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機種転換

……………………


 ──機種転換



「諸君。これがスレイプニル型魔装騎士だ」


 場所はトランスファール共和国にあるヴェアヴォルフ戦闘団の基地。


 その基地にいくつもの大型トレーラーが行き来していた。魔装騎士を運搬するための軍用トレーラーだ。


 その大型トレーラーで運び込まれたものこそ、クラウスがレナーテに要請していた新型の魔装騎士──スレイプニル型魔装騎士であった。


 小型でずんぐりむっくりとしたラタトスク型と比べて、スレイプニル型魔装騎士はスマートだ。だが、実際の重量はラタトスク型よりも増えている。スレイプニル型だけではなく、列強のほとんどの第2世代型魔装騎士がそうだ。


「なんでスリムになったのに重量が増えてるんッスか?」


 と、ヴェアヴォルフ戦闘団の司令部で行われている将校向けの、スレイプニル型魔装騎士の説明会において、ヘルマがキョトンとした表情をして小首をかしげていた。


人工筋肉マスキュラー・ドライブの密度が上昇したのと、装甲の性能が向上したためだ」


 ヘルマのそんな疑問にクラウスが答える。


「一番の重量増加の原因は人工筋肉だ。レムリア重工は魔装騎士を駆動させる人工筋肉の密度を上昇させ、それによってかなりの機動力と力を発揮することを可能にした。ラタトスク型が玩具に見えるような性能だぞ」


 人工筋肉はクジラなどの大型海洋哺乳類の筋肉を取り出し、加工することで製造される。エステライヒ共和国のレムリア重工では淡水で飼育可能にしたクジラを養殖し、更に様々な品種と掛け合わせて品種改良し、より密度の高い人工筋肉を手に入れた。


 既にこの世界の生物学は遺伝子の存在とDNAの存在を理解しており、彼らは遺伝工学を駆使して、新しく、もっと効率的に人工筋肉が、性能のいい人工筋肉が採取できるようにしようと企んでいる。そして、それはそう遠くない将来に実現するだろう。


「速く走れるッスか! それはいいですよう! ラタトスク型はちょっと反応が鈍いときがありますから!」


 高速戦闘を得意とし、好むヘルマには、魔装騎士の足が速くなるのは大歓迎であった。彼女はラタトスク型の動きが自分本来の動きより鈍いのを、前々から不満に感じていたのだから。


「だが、速くなった分、操縦は苦労するぞ。ラタトスク型で慣れていたものたちは、一刻も早く頭を切り替えて、対応できるようにしろ。これまでののろまなラタトスク型ではできないことができると考えろ。そして、部下たちにもスレイプニル型の訓練を徹底しておくように」


 速くなったら、その速さに付いて行かなくてはならない。


 指揮官たちはこれまでのラタトスク型魔装騎士にはできないことができるのだと──例えば、敵の隊列を追撃する際に回り込んで、優位な地形から砲火を浴びせかけることができるなどと──理解しなければならない。


 そして、これを扱う兵卒も、速度の速さを活かした戦闘を試みなければならない。相手よりも機動力で上回る利点を活かして、単純に対応できない攻撃を繰り出し続けるか、敵の側面に回り込んでから打撃を与えるかなど。


 いずれにせよ、基本的な操作から変わるため、機種転換訓練は必須だ。


「次に増加したのは装甲の重量だが、これはさほど期待するな。どうせ、列強の対装甲兵器には抜かれる。第1世代型が相手ならばいい勝負をするだろうが、第2世代同士や第3世代を相手にした場合はお守り程度の防御力だ」


 クラウスは僅かに溜息を混じらせながらそう告げた。


 彼としては増加した機動力の分だけ、装甲を増やしてもらいたかった。今の単純な鋼板を叩いて圧縮し、固める形の装甲は鍛造装甲といい、地球の戦車では第二次世界大戦から存在しているような技術で、現代の主力戦車(MBT)が備える複合装甲と比較すれば雲泥の差だ。


