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ヌチュワニンの反乱(2)

……………………


「ヌチュワニン鉱山内部で大規模な反乱が発生し、更には外部から攻撃を受けていることが確認された」


 そう告げるのはクラウスだ。


 場所はヌチュワニン鉱山から僅かに離れたとある地方都市。クラウスたちはそこに1週間前から臨時の駐屯地を設け、いつでも襲撃に対応できるような態勢を整えていたのだった。


「この反乱は王国が裏で手を引いている可能性がある。この反乱を口実として、王国植民地軍がなだれ込んでくる恐れがある」


 市民協力局のノーマン・ヘルムート・ナウヨックスから、クラウスは反乱のための武器がビアフラ連邦から国境を越えて、トランスファール共和国に流れ込んでいるようだという情報を手に入れてた。間違いなく、これはアルビオン王国が裏で暗躍している反乱だ。


「我々の任務は反乱を速やかに制圧すること。そして、予想される王国植民地軍の動きを粉砕することだ。これがヴェアヴォルフ戦闘団の初陣だぞ、諸君!」

「応!」


 クラウスが声を上げるのに、ヴェアヴォルフ戦闘団の隊員たちが応じた。


 ヴェアヴォルフ戦闘団の兵士たちの大部分はクラウスが街で引き連れていたならず者たちだ。彼らは自分たちによくしてくれたクラウスのことを心酔し、どこまでも信頼している。


 そして、後から入ったローゼたちもクラウスの言葉に頷いている。彼らもクラウスの計画に加わることに同意し、植民地軍の給与以上のものを求めて、クラウスのために働くことになっている。


「諸君の中で人殺しを行ったことがあるのは何名いる?」


 と、ここでクラウスが兵士たちに問いかけた。


 クラウスの言葉にちらほらと兵士たちの中から手が上がる。街でならず者をやっており、他のならず者と喧嘩をしたり、市民協力局のノーマンに協力していたようなものたちは、兵士になる前から人殺しの経験があった。


 だが、大部分の兵士は人殺しの経験などない。流石に人を殺すほどに喧嘩をするものなど稀だったし、クラウスが市民協力局に協力させていたようなものは、ヘルマのような本当にクラウスが信頼できる人間だけだからだ。


「よろしい。では、人を殺した経験のないものは、この戦いで盛大に殺せ。俺が訓練したようにして、機械的に引き金を引き砲弾を放ち、ペダルで足を動かして相手を踏み躙れ。それがお前たちには必要だ」


 人殺しには人々は抵抗を覚えるという。


 現代の比較的恵まれた環境で育ったクラウス──玄界は、少なくとも人を殺すのに他の兵士たちと同じように、敵が現れれば殺すという反復した反射的な訓練と、実戦での慣れが必要であった。


 街のならず者として碌でもない環境で育った連中や、植民地という特殊な環境で育った連中に同じようなことが適応できるかは不明だが、クラウスは一応の保険として、部下たちを殺人に慣れさせておくことにした。


 何度も何度も反復した訓練であらゆる状況に自動的に体が動くように訓練した部下たちは、クラウスが望むように人殺しを反射的に行ってくれるとは思っているが。


「では、総員出撃準備! 5分後には出撃する! トレーラーなしの自走での目標到達だ。途中で動けなくなったものは、機体の整備不良でない限り、懲罰を行うから覚悟しておけ。では、かかれ!」

「了解!」


 普通、魔装騎士は長距離を移動する際には、魔装騎士を保護するためにトレーラーを利用する。クラウスのヴェアヴォルフ戦闘団にも魔装騎士の移動用のトレーラーが配備されており、クラウスはそれを使って、本来の基地から、この臨時の駐屯地まで移動していた。


 だが、ここからヌチュワニン鉱山までの距離は僅かなものだ。下手にトレーラーへの積み込み作業、積み下ろし作業を行うよりも、トレーラーなしで移動した方が早いとクラウスは判断した。


 そして、ヴェアヴォルフ戦闘団は隊長であるクラウスの指揮で駐屯地を出発。1個魔装騎士大隊と、副隊長であるローゼに指揮される1個装甲猟兵中隊が出撃し、ヌチュワニン鉱山へと向かったのだった。


……………………


……………………


 ヌチュワニン鉱山。


 激しい攻撃を受けた鉱山は陥落寸前の状態にあった。


 既に鉱山の坑道そのものは狼人種の部族の手に落ち、残るは鉱山を守備する共和国植民地軍の司令部だけになっていた。それすらも、周囲を完全に包囲され、建物は蜂の巣にされ、風前の灯だった。


