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ミスライム危機

……………………


 ──ミスライム危機



 エステライヒ共和国政府、王国政府にアナトリア地域南部における軍事的緩衝地帯の設置を要求。


 正確には王国に通牒を突きつけたのは南方植民地総督であるヴィクトール・フォン・レットウ=フォルベック侯爵と植民地軍司令官であるフランク・フォン・ファルケンハイン元帥であるが、彼らも植民地政府という共和国政府であることには変わりはない。


 要求を突きつけられた王国は当然ながらこれを拒否。逆にアナトリア地域南部からの共和国植民地軍の撤退を要求した。


 そもそもアナトリア地域南部を共和国が押さえているのは、クラウスのヴェアヴォルフ戦闘団が停戦協定を無視し、実効支配を拡大したからだ。国際関係上は、共和国にアナトリア地域南部の領有権を主張する権利はない。


 共和国と王国はこの問題を話し合うために、中立国である帝国で協議を開始した。


 共和国本国の外交官は、共和国植民地軍の厚顔無恥な振る舞いに唖然としながらも、王国の影響力を削るという面では乗り気であり、自分たちが実効支配しているアナトリア地域南部から100キロメートルの王国植民地軍の撤退を要求し、王国は大運河の守りのために断固としてこれを拒否した。


「アナトリア地域南部は我々の土地。両国が不幸にも衝突しないためには、王国が撤退することが必要です」


 南方植民地総督であるヴィクトールは会議の場でそう述べる。


「そもそもアナトリア南部を貴国が支配しているのは、アナトリア分割協定に反したことだ。王国は共和国によるアナトリア南部の支配を認めていない。王国が不当に占拠されているアナトリア南部のために緩衝地帯を設けるなど論外だ」


 会議は平行線を辿った。


 共和国はアナトリア地域南部の緩衝地帯を要求して譲らず、王国政府は共和国によるアナトリア地域南部の支配は不当だとして、緩衝地帯を設けることを跳ね除けたし、逆に共和国にアナトリア分割協定に従って、アナトリア地域南部から撤退することを要求している。


 この緩衝地帯問題を巡る列強の争いは激化の一途を辿り、王国は植民地軍を増強してミスライム東部はアナトリア地域南部に面する地域に展開し、共和国植民地軍はそれに応じるように共和国植民地軍の兵力を動員した。


 一触即発の状況。アナトリア地域南部とミスライム東部での共和国植民地軍と王国植民地軍の睨み合いは続き、いつ戦争に突入してもおかしくない状況と化した。


 だが、帝国で行われている緩衝地帯設定の会議だけは、打ち切られることなく、不思議なほど平穏に継続し、本国という場所と植民地という現場との温度差を感じさせた。彼らは本当に緩衝地帯を設定することが必要だと考えているのだろう。


 そんな状況の中、共和国本土はターレスにおいて動きがあった。


 ターレス。


 地球におけるイタリア半島南端に位置する港湾都市であり、共和国海軍地中海艦隊が主力艦隊──戦艦9隻を中核とする艦隊と艦隊司令部を設置している。


 他にも軍民共用の造船所や大規模な製鉄所を初めとする工業施設や、民間の貨物船や客船が行き交う港湾施設なども位置し、共和国の地中海海上輸送網の一角を担っている。


 そんなターレスの貨物ターミナルにクラウスの姿があった。


「これが用意してもらった船か」


 クラウスがそう告げて見上げるのは、エーテリウム輸送のための貨物船だ。ばら積み貨物船と呼ばれる船種のもので、船体は長く、船体上部はハッチ型の構造になっており、そのハッチから未精製エーテリウムを積み込む。


 この貨物船は人工筋肉製のクレーンが装備されており、港湾施設の設備なしでもある程度積荷を運び出すことが可能だ。


「バハトフェルス。SRAGが有する中で、あなたの要望に応じた船ですわ」


 そして、クラウスの隣には乳白色の日傘を差した若い女性──18歳にして、世界三大財閥ロートシルト財閥の全財産を有する、レナーテ・フォン・ロートシルト女男爵が立っていた。いつものように死霊術ネクロマンシーで操っている双子の姉、レベッカ・フォン・ロートシルトと共に。


