大運河強襲(4)
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『兄貴! 王国の連中、突っ込んでくるッス! どうかしてるッスよ!』
「まあ、そんなもんだろう」
24体の魔装騎士の突撃を迎撃するのは、僅かに12体のスレイプニル型魔装騎士。12体のうち3体はようやくフェリーから積み下ろしたばかりで、砲弾の装填作業中だ。
クラウスはここにヴェアヴォルフ戦闘団の全部隊──1個魔装騎士大隊56体と装甲猟兵中隊18体、補給中隊、整備中隊、偵察分隊の全てを連れてきたが、今現在戦闘可能なのは僅かに12体の魔装騎士と偵察分隊だけだ。
「大運河を取られると思って敵も必死だな。それにしては数が少ないが。アナトリアに目を取られて油断したか?」
大運河という王国の大動脈に踏み込むのだから、クラウスは多大な抵抗があることを想定していた。少なくとも1個連隊規模の魔装騎士と1個師団の歩兵が出迎えるだろうと。
だが、蓋を開けてみると出てきたのは1個大隊の魔装騎士に1個大隊の歩兵。
クラウスが考えたように、王国はアナトリア地域の緩衝地域問題に注目し過ぎるがあまり、本来守るべきばずの大運河の守りが疎かになっていた。いや、アナトリア地域の問題が大運河の防衛に直結するので、ある意味では彼らは大運河を防衛しているのだが。
「奇襲には成功した。多少のトラブルは想定済み」
クラウスはそう告げて、機体を匍匐姿勢から起き上がらせる。
「ヘルマ。近接される。近接格闘戦の準備をしろ。ヴェアヴォルフ・フォーからナインまでも近接格闘戦に備えろ。ヴェアヴォルフ・テンからトゥエルブは急いで砲弾を装填し、俺たちを後方から支援しろ。以上だ。かかれ」
『了解ッス!』
クラウスが素早く命令を発し、ヘルマたちが応じる。
『でも、大丈夫なんッスか、兄貴? 数が多いッスよ?』
「フン。連中は第2世代の扱い方をまるで分っちゃいない。俺たちだけでも叩き潰せるし、それに──」
ヘルマが不安そうに尋ねるのに、クラウスが僅かに背後を振り向く。
背後には大運河がある。その大運河にはエーテリウム輸送船がある。SRAGからクラウスが借りたバハトフェルスともう1隻のエーテリウム輸送船が錨を下ろして鎮座している。
そして、そこにはローゼの部隊がいる。
今は煙幕によって砲撃できないが、風の強さからして煙幕の壁はそう長くはない。
「まあ、たまにはローゼに楽をさせてやるか」
クラウスはそう告げると、対装甲刀剣を抜き、迫り来る24体の魔装騎士に向かう。
「各員、砲撃には注意し、高速機動しろ。さっきの砲撃は追加装甲のおかげで弾いたが、次の砲撃は同じようにいくとは限らんからな。この距離ではお守り程度だと思っておけよ」
そう命じたクラウスが魔装騎士を一気に前に進ませる。
「まずは1体」
クラウスの狙いは王国植民地軍魔装騎士大隊の先頭を進む機体。この大隊を指揮して連れてきた少佐の機体にクラウスは狙いを定めた。
クラウスの魔装騎士が地を蹴り、大きく斜め前に飛翔する。同時にクラウスが立っていた場所に王国植民地軍側から放たれた6ポンド突撃砲の砲弾が着弾した。弾種は徹甲弾。あの場にそのまま立っていたらやられていた。
「第2世代の使い方というやつを教育してやる」
クラウスの魔装騎士は大地を蹴りながら、弧を描くようにして、少佐の機体に接近する。少佐の機体と彼の部下たちは斜めから来る攻撃に、砲口を変えようとするが、クラウスの動きが素早く、砲弾は空を切るのみ。
少佐の機体は急速に側面から迫るクラウスに対して、進路を変えようとするが、どうにももたついているし、正面の3体のスレイプニル型魔装騎士からの牽制砲撃で速度を緩められず、完全に応じられていない。
これが第2世代の戦闘だ。
これまでの魔装騎士が重装騎兵だったとすれば、第2世代は軽騎兵だ。その機動力を全開まで活かし、敵が騎兵として集団で突撃してくるのに、不規則な機動を描き、側面から奇襲を仕掛ける。
集団での突撃から、個々の戦闘力と機動力による戦いによるパラダイム・シフト。地上の歩兵では既に散兵戦術が用いれることを、魔装騎士にも適用したのだ。
「これが第2世代だ、王国」
そして、側面から一機に飛躍したクラウスの機体が流れるような動きで、対装甲ラムを少佐の機体の操縦席部分に叩き込んだ。
対装甲ラムは電磁力によって杭を弾き出し、杭は操縦席に深々と突き刺さり、僅かに血を帯びながら、スプリングの力で再び射出前の状態に戻る。
『少佐! 少佐殿!?』
『ヒポグリフ・ワン! 応答せよ、ヒポグリフ・ワン!』
