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ビアフラ連邦侵攻(2)

……………………


「畜生が。共和国の連中め。国境紛争で本気になりやがって。どうかしてる」


 国境線での戦いで猛烈な砲火を浴び、その後に続く共和国植民地軍本隊の侵攻を受けた王国植民地軍は撤退を開始していた。


 国境線に配備されている1個師団が連隊規模で撤退を行い、途中にかかる橋ではトラックや魔装騎士が渋滞を起こしていた。


「大佐殿。国境線は完全に落ちたようです。第9植民地連隊も撤退を始めました」

「悪いニュースばかりだな。我々の連隊だけでも遅滞戦闘を成功させなければ。このままではこちらが展開する前にウィントフックが陥落するぞ」


 このメアリー橋──女王の名前であるメアリーという名前はどの植民地でも使えわれるために無数のメアリー橋があるのだが──でも、王国植民地軍第10植民地師団第7植民地連隊が撤退行動中だった。


 彼らの場合は秩序立った撤退を行っており、装備も放棄していない。人員の幾分かは国境線での戦闘で失ったが、敵の規模があまりにも大きいと判断した連隊長の決断で、早期に撤退が行われたことで比較的無傷だった。


 その第7植民地連隊は今はメアリー橋の近くにある植民地人の村──本来の住民たちは銃剣によって追い払われた──に司令部を設置し、撤退作戦を指揮していた。彼らの場合はただ撤退するのではなく、ある程度防衛側に優位な場所まで撤退したら、そこで遅滞戦闘を行うつもりだった。


 このメアリー橋とて、連隊が撤退を終えたら爆破される予定だ。


「通してくれ! 通してくれ! 急いでいるんだ!」


 そんなメアリー橋のある村に、数台のジープが駆け込んできた。


「どうした? 何があった?」


 騒ぎが起きるのに、第7植民地連隊を指揮する大佐と参謀たちが司令部が設置された村の家屋から顔を出す。


「これは大佐殿! 大変です! 共和国植民地軍の連中がすぐそこまで迫っています! 規模は1個師団はあるかと思われる規模で、既に敵の先遣部隊はここまで数キロの地点まで来ています!」


 ジープに乗っていたのは少佐の階級章を付けた王国植民地軍の将校で、ジープには1個小隊ほどの兵士たちが乗っていた。全員が王国植民地軍が装備するサウスゲート式小銃を装備し、ジープには機関銃を据えている。


「何だと。どういうことだ。まだ、連中は後ろにいるはずだぞ」

「ですが、こちらで確認しました。敵の先遣部隊は魔装騎士1個大隊と自動車化された歩兵大隊が2個大隊で、かなりの速度で迫っています。ここに来るのは1時間もかからないかと思われます」


 大佐がうろたえるのに、ジープに乗った少佐はそう告げる。


「クソが。共和国の連中め。部隊の撤退を急がせろ! 急いで橋を渡らせて、爆破準備を進めろ! 時間がないぞ! 急げ、急げ!」

「了解!」


 そして、大佐は彼の指揮下にある将校たちに素早く指示を出した。


 まだ橋を渡り終えていないのは1個歩兵大隊といったところで、彼はトラックで徒歩で、大慌てで橋を渡し始めた。完全に固まった渋滞状態で、今敵に襲われればひとたまりもない状態である。


 そして橋には工兵部隊が爆薬を仕掛けている。橋桁に爆薬が設置され、導線が対岸まで延び、爆破の時を待っていた。


 通常、軍隊では戦力差が3倍もある敵を相手とした戦いは避ける。そこまで戦力差があれば負けるのが決まっているし、無用の損害を出すからだ。この場合も歩兵が1個大隊──それも戦闘準備状態ではない──しかいないのに、大佐は迅速な退却を指示した。


「大佐殿。爆破は待っていただけませんか。自分を含めた第9植民地連隊の一部部隊が共和国の追撃で瓦解し、こちらに向けて敗走しているのです。彼らが橋を渡るまで、時間をいただきたい」


