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異世界に転生したから植民地帝国を築く  作者: 第616特別情報大隊
全ての戦争を終わらせるための戦争
265/285

オストプロイセン州解放(2)

……………………


「第32混成機甲連隊。戦闘準備はできているか?」


 クラウスがエーテル通信機に向けてそう告げる。


『できてる』

『いつでもいけるッスよ!』


 エーテル通信にはローゼの淡白な声とヘルマの賑やかな声が響いてきた。


『金にならん戦争をするのはあれだが、まあここまで来たんだからやってやるよ。王国は滅んじまったしな』


 そして、それらに続いて外人部隊──第2魔装騎士大隊のウィリアムの声がする。


『こちらマイヤー。こちらの準備も万端だ。いつ始めて貰っても問題ない』


 そして、装甲擲弾兵大隊のマルクの声もする。


「よろしい。では、反撃開始だ。我々を包囲している帝国軍を打ち破り、友軍に合流する。敵に打撃を与えるのも忘れるな。我々は連中の背中を刺して、このオストプロイセン州での戦いを優位に進めるんだ」


 クラウスはそう告げるとブリュンヒルデ型魔装騎士を前に進めた。


「全軍、前進。我々はこれより反撃に打って出る。我らが共和国と全ての人民に栄光あれ。勝利は我々のものだ」


 ケーニヒスベルクは海路で補充が行われ、数個師団が揚陸した。ケーニヒスベルクの沖合には艦砲による支援のために大洋艦隊が待機している。


 時は来た。反撃の時だ。


「ナディヤ。そちらの偵察分隊はマイヤー少佐と共に帝国軍の包囲の穴を見つけてくれ。だが、用心しろ。敵はわざと穴を開けている可能性がある。俺たちがそこに殺到したところを撃滅するための罠としての穴をな」

『了解した。敵の部隊の間隙を探り出し、突破できる場所を探ろう』


 包囲作戦では敵を完全に包囲するのではなく、意図的に抜け穴を用意しておくことがある。その抜け穴に敵が集まれば、そこに強力な部隊を投入して、その逃げようとした部隊を殲滅するのだ。


 ナディヤもその点は理解している。彼女は帝国陸軍の防衛線において、部隊間の間隙を探り、部隊と部隊の間というもっとも脆弱な部分を狙って、クラウスたちに打撃を与えさせるつもりだった。


「さて、仕事だ。俺たちは敵の包囲網を突破。慌てふためく帝国陸軍をオストプロイセン州において殲滅し、東部戦線を一挙に優位に進める。各員、奮闘せよ。この戦いにも共和国の未来と俺たちの未来がかかっている」

『応っ!』


 クラウスが告げるのに第32混成機甲連隊の兵士たちが威勢良く応じる。


「ここで帝国陸軍第1軍を殲滅できれば、帝国軍は大打撃だ。ルサチア州からの撤退も考えるだろう。だが、逃がしはしないぞ。帝国陸軍第3軍もルサチア州で包囲殲滅する。俺たちの祖国に入り込んできた連中をただで帰すつもりはない」


 クラウスはそう告げて、前進を開始した。


『こちらナディヤ。敵部隊の間隙を見つけた。突破できそうだ』

「こちらヴェアヴォルフ・ワン。了解した。やってやろうじゃないか」


 ナディヤの偵察分隊からの連絡が入ると、クラウスはニッと笑った。


 ケーニヒスベルクからの突破部隊の先鋒はクラウスの第32混成機甲連隊。それに続いて揚陸された部隊が前進する。クラウスたちが敵の包囲網を食い千切り、その傷口を後方から進んできた部隊が抉るのだ。


