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魔装騎士

……………………


 ──魔装騎士



 クラウスたちが教育部隊に配属されてからのこと。


 最初に行われた訓練は歩兵のそれであり、MK1870小銃を抱えて、閲兵場を何度も走り回るというものだった。重量4キログラム相当の小銃を抱えて走り回るのは肉体的には相当くるものだが、クラウスにとっては造作もないことだった。


 次に士官候補生たちは戦術や戦略について、過去の戦史を読み解いて、その教訓を活かした教育を受けることとなる。だが、19世紀中ごろの軍事知識と、21世紀の軍事教育の隔たりは大きく、クラウスは将来改善する点を考えながら、授業を受けていた。


 座学では戦術などについても学ぶのだが、植民地を覆うジャングルで生き延びる術も教えられた。また植民地軍なんぞに入る野蛮な兵卒たちをいかに上手く統率する手段についても。


 体力訓練も、座学も、最優秀の成績を残したのは前世の知識のあるクラウスだ。次点はローゼであり、意外なことにヘルマがその次に優秀な成績を残していた。彼女も、恩人であるクラウスの期待に応えたいのだろう。


「さて、諸君らは魔装騎士ウィズナイツの操縦士を志願した」


 入隊から3ヶ月。ついに基礎教養が終わり、兵科別に分かれての訓練が開始されることとなった。


「魔装騎士について、諸君らはどの程度の知識を有している?」


 教育係は下士官から、魔装騎士の操縦士である将校に代わり、彼は直立不動の姿勢で整列しているクラウスたちを眺める。


「はい。死霊術ネクロマンシーを利用した人工筋肉マスキュラー・ドライブによって駆動し、その魔術の動力源となるのはエーテリウムを精製して燃料として利用可能とした秘封機関アルカナ・リアクター。それらを魔道式演算機ウィズ・システムが制御しています」


 教官の問いにクラウスが秀才らしくスムーズに魔装騎士について語った。


 魔装騎士を動かしているのは鯨の筋肉をベースに人工合成された人工筋肉マスキュラー・ドライブであり、それを死霊術ネクロマンシーを利用して半永久的に稼動できるようにしている。その死霊術に魔力を注ぐのは、秘封機関アルカナ・リアクターであり、精製されたエーテリウムを燃料に駆動する。そして、それらの複雑な要素の絡まった機体を制御しているのは、魔道式演算機ウィズ・システムだ。


 秘封機関というのは軍用のみならず、民間でも利用されている。大陸各地に伸びる動力鉄道の動力部や、また民間の重機の動力部、冷蔵庫といった民間の家財道具の動力部としてだ。


 だが、やはり軍用の秘封機関の出力と民間の秘封機関の出力に大きな差がある。軍用の秘封機関は全長約10メートル、重量数十トンの魔装騎士を軽々と動かせるだけの魔力を供給できるのだから。


「99%の回答だな。キンスキー士官候補生は忘れているが、魔装騎士には生体装甲リビング・アーマーがある。錬金術と魔道工学で生み出された生きた装甲であり、これが敵の攻撃を受け止め、戦闘後は秘封機関からの魔力供給を受けて再生する」


 クラウスが言い忘れていたのは、魔装騎士に備わった装甲である生体装甲だ。錬金術と魔道工学によって生み出された装甲であり、戦闘で傷ついても、戦闘後に秘封機関から魔力の供給を受ければ、この生きている装甲は再生する。


 また教官も言い忘れている重要な装置は人工感覚器であり、人間の目と耳に相当する部位である。その他の通り死霊術と錬金術とで人工的に生み出された器官で、機内のクリスタルを通じて視覚と聴覚を提供する。この器官のために、魔装騎士は前方においてほぼ完璧な視野を確保している。


 人工筋肉、生体装甲、人工感覚器という生体パーツにより、魔装騎士は機械やロボットというよりも、キメラ的に部品を繋ぎ合せたひとつの生物という印象を抱く。実際のメンテナンス風景を見ると、剥き身になった人工筋肉の蠢きや、人工感覚器官のギョロついた目で、その印象はより一層強くなる。


「では、キンスキー士官候補生から搭乗してもらおうか」

「了解です、大尉殿」


 クラウスは自分が指名されるのに、慣れた様子で植民地軍の標準装備であるラタトスク型魔装騎士に乗り込んだ。実際、彼は農作業用の重機で訓練しており、この程度のことはなれたものだ。


