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砂漠での死闘(2)

……………………


「敵襲! 敵襲!」


 岩の都では敵襲を知らせる鐘がガンガンと打ち鳴らされている。


 ジャーミアたちが予想したように。この岩の都がナセル族の拠点だった。兵士たちがおり、女子供が避難し、王国がトーマス・タールトン準男爵という仲介者を経て供与した物資が集積されている。


「立ち塞がる敵だけを撃て! 雑魚は捨て置け!」


 岩の都の西の大通りを疾走しながら、ジャーミアが命じる。


 岩の都はパニックに陥っている。突然、ジャーミアたちがなだれ込んできたのに、水場で水を汲んでいたものが慌てふためいて水場に落ち、休憩していた兵士たちは武器を探して目を走らせる。


 ジャーミアたちはそんな慌てるナセル族のものたちは無視し、真っ直ぐ王宮岩に向かって駆けた。邪魔をする人間がいるならば、銃で撃ち殺し、馬で轢き殺し、ジャーミアたちは西の大通りを疾走する。


「この! クライシュ族だな! 裏切りものたちめ!」


 ナセル族は侵入してきたのが、クライシュ族だと分かると明確な敵意を燃やして立ち向かってきた。


 ナセル族にとってクライシュ族は共和国の植民地支配に与する裏切者だ。本来守るべきサウードの大地を共和国に売り渡し、共和国の力を盾に他の部族の土地を奪う薄汚い連中だった。


 これも分断統治の仕組みが良く生きていると言えるだろう。本来ならば、共和国の傀儡に過ぎないクライシュ族を、他の部族たちは憎むべき共和国以上に恨んでいるのだから。


 もし、彼らが共和国の分断統治の手に乗らず、一致団結したならば、それが一番共和国にとって手痛い打撃となるのだが、そうはならないように共和国は巧みに部族を操った。南方植民地総督ヴィクトール・フォン・レットウ・フォルベック侯爵の統治の腕前はなかなかというわけだ。


「邪魔をするな! 邪魔をするものは殺す!」


 ジャーミアたちは西の大通りを疾走し、前方に敵意を秘めて立ち塞がるナセル族の兵士たちに銃弾を叩き込んでいく。


 騎乗した状態から命中させるのは難しいが、300名もの兵士が一斉に銃撃すれば命中弾はでるし、何よりジャーミアは銃という武器を非常に気に入っており、共和国からMK1870小銃が送られてからというもの、何度も射撃訓練を行っていた。その腕前は確かなものだ。


「あれだ! あの武器を持ってこい!」


 ジャーミアたちが猛スピードで西の大通りを駆け抜け、王宮岩に迫るのに、ナセル族の馬がガラガラと何かを引っ張ってきた。


 その何かとは──。


「グゲッ……」


 その何かが馬によって西の大通りに現れると、けたたましい音が響き、それと同時にジャーミアの部下のひとりが真っ赤な血を撒き散らして倒れた。


 いや、ひとりではない。一気に複数人の部下たちと馬が血を噴出して血に倒れ、その倒れた部下たちに巻き込まれて後続の部下が倒れ込む。


 一瞬で50名あまりの部下が地に倒れた。惨劇だ。


「な、なんだ……!?」


 ジャーミアは何が起きたかも分からずに前方を見据える。


 前方に据えられているのは王国がかつて使用していたガトリング砲だ。馬で牽引して4名で運用するもので、砲と言っても口径はライフル弾程度だが、毎分200発という普通の銃火器とは桁違いの速度で連射できるので、他の武器を圧倒している。


 だが、王国はガス圧で作動する水冷式の機関銃に装備を換装したため、もはやこの手のガトリング砲は必要なく、不必要になった武器をトーマスがナセル族に対して引き渡したのだった。


「殿下! 危険です! 伏せてください!」


 部下がガトリング砲から銃弾が放たれていることに気づいて警告を発するが、遅かった。ジャーミアの馬は引き返す前に銃弾で蜂の巣にされ、ジャーミアは西の大通りの地面に放りだされた。


