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異世界に転生したから植民地帝国を築く  作者: 第616特別情報大隊
全ての戦争を終わらせるための戦争
239/285

電撃戦

……………………


 ──電撃戦



 王国陸軍大陸軍は戦況を優位に進めているつもりだった。


 先に侵攻してきた共和国の軍団──A軍集団は王国の大陸領に攻め込んだものの、王国陸軍大陸軍の反撃に遭うと退却を始め、橋や道路といったインフラを破壊し、そのまま退却を始めていったのだから。


 王国陸軍大陸軍の参謀部は共和国は東部で帝国と対峙するために、まずは牽制的な攻撃を行い、それからは防御の構えを取るものだと予想した。共和国の主力は、王国の大陸領に向けられていないのだと。


 だから、彼らは退却するA軍集団を追撃した。A軍集団を撃破すれば、共和国は東部から帝国によって、西部から王国によって攻め立てられる。そうなれば、この世界大戦で勝利するのはもはや王国と帝国に決まったようなものだ。


 だが、彼らは気づいていなかった。


 絶対に共和国陸軍が突破することはないと考えられていたピレネー山脈を越えて、共和国陸軍が王国の大陸領になだれ込んできている、などということは。


「このままならば我々の勝利だな。やはり共和国には二正面作戦を行うような能力はなかった。王国と帝国が東西で攻めれば、後手に回り続け、最終的には敗北するだろう。共和国の首都アスカニアに王国の国旗が翻る日が待ち遠しいものだ」


 王国陸軍大陸軍司令官のヴィンセント・ヴェレカー元帥は、作戦が順調に進んでいることに満足していた。彼らはA軍集団の遅滞戦闘を確実に破っていき、共和国本国に踏み込もうとしている。


 今頃は帝国も共和国を攻撃しているだろう。ふたつの列強の攻撃に晒された共和国がどのような末路を辿るかは想像するのは容易だ。


「閣下! 大変です!」


 そんなヴィンセントの設置した司令部に将校が慌ただしく駆け込んできた。


「何事だ?」

「共和国軍です! 共和国軍がピレネー山脈を突破して、我が軍の背後に出現しました! 既に後方の部隊に打撃が加えられており、指揮系統は混乱! このままですと、共和国軍に包囲されます!」


 ヴィンセントが尋ねるのに、将校がそう告げた。


「まさか。ピレネー山脈を突破しただと? ありえない。あそこを突破するなど不可能だ。あんな山岳地帯を突破できたとしてもそれは少数の部隊ではないのか?」


 ヴィンセントは驚愕に目を見開きながらもそう告げる。


「いえ。敵の規模は少なくとも50個師団以上。その大部分が魔装騎士です。我々は背後を取られました。どうなさるのですか?」


 ヴィンセントの楽観的な予想を将校は否定した。


 西部戦線に動員された141個師団のうち、30個師団がA軍集団に配置され、C軍集団には同じく30個師団。主攻であるB軍集団には予備を含めて残りの師団の全てが注ぎ込まれている。それは50個師団を上回る数だ。


「な、なんてことだ。ピレネー山脈に配置していた部隊からの報告はないのか?」

「指揮通信システムは真っ先に潰されました。どうなっているのかは五里霧中です。兎も角、今は共和国軍が我々の背後を狙って攻撃を仕掛けてきているということだけです」


 ヴィンセントがうろたえて尋ねるのに、将校がそう告げて返した。


「……先に攻め込んできた連中は囮か? それとも共和国はやけっぱちになって、ピレネー山脈を少数部隊で突破させ、我々を動揺させようとするつもりか?」


 ヴィンセントはそう告げて深く考え込んだ。


 情報が足りない。


 ピレネー山脈を本当に共和国軍が突破して、自分たちの背後を脅かそうとしているのか。それともそれも陽動で、遅滞作戦の一環なのか。仮に共和国軍が本気でピレネー山脈から仕掛けてきて、どれほどの戦力を動員することが可能になったのか。


「第32軍、第33軍は敵の追撃を継続。残る部隊は共和国軍の襲撃に備えろ」


 ヴィンセントはそんな分からないことだらけの状況で中途半端な結論を出した。後退するA軍集団の追撃を続け、かつピレネー山脈から突破してきた共和国軍に残りの部隊で対処するという中途半端な案を。


「しかし、計画の変更となると支障が生じますな」

「そこは臨機応変にやるしかない。共和国がピレネー山脈を越えたとしても、それは大した規模ではないはずだ。魔装騎士も確かにピレネー山脈を越えただろうが、砲兵などの部隊は行き届いていないはずだ。そのような部隊ならば、万全の状態の我が軍でひねりつぶすことができる。包囲されることはありえない」


