表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したから植民地帝国を築く  作者: 第616特別情報大隊
全ての戦争を終わらせるための戦争
250/285

ゼーレーヴェ作戦(5)

……………………


「陸地だ! 陸地が見えるぞ!」

「アルビオン島だ。俺たちは本当にアルビオン島に上陸するのか」


 ロンディニウムの首相官邸における決定の幾分か前に、共和国海軍に徴用された輸送艦隊は大陸海峡チャネルを渡り、アルビオン島へと押し寄せて、艦隊はもはやドーバーの峡湾都市が視認できる位置に来た。


「あれが真っ白な崖。あれこそがアルビオンか。我々はついにアルビオン島に上陸するのだな。今度こそ、共和国軍の軍旗がアルビオン島に翻されるのだな」


 兵士たちは興奮に震え、アルビオン島の名称となったドーバーの白い崖を見つめる。王国がこれまで聖域として、誰もが攻め込むことを拒絶していたアルビオン島に自分たちは本当に上陸するのだ。


 歴史的な瞬間だ。これまで何人の侵入を許さなかった聖域であるアルビオン島がついに外敵の脅威に晒されるのだ。ひとつの歴史と伝説が終わり、新たな歴史と伝説が刻まれようとしている。


「敵要塞の砲撃です!」


 だが、そう簡単にはことは進まない。


 ドーバーには共和国の上陸に備えて、要塞を建設している。30年前の革命戦争から、王国はアルビオン島が危機に晒されることを考えて、上陸可能な地点に要塞を築いていた。大口径の要塞砲を備えた要塞でコンクリートで補強される。そう簡単には陥落させることはできない要塞だ。


「大洋艦隊の砲撃は!?」

「大洋艦隊、砲撃開始!」


 ドーバーの上陸作戦に動員されたのはヘルゴラント級戦艦4隻を主力とし、旧式戦艦で補強された艦隊だ。大洋艦隊は上陸作戦部隊の後方から迫り、戦艦の強力な艦砲が、鎌首をもたげ、狙いを要塞に定める。


 ズン、と砲弾が着弾し、要塞が粉砕される。それでも要塞の規模は巨大だ。生き残った要塞砲が上陸作戦部隊に砲弾の嵐を降り注がせ、兵士たちを満載した艦艇が直撃弾を受けて、呆気なく転覆し、兵士たちと共に海底に沈んでいく。


「航空支援を要請しろ! 敵の要塞砲を沈黙させないと上陸作戦は失敗だぞ!」


 ドーバーに迫りくる共和国陸軍の上陸部隊の指揮官が鋭く命じる。


「第1航空艦隊が航空支援を開始! 要塞に向けて攻撃を始めます!」


 今も必死に抵抗を続ける王国陸軍の要塞に、Lo87攻撃機が急降下し、500キログラムの爆弾を投下する。狙いは魔弾のようであり、要塞砲は1門、また1門と沈黙していく。生き残っている要塞砲は混乱しながらも義務を果たし、共和国海軍を攻撃する。


『こちらグスタフ。支援の準備ができている。座標を指定してくれれば支援を開始する。いつでもいいぞ』


 そんな状況で共和国本土から通信が入った。


「グスタフ? 聞きなれない呼び出し符丁だな。どんな部隊だ」

『君たちのいる場所まで火力を投射できる部隊だ。既に初弾は発射した。観測結果次第で修正射撃を実行する。我々は君たちの力になれるだろう』


 上陸作戦部隊──第1山岳猟兵師団の師団長が怪訝そうな顔を浮かべるのに、グスタフと名乗った支援部隊はそう返してきた。


「分かった。今は猫の手でも借りたいほど忙しい。支援を行ってくれ。弾着観測はこちらで行う。支援の開始を求める」

『グスタフ、了解。着弾まで10秒だ』


 第1山岳猟兵師団の師団長が告げるのにグスタフはそう返す。


 そして、10秒後。


「おおっ!」


 ドーバーの要塞に砲弾が降り注いだ。戦艦のものではない。戦艦よりも威力は低いが、狙いは正確な砲撃だ。それが要塞を直撃し、戦闘能力を奪った。要塞では弾薬が誘爆してオレンジ色の炎が噴き出し、要塞は瓦礫の山に変わる。


