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再分割

……………………


 ──再分割



 アナトリアで植民地人の反乱が勃発。


 反乱を起こしたのは現地の主要な民族である豹人種。彼らが武装蜂起し、アナトリア分割協定で与えられた王国の領土内にある鉱山施設を攻撃した。


 王国植民地軍は“直ちに”これに対処し、反乱を鎮圧する。だが、鉱山施設はは破壊され、鉱山労働者や技術者たちが複数殺害された。王国のメディアは第一報でこれを報じ、王国臣民は植民地人たちの反乱に憤りを覚えた。


 だが、その王国臣民の怒りの炎に油を注ぐような事実が判明した。


 反乱を起こした植民地人が持っていた武器が共和国製のものだったということだ。


 植民地人が有し、王国の入植者たちの殺害に使用した小銃も、拳銃も、手榴弾も、全ては共和国本国軍及び共和国植民地軍が使用するものだった。


 王国政府はこのことに激怒。共和国が植民地人の反乱を扇動し、自分たちに差し向けたのだと批判した。植民地人の反乱を扇動することによって、その反乱に乗じて、アナトリア分割協定で定められた領域を書き換えようとしたのだと、王国政府は共和国を激しく非難した。


 植民地で暮らしているものならば、王国こそが植民地人の反乱に乗じた国境の書き換えを行っているのだと思うだろうが、本国で暮らす人間はそうではない。彼らは王国が植民地人の反乱をしょっちゅう扇動しているなど思いもせず、王国政府が共和国政府を非難するのに疑問を挟まなかった。


 そして、王国はこの事件を口実にアナトリア分割協定は既に機能していない不当な協定であると宣言。同協定の破棄を王国と帝国に対して宣言し、植民地軍を──まるで事前に準備しておいたかのようにスムーズに動員すると、アナトリア地域において共和国、帝国両植民地軍を相手に戦闘に突入した。


 アナトリア再分割戦争。または第二次アナトリア戦争。


 新しい戦争が始まろうとしている。


……………………


……………………


「王国の連中め。連中には恥って概念がないのか」


 クラウスは第二次アナトリアについて報じる新聞を読みながらそう呟いた。


 共和国植民地軍は第一次アナトリア戦争と同じように、初動で致命的に遅れた。彼らはアナトリアで再び戦争が勃発するなど思ってもみず、王国がアナトリア分割協定の破棄を宣言し、アナトリアで戦争が勃発したことに狼狽していた。


 最悪だったことに共和国植民地軍は主力をボーア自由国との戦争につぎ込んでおり、それらを撤退させて、再編成し、トランスファール共和国からアナトリア地域にまで送り込むのに致命的なまでに時間がかかった。


「恥の概念がないのは私たちも同じじゃない。私たちが王国の立場でも同じことをやったでしょう。自分たちに不利益な分割協定を破棄して、再び戦争を起こして、自分たちに有益なように境界線を書き換えるということを、ね」


 ローゼもクラウスと同じようにアナトリア地域で再び始まった戦争を報じる新聞を読みながら、そんなことを告げて返した。


「自分たちがやるのは結構だが、相手がやるのは最悪だ。こういうことをしていいのは俺たちだけだ。王国の連中は素直に分割協定を受け入れておけばよかったんだよ。そうでなければ俺たちの儲けが減る」

「あなたらしい意見」


 クラウスがあまりにも自分本位過ぎる意見を述べるのに、ローゼがパチパチと乾いた拍手をクラウスに送った。


「どうするんッスか、兄貴。共和国はまた戦争に負けかけてるッスよ。なんだってうちの軍隊はこんなに弱いッスかねえ……」


 ヘルマはクラウスの背中からクラウスの呼んでいる新聞を見てそう告げた。


「俺たちが負けかけているのは油断していたからだ。共和国は帝国も、王国も、分割協定を破棄しないだろうと思っていた。どこか1ヶ国が破棄を宣言すれば、その1ヶ国は他の協定を遵守する2ヶ国から袋叩きにされるという抑止力があったからな」