「確かにこれならば十分でしょうな。これだけの大きさがあれば適当だ」


 クラウスの視線の先にはバハトフェルスと同型の貨物船がもう1隻映っていた。


「フェリーの方は?」

「あちらの埠頭に。既に積み込みは完了したようですわよ」


 クラウスが尋ねるのに、レナーテは埠頭の別の一角を指差す。


 そこではシートで包まれた積荷を輸送しているトレーラーが巨大な4隻のフェリーを行き来していた。何かの積み込み作業を行っていたらしく、埠頭には重機までもが引き出されていた。


「結構。これで大運河は我々の手の内に入る」


 クラウスは自分の望むように事態が進んでいることに、口角を歪めて笑う。


「それで、そちらの準備はできているわけですね?」

「ええ。共和国政府からクシュの開発権を買い取りましたわ。クシュの開発なんて事実上行えるはずもないから、もう捨て値同然で」


 クラウスが一応は上位のビジネスパートナーであるレナーテに配慮して尋ねるのに、レナーテは小さく笑ってそう返した。


「書類仕事は完璧でしょうね。そちらには優秀な弁護士がいる」

「ええ。ダニエル・ダイスラー弁護士は非常に有能ですわ。彼に共和国がクシュが手に入り次第、現地の資源は最優先でSRAGが手に入れるように法律上の問題を解決してもらいましたの。クシュが共和国の手に入りさえすれば、現地のエーテリウム鉱山はSRAGのもの」


 ダニエル・ダイスラー。アナトリア戦争でクラウスのヴェアヴォルフ戦闘団に同行したSRAGの弁護士だ。今回も彼が、SRAGがエーテリウム鉱山を手に入れるための準備を整えているようだ。


「最優先と言っても早いもの勝ちでは?」

「いいえ。ダイスラー弁護士には我が社がクシュの利権を独占できるように手配させましたわ。共和国政府にクシュの開発権を買い取る代わりに、クシュにおいてSRAGが優先的に開発が行えるよう契約を交わしましたの」


 開発権。


 文字通り、植民地を開発する権利だ。これを共和国政府から購入しなければ、共和国の植民地において開発事業を行うことはできない。


 アナトリア戦争のときは既にエーテリウムがアナトリアに眠っていると判明してからの戦争だったため、開発権は競売にかけられ、各社の財政状況によって均等に配分された。もっとも、アナトリア戦争では現地で鉱山の権利を次々にダニエルが主張して回ったため、ほぼSRAGの独占という形に落ち着いたが。


 だが、今回は違う。


 クシュは王国の手に落ちて長く、共和国は半ば意地になってクシュの開発権を売りに出していたが、共和国がクシュを手に入れる見込みがないので、他の開発企業はクシュの開発権の購入を行わなかった。


 現在、開発権を購入したのはロートシルト財閥だけ。


 彼らは共和国政府の抱えているゴミ屑に等しいクシュの開発権を捨て値同然で買い取り、更にクシュの開発権を購入するのと引き換えにクシュの資源を最優先で自分たちのものにする契約を結んだ。


 共和国政府からしてみれば、クシュの開発権などあってないに等しいものだ。共和国はもうクシュを王国から奪うための算段を企てているわけではなく、クシュを共和国の企業が開発することなどありえないのだから。


 だから、共和国政府としては無価値なクシュの開発権が売れただけで満足できる結果だった。開発権が売れていれば、クシュを共和国は諦めていないのだという外交的なアピールができるのだから。


「我らが共和国は永遠にクシュが手に入らないものと思っているようですね。それが、たった数日で変わるとは思いもしないでしょう。我々以外は誰も」


 共和国はクシュの利権を主張しても、実際は諦めている。共和国が王国植民地軍が守りを固めたクシュの利権を手に入れることはないだろうと。


 だが、クラウスたちはクシュを手に入れるつもりだ。大運河を人質にし、大運河を引き換えに、クシュを手に入れるつもりだった。そのための計略を張り巡らせ、今やそれは実行寸前に進んでいる。


 ゴミ屑だったクシュの開発権は、黄金へと変わる。


「全くです。今の共和国政府は保守的過ぎて、王国や帝国に挑戦する意欲を失っていますから。アナトリアで後手に回ったのがその表れですの」


 クラウスの自信に満ちた言葉に、レナーテは溜息混じりにそう返す。


「第二共和革命から30年と数年。革命当時の志は今や擦り消え、議会はくだらない茶番を繰り返すだけで大統領はもう何代もまともなリーダーシップを発揮していない。こんな環境では、まともなビジネスは行えませんわ」