「列車砲だな」


 そんなグスタフの砲撃を見ながらクラウスがそう告げる。


 列車砲。


 列車に大型の砲を搭載したもので、機動力は低いが、火力は絶大なものだ。


 共和国陸軍が保有している列車砲は9門。口径は21センチから28センチ。陸上で使用される火砲としては絶大な威力を誇る兵器だ。


 列車砲は大陸海峡チャネルを越えて砲撃可能である射程を有し、このゼーレーヴェ作戦においても全門が投入されていた。列車砲部隊は大陸海峡の向こう側に陣取り、戦艦とは違って固定された状態から正確な砲撃を王国の要塞砲に加えている。


『こちらグスタフ。これからも支援を続ける。王国の連中を片っ端からお空に吹き飛ばしてやろう。俺たちはついにアルビオン島を攻略するんだ』


 列車砲の指揮官はそう告げ、大陸海峡の向こう側から王国の要塞や陣地に砲弾を降り注がせた。王国軍は反撃しようにも彼らには大陸海峡を越えて砲撃できる火砲など存在せず、一方的に殴られている。


「上陸用意! 上陸用意! 俺たちが一番乗りだ!」


 第1山岳猟兵師団の兵士たちはそう告げると、上陸艇に乗り込んだ。


 クラウスは軍備を一新するに当たり、王国のアルビオン島上陸も視野に入れて、上陸艇と上陸艦の建造を行っていた。


 上陸艦は上陸艇を艦隊に収めた艦艇で、これまでの原始的な上陸作戦手段ではなく、スムーズに上陸が行えるような艦艇だ。


 あのノルマンディー上陸作戦を描いた映画を思い出して貰えばいい。兵士たちは前方にタラップのついた上陸艇に乗り込み、そのまま沿岸部に直行。そして、そこで兵士たちを速やかに上陸させるのだ。これまでののろのろとした上陸作戦と違って、スピーディーに上陸作戦を行える。クラウスが限られた軍事予算でこの艦艇を建造したのは当然だ。


「進め! アルビオン島に上陸するのだ!」


 上陸艦から出発した上陸艇は猛スピードでドーバーの砂浜に迫り、瞬く間にドーバーの白い砂浜が見えてくる。要塞は既に艦砲射撃、航空爆撃、列車砲の砲撃によってほぼ沈黙しており、彼らを阻止するものはないかのように思われた。


「上陸! 上陸!」


 そして、上陸艇のタラップが開かれ、第1山岳猟兵師団の兵士たちがアルビオン島に踏み込む。既に降下猟兵師団が降下し、上陸しているので、彼らは二番目になるが、そのことを気にしている兵士たちはいない。誰もが自分たちこそが上陸の第一波として、共和国の勝利のために尽くすのだと信じている。


 だが、彼らの勇敢な精神は機関銃の掃射によって出迎えられた。


 要塞の要塞砲は沈黙したが、ドーバーに位置する要塞はまだ残っている。火点となる要塞陣地から上陸してくる共和国軍に向けて機銃掃射が行われた。


 第1山岳猟兵師団の兵士たちは慌ただしく地面に伏せ、機関銃の銃弾が頭を掠めていく。砲兵の砲撃はないが、機関銃の強力な射撃を前にして、第1山岳猟兵師団の兵士たちの前進は止まった。