「グウッ……」


 ジャーミアの服は裂け、頭からは血が流れ、彼は地面の上でもがく。


 その間にもガトリング砲は銃撃を続け、部下たちは西の大通りにある岩の陰に大急ぎで隠れる。


「殿下! 殿下! ご無事ですか!?」

「大丈夫だ。今、そちらに向かう……」


 物陰が部下がジャーミアを救出しに向かおうとするが、それはガトリング砲の銃撃によって阻止された。顔を僅かにでも出せば、銃弾が雨のように降り注ぎ、岩がガリガリと削れる。


 ガトリング銃を操作している兵士たちはジャーミアが生きていることには気付いていないのか、まだ銃弾は飛んでこない。


「生きてるぞ! あれはクライシュ族の王子だ!」


 だが、それも数分の間だった。


 ナセル族の兵士たちは地面を這って進んでいるジャーミアに気付き、怒号が響く。


「殿下! 援護します!」


 部下たちは馬から降り、岩陰からガトリング砲を中心に展開するナセル族に銃弾を浴びせて牽制を行い、ひとりがジャーミアを助けようと岩陰から飛び出す。


「殺せ! クライシュの連中は生かして帰すな!」


 だが、それも虚しく、飛び出した部下はガトリング砲で蜂の巣にされ、肉片と血が周囲に飛び散った。


「ヒッ……」


 ジャーミアの前に部下が倒れこむ。その眼球は銃弾で抉られ、銃弾が抜けていった後頭部はぽっかりと射出孔が開いている。他にも銃弾は胸を抉り、腹部を抉り、腹部からはヌラヌラした体液に塗れた腸が零れ落ちていた。


 一瞬で、目の前で、自分の部下が無残な姿となったのに、ジャーミアの心に恐怖が湧き起こってきた。


 次は自分がああなるのではないか。銃口は既に自分に向けられているのではないか。もう敵は狙いを定めているのではないか。


「あ、ああ……」


 そう考えてしまうと、もう動けない。恐怖が心を縛り、体を縛り、ジャーミアはその場に這いつくばったまま、前にも進めず、部下たちが必死に牽制射撃を繰り返すのを見るだけになってしまった。


「誰か、誰か……」


 誰か助けてほしい。ここで死にたくはない。あんな死に方はしたくない。


「あの餓鬼を狙え! あれはクライシュの王子だ!」


 背後でそう叫ぶ声が響く中、ジャーミアは神に祈った。


 ガトリング砲のけたたましい射撃音を消し飛ばすほどの轟音が響いたのは次の瞬間だった。ドオンという空気を揺さぶる轟音が響き渡り、熱と衝撃波が西の大通りを駆け巡り、ジャーミアも地面を揺らす衝撃に揺さぶられた。


「何が……」


 ジャーミアが恐る恐る背後を振り返ると、先ほどまで銃弾を放っていたガトリング砲が瓦礫と化していた。それを操作していた兵士たちはベロリと皮膚が抉れた肉塊と成り果て、生き残ったものも負傷し、痛みから叫んでいた。


『よう。選手交代の時間だ』


 ズン、と重い足音が響き、ジャーミアが前を見ると、肩に狼のエンブレムが刻まれたスラリとしたシルエットの魔装騎士──スレイプニル型魔装騎士が口径75ミリ突撃砲と口径20ミリ機関砲を手に、ナセル族の生き残りを狙っていた。


「まさか。植民地軍の……」

『その通り。ここを探してもらえればそれで結構だった。後は俺たちに任せて後ろに下がってろ。俺たちが片付けてやる』


 その魔装騎士から響いてきた声は、クラウスのものだった。


『遅いぞ、大将。植民地人が全滅して、連中が周囲を探し始めやしないかと冷や冷やしたぜ』

「文句を言うな、ノーマン。それなりの分け前はくれてやってるだろう」


 魔装騎士の操縦席では、クラウスが周囲に油断なく視線を走らせていた。魔装騎士の人工感覚器官は周囲の映像と音を捉え、戦闘機のコックピットのような操縦席の前面に展開しているクリスタルに投射している。


