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異世界に転生したから植民地帝国を築く  作者: 第616特別情報大隊
全ての戦争を終わらせるための戦争
279/285

装甲教導師団(2)

……………………


「諸君。これより我々は共和国陸軍の機動部隊を阻止するために行動する」


 オレグ・オステルマン少将はエーテル通信で師団の全部隊にそう告げた。


「敵は非常に強力な機動部隊──ヴェアヴォルフ戦闘団だ。これを阻止するには、我々の力が必要だ。あのけだものたちを止められるのは我々以外に他にない」


 ヴェアヴォルフ戦闘団の名前が出たことに師団の兵士たちの顔が強張る。


 ヴェアヴォルフ戦闘団──第32混成機甲連隊の恐るべき所業は、帝国の全ての将兵が知っているといっても過言ではないほどだった。


 オストプロイセン州の戦いでは帝国の目論見はことごとくヴェアヴォルフ戦闘団によって阻止されており、帝国陸軍はその結果第1軍を失い、第3軍に大打撃を受けた。


 そのような恐ろしい行為を成し遂げたヴェアヴォルフ戦闘団に、帝国陸軍の将兵たちは恐れを抱いている。次に血祭りに上げられるのは自分たちではないか、致命的な敗北を被るのは自分たちではないかと。


「帝国は勝てる。安心しろとは言わない。我々は敗北するかもしれない。我々の戦いは戦局に大きな栄光を与えないかもしれない。だが、やらねばならない。共和国陸軍の機動部隊を阻止することができるのは、もはや我々しかいないのだ」

「納得しました。今は帝国の危機の最中にあります。それを押しとどめる勇気を軍部の司令官が持っているのは、素晴らしいことです」


 苦々しい表情でオレグが告げるのに、指揮官のひとりが頷いた。


「理解に感謝する。では直ちに我々はヴェアヴォルフ戦闘団の阻止に向かう。全部隊、前進用意。我らが皇帝陛下に長寿と繁栄あれ」

「我らが皇帝陛下に長寿と繁栄あれ」


 こうしてオレグの装甲教導師団は動き始めた。


 彼らの目的は戦場を縦横無尽に走り回るヴェアヴォルフ戦闘団の殲滅。それだけにあった。僅か1個連隊の部隊に精鋭1個師団を与えねばならないほどに、クラウスの第32混成機甲連隊は危険視されていたわけだ。


 オレグたちは各方面から断片的に入ってくる情報でアルハンゲリスキーまで350キロメートルの地点にあるスモレンスク付近付近でクラウスたちを捕捉することに成功した。クラウスたちは食料と水の空中補給を受けている際に、スモレンスク郊外にいた。


 決戦の地は決まった。スモレンスクだ。


 オレグの装甲教導師団は前進を急ぎ、スモレンスクに殺到した。


 そして、クラウスたちも航空偵察でスモレンスクに迫る1個装甲師団の姿を確認していた。航空偵察の結果では、敵の装甲師団には新型の魔装騎士が配備されているらしいという情報が入っている。


「帝国の連中の悪あがきか。いいだろう。叩きのめしてやる」


 クラウスはそう告げると、数において約3倍差のある装甲教導師団を出迎えるために、スモレンスクで防御の姿勢を取り始めた。クラウスたちはあまりに前進しており、後続の機動作戦群も、第2梯団も遥か後ろからついてきているのが現状だったのだから。


 よって、クラウスは防衛を選択した。


 スモレンスクの第32混成機甲連隊を全滅させようとするオレグの装甲教導師団と、それを迎え撃つクラウスの第32混成機甲連隊の衝突まで残り数時間。


……………………


……………………


「航空偵察部隊が敵の装甲師団を捕捉した。もう数時間でここに到達する」


 クラウスは占領したスモレンスクの市庁舎で地図を広げてそう告げる。


「装甲教導師団って、例の精鋭部隊?」

「その通りだ。連中だけは兵卒も一定の能力を有している。そのことは連中の演習で確認している。あれが見掛け倒しでなけれえば、厄介な相手になるだろうな」


 ローゼが尋ねるのに、クラウスは渋い表情を浮かべてそう返した。


 クラウスは帝国の招きで訪れた装甲教導師団の演習で、士官はもちろんのこと、下士官も兵卒も訓練されているのを目のあたりにしている。舐めてかかれる相手ではない。恐らくは帝国軍で最高の部隊だ。


「どうするッスか? 突撃してぶち殺してやるッスか?」

「それが楽だからそうしたいところだが、数の差もあるし、先ほど述べたが連中の練度は他の連中とは比べ物にならない。ここは一度防衛の構えを取り、敵を迎撃することに専念したいと思う」


 ヘルマが退屈そうに告げるのに、クラウスがそう返した。


「マイヤー少佐は防衛のために陣地の設置を頼む。ナディヤは偵察を行って、どの地点まで敵の装甲師団が迫っているかを確認して貰いたい。他の部隊はいつどこから襲われても大丈夫なように厳重に守りを固めろ」

「任されました、大佐殿」

「やり遂げよう、クラウス」


 クラウスが指示を出すのに、マルクとナディヤが頷く。ローゼとヘルマも納得したように頷いている。


「なあ。迂回する、ってのはなしか? 厄介な敵はやり過ごして、後方に突撃した方がいいんじゃないか。少なくとも精鋭部隊と言っても1個師団だ。後続の連中が来れば、数の暴力で叩きのめしてくれる。だろ?」