「こちらドーバー作戦地域! 敵の機関銃の射撃によって前進不可能! 艦砲射撃による支援を求める! 今すぐ連中を吹き飛ばしてくれ!」

『大洋艦隊第1戦隊。今は支援ができない。敵の艦隊が接近中との報告が入った。これより艦隊は艦隊決戦に向けて機動する。諸君らの健闘を祈る。神のご加護を』


 第1山岳猟兵師団の指揮官が叫ぶのに、ドーバーにおいて艦砲射撃による支援を行っていた大洋艦隊の戦艦群からそのような返答が返ってきた。


 共和国海軍はついにアルビオン島の周辺を紹介していた偵察機が、王国海軍本国艦隊が突き進んでくるのを確認していた。彼らは真っすぐ大陸海峡を目指して前進しており、その狙いが共和国軍によるゼーレーヴェ作戦を阻止することが狙いなのは明らかだった。


「クソッタレ。迫撃砲は上陸できたか?」

「はっ。迫撃砲の上陸は完了しました。いつでも撃てます」


 大洋艦隊の支援が受けられないと分かった第1山岳猟兵師団の指揮官は、混戦状態の中で迫撃砲の上陸が成功したかどうかを尋ねる。迫撃砲も小型のものが、上陸艇に乗せられて、この機関銃の銃弾が降り注ぐ砂浜に上陸していた。


「よし。迫撃砲にありったけの砲弾をあの忌々しい機関銃の陣地に叩き込ませろ。連中が弾幕を切らしたら突撃だ。陣地に向かって短機関銃で銃弾を浴びせかけ、手榴弾を使って攪乱し、白兵戦闘でケリをつけるぞ」

「了解!」


 指揮官の言葉に部下が応じ口径5センチの軽迫撃砲が、その狙いを第1山岳猟兵師団の前進を食い止めている機関銃陣地に定めた。


「撃ち方始め!」


 指揮官の号令と共に迫撃砲が火を噴く。


 機関銃陣地は軽迫撃砲で崩れるほど軟なものではないが、周辺に撒き散らされた鉄片が機関銃の射手の行動を妨げ、負傷させ、一時的に機関銃の射撃が途絶える。


「敵機関銃、沈黙!」

「突撃だ! 総員突撃せよ!」


 機関銃が沈黙したと同時に第1山岳猟兵師団の兵士たちが突撃した。


「おおおっ!」

「王国の豚を殺せ!」


 彼らは自分たちを鼓舞する掛け声を上げ、王国の機関銃陣地に突撃する。


「短機関銃はありったけの弾薬を叩き込め。手榴弾用意!」

「手榴弾、投下!」


 そして、共和国陸軍の兵士が機関銃陣地の目と鼻の先にまで迫ると、彼らは短機関銃を腰だめで兎に角銃弾を叩き込むことに専念に、それで敵が抑制されている間に、機関銃陣地に3発の手榴弾が投げ込まれた。


 炸裂。


 機関銃陣地は爆音と悲鳴を上げた後に沈黙した。完全に沈黙したかどうかを確かめるために、第1山岳猟兵師団の兵士が陣地を覗き込むが、そこにあるのは血の海に沈んだ王国陸軍の兵士の死体たちだけであった。


「よし。上手くいった。このまま橋頭保を制圧し、次はドーバーの街を制圧する」


 第1山岳猟兵師団の役割は、上陸第一波として橋頭保を確保し、後続の部隊を受け入れると共に、今後の上陸において必要になるドーバーの港湾施設を制圧することにあった。ドーバーの港湾施設が手に入れば、もっとスムーズな上陸が行える。


 しかし、王国もドーバーの価値は理解している。彼らはどうあっても共和国にドーバーを渡すまいと、あらゆる手で第1山岳猟兵師団の行動を妨害してきた。


 塹壕に立て籠もった郷土防衛隊ホーム・ガードの兵士たちが、単発式のライフルと火炎瓶で彼らを出迎え、時間を稼ぐ。郷土防衛隊の練度は市民がただ武装しただけのものだが、それでも突破するのにはそれなりの時間がかかる。


「新たな機関銃陣地! いや、対装甲砲もある!」


 そして、要塞だ。


 航空攻撃部隊は大陸海峡に突入してこようとしている王国海軍本国艦隊の攻撃に向けられ、大洋艦隊も艦隊を再結成し、上陸作戦部隊に支援はない。自分たちの手でどうにかするしかなかった。