 現在、ナセル族はジャーミアが突破しようとした西の大通りに集まっている。あちこちで狼煙が上げられ、戦えるものに西の大通りに集まれと知らせている。


「ジャーミア、だったか。お前たちの目標はどこだった?」

『わ、私たちの目標か?』


 クラウスが尋ねるのに、まだ地面に這いつくばったままのジャーミアが困惑した声を漏らす。


「しっかりしろ。俺たちも、お前たちも遊びに来たんじゃないんだぞ」


 クラウスがそう告げると、魔装騎士の体を屈め、倒れこんでいるジャーミアをその巨大な手で引っ張って立たせ、彼の部下たちが隠れていた岩陰に移動させた。


『そ、そうだな。私たちの目標はこの西の大通りの先にある王宮岩だ。そこにナセル族の族長であるガフール・ナセルがいると考えていたから』

「あのでかい岩だな。理解した」


 クラウスの視線が西の大通りの先に聳える、ちょっとした山ほどはある巨大な王宮岩に向けられた。


『クラウス。警戒して。そちらに大部隊が迫ってる。それから目の前の大きな岩で、敵兵が動いているのが見える』


 エーテル通信を介して、ローゼがクラウスにそう警告する。


「ただでは行かせないというわけか。ヘルマ、いつも通りだ」

『了解! 兄貴の背中はあたしが守るッス!』


 クラウスの背後にヘルマの魔装騎士が対装甲刀剣を抜いて控える。


「周囲は2個中隊を使って包囲してある。逃げようがない。一気にケリをつけるぞ」


 クラウスはそう告げると、ヘルマと共に西の大通りを疾走する。


 ラタトスク型と違って、スレイプニル型魔装騎士の機動力はその改良された人工筋肉によって何倍にも上がっている。その速度は馬が駆けるよりも速く、進路上の全てのものを薙ぎ払って、機体を前へ、前へと押し進める。


「うわっ! た、助け──」


 クラウスが西の大通りを駆けるのに、西の大通りに集合しつつあったナセル族の兵士たちは数十トンはある魔装騎士に踏み潰されて、肉と血の染みに成り果てる。


『ボス。こっちにもかなりの兵力が集まってます。どうしますか?』

「全て打ち殺せ。皆殺しだ。植民地人どもに容赦する必要などない」


 東の大通りからも、クラウスの部下である1個魔装騎士小隊が駆け抜けていくのに、クラウスがそう指示を出した。


 相手が何であろうと自分たちの邪魔をするなら殺す。役に立たないならば殺す。金にならないならば殺す。


 その先にあるのが残酷な骸の山だろうと、地獄への道だろうとクラウスは構う事はしない。彼はこの人生を自分のために生きるのだと決めており、他者への配慮はそれが自分の利益になる場合だけだ。


「逃げるのよ! 逃げて!」


 この岩の都にはナセル族の女子供たちも避難している。彼らは自分たちが戦火に巻き込まれないように、この安全だと思われていた岩の都に身を潜めていた。


 だが、それはクラウスたちの襲撃で覆された。


 1個魔装騎士中隊18体が乗り込んできたことによって、岩の都は完全な戦場と化した。


 王国が譲渡したガトリング砲が魔装騎士に向けられ、激しく、連続した発砲音を響かせながら魔装騎士に銃弾を叩き込む。だが、魔装騎士の生体装甲リビング・アーマーは、ガトリング砲の銃弾程度では掠り傷ひとつつかない。


「王国も要らないお古をくれてやるとは趣味が悪いな」


 クラウスはそう呟きながら、ガトリング砲で無駄な抵抗を行うナセル族の兵士たちに向けて口径20ミリ機関砲を掃射する。


 機関砲の掃射によって、ナセル族の兵士たちが一瞬で肉塊に変わる。上半身と下半身とが分断され、臓物を撒き散らしながらナセル族の兵士が地面に倒れる。おぞましいことに上半身と下半身とが真っ二つになってからも意識はあり、彼らは自分の零れ落ちた臓物を自分の腹部に戻そうと必死に足掻いていた。


『兄貴! 例の爆薬を持った奴が迫ってるッス! 用心してください!』

「この手の肉薄攻撃に弱いのは現代の戦車と同じ、か?」


 後方を守っているヘルマは、ナセル族の兵士が騎乗して西の大通りを駆け抜け、手には王国の工兵隊が使用する梱包爆薬を握っているのを見逃さなかった。梱包爆薬での攻撃は、列車での襲撃でも使われた手だ。