 共和国が弱腰の本国政府も狂犬の植民地政府も、アナトリア分割協定が破棄されることはないと予想していたのは、分割協定の抑止力のためだ。列強3ヶ国が締結した分割協定を破棄すれば、他の列強2ヶ国から攻撃を受けるという抑止力のためだ。


 だが、王国はその分割協定を堂々と破棄した。


 彼らはボーア自由国で共和国植民地軍を足止めし、中央アジアでは小規模な攻勢を仕掛けることで帝国植民地軍を牽制し、2ヶ国の植民地軍をアナトリア地域から遠ざけておき、そして行動を起こした。


 実に計画的だ。王国は恐らく自分たちがアナトリア分割協定という不名誉なものを飲まされれたときから、この反撃作戦と企図していたのだろう。


「王国は列強の抑止力も無視。なんとしてもアナトリアを手に入れるつもりね」

「俺たちもなんとしてもアナトリアは王国には渡さん。あそこには世界最大のエーテリウム鉱山──ベヤズ霊山があるんだ。そうそう簡単に渡してなるものか」


 アナトリア地域には世界最大規模のエーテリウム鉱山であるベヤズ霊山が位置している。今は共和国の企業であるSRAGによって開発が行わされている最中のはずだが、この戦争でどのような影響を受けたのか分からない。


「しかし、意外だったな。ヘンゼルの親父が真っ先に俺たちが移動できるように船を手配してくれていた、というのは」


 クラウスはそう告げて部屋の中を見渡す。


 ここは旅客船の中にある一室だ。ヴェアヴォルフ戦闘団がいち早くアナトリアに到着できるように共和国植民地軍参謀長ヘンゼル・ヘルツォーク大佐が手配していたもので、トランスファール共和国を出発して、共和国本国に向かっている。


 クラウスたちは共和国本国を経由して、アナトリア地域に向かうことになっていた。共和国本国とアナトリア地域はボスポラス・ダーダネルス海峡を通じて、接続されている。鉄道や海底トンネルは通じていないが、船を使えば海峡は渡れる。


「彼、今回の戦争を事前に予測できなかったことに責任を感じているんじゃない。共和国が不意打ちを受けるのはこれで2度目。彼って真面目そうだから参謀長の立場だったらいかなる状況にでも対処できるようにしておかなければならない、とか思ってそうじゃない?」

「そこまで謙虚な親父かね。俺たちがまた王国の仮装巡洋艦あたりに襲撃されてくたばってくれることを期待しているんじゃないだろうな」


 ローゼが告げるのに、クラウスが肩を竦めた。


「ロートシルトの親玉は信用しても、彼は信用しないのね」

「奴は俺たちが儲けてるのを疎んでる。そういうことをされれば不信にもなるものだ」


 ローゼは小さく笑い、クラウスは忌々し気にそう語る。


「それで、ロートシルトの親玉が現地にいるのよね?」

「ああ。共和国本国──ハンブルクにいる。向こうとしても今回の件には激怒しているらしい。できうる全ての手段でこちらをサポートするそうだ」


 アナトリア地域の鉱山で利益を上げているのはクラウスだけではない。そもそもクラウスがアナトリア地域で利益を上げれているのは、ロートシルト財閥の傘下にあるSRAGがエーテリウムを採掘しているからだ。


 そのロートシルト財閥の総帥であるレナーテ・フォン・ロートシルトは、王国がアナトリア地域を襲撃したことに激怒していた。彼女も自分たちが相手からものを奪うのは利益として了承するが、自分が相手から何かを奪われるのは不利益として激怒するわけだ。


「できうる全ての手段、ね。期待していいのかしら?」

「期待するさ。向こうは常にこっちの期待を満たしてきたからな」


 ローゼが尋ねるのに、クラウスがそう告げて返した。


「それに今回は期待してるんだ。連中は新しい魔装騎士を俺たちに寄こしてくれるらしい。第3世代の次の魔装騎士を、な」


 魔装騎士を乗せるフェリーではなく、兵士だけを輸送する旅客船に乗っているクラウスは、そう告げて船窓の外に広がる外の光景に目を向けたのだった。


……………………

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