「降下猟兵師団は俺たちが急いで向かわないと全滅するってのに、王国の連中め。連中はどれだけ陣地を築いてやがるんだ。ここは要塞の島か」


 次から次に王国の要塞に出くわす第1山岳猟兵師団の指揮官はそう毒づいた。


「また迫撃砲で凌ぎますか?」

「それしか方法はない。だが、今度は機関銃の数も多いし、対装甲砲まで備えている。対装甲砲には榴弾も備えられているだろう。迫撃砲で連中を無力化できず、集中射撃を浴びたら地獄を見るぞ」


 部下が尋ねるのに指揮官がそう返す。


 今度の要塞はちっぽけな機関銃陣地ではない。多くの兵士たちと多くの機関銃と、加えて対装甲砲で守られた陣地だ。先ほどのように低火力の軽迫撃砲で無力化できると考えるのはあまりに楽観的過ぎるだろう。


「しかし、他に手段はない。やるしか──」


 第1山岳猟兵師団の指揮官が決意を決めようとしたとき、目の前の要塞が吹き飛んだ。


「なんだっ!?」


 第1山岳猟兵師団の指揮官がうろたえるのに、後方から重々しい音が響いてきた。


『こちら第32混成機甲連隊。これより支援を開始する。連中の陣地は任せてくれ』

「ヴェアヴォルフ戦闘団!」


 エーテル通信機の声に響いたのは、救いの神の声だった。


 クラウスたちもドーバーに上陸した。魔装騎士用の上陸艦で第1山岳猟兵師団が確保した橋頭保に乗り付け、そのまま展開を始めた。彼らの任務はゼーレーヴェ作戦における上陸作戦部隊第一波である第1山岳猟兵師団を支援すること。


「ヴェアヴォルフ・エイトからイレブン。目の前の王国の陣地に砲撃を加えろ。徹底的にだ。連中には対装甲砲もあるから用心して攻撃しろ。用心して、木っ端みじんに殲滅してしまえ」

『了解』


 クラウスが命令を下すのに通常モデルのブリュンヒルデ型魔装騎士が71口径88ミリ突撃砲で敵の陣地に向けて一斉に砲撃を加えた。


 王国陸軍の対装甲砲は反撃しようとしたが、歩兵部隊の接近に備えて榴弾を装填していたことが仇となり、反撃する余地も与えられずに陣地ごと吹き飛ばされた。機関銃はもちろん全滅だ。


『こちら第1山岳猟兵師団第3大隊。支援に感謝する、ヴェアヴォルフ戦闘団。君たちがいれば心強い。これならばもう勝利したも同じ事だ。このまま前進して、ドーバーまで向かう。援護は任せたぞ』

「任せてくれ。俺たちもドーバーに乗り込むつもりだ。あそこを落とすのはゼーレーヴェ作戦の成功のカギとなるものだからな」


 第1山岳猟兵師団の指揮官が告げるのに、クラウスがそう告げて返した。


 最大の上陸地点であるドーバーの確保はゼーレーヴェ作戦の成否を左右する。もし、ドーバーが落とせなかったら、港湾施設が使用できないことで共和国軍の上陸は致命的に遅れ、王国に反撃の機会を与えることになるだろう。それこそ海に追い落とされることになってしまう。


「ヴェアヴォルフ・ワンより全機。第1山岳猟兵師団を援護して前進せよ。ドーバーは今日の正午までには手に入れなければならん。なんとしてもドーバーを手に入れ、勝利するぞ。いいか?」

『応っ!』


 こうして共和国陸軍の精鋭である第1山岳猟兵師団と第32混成機甲連隊の前進は続いた。彼らは目の前に立ちふさがる王国の要塞と陣地を叩き潰していきながら、確実にドーバーの街に迫った。


 そして、ドーバーの街の光が見えるようになったとき、海上で大きな動きがあった。


……………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