『敵の防衛線の間隙は防御は薄いが、対装甲砲がある。用心してくれ。帝国軍の標準的な口径76.2ミリ対戦車砲だが、当たり所が悪ければ致命傷になる』

「了解した。敵の対装甲砲に細心の注意を払って突破する。まあ、帝国軍の砲ではブリュンヒルデ型魔装騎士の装甲を貫くのは困難だがな」


 防衛線の間隙といっても防衛がないわけではない。ケーニヒスベルクを包囲した帝国陸軍はそれなり以上の戦力を投入し、包囲網を固めているのだから。


「さて、赤外線暗視装置の出番だ。どこに隠れている、対装甲砲?」


 クラウスは赤外線暗視装置のスイッチを入れると、白黒の視界の中で敵を探った。


 クラウスの視界であるクリスタルに白い影が映る。白いのは熱源を持った目標だ。つまりは敵である帝国陸軍の兵士だ。


 昼間であっても赤外線暗視装置は役に立つ。確実に獲物の熱源を捉え、極めて高い索敵能力を与えるのだから。


「ドン、と噛ますとするか」


 白い影で帝国陸軍の対装甲砲部隊の位置を把握したクラウスは71口径88ミリ突撃砲の砲口を、その熱源に向けて引き金を引いた。弾種は榴弾だ。


 ズンという轟音と共に白い睡蓮の花が咲き、白い影が吹き飛び、対装甲砲の弾薬が誘爆して白い影が更に拡大する。恐らくそこでは悲鳴が上がっているだろうが、戦闘音楽に掻き消されて、兵士たちの悲鳴は一言も聞こえない。


『こちらローゼ。敵の対装甲砲は品切れみたい。前進する?』

「当然。このまま防衛線の背後に回り込み、そこから敵の後方連絡線を遮断。続いて敵の司令部を叩き、俺たちを包囲している忌々しい帝国軍の連中に一泡吹かせてやる」


 防衛線に配置されていた帝国軍の対装甲砲が全滅するのに、クラウスがそう告げて返す。クラウスはこのまま後方まで突破し、第7機甲師団のエルヴィンと同じように電撃戦の要領で敵を殲滅するつもりだ。


「いくぞ。前進だ。兎に角突き進め。補給のことは考えるな。どうせ、この戦いは1週間未満で終結する。速度こそが俺たちの武器だ。戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵に打撃を与えろ」


 クラウスはそう告げて、こじ開けた突破口から帝国の防衛線を突破する。


 帝国軍は先のオストプロイセン州攻略作戦でかなりの損害を出しており、縦深のある防衛陣地を準備できていなかった。ひとつの防衛線が突破されてしまえば、そのまま共和国陸軍は後方に機動できるのだ。


 しかし、帝国陸軍もその問題点は理解してる。


 彼らはオストプロイセン州攻略で生き残った魔装騎士部隊──それも西部に投入されていない部隊を投入して穴を塞ごうとした。西部では共和国陸軍が本格的な反撃に転じている中で、ケーニヒスベルクから自分たちの背中を刺されるのは困るのだ。


『前方にセマルグル型魔装騎士1個連隊相当。馬鹿正直にこっちにまっしぐら』

「お相手してやるとするか」


 帝国陸軍の反撃部隊を前に、ローゼとクラウスがそう言葉を交わす。


『兄貴。歩兵が随伴してるッス。魔装騎士と歩兵の合わせ技ッスよ』

「面倒だな。いちいち歩兵の相手などしてられないというのに」


 敵の歩兵部隊を前にクラウスが愚痴った。


 本来ならば歩兵の相手はマルクの装甲擲弾兵大隊だが、彼は後続の部隊を受け入れるために突破口の拡大を行っている。今、クラウスの手元にあるのは魔装騎士部隊と偵察分隊だけである。


 魔装騎士は歩兵に対して優勢だが、いちいち歩兵の相手をしていては弾薬を大量に消耗するし、歩兵の相手をしている間に敵の魔装騎士部隊に殴られる。


 ジレンマだ。


『こちら大洋艦隊第3戦隊。そちらへの砲撃支援は可能。いつでも呼んでくれ』


 そんなときに救世主が現れた。大洋艦隊だ。


 大洋艦隊はクラウスたちの突破作戦を支援するために沖合に待機している。いつでもクラウスたちに砲撃による支援が行えるようにと。


「では、早速頼む。座標は──」


 クラウスは地図を見ながら大洋艦隊に目標の座標を指示する。間違っても味方の上に砲弾を降らされたらたまったものではないので、彼は慎重に目標の座標を大洋艦隊に伝達した。


『撃ち方始め。着弾まで15秒』


 クラウスが座標を指示し終えると同時に大洋艦隊による砲撃が始まった。


 ズウンと重々しい着弾音が響き、帝国陸軍の前進してきていた魔装騎士部隊と歩兵部隊のど真ん中に砲弾が着弾した。流石は練度を向上させた共和国海軍だ。彼らは初弾で、敵の戦力のど真ん中に砲弾を放り込んだ。


「効力射を要請する。徹底的に砲撃してくれ」

『了解した。ありったけの砲弾を叩き込もう』


 クラウスがニヤリと笑ってそう告げ、大洋艦隊は砲撃を継続した。


 歩兵部隊は戦艦の激しい砲撃を受けて地面に伏せるより他なくなり、そこらで歩兵の残骸が宙を舞う。上半身と下半身とが引き千切られた死体が空を飛び、人間の手足が玩具の人形のように撒き散らされる。