「では、前進」


 クラウスは将校の告げる通りに魔装騎士を動かした。


クラウスはゆっくりと操縦桿を前に倒し、足でペダルを踏む。それに従って魔装騎士が足を前に踏み出し、前進を始める。足の動きなどは、操縦者の足の動きに連動しており、魔装騎士はズンズンと重い足音を響かせて前進した。


 この場合、あまり前進することに怯えて足の動きがゆっくりになりすぎると、魔装騎士がバランスを崩して倒れそうになる。魔道式計算機がある程度自動で姿勢を補正するものの、あまりバランスを崩すと横転する羽目にある。


 だが、クラウスはそういう初心者の犯す間違いは、既に経験済みだ。軍用の重機が壊れんばかりに横転して、コツをつかんだ。彼はこの本番とも言える軍用魔装騎士の操縦において、一切のミスをせずに、模範的なまでの動きを演じる。


「そこまででいいぞ、キンスキー士官候補生」


 ある程度前進すると大尉が声を上げて、キンスキーを呼び止めた。


「流石は期待されている新人士官だな。模範的な動きだった。これならば君は間違いなく、魔装騎士科に配属されるだろう」

「ありがとうございます、大尉殿」


 大尉もクラウスの腕前を認め、クラウスはコケまくって痣だらけになったのも無駄ではなかったなと思って、ハッチを開いた操縦席から礼を返した。


「では、全員搭乗し、歩行訓練を開始するように。言っておくが、キンスキー士官候補生のように楽にいくとは思うなよ」


 大尉がそう命じ、魔装騎士科を志望した新兵たちが、グラウンドに並べられた魔装騎士に駆け寄っていく。


 そこにはローゼの姿もあり、ヘルマの姿もあり、クラウスが引き連れてきた部下たちの姿もある。どうやら全員が魔装騎士を志望しているようだ。


「さあて、どんなものやら」


 クラウスも操縦席に戻り、歩行訓練を再開しながら周囲を眺める。


 ヘルマたちクラウスの部下は、彼が重機で訓練させておいたこともあって、歩行訓練は問題なくこなしている。誰もがスムーズに歩き、大尉を感心させていた。特にヘルマの動きはクラウスに匹敵するぐらいに熟練されたものだった。


 ローゼはややぎこちなく、転びそうな動きながら、転ぶことなく魔装騎士を操縦している。事前の練習のない彼女がこれだけ動けるということは、彼女にはちょっとした才能があるということだろう。


 そして、他の候補者たちは盛大に転んでいる。足を速く動かし過ぎてバランスを崩したり、逆にゆっくりすぎて転んだり、操縦桿の動きと足の動きが連動せずに前のめりに倒れたりしている。


「問題なし、だな。最初のスタートとしては悪くない」


 クラウスは全体の動きを見るとそう告げて、小さく笑った。


「初日はこのようなものだな。転んだものは、明日は転ばないように努力するように。では、解散」


 初日の訓練は歩行訓練だけで終わった。


 歩行訓練だけ、と言っても他の候補者たちにとっては途轍もない重圧であり、誰もが傷だらけになって操縦席からヨロヨロと出てきた。


「随分と余裕みたいね」


 ローゼも疲労した様子で操縦席から降り、汗ひとつかいていないクラウスを見る。


「なに、事前に重機で訓練しておいただけだ」

「なにそれ。金持ちのズルみたい」


 クラウスが何でもないという具合に告げるのに、ローゼが眉を歪めた。


「そっちも初日にしてはかなりいい動きだったぞ。俺が初めてこの手の機械に乗ったときは転びまくったものだからな」

「あなたにそう言われても皮肉に聞こえるけど。まあ、感覚としては動かしてみて、ちょっと分かっただけ。後はこれからの努力次第ってところね」


 クラウスがそう告げてローゼを褒めるのに、ローゼは肩を竦めた。


「なら、できるだけ早く習熟して、魔装騎士科に確実に合格するようにしてくれ。俺たちの野望には、この魔装騎士が不可欠だ。ちんけな歩兵科なんぞじゃ、野望は達成できない」

「理解してる。私たちの野望は魔装騎士が不可欠だと、ね」


 魔装騎士は植民地における最強の戦力だ。現地の植民地人たちには絶対に逆らうことのできない純粋な力だ。


 そして、列強諸国の軍隊と対抗するために必要な戦力だ。


「こいつを手に入れれば愉快なことができる。とても愉快なことが」


 クラウスは全身を鈍く灰色に塗装されたラタトスク型魔装騎士を見上げて、ニイッと残忍に笑った。


 男の野望はまだ始まってすらいない。


……………………

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