 エステライヒ共和国が二度目の共和制に移行してから、レナーテの言うように30年余りの時間が過ぎた。本国では薄氷の上の平和が続き、本国人の感性は次第に鈍化していった。


 政治家はただただ民衆を喜ばせ、自分の支持率のためだけの政治を繰り返すだけで革命の理想はなくなり、本国の人間たちも平和であるがためにそれに危機感を覚えることはなかった。


 だが、レナーテにはそれが不愉快だった。


 共和国は列強だ。王国と帝国という列強2ヶ国と戦い続ける必要のある国家だ。軍事的にも、そして経済的にも。


 なのに、共和国政府は中途半端に世界大戦を恐れるあまり、その動きは鈍く、攻撃的な王国を前に植民地戦争では後手に回ってきた。アナトリア戦争でも最初期に圧倒的な劣勢からスタートしたことが、そのことを証明している。


「植民地で暮らしていると本国のことは分りかねますな。植民地は常に戦争という日々で、平和とはかけ離れている。植民地政府は驚くほどに冒険的だ」


 植民地政府が冒険的なのは、クラウスが密かに操っているからだ。


「それはいいことですわ。共和国政府も植民地政府と同じような活力を持ってほしいものですの。今の共和国政府では世界大戦が起きたときには、無残にも敗北することでしょうから」


 レナーテはよほど共和国政府に失望しているようである。


「そして、あなたのような人材が植民地にはいるということが素晴らしいですわ。リスクを恐れず、攻撃的に行動し、かつ計算高く勝利する。あなたのような人材が共和国政府にいてくれればと、心の底から思いますわ」


 そう告げて、レナーテはクラウスに熱い眼差しを送る。


「それは本国の政界へのお誘いでしょうか?」

「いずれは。あなたはもう既に本国では有名人ですわ。アナトリアの奇跡の勝利をもたらした軍人にして、最年少の第1級鉄十字章の受勲者。共和国本国の新聞でも、あなたのことにはついては大きく報じていましたから」


 クラウスが尋ねるのに、レナーテはクラウスに身を寄せてそう告げる。


「共和国には変革が必要ですわ。それは恐らく植民地から成されるでしょう。植民地の厳しい環境を生き抜き、名誉ある勝利を収めた人物が我らが共和国を救ってくれるはずですわ」


 レナーテはそう告げて、クラウスに吐息がかかるほどに身を付け、薄い香水の匂いを漂わせながら、彼を上目遣いに見つめる。


「クラウス。積み込み作業は終わった」


 そんなクラウスとレナーテの横から、ぶっきらぼうな声が響いた。ローゼだ。


「ああ。そっちの部隊の積み込みも完了か?」

「ええ。あなたがお喋りしている間に終わらせたわ」


 クラウスが尋ねるのに、ローゼはやや不機嫌そうにそう返した。


「偽装は完璧だろうな?」

「さあ。王国はミスライムが危険に晒されていると考えて、このターレスの監視も行っているはずだから。軍艦の動きに注目しているのがほとんどでしょうけど、私たちの動きに気付いていないとは限らないわ」


 偽装。クラウスとローゼはフィールドグレーの共和国植民地軍の制服を纏っていない。港湾労働者が纏っているような作業服に身を包んでいる。


「では、万事上手く行くことを祈っておきますわ、キンスキー少佐。大運河をあなた方が手にすることができるように。そして、クシュが我々の手の内に入るように」


 レナーテはそう告げると、クラウスにヒラヒラと手を振り、レベッカの手を握ると、この埠頭から待機していた自動車に乗って去っていった。


「随分と仲がよさそうだったわね、ロートシルトの親玉と」

「ビジネスパートナーだからな。それに向こうは俺に共和国本国の政治に関与して欲しいと思っているらしい」


 ジト目でクラウスを見るローゼに、クラウスは肩を竦めてそう告げた。


「本国の政治にあなたが? 何かの冗談かしら」

「さあて、な。ただロートシルトは今の共和国政府に不満を覚えているらしい。俺たちとしては共和国政府が消極的なおかげで、自分たちの分け前を得られるんだから文句はないんだがな」