 王国が共和国がピレネー山脈を越えて侵攻してこないと考えたのには、ちゃんと根拠がある。ピレネー山脈の山道は険しく、部隊の移動が極めて難しいからだ。たとえ、ピレネー山脈を越えたとしても、越えられた部隊は戦闘力のない部隊──そのはずだった。


「了解しました。全軍に通達します」


 将校はヴィンセントに敬礼を送ると、司令部の傍に併設された大出力エーテル通信機のある通信所に向かっていった。


 だが、それを遮るように爆発音が響いたのはその直後だった。


「何事だ!?」

「共和国の攻撃です! 例の航空機という兵器が我々を攻撃してきています! 司令部のエーテル通信機は破壊されました! これでは通信は行えません!」


 ヴィンセントが席から立ち上がって問うのに、参謀たちがそう返す。


「不味い。不味いぞ。我々の指示が全軍に行き渡らなければ……」


 ピレネー山脈を越えて共和国軍が進軍してきたことを把握しているのは、王国陸軍の国境警備隊と対ゲリラ戦部隊だけ。王国陸軍のほとんどの部隊は、撤退しようとしているA軍集団を追いつめている。それが投げられた餌だとは知らずに。


「代わりのエーテル通信機をただちに用意せよ!」

「了解しました、閣下!」


 ヴィンセントは焦りから声が上ずりながらもそう命じ、将校たちが応じる。


 だが、その間にもピレネー山脈を突破した共和国軍は恐ろしいスピードで、王国陸軍大陸軍の背後を脅かし始めていたのだった。


……………………


……………………


 共和国陸軍によるピレネー山脈突破は成功した。


 荒れた山道を懸命に乗り越えた共和国陸軍の魔装騎士を主力にした機動部隊は、王国大陸軍に向けて牙を剥き始めた。


『B軍集団司令部より全部隊。攻撃せよ、攻撃せよ。進軍せよ、進軍せよ。時間こそが我々の味方だ。敵が態勢を整える前に叩き潰し、踏みにじり、徹底的に殲滅するのだ』


 B軍集団司令部から発された命令は単純だ。


 A軍集団を追いかけている王国陸軍大陸軍の側面を攻撃し、一気に撃破する。


 その側面攻撃にもクラウスが植民地で養った戦術と戦略の両方の知識が活かされていた。すなわち、魔装騎士の機動力を全力で発揮し、敵の防衛線を突破し、そのまま奥へ、奥へと進み、敵の指揮中枢を叩く。


 クラウスの第32混成装甲連隊は独立部隊として、縦横無尽の活躍を見せた。彼らは防衛線に穴を開けると、そこから一挙に王国陸軍大陸軍の防衛線の内側に潜り込み、そこで指揮系統を叩くのだ。


 指揮系統を叩かれた軍隊は弱い。軍隊は指揮系統を喪失し、その上に戦力の3割を喪失すれば無力化されるとまで言われる。それほどまでに敵の指揮系統を叩くことは重要視されている。


「こちらヴェアヴォルフ・ワン。敵の司令部を叩いた。前進を進めてくれ。敵戦力は大混乱で、どこもここも簡単に突破できるようになっている。連中を料理するのは、恐ろしいまでに簡単だ」


 クラウスはまたひとつの王国陸軍大陸軍の司令部を潰してそう告げる。


 王国陸軍大陸軍は総司令部の通信機がやられ、隷下の各部隊の司令部が叩かれ、完全な麻痺状態にあった。組織的な抵抗は碌に行えず、彼らは突如として後方に現れた共和国軍を相手に大混乱に陥り、右往左往して小部隊が辛うじて戦闘を行っているだけだ。


 共和国軍の組織だった攻撃を前にそんな小部隊にいるバラバラの抵抗が通じるはずもなく、王国大陸軍が次々に撃破されていき、ついに共和国軍による包囲は固められる寸前にまで至っていた。


 共和国軍の進軍を支えるのは航空機による航空支援だ。


 航空機は敵の司令部と砲兵を見つけると真っ先に砲撃して撃破していき、敵の指揮通信システムをダウンさせ、かつ前線で戦う兵士たちのために幾度となく近接航空支援を行っていた。


 いくら第3世代のタルタロス型魔装騎士でも航空爆弾の直撃を受けてはただでは済まず、何体もの王国陸軍の魔装騎士が撃破されてしまっていた。


 これによって共和国陸軍の快進撃は続いた。


 だが、王国とて完全に無策ではない。


 王国は自分たちを着実に包囲しようとし──かつ、長い側面を晒している共和国陸軍に対して、反撃を試みた。


 それがブルゴスの戦いだ。


……………………

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