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異世界に転生したから植民地帝国を築く  作者: 第616特別情報大隊
全ての戦争を終わらせるための戦争
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ケーニヒスベルク防衛戦(3)

……………………


「砲兵隊、撃ち方始め!」


 帝国陸軍のケーニヒスベルクへの大攻勢は掻き集めた砲兵隊の砲撃から始まった。


 帝国陸軍の砲兵隊は航空攻撃で削られ続け、もはや見る影もない。1個師団に配備されている砲兵隊は僅かに1個中隊という悲惨な有様だった。火力において、帝国陸軍はもはや脆弱そのものだった。


「帝国の連中が来るぞ! 配備に着け! 連中をお出迎えしてやれ!」


 共和国陸軍のケーニヒスベルク防衛を目指す共和国陸軍D軍集団の部隊は、事前の計画通り、強固な防衛陣地を築き、そして縦深のある防衛陣地を構築した。


 ひとつの防衛陣地を迂回、ないし突破すれば、次の防衛陣地が敵を出迎える。帝国陸軍は出血を重ね、魔装騎士が脱落し、歩兵がバタバタと死んでいく。


「畜生! なんて数だ! 機関銃の銃弾が足りないぞ! 連中はどうかしてやがる!」


 だが、その防衛陣地に押し寄せる帝国陸軍の兵士の数は半端ではなかった。


 共和国陸軍の1個大隊の防衛陣地に帝国陸軍の1個師団がぶち込まれる。もはや物量で勝てる状況ではなくなっていた。


 機関銃の弾が尽き、対装甲砲の砲弾が尽き、共和国の防衛陣地は後方の予備陣地に逃げるようにして撤退する。


 いつまでもケーニヒスベルクを落とせない帝国陸軍が取った手段は、物量による波状攻撃。圧倒的物量差で、共和国の戦術を踏みにじり、防衛陣地を強行突破し、敵による誘導を避ける。


 帝国陸軍の被害は甚大では済まされないほどの規模になったが、彼らは着実にケーニヒスベルクに前進できている。共和国陸軍はアクティブ・ディフェンスの要となる突破不可能な防衛陣地を叩き潰され、敵の誘導は不可能になった。


 そう、アクティブ・ディフェンスは一定の規模の敵には有効だが、それがあまりに強大な規模になると機能不全を起こすのだ。


「戦況は芳しくない」


 クラウスはD軍集団の司令部でそう告げる。


「敵は本気でケーニヒスベルクを叩き潰すつもりだ。損害を恐れず、物量にものを言わせて、我々の防衛陣地を蹂躙している。こちらも遅滞戦闘を行うが、これだけ数に差がある状況では非常に険しいだろう」


 帝国陸軍第1軍の方針はケーニヒスベルクを叩き、次にオストプロイセン州解放を目指すA軍集団を叩くというもの。彼らはどうあってもケーニヒスベルクにいるD軍集団を包囲殲滅するつもりだ。


「A軍集団の到着は間もなくです。もう数十キロメートルの地点に到達しています。我々が落ちる前にA軍集団が到達することもありえます」


 D軍集団の参謀はそのような意見を述べた。


「その間もなくが問題だ。敵の遅滞作戦がお粗末であることは聞こえてきているが、帝国陸軍第1軍は、それなりの戦力をA軍手段の前進阻止に投じている。ここまで来た場合、A軍集団の前進を阻止する可能性がある」


 帝国陸軍第1軍は、主戦力をケーニヒスベルク攻撃に投じているが、西部ではA軍集団の前進阻止のために部隊を投じている。その数は馬鹿にできるものではない。


 A軍集団には精鋭部隊である第7機甲師団などが存在するが、それでも本気になって前進を妨害しようとする帝国陸軍を相手にして、数時間、数日でケーニヒスベルクに到達できるかは、不確定だった。


「ならば、我々はどうするべきでしょうか?」

「ケーニヒスベルクに籠城しては? 元は城塞都市だ。我々が市街地戦に転じれば、帝国陸軍も足を取られる。その間にA軍集団が到達すれば、我々の勝利だ」


 参謀たちは今後の戦いをどうするべきかを話し合っている。


「ケーニヒスベルクは戦場にしない。ケーニヒスベルクは象徴だ。それが破壊されたとなれば、共和国人民は多大な精神的ショックを受けるだろうし、敵にいい宣伝材料を渡すことになるだろう。それだけは阻止しなくてはならない」