「族長。王国の援軍はまだこないんですか?」

「まだだ。国境からここまで移動するのには、それなりの時間がかかる。まして、列強の人間には慣れていない密林を移動してきているのだからな」


 共和国植民地軍に銃弾の嵐を加えている若い狼人種の男が尋ねるのに、族長は首を横に振って返した。


 王国植民地軍は確かに独立宣言がなされれば、援軍を派遣することを約束していたが、彼らはことが起きるまでは国境を越えることができなかった。


 独立宣言がなされて王国植民地軍の魔装騎士部隊を含めた援軍が派兵されているだろうが、それは共和国植民地軍に探知されることを防ぐために、険しいジャングルを移動してきている。


 密林を移動するのには、事前に案内役の狼人種を派遣しておいてあるものの、密林での移動が制限される魔装騎士などはどうしても到着に時間がかかるだろう。


「でも、大丈夫でしょうか。ここで共和国の植民地軍がでてくれば、大変なことになりますよ。連中のあの巨人がまた現れたら、俺たちは……」

「それについては自分たちで道を切り開くしかない。全てを王国に任せるならば、この後の交渉でも、王国を優位な地位に着けてしまう。ある程度は自分たちでやってみせて、我々には王国がなくともやっていけるのだと示さなければ」


 巨人──魔装騎士の恐ろしさを知っている狼人種の男が告げるのに、族長はそう告げて返した。


 確かに、王国にお膳立てされた反乱ではあるが、全てを王国に任せてしまえば、この後の鉱山の権利などを巡る交渉で、王国は圧倒的に優位な立場でことを勧めようとするだろう。それはこの部族にとっていい結果にはならない。


 ある程度は自分たちで道を切り開く。そうすることが自分たちの義務だ。


「今はあの施設を落とすのが最優先だ。全力を挙げて落とせ」

「了解!」


 族長が命令するのに、部族の男たちが応じる、司令部施設に銃撃を加える。


 それに応じる共和国植民地軍の銃撃は散発的なものだ。彼らは銃弾の残量を気にしているのか、あまり激しくは撃ち返そうとしない。せいぜい接近を阻止するための牽制射撃として撃ち返すのみである。


 それに対して部族側の射撃は激しい。彼らは弾薬をたんまりと持ってきており、ここで全て撃ち尽くしてしまわんばかりに司令部施設に向けて銃弾を放っている。これまでの恨みつらみもあるのだろう。


 そして、部族側の射撃はそこまでお粗末なものではない。王国が派遣した軍事顧問がそれなりに彼らを訓練しており、その射撃は一定の正確さのあるものだった。


 だが、そんな激しい射撃を浴びせても司令部施設は揺るがないほどに固い。流石は指揮官が籠城を選んだだけはあり、何百発の銃弾を受けても崩れる様子はないし、中の人間が負傷している気配もない。


「これじゃ埒が明かない。ここは斬り込むべきだ。近接して、連中を皆殺し──」


 部族の男たちが部族の伝統的な武器である槍を構えて、銃弾の放たれてくる司令部施設に突撃しようとしたときだ。


「巨人だ! 巨人が来た! 共和国の巨人だ!」


 見張りについていた男の悲鳴が上がった。


 この場にいた全員が、悲鳴の上がった方向を一斉に振り返る。


 巨人が迫っていた。ラタトスク型魔装騎士型が、鉱山に通じる産業道路を急速に鉱山に向けて迫っていた。数は1個魔装騎士大隊56体と1個装甲猟兵中隊1個中隊18体の70体ほどの魔装騎士が、土煙を上げて街道を疾走していた。


「巨人が来た! 王国は何をしているんだ!? これじゃ負けるぞ!」

「皆殺しにされちまう! 逃げるべきだ! 勝ち目はない!」


 この部族にとって魔装騎士は恐怖の象徴だ。自分たちの原始的な魔術ではまるで歯が立たず、植民地人にとっては驚異的な銃火器すらもものともせず、槍など話にならない怪物だ。


 男たちはそんな怪物の群れが迫るのに震え上がり、動揺し、先ほどまでの戦意も消え去って逃げ惑わんとしている。


「落ち着け」


 そんな状況で族長がよく通る声を上げた。


「ここで逃げるなどあってはならん。ここで逃げれば、我らが故郷を取り戻すことは永遠に叶わなくなる」

「で、ですが、どうやって、あの怪物と……」


 族長が銃を片手にそう告げるのに、部族の男が困惑と恐怖の混じった声で問いかける。


「方法はある。巨人とて無敵の存在などではないはずだ。王国は魔装騎士を相手にしても勝てると告げているのだからな。王国の人間にできて、我々狼人種にできぬことなどない」


 族長はそう告げると、この鉱山に取り残された“あるもの”を見る。


「ただでは我らが故郷を奪えぬと教えてやる。我々はそう簡単に故郷を手放したりせぬと教えてやる。我々の意志を共和国の傲慢な巨人たちに教えてやる」


 族長はそう語り、部族の男たちを率いて、やるべきことを始めた。


……………………

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