人工筋肉を1パーツごとに分けるというのは技術的な問題が大きいデス。特に関節部などの部位は」


 魔装騎士を駆動させる人工筋肉は、一定のモジュール化に成功している。人工筋肉を入れ替える際にも、丸ごとひとつの人工筋肉を、そのまま入れ替えればいいようにはなっている。


 ただし、アリアネの告げるように関節部などの部位は、入れ替えを行った場合には外科的手段で繋ぐ必要性があり、またニーズヘッグ型では新しい人工筋肉を魔道式演算機に認識させるためにプログラムを弄る必要性があった。


 人工筋肉を取り外して、入れ替えて、すぐに使用可能というほどにはモジュール化されていないのが現状だ。


「最近は死霊術が進歩してきていて、人工筋肉の自己修復が論理的に可能になったと言われているデス。このまま技術が進むのならば、本当にモジュール化された人工筋肉と寿命の長い人工筋肉が実現できるデスよ」


 だが、そのような状況も、技術の進歩によって覆されようとしている。人工筋肉を海洋哺乳類から取り外したのちにも機能するようにしている死霊術が進歩を続け、ただ人工筋肉を保持するだけではなく、人工筋肉の回復も可能なようになり始めているなどの進歩によって。


「それは嬉しいところだが、死霊術が多機能になると、今度は秘封機関の負担が増えるだろう。人工筋肉の入れ替えも面倒な作業だが、秘封機関の整備は危険が大きい作業だからね」

「その通りで。魔装騎士の魔術的要素が増える度に、秘封機関の出力は高度なものにならざるを得なくなるし、出力が増えれば秘封機関への負担は大きなものになるデス。永遠のジレンマデスね」


 フーゴが察するのに、アリアネはどうしようもないというように肩を竦める。

 魔装騎士を動かしている死霊術の魔力源も、対装甲ラムといった兵装の魔力源も、生体装甲を生かしている生体装甲の魔力源も、全てを管理する魔道式演算機の魔力源も、全ては秘封機関に由来するものだ。


 魔装騎士を動かすのは訓練さえ積めば誰でもできる。そこに魔力の有無は関係ない。魔力は全て、秘封機関が負担する。


 列強は秘封機関という動力源を得たからこそ、他の文明に対して圧倒的に優位に立てた。秘封機関のおかげで、誰もが魔術的な作業が行え、兵士の質は均質化されたがために。


 だが、その秘封機関もまだまだ完璧とは言い難いものだ。現在の技術では秘封機関の出力をあまりに上げ過ぎると、秘封機関の寿命が大きく縮み、大規模なメンテナンスか入れ替えが必要になる。


 そして、秘封機関は撃破された機体が大きく爆発するのを見れば分かるように、軍用の大出力のものは、暴走すると大爆発を起こす。メンテナンスには細心の注意が必要だ。


「まあ、整備兵は整備をするのが仕事だから文句は言うまい。これも仕事のうちだ。これから整備が楽な機体が開発されるのを望むばかりだな」


 フーゴはそう告げて、まだ発展途上にある第3世代型魔装騎士ニーズヘッグ型を再び見上げる。兵士たちから見れば頼もしそうな重装甲の機体であっても、中身を知るものからすると、些か威圧感が薄れる。


「整備手順についてはこちらで指導するデス。誰かそちらから人材を派遣してほしいデスが」

「ああ。3名ほど送ろう。前回のスレイプニル型では1名しか送らなかったからそいつから整備手順を聞き出すのに苦労した。3名なら十二分に安心できる」


 アリアネが告げるのに、フーゴが頷く。


「……ところヘルマ・ハント中尉とそちらは親戚か何かで?」


 と、ここでアリアネが嬉しそうにピョンピョンと跳ねながら演習場に運ばれていくニーズヘッグ型魔装騎士を見ているヘルマに視線を向けた。


 アリアネはフーゴのフルネームがフーゴ・ハントだと知っている。そして最近、ヘルマのフルネームがヘルマ・ハントだと知った。同じハントという姓から、彼女はヘルマとフーゴが親戚関係か何かにあるのではないと思ったようだ。


「……親戚と言えば親戚だな」

「へえ。ですから、あんなに熱心にハント中尉の機体を整備したデスね。姪っ子さんか何かデスか?」


 フーゴが小さく呟くように告げるのに、アリアネがさらに尋ねる。


 アリアネは大運河強襲作戦前にフーゴと共にヴェアヴォルフ戦闘団の機体を整備しており。そこでフーゴが熱心にヘルマの機体を整備していたのを見ていた。部下には任せずに、自分の手で兵装を入れ替え、増加装甲の装着を確認し、魔道式演算機がちゃんと機能しているかまで確認するのを。