 スレイプニル型魔装騎士を発注した軍部は、高い機動力があるならば、早々敵の攻撃は当たらないだろうと判断し、装甲の強化には努めなかった。だが、そのような目論見が甘いものだというのは本国の演習で明らかになる。


 いくら速かろうと、敵の待ち伏せを受けている場合や、敵に奇襲された際には機動力が発揮できないのだ。


 軍部は自分たちの間違いを認め、第3世代型では装甲を“それなり”に厚くすることを決定していた。既に製造されているエステライヒ共和国の第3世代型魔装騎士は長砲身口径75ミリ突撃砲の砲撃も弾くものらしい。


 だが、クラウスに与えられたのは、軍部が間違った決定で製造させたスレイプニル型魔装騎士。装甲はラタトスク型よりも上昇しているものの、クラウスとしては不満の残るもの。


 何故、彼がそこまで装甲に拘るのかと言えば、部下の生存のためである。


 クラウスにとって部下たちは貴重な存在だ。街のならず者時代から率いてきた部下は、クラウスを自分たちの両親よりも尊敬し、彼の決定したことに逆らうことなどなかった。


 そして、クラウスの部下は恐らくはエステライヒ共和国植民地軍で一番の魔装騎士の操縦士たちだ。クラウスが徹底的に訓練したことで、彼らの練度は非常に高く、どんな任務にも応じられる。


 そんな部下をそう簡単には失いたくない。この部下たちがいなければ、ヴェアヴォルフ戦闘団は金の卵を生む鶏にはなれないのだから。


「それで、機種転換訓練については俺とローゼが担当する。俺たちは本国軍に出張して、その間にこの新しい機首の操縦方法をマスターしてきたからな」

「ええっー! そんなの聞いてないッスよ!?」


 クラウスがどうでも良さそうに告げた言葉に、ヘルマが反応した。


「本国に行ったなんて羨ましいッス! 自分も本国を見てみたかったッス!」


 ヘルマは完全な植民地生まれの植民地育ちだ。


 彼らは地図の上でどこに自分たちの祖国があるかを知っているが、そこがどういう場所なのかは知らない。彼らは本国について何も知らないままに、本国のために植民地を開拓している。


 そんな状況の入植者たちは本国に恋い焦がれている。


 この非文明の大地から遠く離れ、あらゆる文明の英知が結集した本国を一目見たいと思っている。植民地内につくられた小さな本国ではなく、高き摩天楼の聳える本当の本国を見たがっている。


「キンスキー大尉は妹のような幼馴染の“世話”をしにいったついでに訓練を受けただけだから、本当に分からないことがあったら私に聞いて」

「なっ! その妹のような幼馴染って誰ッスか!? 兄貴の妹ポジションをあたしから奪おうって奴が現れたんッスか!?」


 そして、ローゼが告げた言葉にヘルマが更に騒ぎ、クラウスが心底面倒くさそうな顔をする。


 妹のような幼馴染とはパトリシアのことだ。今回のロートシルトとの接触を実現させた彼女も、ご褒美としてクラウスと共に本国旅行に出かけていた。彼女の領地に帰って様子を見て、川をボートで下り、首都で買い物をする。パトリシアの要求した内容で旅行は行われた。


 パトリシアはクラウスの周りに他の女の影を感じて、警戒を強めているようだった。しかし、クラウスは旅行中にローゼやヘルマ、あるいはレナーテについて言及することはなく、パトリシアの新品の白いセーラーワンピースが良く似合っているとほめていたので、パトリシアはすっかり機嫌をよくしていた。


 実にチョロいとクラウスが心の中で思ったことは秘密だ。


「ローゼ。その件は黙っておけと言ったはずだぞ」

「隊長の知性が一時的にでも低下した原因が分かる方がいいでしょう?」


 だが、それもローゼが暴露したので面倒なことになった。ローゼはどういうわけだか、パトリシアが気に入らないようで、あれこれと文句を言っている。貴族の気品がないとか、温室育ちの世間知らずとか。