 ローゼがやや驚いた表情を浮かべるのに、クラウスは顎を擦る。


「あなたが政治家になるなんて、ちょっと想像できない」

「俺もだ。俺は政治のことなど新聞で読んだ程度にしか分らんからな」


 ローゼはクスリと笑ってそう告げ、クラウスは大げさに手を広げた。


「ああ。そうだった。レムリア重工のエンジニアの人が来てるわよ。装備の換装の件について」

「アリアネか。どこにいる?」


 と、ここでローゼが思い出したようにそう告げ、クラウスは広い埠頭を見渡す。


「フェリーのところよ。あなたもフェリーの方でしょう。話しておいたら?」

「そうするか」


 ローゼは何かを積み込んでいたフェリーの方を指差し、クラウスはそちらに向けてジープを走らせる。


「いつも遅いお着きで」


 アリアネはフェリーの中でクラウスを待っていた。


「こっちもいろいろと準備があるんだよ。一大作戦だからな。で、装備の換装というのはどうなっている?」


 アリアネの皮肉を無視して、クラウスはそう尋ねる。


「魔装騎士大隊56体の全魔装騎士の口径75ミリ突撃砲を長砲身型に換装したデス。短砲身型は対人戦闘には適しているデスけど、対装甲戦闘においては些か威力に難があるからデスね」


 そう告げて、アリアネはトレーラーで運び込まれた積み荷のシートを僅かに開く。


 そこにはスレイプニル型魔装騎士が納まっていた。そう、フェリーに積み込まれていたのは魔装騎士であった。


「一応、アナトリアに駐留しているときに長砲身で訓練はしたが、どこまで習熟できたかは試してみないことには分らないな。短砲身は取り回しが便利だったが、長砲身はちょいとばかりそこに難があるからな」


 これまでのスレイプニル型魔装騎士の兵装はローゼの指揮する装甲猟兵中隊を除けば短砲身型の口径75ミリ突撃砲だった。


 この短砲身型は対人戦闘能力に優れているが、対装甲戦闘においては些か威力不足であることが否めない。王国植民地軍が全面的に機種転換したエリス型魔装騎士の装甲を抜くには、装甲の薄いハッチ部分や人工感覚器、または脚部を狙う必要がある。


 そこでクラウスはアリアネに頼んで、自分の魔装騎士大隊の兵装を長砲身型口径75ミリ突撃砲に換装した。換装後の訓練はクラウスたちがミスライムで偵察活動を行っている間にアナトリアで済ませてある。


 だが、砲身が長くなった分、取り回しは面倒になり、近接戦闘においてはそこがネックになるだろうとクラウスは予想していた。


「その危惧は当然デス。本国軍の魔装騎士も同じような問題を抱えているデス。だからなるべく邪魔にならないように、魔装騎士の腕部のなるべく奥に配置されるようにしてあるデス。近接戦闘の際に、飛び出した砲身が邪魔にならないように、と」


 アリアネはそう告げて魔装騎士を指さす。


 新たに長砲身型の突撃砲を備えた魔装騎士は、その突撃砲がなるべく近接戦闘で邪魔にならないように、突撃砲が装着される腕部の奥に装着され、腕部から飛び出す部位が少なくなるようにされていた。


「フン。それが上手く行くことを祈りたいところだな」


 クラウスはそこまで楽観せずに、注意深く魔装騎士を眺める。


「ローゼの装甲猟兵中隊の魔装騎士も、装備を転換したんだったな?」

「あっちはより長砲身の突撃砲に換装したデス。こっちに装備した突撃砲は48口径75ミリ突撃砲。向こうに装備されたのは70口径75ミリ突撃砲。威力と射程は段違いデス」


 クラウスの魔装騎士大隊が装備を転換したように、ローゼの装甲猟兵中隊の装備も転換されている。クラウスたちが装備するよりも、より長砲身で、対装甲戦闘能力に優れた砲だ。


「それから装甲を増強しておいたデス。そっちの整備班と話し合って、無理がないレベルで第3世代型魔装騎士よりも僅かに劣る程度に増強してあるデス。これで弱点を狙われなければエリス型の6ポンド突撃砲は防げるはずデス」

「フム。動作に支障はないんだな?」


 共和国の第2世代型魔装騎士スレイプニル型の装甲は、第1世代であるラタトスク型よりも僅かに増強された程度である。クラウスが不満に思っていたように、スレイプニル型の装甲は脆弱だ。


 その点をクラウスはアリアネとフーゴに任せて、増強するようにしていた。所謂、スレイプニル改型とでも言うべきもので、ヴェアヴォルフ戦闘団のための特別な機体だと言えた。