王国植民地軍の部隊は指揮官を一瞬で失ったことで大混乱に陥り、エーテル通信にはクラウスにも傍受可能な平文の通信が飛び交っていた。
「素人が。指揮を引き継ぐという概念もないか」
クラウスは嘲るようにそう呟くと、踊るようにステップを踏んで少佐の機体の後方から突き進んできた王国植民地軍の魔装騎士に対装甲刀剣を向ける。狙いは僅かな装甲でしか防御されていない人工感覚器だ。
ズンと鈍い肉を裂く音を立てて対装甲刀剣は生物的器官である人工感覚器を貫く。それと同時に外部からの情報が得られなくなった魔装騎士が混乱に陥り、6ポンド突撃砲を出鱈目に放ち始めた。
「こういうときはハッチから外部を確認するんだよ。そう教わらなかったのか?」
クラウスはそう告げ、至近距離で口径75ミリ突撃砲を、再びどこまでも正確に操縦席を狙って叩き込んだ。
放たれた徹甲弾は操縦席を貫き、機体後方の秘封機関をも貫くと、エーテリウムが暴発し、機体が弾ける。第2世代では秘封機関の暴発を抑え、操縦席を保護するようになっているが、操縦席を砲弾で貫かれては意味がない。
『この野郎っ!』
クラウスが2体の機体を一瞬で撃破したのに、王国植民地軍の魔装騎士が3体纏めてクラウスに襲い掛かってきた。2体は対装甲刀剣で、1体は6ポンド突撃砲で。
「甘い。甘過ぎる」
クラウスは1体の魔装騎士が放ってくる突撃砲の砲弾を、自分が撃破した魔装騎士を盾にして受け止め、人工筋肉に悲鳴を上げさせながら、思いっきりその魔装騎士を砲撃を放ってくる魔装騎士に投げつけた。
魔装騎士を投げつけられた王国植民地軍のエリス型魔装騎士は混乱しながらも、砲撃を行おうとするが、砲撃のために立ち止まっていたのが仇となった。
その機体はクラウスを後方から援護しているヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士の砲撃によって貫かれ、秘封機関を損傷し、ガクリと膝を突いて動けなくなった。
だが、まだ2体の魔装騎士がクラウスを狙って対装甲刀剣を振りかざしている。いくらクラウスの機体が追加装甲を装備していると言えど、ハッチや関節、人工感覚器の装甲は薄い。そこを攻撃されれば、クラウスも戦闘不能になる。
「ヘルマ。援護しろ」
『お任せあれッス!』
そんな状況でクラウスはヘルマを呼ぶ。
ヘルマの機体はクラウスの機体の陰から不意に飛び出し、そのことに王国植民地軍の魔装騎士の動きが一瞬鈍った。
そしてその一瞬が命取りとなった。
クラウスの陰から躍り出たヘルマは、対装甲ラムで1体の魔装騎士を貫き、串刺しにした機体をもう1体の機体に向けて蹴り飛ばす。
数十トンはある魔装騎士が横から衝突し、バランスを崩した魔装騎士にクラウスが間髪容れずに襲い掛かった。ヘルマと同じように対装甲ラムを使い、操縦席をタングステンの杭で貫き、中にいた操縦士を殺害する。
「まだいけるか、ヘルマ?」
『当然ッスよ! まだまだ序の口ッス!』
王国植民地軍の魔装騎士はクラウスたちが既に5体を撃破し、他の魔装騎士は明らかに戦闘に及び腰になっていた。このまま戦って自分たちが勝てるのだろうかという疑問が、恐怖が、湧き起こってきているのだ。
「なら、残りの連中も料理するとしよう」
クラウスはそう告げて犬歯を舐めた。
王国植民地軍の魔装騎士大隊を指揮して連れてきた少佐は、数で押せば勝利できると考えていたが、その考えはあまりにも甘かった。
クラウスたちは第2世代の高速戦闘を完全に身に付けている。王国植民地軍がたったの3週間前に機種変換を行い、碌な習熟訓練を行っていないのに対して、クラウスたちは実戦を潜り抜けて第2世代の魔装騎士の特性を掴んでいる。
そんな数が12体の魔装騎士に対して、王国植民地軍の24体の魔装騎士はあまりにも少なかった。数が本来の56体揃っていれば、ヴェアヴォルフ戦闘団の何体かの魔装騎士を道連れにできただろうが、ローゼの砲撃で数を減らし、近接格闘戦では真っ先に指揮官がやられた。
こんな状況で勝利しろという方が無理なことだ。
『ヴェアヴォルフ・フォーよりヴェアヴォルフ・ワン。敵は撤退を始めました』
そして、王国植民地軍は勝ち目がないと判断し、武装をパージして、クラウスたちに背を向けて敗走を始めた。
「ヴェアヴォルフ・ワンより各機。逃がすな。皆殺しにしろ」
クラウスは冷淡な命令を下し、彼自身も武装を捨てて逃げようとする王国植民地軍の魔装騎士を追撃した。