「いや。実を言うと娘だ」

「む、娘さんデスか? お子さんがいたデスか?」


 フウと息を吐いてフーゴが告げるのに、アリアネの両目が見開かれた。


「ああ。そうなんだ。別れたに等しい妻が連れて行って、どうなっているかは最近まで分からなかったんだが、あれは俺の娘だ。どうして植民地軍で魔装騎士乗りをやっているかも分からないが……」


 そう告げるフーゴからは、気力が失われているのが分かった。


「ハント中尉は気づいているですか? その、フーゴ特務中尉が自分の親だってことに?」

「分かっていないはずだし、分かってもらえるとも思えない。親らしいことはひとつもしてやれず、今更親だと名乗れる立場でもないからな。どの面を下げて、俺がお前の父親だと言えるだろうか」


 フーゴはヘルマが3歳ほどのときに、フーゴが植民地軍の仕事であまりに長い間家を留守にすることに腹を立てた妻が家から出て行ってから、一度もヘルマにあっていない。どこにいるのかも分からなかったし、どういう顔をして会いに行けばいいのかも分からなかった。


「……友人は新しく作れるけれど、親は作れないデス。ハント中尉がどう思うかは分からないデスけれど、やはり親だということは明かした方がいいデスよ。そうしないとハント中尉が可哀想デス。このままじゃ、自分は本当に親に見捨てられたと思ってしまうデス」

「そうだな。いつかは、いつかは必ず明かしたい。親らしいことをひとつでもできれば、いつかは」


 アリアネは悲しそうにそう告げ、ハントは小さく頷いてそう返した。


「フーゴ特務中尉ー!」


 ヘルマの賑やかな声が響いてきたのはそんなときだった。


「何だろうか、ハント中尉?」

「兄貴からこの機体は壊れやすいから気を付けろて言われったッスけど、どれくらい暴れたら危ないんッか?」


 トトトとヘルマがフーゴの傍まで駆け寄ってきて尋ねる。


「人工筋肉が戦闘機動を12時間連続で行った場合には断裂する恐れがある。それからあまりに無茶な戦闘機動を行うと、人工筋肉の寿命が大幅に縮まるとされている。無茶というのは、いつも君が行っているような派手な近接格闘戦闘のようなことだよ」

「うへえ。スレイプニル型はいくら暴れても平気だったのに、このニーなんとか型は制限があるんッスね。困った話ッス」


 フーゴがアリアネから受けた説明を告げるのに、ヘルマが肩を落とす。


「ニーズヘッグ型だ、ハント中尉。だが、戦闘では制限を気にすることなく戦ってもらって大丈夫だぞ。機体が壊れた場合のために我々整備中隊がいるんだ。我々が君たちが最大限戦えるように準備する。戦場では最善を尽くしてくれ」

「了解ッス! フーゴ特務中尉は頼りになるッス! 流石は特務中尉ッスね!」


 そして、フーゴが僅かに微笑んで告げるのに、ヘルマは満面の笑みを浮かべ、また演習場に運ばれていく魔装騎士の下に戻っていった。


「特務中尉だから、か」


 フーゴは兵卒から叩き上げで、中尉にまで昇進した。整備一筋で最初期の世代に部類されない雑多な魔装騎士を整備し、第1世代のラタトスク型で体系化された魔装騎士の整備について大きく経験を積んだ。


 だが、その分、家族とは疎遠だった。彼は有能な植民地軍の整備兵として、各地の戦場を転々として回り、家に帰ることは稀だった。妻はそのことに怒りを覚えて出ていったし、恐らくヘルマはフーゴの顔を覚えてすらいない。


「ハント特務中尉。いつか報われるときが来るデス。あの子はあなたに悪い印象は抱いていないデス。あなたの整備に信頼を覚えているデス。これなら、父親だと明かしても、きっと」

「そうだと思いたい。俺のこれまでの人生が全て無駄なことだったとは思いたくないからな」


 アリアネはそう告げ、フーゴは再びニーズヘッグ型魔装騎士を見上げた。


 鋼鉄の巨人は何も告げずに、フーゴたちを見下ろしている。


……………………

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