「ヘルマ。移動しながら周囲を更地にするぞ。こうも遮蔽物が多いのは面倒だ。ありったけの砲弾を使って、周囲を全て薙ぎ払ってやれ」

『了解ッス、兄貴! やってやるッスよー!』


 クラウスとヘルマは移動しながら、周囲に向けて手当たり次第に砲弾を撒き散らす。メインは口径75ミリの突撃砲から放たれる榴弾と焼夷弾で、岩を切り開くのは対装甲刀剣も使われる。


「ああ! 誰か、誰か! 体が焼ける!」

「お母さん! 助けて、お母さん!」


 岩の都に避難していたナセル族の女子供もクラウスとヘルマの無差別攻撃に巻き込まれた。子供を抱えた母親が榴弾で八つ裂きにされ、母親の帰りを待っていた子供が焼夷弾で焼き払われる。


 そして、梱包爆薬で攻撃を仕掛けようとしていたナセル族の兵士たちも薙ぎ払われた。榴弾で吹き飛ばされ、焼夷弾で焼かれ、手に持っていた梱包爆薬が暴発してグロテスクな肉塊に変わる。


「ローゼ。前方の大岩──王宮岩の動きはどうだ?」

『何かを運び込んでいるみたい。ガトリング砲ではなさそうだけど、あれは──』


 クラウスが周囲を地獄に叩き落してからローゼに尋ねるのに、ローゼが注意深く王宮岩を監視しながら、そう答える。


 その答えと同時に、王宮岩でチカッと光が瞬いた。


『うわっ! な、何だ!?』


 エーテル通信に東の大通りを進んでいた魔装騎士の通信が混じる。


『こちらローゼ。連中は対装甲砲を持ち出した。数は6門。岩に穿たれた洞窟に身を潜めながら砲撃してる。こちらで可能な限り対処するけど、そちらも油断せずに前進して』

「対装甲砲とはな。王国も思い切った武器の供与に踏み切ったな」


 対装甲砲。その名の通り、装甲に覆われた兵器を撃破するための砲だ。地球で言うところの対戦車砲であり、ほとんどの場合は魔装騎士から下ろした突撃砲を地上で歩兵たちが運用できるようにしてある。


 今、ナセル族が使用しているのは王国軍が供与した旧式の2ポンド対装甲砲で、旧式ではあるが、部位を狙えばスレイプニル型魔装騎士の装甲を抜くことは不可能ではない。


「王国の連中は対装甲砲を供与しても、植民地人どもが脅威にならないと踏んでいるのだろうな。弾薬が尽きれば無用の長物に成り果てるわけだから」


 列強は魔装騎士と優れた銃火器で植民地を支配している。そんな状況で魔装騎士に対抗できる対装甲砲を与えるのは、植民地支配が揺るぎかねないことのように思われる。


 だが、クラウスが予想したように王国は対装甲砲を供与しても植民地人は脅威にならないと判断していた。彼らには新しく弾薬を作る技術もなく、整備するための部品も供与を受けなければならないがために。


「ローゼ。対装甲砲を最優先で叩け。こちらは肉薄攻撃への対応で手一杯だ。対装甲砲はそちらに任せる」

『分かった。片付ける』


 クラウスたちは依然として肉薄攻撃を仕掛けようとしてくるナセル族に対応するので忙しい。対装甲砲まで相手にしているような余裕はない。


 クラウスはローゼに対装甲砲の始末を任せ、ローゼはぶっきらぼうに応じた。


 ズンと後方で発砲音が響き、王宮岩の洞窟が爆発する。ローゼの狙撃だ。彼女の狙撃で、王宮岩の洞窟に身を潜めて、魔装騎士の撃破を狙っていた対装甲砲が予備の弾薬と共に吹き飛んだ。


「どういうことだ!? どうやって狙えた!?」


 ナセル族の族長であるガフールが呻く。


 洞窟は天然のトーチカとして機能するはずだった。狭く穿たれた洞窟の入り口は多少の砲弾を受けようとも、中にいる対装甲砲と兵士たちを守り、彼らは無事であるはずだった。


 それが僅かに1発の砲弾で撃破された。


 理由はひとつ。ローゼの狙撃の腕前だ。


 彼女は狭い洞窟にピンポイントで砲弾を投射することができる腕前の持ち主であった。たとえ相手が洞窟に身を潜めていようとも、数キロ先から洞窟の中に榴弾を放り込めるだけの能力が彼女にはあった。