 それはお前にも当てはまるのではないか、とクラウスは思うのだが……。


「俺の知性は低下していない。さて、その機種転換訓練と並行して、アナトリア地域への移動を行う」

「アナトリア地域?」


 クラウスがローゼの話を打ち切って告げた言葉に、ヘルマたちがポカンとした表情を浮かべる。


「アナトリア地域で大規模なエーテリウム鉱山が発見されたとの報告が入った。我々はそれを確保するためにアナトリアに向かう。移動は船でサウードまで向かい、そこからは鉄道で移動だ」


 サウードは共和国の支配している植民地で、地球で言うならばアラビア半島に相当する広大な地域だ。もっとも地球のそれと同じで、大部分は砂漠であり、中規模のエーテリウム鉱山がいくつかある程度なのだが。


「つまり移動しながら訓練するッスか。うへえ」


 クラウスの告げるスケジュールにヘルマがグニャリとばてる。


「文句を言うな。着いた時には既に戦争が始まっている可能性だってあるんだ。着いてから訓練している時間はないし、出発する前に訓練できる期間も短期間だ。より多くの金が欲しければ戦うことだ」


 クラウスがそう言い切るのに、ヘルマたちの顔が僅かに緩んだ。


 既にヘルマたちはクラウスに協力したことでの見返りを受け取っている。クラウスに配分された株式のうちからほんの僅かな株を貰い、それでいて配当金は給与の5倍というのに目を丸くして驚いていた。この取引の元締めであるクラウスは更に多くの株を有しており、彼が受け取っている配当金は……。


「金持ちになりたければ、俺に付いてこい。そうすれば金持ちになれるぞ」


 クラウスはそうとだけ告げて、ニイッと笑う。


 クラウスは確実に金持ちへと、あの使い損ねた金の分だけ遊べるほどの金持ちへとなりつつあった。彼の共和国植民地銀行──これもロートシルト財閥の関連企業だ──の口座には、確かな額が積み上げられていっている。


 資産運用も抜かりなく、クラウスは貯め込んだ資金の運用を投資に回し、なるべく税金のかからない形で大きくし、回収していた。


「では、まずは将校向けにスレイプニル型魔装騎士の操縦訓練を行う。ある程度習熟したものは、下士官たちに操縦を指導しろ。以上だ。解散」


 クラウスはそう告げて、司令部に集まった将校たちを解散させた。


 ヴェアヴォルフ戦闘団での魔装騎士は全ては下士官──伍長以上だ。以前は兵卒もいたが、あのヌチュワニン鉱山での勝利で、全員が下士官となった。


 これで階級的に他の部隊に舐められるということはなくなった。ヴェアヴォルフ戦闘団は植民地軍司令官直属の部隊として傲慢に、好き勝手に振る舞うことが可能だ。


「問題はひとつだな」

「ええ。ひとつよ」


 部下たちが解散し、ローゼと自分だけになった司令部でクラウスが呟く。


「問題は──」


……………………


……………………


「今日からスレイプニル型魔装騎士を運用する、ってか」


 そうぼやくのはヴェアヴォルフ戦闘団内に存在する整備中隊の指揮官である特務中尉だ。彼はクラウスから渡された唸っていた。


 目は鋭く、整備ミスがあれば、見ただけですぐに気付けるだけに訓練されている。そして、その手足は傷だらけで、彼が特務中尉という兵卒から中尉にまでのし上がった歴戦の整備兵であることを示していた。


 この整備兵の名前はフーゴ・ハント。


 ハントという姓で分かったかもしれないが、このフーゴはヘルマの父親だ。


 父親、と言っても彼が植民地軍の整備兵としてあちこちに転勤するのに、彼の妻は付き合いきれず、別居を宣言し、ヘルマを連れてカップ・ホッフヌングの貧民街に住み始めてしまった。