 ケーニヒスベルクは騎士の国であったオストプロイセン州の最大の都市であり、共和国のシンボルのひとつだった。


 それが帝国の砲撃で無残に破壊されてしまっては、共和国市民は動揺するだろう。次は自分たちの都市がそうなるのではないかと、彼らは恐怖するだろう。


 それは総力戦を戦っている共和国にとって、有益なことではない。共和国は大統領が終身制になっても、未だに民主主義の国家であり、戦争には国民の協力が不可欠なのだ。


「では、どのように? 帝国陸軍の猛攻はいつまでも防げませんよ」

「帝国陸軍の戦いは所詮は数に任せた戦いだ。数でごり押しするしか能がない。対する我々は高度な機動戦を理解し、装備においても帝国に勝っている」


 参謀が尋ねるのに、クラウスがそう告げる。


「ならば、逆襲だ。従来の遅滞戦闘を続けると同時に、機動部隊で反撃に転じる。敵の間隙に飛び込み、敵の指揮系統を破壊し、敵を麻痺させる。そして、その稼いだ時間でA軍集団の到着を待つ」


 クラウスが提案したのは恐るべき案だった。


 敵が大規模な戦力で自分たちを攻撃しているというのに、反撃に転じるとは。常人であるならば、まず考えつかない戦い方だ。


「そのようなことが可能なのですか?」

「可能だ。我々はこれまでの交戦記録と偵察活動によって、敵部隊の間隙を発見した。部隊間の間隙は軍隊においてもっとも脆弱な部位だ。数に任せて攻撃するだけの帝国陸軍では、部隊間の連携も碌にできていない。俺たちはそこを擦り抜け、後方に機動する」


 部隊と部隊の間は軍隊において脆弱な部位だ。そこを突かれると、軍隊はきちんとした連携ができていない場合、混乱に陥り、敵の突破を許してしまう。


 クラウスが狙ったのはその部隊間の間隙。もっとも脆弱な部位を食い破り、後方に機動し、敵部隊を大混乱に陥れる。


「幸いにしてこちらの砲兵隊は全力で戦える。まずは生き残っている歩兵師団が砲兵隊の支援を受けて敵の正面戦力を引き付け、その隙に機動部隊が間隙に飛び込む。そこからは賭けになる。帝国陸軍が後方にもっと多大な部隊を残していたら、反撃に遭って全滅するだろう」


 共和国陸軍D軍集団の砲兵隊は充実している。あらゆる口径の砲兵隊が揃い、1個師団当たり2個連隊規模の砲兵隊が、支援に当たっている。その猛烈な砲火を前に、帝国陸軍の進軍は思うように進んでいない。


「逆襲にあって機動部隊が壊滅した場合はどうなさるのですか?」

「従来の歩兵部隊で粘り強く戦うしかない。どの道、このままではA軍集団が到達する前にケーニヒスベルクの包囲は畳まれる。その前に帝国の連中に一泡吹かせてやろうじゃないか」


 指揮官のひとりが尋ねるのに、クラウスは二イッと笑ってそう答えた。


「まあ、壊滅する心配はしなくともよい、というのが実際のところだ。航空偵察では、帝国陸軍は魔装騎士部隊のほとんどを前線に配置し、突撃させている。後方に残っている部隊は僅かなもの、という報告が入っている」


 帝国陸軍は全力でケーニヒスベルクを落としにかかっている。当然、魔装騎士部隊も掻き集め、ありったけの戦力を投入していた。


「では、勝算はあるのですね?」

「五分五分だ。勝てるかもしれないし、負けるかもしれない。だが、俺は約束しよう。ケーニヒスベルクが陥落することは決してないと」


 参謀の問いに、クラウスは力強くそう返した。


「この戦いは東部戦線において重要な戦いになる。参謀諸君は調整に入れ。もちろん、俺の第32混成機甲連隊も突撃には参加する。危険な戦場に部下だけを送って、安穏とはしてられないからな」


 それにこんな大胆な作戦を指揮できるのは俺だけだしな、とクラウスは内心で思った。


「大統領閣下の決意に敬意を示します。我らが共和国と全ての人民に栄光あれ」

「我らが共和国と全ての人民に栄光あれ。願わくば勝利の女神が我々に微笑むことを」


 こうして、クラウスによる反撃作戦は立案され、実行準備に進んだ。


 機動部隊として投入されるのは第5機甲師団と第3装甲擲弾兵師団、そして第9自動車化歩兵師団、そして第32混成機甲連隊の3個の師団と1個の連隊。


 作戦決行は2日後。


 共和国陸軍D軍集団がA軍集団の救援までもつのかどうか。賭けが始まった。


……………………

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