『2門撃破。気をつけて、クラウス。残りの砲はあなたを狙ってる』

「理解している。こちらもそろそろ切り込む」


 クラウスは肉薄攻撃を仕掛けようとしてくる兵士たちをミンチにし、西の大通りを駆け抜けて、王宮岩に迫っていた。


 ズンとクラウスの魔装騎士の傍で衝撃と共に粉塵が舞い上がる。対装甲砲の砲撃だ。ローゼの言ったように生き残った対装甲砲は、もっとも王宮岩に近いクラウスたちの機体を狙ってきていた。


「王国も武器は与えたが、訓練はさして施していないな。狙いが素人だ。これならばどうとでも料理できる」


 クラウスは脇を砲弾が飛び抜けていくのにさして動じる様子もなく、スレイプニル型魔装騎士の改良された人工筋肉が悲鳴を上げるほどに加速して、王宮岩に向かって突撃していく。


 砲弾は雨のように降り注いだ。ローゼがまた1門の対装甲砲を撃破し、残り3門となった対装甲砲はあらん限りの速度で砲弾を装填し、クラウスを狙って砲弾を放ち続ける。


 だが、ナセル族の兵士には対装甲砲を扱う訓練が十分に施されていなかった。砲弾は高速で移動するクラウスの機体の傍に着弾しては、逃げ惑うナセル族の兵士や女子供を吹き飛ばすばかりで、クラウスの機体は止められない。


「さて、そろそろ終わりだ」


 そして、ついにクラウスは王宮岩に到達した。


「砲弾を装填しろ! 砲撃を続け──」


 ナセル族の指揮官が叫ぶが、その叫びはクラウスが放った榴弾で掻き消された。


「こんなところで終わりだというのかっ……!」


 ナセル族の族長ガフールは味方が次々に倒れ、全ての対装甲砲が失われたのに、目の前で傍若無人に振舞う魔装騎士を睨む。


 ガフールは変えたかった。共和国の植民地支配によって、先祖代々の土地を追われるような状況を。クライシュ族が共和国の軍事力を盾にやりたい放題を繰り広げるのを。子供たちが将来に希望を抱けないのを。


 だが、その望みは潰えようとしている。


 共和国植民地軍は圧倒的な力で、ガフールの起こした抵抗を、自由への闘争を叩き潰そうとしている。もはや、敗北が目の前に迫っているのは誰の目にも明らかなことだった。


『お前が族長だな』


 眼前に迫ったクラウスの魔装騎士がガフールの潜んでいた洞窟を覗き込み、嘲るような声でそう告げた。


『反乱ごっこは終わりだ。お前の部族にはひとり残らず全滅してもらう。見せしめのためにもな。最後に言い残すことはあるか?』


 クラウスはそう告げて、口径75ミリ突撃砲の砲口をガフールに向けた。


「これで終わりだとは思わないことだ。自由を求める声は、傲慢な支配者への抵抗はこれで終わらない。俺たちの反乱が潰えようとも、まだ別の部族が反乱を起こす。共和国がいつまでもそれに対応できるとは思わないことだ」


 ガフールは毅然とした態度でクラウスにそう宣言した。


『そんなことは理解しているとも。だが、植民地人風情が自由を手にするのは何世紀も先の話だ。その頃には俺たちは新しい搾取の体制を整えている。お前たちがいくら足掻こうとも、一度落ちた奴隷という身分からは這い上がれない』


 クラウスは小さく笑い声を上げてそう告げると、ガコンと音を立てて突撃砲に榴弾を装填した。


『では、さようならだ。これで暫くはここらは静かになる。俺にはそれで十分だ』


 クラウスはそう言って、引き金を引いた。


 口径75ミリ突撃砲から放たれた榴弾はガフールに直撃し、彼の体は原型を留めぬまでにバラバラに分解された。手足が子供が遊び散らした人形のように飛び散り、臓物が体液に塗れたままに洞窟の壁面に叩きつけられ、彼の首はゴロリと洞窟の冷たい地面に転がった。