 と、少佐は大佐に向けてそのように告げる。


「そういうわけにはいかん。この橋を共和国植民地軍に奪われれば、連中に進軍経路を渡すことになる。そうなれば、こちらの防衛計画は破綻してしまう。残念だが、第9植民地連隊の部隊には自力で脱出してもらう」


 だが、大佐は少佐の言葉に首を横に振って返した。


「そうですか。でしたら──」


 少佐は力なく首を横に振ると、無造作に腰に手を伸ばした。


「実力で橋はいただきます」


 そう告げて、少佐はサプレッサーの装着された拳銃の銃口を大佐の額に向けた。


「なっ──」


 大佐は目を見開き、何事かを発そうとしたが、全てが遅かった。


 拳銃から放たれた銃弾は大佐の額を貫き、頭蓋を貫き、脳を貫き、後頭部にぽっかりと射出孔を穿つと、大佐の脳漿を纏って司令部の設置されている粗野な民家の壁に、突き刺さった。


「き、貴様、何をする──」


 司令部にいた参謀たちが少佐の行動に驚き、兵士を呼ぼうとするがそれも遅い。


 少佐は流れるような仕草で、参謀たちに次々に銃口を向けては引き金を引き、僅かに数秒の間に司令部にいた大佐と参謀たちを片付けた。


「クリアだ。片付いた。後は橋を確保するだけだな」


 少佐──ホレス・フォン・ヒッペル植民地軍中佐は拳銃をホルスターに仕舞うと、司令部の窓から撤退作業が続いているメアリー橋の様子を眺めた。


「中佐殿。確保はどのようにして?」

「今、橋を渡っている歩兵大隊が通過したら、爆破を実行するかどうか、この司令部に問い合わせが来るはずだ。その時に仕掛ける。流石に俺たちだけで歩兵大隊の相手をすることは難しいからね」


 ジープに乗っている部下が尋ねるのに、ホレスはそう告げて返した。


「さあて、どうなるやら」


 ホレスはサウスゲート式小銃を手にし、窓からジッとメアリー橋を眺める。


 撤退は司令部の指示がなくとも進んでいる。歩兵大隊は事前の計画通りに撤退し、橋と対岸では工兵が慌ただしく爆破の準備を進めていた。仕掛けた爆薬の信管がちゃんと装着されているかを、工兵たちが確認している。


 歩兵大隊が撤退を終えて対岸の彼方に消え、一台のジープが司令部に向けてやってきたのはそのときだった。


「大佐殿。第3歩兵大隊は撤退を終え──」


 司令部に入ってきたのは工兵隊の指揮官だった。歩兵大隊は撤退を完了し、工兵が爆破準備を終え、いつでも橋を吹き飛ばせると報告しにやってきたのだ。


 だが、その工兵隊の指揮官は報告をすることもなく、頭に穴と穿たれて地面に倒れた。ホレスが彼の頭をサウスゲート式小銃で撃ち抜いたのだ。


「始めるぞ。かかれ!」

「了解!」


 ホレスは部下の運転するジープに飛び乗り、部下たちはアクセルを全開にして、メアリー橋へと直行する。


「まだ撤退していない部隊がいたのか? いったい何をやってる?」

「指揮官殿は? 大尉殿はまだ戻らないのか?」


 歩兵大隊が撤退し、最後までメアリー橋に残っているのは、王国植民地軍の工兵中隊だ。彼らがメアリー橋の対岸から双眼鏡で、メアリー橋に向けて駆け抜けてくるホレスたちのジープを見ていた。