「ハント特務中尉。整備面で問題はないか?」


 と、ここでクラウスはこの場で魔装騎士の最終点検を行っていたフーゴに声をかけた。彼は工具を手にして、魔装騎士の秘封機関アルカナ・リアクター魔道式演算機ウィズ・システムの保護作業に入っていた。


「ええ。重量が増加しているので。人工筋肉への負担は大きくなるでしょうが、元々スレイプニル型は余りある人工筋肉の出力がある。よほど無理をしない限り、問題は生じないでしょう」


 フーゴは額の汗を拭うと、クラウスにそう返した。


 スレイプニル型の人工筋肉は改良され、ラタトスク型よりも大きな出力が得られるようになっている。そこに装甲を装着しても、改良された人工筋肉はそれを受け入れるだろう。


「ただ、当然のことながら機動力は低下していますよ。重量が増えた分だけ、機動力が犠牲になることになります」


 だが、いくら発達した人工筋肉でも、装甲の重量が増えれば、その重みによって機動力は低下する。これまでは超高速機動を誇っていたスレイプニル型でも、その機動力は限定的になるだろう。


「それは問題だな。これまでスレイプニル型の機動力に合わせて訓練を行ってきた。それが台無しになると、これまで行ってきた訓練が無駄になる」


 クラウスはスレイプニル型魔装騎士の機動力による戦闘を部下たちに訓練してきた。側面に回り込む攻撃や、敵地後方に浸透する攻撃など。


 その機動力が損なわれるならば、訓練は無意味なものと化す。


「安心していいですよ。機動力が落ちると言っても多少のことです。それにいざという場合は追加装甲をパージすることもできますから」


 そんなクラウスの懸念に、フーゴがそう返した。


「そうデス。追加装甲は操縦士が操縦席から簡単な動作で、任意にパージできるデス。高速戦闘が必要なるならば、追加装甲をパージすればいいデス」

「それが上手く行くことを祈りたいな」


 アリアネそう請け負い、クラウスは肩を竦めた。


「祈ってないで実行してほしいデス。この作戦は自分にとってもちょっとした意味がある作戦デスから」


 アリアネがそう告げる。


 彼女はミスライムの大運河を王国から奪い、その代価としてクシュを獲得するという作戦を知っている。そして、彼女はクシュを巡る──共和国の敗れた戦争に参加していた。


「クラウス。そっちの準備はできた?」


 クラウスがアリアネたちと会話していたときに、ローゼが話しかけてきた。


「ああ。準備完了だ。いつでも行ける」

「そう。植民地軍本隊の動きはどうなの?」


 クラウスは平然と答え、ローゼは用心深くそう尋ねる。


「植民地軍本隊もいつでも動ける。こっちがことを起こせば、王国植民地軍は大混乱に陥る。そこを突けば、馬鹿でも勝利できるはずだ」

「相変わらずの自信家。ちょっと羨ましくなるぐらい」


 共和国植民地軍はアナトリア地域南部で王国植民地軍と睨みあっている。いつ戦争に突入してもおかしくない状況だ。


 帝国では共和国と王国との話し合いが続いているが、停戦協定を無視するようなクラウスが律儀に話し合いの結果がでるのを待つはずもない。


「さて、全部隊、整列!」


 クラウスはフェリーの中で声を上げ、ヴェアヴォルフ戦闘団の隊員たちが、クラウスとローゼの前にビシリと整列する。もう街のならず者だったときの面影はなく、立派な軍人としての態度を身につけている。


「これより大運河を攻撃する。作戦内容は事前に説明した通りだ。俺は諸君に十二分に訓練が施されているものと確信している。この戦いに勝利して、更なる金を手に入れるぞ、諸君。いいか!」

「応っ!」


 クラウスの号令に全隊員が声を上げた。


「では、作戦開始だ。我々に勝利があらんことを」


 全ての準備は整った。


 大運河の詳細な図面。6隻の船の運河の通行許可証。2隻の大型貨物船と4隻のフェリー。そして、アナトリア南部の緩衝地帯問題を発端に勃発した王国と共和国の軍事的な緊張状態。


「後は勝利するだけだ。いくぞ、ローゼ」

「ええ、クラウス。勝ちましょう。どうあっても」


 クラウスとローゼはそう言葉を交わし、ヴェアヴォルフ戦闘団の大運河攻撃作戦が実行に移された。


……………………

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