「族長が、族長がやられた!?」

「対装甲砲も残ってない! もうどうしようもない!」


 辛うじて生き残っていたナセル族の兵士たちは大混乱に見舞われた。


 族長が死亡し、頼みの綱だった対装甲砲は全て撃破され、もはややれることは梱包爆薬を掴んで肉薄攻撃を仕掛けることだけだが、その梱包爆薬ももうそこまで数が残っていない。


「降参しよう。それしか手はない。このままじゃ皆殺しにされる」

「共和国植民地軍に投降するのか? 連中は息もできないような刑務所に、反抗的な部族のものたちを押し込めるんだぞ」


 部族の士気は完全に削れきり、投降を求める声が上がり始めた。彼らにはクラウスとガフールの会話は聞こえていなかったようである。


「投降だ。下手に抵抗すれば女子供まで殺されかねない」


 そして、彼らは最終的に投降することを決めた。


「投降するものは一列に並べ。自分の家族も一緒に連れてくること。そうでないと投降は受け付けないぞ」


 投降を求めるナセル族のサウス・エルフたちにクラウスがそう命じる。


 そして、投降することを決めたナセル族たちが家族を連れて、クラウスと1個魔装騎士中隊に囲まれる中で、列を作って武器などを携行していないことを示すように両手を挙げて集まった。


「結構だ、紳士淑女諸君。ヴェアヴォルフ・ワンより全部隊。皆殺しにしろ」


 だが、クラウスは投降を受け付けるつもりなどなかった。


 彼はシンプルな皆殺しの命令を出し、それに彼の部下である1個魔装騎士中隊18体が応じる。


「や、やめろっ! やめてくれ!」

「助けて! 誰か!」


 機関砲弾が放たれ、榴弾が放たれ、焼夷弾が放たれ、次々に集まったナセル族の生き残りが殺されていく。


 機関砲弾はまだ6歳ほどの少女の腹部を貫き。少女は皮一枚で上半身と下半身とが繋がった状態で地に倒れる。榴弾の破片は老齢のサウス・エルフの顔面にめり込み、ブチリと顔を真っ二つに引き裂いて飛び抜ける。焼夷弾はこの場に集まった大勢のナセル族の生き残りを生きたままに焼き殺す。


「一匹も逃がすな。皆殺しだ。もう二度と反乱が起きないように徹底しておけ」


 クラウス自身も砲弾を放ちながら逃げようとするナセル族を、魔装騎士の巨大な足で踏み潰し、地面の染みに変えていった。


『兄貴。皆殺し完了ッス。生き残ったのはいそうにないッスよ』

「念には念をだ。死体は全て燃やしておけ」


 暫くしてヘルマがエーテル通信でそう告げるのに、クラウスが命じる。


 ヘルマたちはクラウスの指示に従って、ナセル族の死体に焼夷弾を撃ち込み、念入りに死体を焼却した。


『これで仕事は一段落?』

「ああ。これでいいだろう。少なくともナセル族に関しては反乱を起こしたくても、もう起こせなくなった。サウードからアナトリアまでの道は確保できたというわけだ」


 ローゼがエーテル通信で話しかけてくるのに、クラウスは頷いて返した。


 アナトリア地域までの道を確保する。ただそのために、彼は何百もの無抵抗のナセル族を殺すことを選んだ。


『植民地刑務所に入れておけばよかったのに』

「誰がこんな大勢の捕虜を植民地刑務所まで運ぶんだ? 俺たちは御免だぞ。先を急いでいるんだ。それに反乱をこういう形で鎮圧しておけば、他の連中はそう易々と反乱を起こそうって気にもなくなる。いいこと尽くめだろう」


 確かに彼らを植民地刑務所に送るということもクラウスはできた。だが、彼が選んだのは皆殺しという手段だ。


 何故なら、植民地刑務所に送るのであれば、植民地刑務所まで捕虜たちを護送しなければならない。トラックは補給中隊と整備中隊の限られた数しかないのに、そんなことをしようとすれば、1週間はかかる。


 そして、このように反乱を起こしたものを皆殺しにしておけば、他の部族は恐怖によって動きが縛られるだろう。ここまで徹底的かつ無残に皆殺しにされたのを見れば、怒りよりも恐怖が優る。