 魔装騎士部隊も無傷ではない。


 戦艦の主砲の直撃弾を受ければ流石の魔装騎士でも撃破される。人工筋肉が引き千切られ、手足を失った魔装騎士が地に倒れていく。かなりの出血だ。直撃でなくとも、激しい砲撃に晒されて、敵の部隊は麻痺しつつある。


「全部隊へ。大洋艦隊が連中を押さえている間に敵を殲滅しろ。一匹も逃がすな。ここで連中を殲滅して、逆襲することを阻止する。根絶やしだ。そして、このまま──」


 クラウスは71口径88ミリ突撃砲で、大洋艦隊の砲撃で動けなくなっている帝国陸軍の魔装騎士を狙撃する。ローゼの装甲猟兵中隊も、55口径128ミリ突撃砲で1体、また1体と敵の魔装騎士を撃破していく。


「畜生! 呪われてやがる! 魔女のばあさんの呪いだ!」

「引け! 撤退だ! ここにいたら全滅だぞ!」


 そして、勝ち目がないと判断した帝国陸軍の魔装騎士部隊は蹲っている歩兵を放置して、自分たちだけで撤退を始めた。クラウスたちに向けて出鱈目に口径76.2ミリ突撃砲を乱射し、じりじりと後退する。


「逃がすなよ。連中の死場はここだ。俺たちは獲物を逃がさない」


 クラウスはそう告げて、撤退しようとする帝国陸軍の魔装騎士部隊を追撃する。


 大洋艦隊の砲撃支援は既に停止し、ズタボロになった帝国陸軍の魔装騎士部隊にクラウスたちが突っ込み、熱式刀剣ヒートソードで、混乱するセマルグル型魔装騎士を切り裂いていく。


「火力は不足だが、装甲は王国のタルタロス型以上だな。熱式刀剣でもなかなか引き裂けない。全く、工業力が碌にないくせによくこんな機体を作れたものだ」


 クラウスは熱式刀剣の切れ味が、王国のタルタロス型魔装騎士を相手にしていたときよりも悪いのにそう呟く。


 セマルグル型魔装騎士は帝国が次世代の主力魔装騎士として生み出したものだ。砲弾を弾くような流線形のフォルムと、それなり以上に頑丈な装甲は同世代であるタルタロス型魔装騎士を上回っている。


「だが、こっちの主砲で抜けないものではない。熱式刀剣で引き裂けないものでもない。所詮は俺たちの敵ではないな」


 セマルグル型魔装騎士もニーズヘッグ型魔装騎士初期型ならばいい勝負をしただろうが、共和国陸軍はその重工業力にものを言わせてほぼ全ての魔装騎士をニーズヘッグD型かニーズヘッグE型、そしてブリュンヒルデ型魔装騎士に換装しており、帝国は魔装騎士という観点において圧倒的に不利だった。


『兄貴! 新たな魔装騎士ッス! 数はまた1個連隊! おかわりッスよ!』

「数だけは多いな。流石は世界最大の陸軍国帝国か。面倒な相手だ」


 クラウスたちが1個連隊の魔装騎士を殲滅している間に、次の魔装騎士がまたしても1個連隊投入されて来た。一気にまとめて投入しないのは、それだけ指揮系統が混乱していることの証拠であろう。


「全部隊、次も片付けろ。ヴェアヴォルフ戦闘団に敵はない。勝利は俺たちのものだ」


 クラウスはそう告げて、突撃砲を構える。


 帝国陸軍はケーニヒスベルクから共和国陸軍が反撃することを全く想定しておらず、混乱した状態の中で必死になって反撃を行った。


 だが、どうしようもなかった。


 帝国陸軍は背中を刺された形となり、ケーニヒスベルクの包囲部隊は徐々に後退していき、各所で防衛線が突破されて、逆に包囲される羽目になっている。


 帝国陸軍第1軍は東西からの攻撃を前に、どうするべきかを検討した。


 そして、彼らは西部から迫りくる共和国陸軍A軍集団に対して遅滞戦闘を行って時間稼ぎを行い、その間にケーニヒスベルクからの攻撃に反撃し、今度こそケーニヒスベルクを今度こそ包囲殲滅すると決定した。


 対する共和国は引き続ぎA軍集団が帝国陸軍第1軍を第2軍、第3軍から切り離し、包囲殲滅することを狙っていた。


 かくて、ふたつの軍隊の戦略が正面から衝突する時が来た。


……………………

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