口径75ミリ突撃砲で、対装甲ラムで、対装甲刀剣で、クラウスと部下たちは次々に逃げようとする王国植民地軍の魔装騎士を屠る。エーテリウムが暴発するオレンジ色の炎が吹き上がり、操縦席を貫いた対装甲ラムから血が滴り、クラウスたちは1体、また1体と魔装騎士を撃破する。
『こちらローゼ。支援砲撃が可能になった。何を狙う?』
「逃げようとしている連中だ。ここで皆殺しにしておかないと、後で迷惑する」
そして、ローゼの装甲猟兵中隊も煙幕が晴れて、戦闘可能になった。
『了解。逃げる敵の背中を撃つのはちょっと気が引けるけど』
ローゼはそう言いながらも正確な砲撃で、王国植民地軍のエリス型魔装騎士の操縦席を背中から的確に砲撃し、魔装騎士を撃破する。
「さて、これで終わり、か」
王国植民地軍が派遣した魔装騎士大隊は1体も残らずに壊滅した。生き残りの魔装騎士の操縦士は、捕虜になることもできず、その場で皆殺しにされた。対装甲刀剣で、魔装騎士の足で。
24体の王国植民地軍の魔装騎士のうち、クラウスが撃破したのが8体、ヘルマが撃破したのが6体、部下たちが始末したのが5体、ローゼが砲撃で仕留めたのは5体。やはり魔装騎士の操縦士としての才能はクラウスとヘルマにある。
「ナディヤ。王国植民地軍の動きはどうなっている?」
と、ここでクラウスはヴェアヴォルフ戦闘本隊の上陸に先行して上陸し、偵察活動を行っているナディヤに通信を取る。
『歩兵大隊は守りを固めている。キャナル・タウンでの市街地戦に持ち込むつもりのようだ。キャナル・タウンの中に連中が入っていくのを確認した』
「それもそうだろな。魔装騎士を失えば、歩兵部隊の対装甲戦闘力は限定的だ」
この世界にはまだ対戦車ロケットなどの歩兵の携行する対装甲兵器は存在しない。対装甲戦闘を担うのは対装甲砲であり、重量があり、サイズも大きく、重いそれを運用するにはそれなり以上の準備が必要になる。
故に王国植民地軍の歩兵部隊はクラウスのヴェアヴォルフ戦闘団に攻撃を仕掛けるのではなく、キャナル・タウンという市街地に立て篭もり、これ以上のヴェアヴォルフ戦闘団の侵攻を阻止しようとした。
「ナディヤ。他に魔装騎士はいないか?」
『こちらでは確認できない。確認できているのは歩兵大隊だけだ』
クラウスが用心深く確認するのに、既にジープで方々を偵察しているナディヤがそう返事を返した。
「なら、次は対歩兵戦闘だ。いつもながらの地味で、危険な仕事だぞ」
歩兵部隊は侮れる相手ではない。彼らは対装甲砲を巧妙に隠し、追い詰められたものは梱包爆薬で魔装騎士の撃破を狙ってくる。
大型の魔装騎士は小さな歩兵にとっては格好の目標であり、あらゆる悪意と殺意がクラウスたちに向けられてくることだろう。
「ナディヤ。先導を頼むぞ。市街地戦ではどうしても情報を処理しきれなくなる。お前たちの目が頼りだ」
『任せてくれ。最善を尽くそう』
クラウスがそう告げるのに、ナディヤがそう応じる。
「で、ローゼ。そろそろ船を沈めていいぞ。もう脅威になるものは残っていない。直ちに退船して、2隻の船を沈めろ。大運河を塞いでやれ」
『了解。爆破準備は出来てるわ。今から沈める』
クラウスはローゼにそう命じ、ローゼはエーテリウム輸送船のデッキから、大運河に向けて飛び込んだ。
それと同時にバハトフェルトともう1隻のエーテリウム輸送船が爆発を起こし、船は流れ込んできた海水で大きく傾くと、そのまま大運河に沈んでいった。
2隻の巨大な船の大運河での沈没。それは大運河が使用不可能になったことを意味する。王国の大動脈が断ち切られたのだ。
「これで作戦の第一段階は成功だ」
クラウスは沈みつつあるバハトフェルトを眺めてニイッと笑う。
「ローゼ。上がれるか?」
『問題なく』
大運河に飛び込んだローゼは大運河の浅い部分を進み、岸に上陸した。クラウスとローゼがフーゴに相談しておくことがあると言っていたのは、この海水での活動に関してだ。
フーゴは海水でダメージを受ける秘封機関と魔道式演算機に海水への防護を施し、かつ短時間ならば海水中でも活動できるようにスノーケルを装備した。
『こちらはいつでも次のステップに移れる』
ローゼは海水を滴らせながら岸に立つと、クラウスの方向を向いた。
「よろしい。では、第二段階に移るぞ」
『兄貴。第二段階ってなんッスか?』
クラウスが短くそう宣言するのに、ヘルマがポカンとした表情で尋ねる。
「お前は人の話を聞いていなかったのか。第二段階というのは──」
クラウスは呆れたような表情を浮かべて、ヘルマを見る。
「ミスライムの王国植民地軍に大打撃を与えること、だ」
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