 ヘルマにとっての父親は、時折纏まった金を送ってくる人物でしかなく、母親がその存在を呪いながらも、金はしっかりと酒代に変えることだけを知っていた。


 今、自分の父親が自分の魔装騎士を整備しているなど、ヘルマには思いもよらぬことである。


「そうだ、ハント特務中尉。これからヴェアヴォルフ戦闘団は全面的にスレイプニル型魔装騎士を導入する。君の整備中隊もそれに応じられるようにしてもらいたいのだが」


 クラウスの考えている問題はこれだった。


「そうは言われても、我々は長らくラタトスク型ばかりを整備してきた。急に別の機種をやれといわれてもやってみないことには何とも言えない」


 フーゴは眉を歪めてそう返す。


「それにスレイプニル型の人工筋肉はラタトスク型とはまるで別物だ。筋肉の繊維の密度は数十倍になっている。これをどう扱ったらいいのか。今のところは見当もつかない」


 整備部隊は魔装騎士を整備する。


 それは医者がやるようなものであり、筋肉が裂けていれば、縫合して修繕する。どうしてもダメなら全交換で、筋肉のパーツを別のものに付け替える。また人工感覚器に関しても医師のような処置が行われ、適時死霊術を使って、整備部隊は魔装騎士を戦闘可能なコンディションにするのだ。


 唯一の例外は秘封機関アルカナ・リアクターぐらいであり。これだけは生物由来の物質でも、生きた物質でもないため、純粋に工学的に修繕が施される。


「それについては一応本国からマニュアルが来ているし、整備中隊から1名をレムリア重工に派遣してあるはずだが」

「ええ。1名、ベアトリーセ・バウマイスター軍曹を派遣しておいたんですが、そいつでも十分に整備手順を習得してきたとは言い難い状態でして。マニュアルが頼りの綱なんですが、これがまた未経験のことばかりでできるとは断言できないんですよ」


 クラウスは整備が問題になることは早期に分かっていたので、レナーテに頼んでスレイプニル型魔装騎士の製造元であるレムリア重工に整備中隊から若い人間を1名派遣し、更にはマニュアルも早い段階で取り寄せた。


 それでも、これまでラタトスク型しか触ったことのない植民地軍の整備部隊にはスレイプニル型は手に負えない怪物のように映っていた。


「それじゃあ、実際に整備してみれば感覚が掴めるのか? それとも、ラタトスク型しか扱ったことがなくて自信がないから言い訳してるのか?」


 クラウスはあえて挑戦するような口調でそう告げる。


「若い人間はそれでやる気になるでしょうが、俺たちは植民地軍で十数年と整備で飯を食ってきた。自分たちのできないことを、できると指揮官に報告し、それが原因で部隊に損害が出て貰っても困る」


 だが、フーゴはクラウスの挑発には乗らず、落ち着いた口調でそう告げた。


「ほう。流石はプロだな。ファルケンハイン元帥閣下に一番優秀な整備中隊を寄越してくれと告げて、渡された部隊なだけはある」

「元帥閣下はちょっと買いかぶり過ぎてますな」


 クラウスがそう告げるのに、フーゴは小さく鼻で笑った。


 確かに技術一本で植民地軍特務中尉にまで昇進し、その腕で植民地軍の最強の戦力たる魔装騎士を支えてきたプロフェッショナルなだけあって、フーゴは多少のことでは動じない。


 実年齢は親子のごとく離れているクラウスが大尉として偉そうに喋っても、それに眉のひとつも動かさないだけの、自分の腕への自信に由来する揺るぎない精神があるのだろう。


 だが、クラウスとしてはこの男を動じさせ、スレイプニル型魔装騎士の整備ができると言わせなければならない。そうでなければ、アナトリア地域という金のなる木は手に入らないのだ。


「ハント特務中尉。確か娘がいるんだったか?」

「ええ。もうほとんど縁はありませんが」


 と、ここでクラウスはフーゴの家族のことを尋ねる。


「ヘルマ少尉、来てくれ」


 そして、クラウスはヘルマの名前を呼んだ。


「あい、兄貴っ! 何の御用でしょうか!」


 ヘルマが現れるとフーゴの表情が硬直し、口はポカンと開いた。


「いつもお前が乱雑に扱う機体の整備をしてくれている人間を紹介しようと思ってな。こちらはフーゴ特務中尉だ。特務ってのは兵卒からの叩き上げで、軍歴はお前よりずっと長いぞ。敬意を以て接しろ」