「待ってくれ! 爆破はまだ待ってくれ! 俺たちが残ってる!」


 ホレスは王国植民地軍の少佐として演技し、工兵中隊に向けて叫ぶ。


「急いでくれ! もう吹き飛ばすぞ! 時間は──」


 工兵中隊の兵士がホレスたちに手を振って叫ぶのに、けたたましい銃声が響いた。


 機関銃だ。ホレスがジープに据え付けた機関銃が、工兵中隊の兵士たちに向けて火を噴いた。連続した発砲音が響き、工兵中隊の兵士たちが薙ぎ払われる。


「ち、畜生! 何がどうなって!?」


 突然の銃撃に王国植民地軍の工兵中隊の兵士たちが戸惑い、慌てて地面に伏せる。


「このままアクセル全開で、突破しろ! 工兵中隊が爆破のためのスイッチを持っているはずだ! そいつを分捕らないことには、この橋は吹っ飛ばされる! そうなったら作戦はおじゃんだ!」


 ホレスはそう告げ、彼自身もサウスゲート式小銃で対岸の兵士を狙撃する。伏せている兵士たちも銃撃され、銃弾に撃ち抜かれて、真っ赤な血をほとばしらせる。


「反撃しろ! 撃ち返せ!」


 だが、工兵中隊とてやられてばかりではない。彼らは自分たちが有する銃火器を握り、ホレスたちに向けて撃ち返す。


 乾いた銃声が何度も、何度もメアリー橋で響き、銃弾が飛び交う。


「機関銃は制圧射撃を継続! 銃身が焼け爛れるまで撃ちまくれ!」


 それでも優勢なのはホレスたち第800教導中隊の側だ。彼らにはジープに据え付けられた機関銃という火力があり、工兵中隊よりも火力において上回っている。それに射撃の腕前もホレスが訓練しただけあって、王国植民地軍の一般部隊よりも上手だ。


「爆破だ! もう爆破してしまえ! この橋を取られるよりもそっちの方がマシだ!」

「そうはいくか!」


 工兵中隊に残っていた将校らしき男が叫ぶのに、ホレスが銃弾でその頭を撃ち抜いた。将校は痙攣しながら地面に倒れたが、その指示を受けた兵士が、橋を吹き飛ばすための発破器に向けて駆ける。


 ホレスのジープは機関銃が銃弾をばら撒きながら突き進み、その兵士の行動を遮ろうとする。地面に何発もの銃弾が突き刺さり、土煙が舞い上がる中を、兵士は駆け、発破器に向かい、そのスイッチを──。


「アガッ……」


 彼がスイッチを押す前に銃弾が、歩兵の頭を吹き飛ばした。


「よしっ! ここまま制圧しろ!」


 銃弾を叩き込んだのはホレスだ。ホレスが走行中のジープから頭を撃ち抜いた。


「了解!」


 ホレスの指示に第800教導中隊の兵士たちが応じる。機関銃は制圧射撃を続け、兵士たちはジープに乗ったまま工兵中隊を制圧する。工兵中隊はまるで身動きできず、ホレスたちの銃撃によって射殺されるか、戦闘を諦めて逃走を始めた。


「逃げろ! もうどうにもならん! 撤退だ!」


 そして、工兵中隊全体としても戦闘力を失い、兵士たちは散り散りになって逃走した。


「制圧完了!」

「急いで爆薬を取り外すんだ。何かあってドカンといったら苦労が水の泡だよ」


 ホレスたちは対岸を確保し、発破器から導線を切断すると、橋桁に仕掛けられた爆薬の解除を始めた。ホレスは第800教導中隊の設立に当たり、爆発物の扱いに長けた兵士を入隊させており、彼らは手慣れた仕草で爆薬を解除していく。


「全ての爆弾を解除しました、中佐殿」

「上出来だね。これでヴェアヴォルフ戦闘団のための進軍経路が確保できた。彼らも喜ぶことだろう」


 爆薬の解除は30分弱で終わり、ホレスは安堵の息を吐く。


 ホレスのこの襲撃によって王国植民地軍第7植民地連隊の指揮系統は崩壊。彼らは指揮官と通信設備を失い、指揮を引き継ごうと努力している間に、後方から津波のように押し寄せる共和国植民地軍に飲まれた。


 そして、ホレスたちの確保したメアリー橋を渡河し、クラウスたちヴェアヴォルフ戦闘団が王国植民地軍に牙を剥いた。


……………………

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