 ひとりだけ異議を唱えるのは外人部隊のウィリアムだ。彼は帝国の精鋭部隊を相手に僅かに1個連隊で相手するのを疑問視していたし、迂回できるならば迂回して、後方を攪乱するのが自分たちの役割だと考えていた。


「ダメだ。この連中の狙いは間違いなく俺たちだ。俺たちがどこに迂回しようとも追いかけてきて、攻撃を仕掛けてくるだろう。この連中は他の師団と違って自動車化されている。機動力ではこちらに追いついている」


 だが、クラウスはウィリアムの提案を却下した。


 そうだろう。装甲教導師団の狙いはクラウスたちだ。彼らはクラウスを追っている。いくら逃げたところで、どこまでも追いかけるだろう。


 今回のようにあらかじめ攻撃されるタイミングが分かっていれば、防御なりなんなりと対応ができるが、移動中に不意を打たれればそれこそ数の差で蹂躙されかねない。よって、クラウスたちは相手の動きが分かっている今こそ、装甲教導師団を相手にすると決めた。


「了解。なら、準備しましょう。魔装騎士での防御戦闘は慣れてる。無様は晒しませんよ」


 ウィリアムのクラウスの言わんとすることを理解して頷いて返した。


「では、各自行動に入れ。敵との接敵までは数時間だ。時間はないぞ。急げ!」

「応っ!」


 クラウスはこうして指示を出し、スモレンスク郊外で防御陣地を構築した。


 歩兵用の塹壕を掘り、鉄条網を設置し、地雷を埋め、魔装騎士用の塹壕を掘る。


 オレグの装甲教導師団はその間にも着実にスモレンスクに迫り、先行している偵察騎兵中隊がスモレンスク郊外のクラウスたちの陣地を確認した。


「師団長閣下。どうなさりますか?」

「正面から突破するのは危険が大きいが、下手に迂回するとスモレンスクを戦火に巻き込むことになる。左側から仕掛けるしかないな」


 クラウスたち第32混成機甲連隊の防御陣地は、スモレンスク北部に設置されている。市街地から僅かに離れた地点に陣地は設置されていた。東から迫るオレグの装甲教導師団は右手から迂回するとスモレンスクを戦闘に巻き込むことになる。


 ならば、左手から攻めるより他ない。


「歩兵部隊は正面から圧力を掛けて、敵部隊を牽制。その隙に魔装騎士部隊を左手から突っ込ませる。敵は歴戦の軍人だ。このような簡単な手に引っ掛かるとは思えないが、これ以外に方法はない」


 オレグはそう告げて、指揮官たちと参謀たちを見渡す。


「確かに下手にスモレンスクを巻き込んで市街地戦になっては我々の数の優位が揺るぎます。ここは左手から攻めるべきかと」

「砲兵隊の支援があれば市街地でも戦えるのですが、今の我々には……」


 参謀たちがオレグの言葉にそう告げる。


 装甲教導師団の砲兵隊は移動の際にほぼ全滅している。


 航空攻撃だ。なるべくオレグたちは航空攻撃を避けるために、森林地帯を移動したり、移動を夜間に限り昼間はカモフラージュに専念するなどしたが、砲兵隊の被害は避けられなかった。


 高射砲代わりの機関砲が火を噴き、Lo87攻撃機が機関砲弾の嵐を潜り抜けて次々に航空爆弾を投下するのに、砲兵隊の半数以上が失われた。共和国は自軍の火力の相対的な優位を保つために徹底的に帝国の砲兵隊を叩いているのだ。


 そんな状況では遮蔽物が多く、それらを薙ぎ払わなければ制圧困難な市街地で戦闘をするというのは無謀だ。視野の広い魔装騎士でも、市街地では移動するだけで非常に困難な状況になるのだから。


「砲兵隊が仮にあったとしても、スモレンスクを砲兵隊に砲撃させるわけにはいかないだろう。あそこにはまだ疎開が終わっていない帝国臣民が残っているのだ。彼らごと都市を破壊するなど、帝国を守るものとしては論外だ」


 オレグはスモレンスクでの戦闘をそう否定した。


 帝国本土では共和国陸軍の進軍があまりにも早く、臣民の疎開が十二分に行われていなかった。今も都市部には大勢の臣民たちが建物に籠って、戦火が去ってくれることを神に祈っている。


 だが、共和国は都市部での戦闘に巻き込まれると、容赦なく都市部を砲爆撃し、市街地をほぼ更地にするような勢いで破壊の限りを尽くした。それによって何十万もの帝国臣民が犠牲になっている。


 おぞましい戦争の現実だ。


「では、作戦を開始する。魔装騎士部隊は戦闘準備。砲兵隊は攻勢準備射撃を1500時丁度から実行し、歩兵部隊は先行して敵陣地を制圧せよ。魔装騎士は敵陣地が制圧されてから、敵の機動部隊が投入されればすぐに動く。以上だ」

「了解しました、師団長閣下」


 オレグがそう告げ、師団の指揮官と参謀たちが敬礼を送る。


 こうしてスモレンスク郊外でのクラウスたち第32混成機甲連隊とオレグの装甲教導師団の戦闘が始まろうとしている。


「この戦い、勝てれば共和国の勢いを削げる。友軍が第二防衛線で防御を固めるまでの時間を稼げる。だが、本当に勝てるのだろうか……」


 オレグはひとりになった司令部の天幕で小さくそう呟いた。


……………………

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