 だから、クラウスは皆殺しを選んだ。


『相変わらず冷徹ね、あなたは』


 ローゼは本当に短くだが、どこか信頼の色のある声でそう告げて、エーテル通信を終わらせた。


「さて、と。友好的な方の植民地人たちはどうしているやら」


 クラウスはそう呟いて、機体を背後に向けた。


「無事か、ジャーミアとやら」

『あ、ああ。私は無事だ。部下たちは何名かやられてしまったが……』


 クラウスが魔装騎士から呼びかけると、ジャーミアがやや遅れて返事を返した。


「そうか。無事でなによりだ。ここでの仕事は終わった。帰るぞ。そちらの馬に余裕はあるか?」

『大丈夫だ。部下たちの馬を借りるという手もある。それよりも、お前には謝らなくてはならない』


 クラウスは移動手段を確認するにジャーミアが1歩、クラウスの魔装騎士の前に出た。


『間違っていたのは私の方だった。王国の支援を受けていたナセル族を、私たちだけで倒すのは無理だった。それなのに、あのような挑発的で失礼な言い方をしてしまってすまない』


 ジャーミアはそう告げると深々と頭を下げた。


「こっちは気にしていない。ここを見つけてくれたのはそっちだ。これは共同戦果というところだろう。こんな秘境は土地勘のない俺たちには見つけられなかった。感謝している」


 クラウスたちがこの場所を見つけられたのは、連絡要員として随伴させておいたノーマンから位置の連絡があったからだ。クラウスはノーマンからの連絡を受けて、部隊を動かし、この岩の都を見つけた。


 だが、それもジャーミアたちがまずは見つけてくれたからこそだ。ジャーミアたちがいなければ、クラウスたちはナセル族がどこに潜んでいるか分からないまま、砂漠を延々を捜索する羽目になっていただろう。


『そうか……。そう言ってもらえるのは助かる。頭を地に付けろなどと、傲慢な物言いをしてしまったから、怒らせたのではないかと思っていた』

「傲慢な物言いはお互い様だ」


 ジャーミアが僅かに微笑んで告げるのに、クラウスは小さく笑って返す。


『お前は私の命の恩人だ。この礼をするために王宮に招きたい。先を急いでいることは理解できるが、1日でもいいので、王宮で持て成しを受けてはもらえないだろうか?』


 そう来たか、とクラウスは呻く。


 断るのは簡単だが、それだとこれから先また反乱に出くわした際に、クライシュ族の支援が受けられなくなる恐れがある。支援を受けたいとおもうのであれば、ここで持て成しを受けておくべきだ。


 だが、先を急いでいるのも事実だ。王国によるアナトリア地域占領が既成事実化してしまう前に、クラウスたちはアナトリア地域に到達し、自分たちの得る金のために、SRAGの株価のためにエーテリウム鉱山を奪わなければならない。


『兄貴! 王宮で持て成しってなんか凄くないッスか! あたし、王宮に行ってみたいッス!』

『私としても、アナトリアでまた戦う前に少し休んでおきたい』


 ヘルマとローゼはジャーミアの提案に前向きなようだ。


「分かった。急がば回れだ。王宮での持て成しというのを喜んで受けさせてもらおう。ただし、本当に1日だけだぞ。1日で俺たちは出発するからな?」

『ああ。理解している。提案を受け入れてくれて感謝する、キンスキー大尉』


 クラウスも結局はジャーミアの提案に折れ、彼らによる王宮での持て成しを受けることに同意した。


『では、王宮まで案内する。料理と酒を楽しんでいってくれ』


 ジャーミアはそう告げると、部下の跨っている馬に飛び乗り、そのままクラウスたちを引き連れて、岩の都を離れ、クライシュ族の王宮までクラウスたちを案内し始めたのだった。


 山ほどの焼けたナセル族の死体をそのままに。


……………………

明日より20時頃に1回投稿の毎日更新となります。

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新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
容赦ねーけどこれは割りとリアルなんよなぁ・・・ ここまでの戦力差はないかもしれないが。
ふつーに軍事作戦で虐殺を繰り返す作品って珍しい気がする 変にウジウジもしてなくて良いですね
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