「了解ッス! 自分はヘルマ・ハントッス! いつも機体整備してもらって助かってるッス。これからもよろしく頼むッスよ、フーゴ特務中尉殿!」


 クラウスがフーゴを紹介すると、ヘルマは満面の笑みで、敬礼を送った。


「じゃあ、下がっていいぞ。引き続き、スレイプニル型の機種転換訓練を行え。感触はどんな具合だ?」

「最高ッスね。ラタトスクが泥人形に思えるような性能ッス。打てば響くっていうのはああいう奴のことを言うんッスよ。ラタトスクはあたしの考えるようには動かなかったですけど、こいつは違うッス!」


 既にアナトリア地域出発前の機種転換訓練を始めているヘルマは、自分がスレイプニルを扱った上での感想を興奮気味に告げる。


「いい機体のようだな。これがあれば勝てそうか?」

「ええ。どんな相手にでも!」


 クラウスの問いに、ヘルマはガッツポーズを送って返した。


「話は以上だ、ヘルマ。戻っていい」

「了解ッス」


 そこでヘルマの視線がフーゴに向けられた。


「ええっと。フーター特務中尉。これからも整備を頼むッス。魔装騎士があってのあたしたちだから、それを支えてくれて感謝してるッス。では!」


 ヘルマは最後にそう告げると、整備中隊の整備拠点から出ていった。


「なんで娘が植民地軍で魔装騎士乗りをやってる……」

「俺が誘ったからだ。まともな道に進まないかとな」


 ヘルマが去ってすぐにフーゴが額を押さえ、クラウスは悠然とそう返す。


「まともな道? 植民地軍なんかで魔装騎士乗りをやるのがか? もっとまともな道はいくらでもあったはずだ。あったはずなんだ……」


 フーゴはそう告げると力なく俯いた。


「実を言えば、娘が今日の今日まで生きていることすら知らなかった。妻との連絡は幾分か前に取れなくなって、家を見に行ったら空き家になっていた。あの子はどうやって暮らしていたんだろうか……」


 フーゴが後悔するようにそう告げる。


「俺の仲間と仲良くやっていた。街のならず者を集めたグループだが、衣食住は俺の金で保証してやった。あいつもどこかの貸し部屋で暮らしていたはずだ。スリから手を洗うまではな」

「スリ……。あの子が……」


 クラウスの告げる容赦のない事実にフーゴが呻く。


「そうだ。俺が手を差し伸べるまで、ヘルマは社会の底辺で腐っていた。俺が手を貸してやり、それで初めてあいつは真っ当な人間になった。俺のおかげであいつは尊厳ある人間の道を進み始めたということだ」


 フーゴの呻きに、クラウスは平然とそう告げる。


「これからの自分の娘の安全を願うのであれば、スレイプニル型の整備に本腰を入れてもらいたい。何せ、自分の娘の命がかかってることだからな?」


 クラウスは挑発的にフーゴに向けてそう告げる。


「理解しました。自分の娘の命がかかっているとあれば、そう簡単には収められない事態です。整備中隊は全身全霊を以てして、スレイプニル型魔装騎士の整備に尽力しましょう。整備不良など起きないように、全力を尽くす次第です」

「その言葉が聞きたかった」


 フーゴが全面的な後方支援の充実を告げるのに、クラウスはニイッと笑ってそう返し、整備中隊の施設から出ていった。


「あなたってば本当に嫌な人。最初からヘルマさんを交渉材料に持ち出すつもりだったんでしょう?」

「ああ。そのつもりだった。案外相手が楽に落ちたから、用意した交渉材料をちょっと使っただけに終わったがな」


 ローゼが胡乱な目でクラウスを見るのに、クラウスは悠然とそう返した。


「いつか刺されるわよ?」

「その時は俺を刺した奴も道連れにしてやるだけさ」


 ローゼとクラウスはそんな言葉を交わしながらヴェアヴォルフ戦闘団の基地を進んでいく。


 トランスファール共和国出発までの時間は瞬く間に過ぎ、クラウスたちはついにアナトリア地域へと出発した。


……………………

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