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世論形成(3)

……………………


 王国政府は共和国植民地軍がビアフラ連邦内で自分たちの後方基地を襲撃した件について、共和国本国政府、トランスファール共和国政府及び共和国植民地軍に対して猛烈に抗議した。


「彼らは動けないほどの傷を負った負傷者たちだった。彼らはソルフェリーノ協会の治療を受けているところだったのだ。完全に戦闘力を失った負傷者を皆殺しにする。それが共和国のやり方なのか?」


 王国の外交官はそのように告げる。


「事実なのか、ファルケンハイン元帥?」

「我々はビアフラ連邦内で共和国植民地軍が活動したという事実を確認しておりません。我々が確認しているのは、我々共和国植民地軍がビアフラ連邦から不当に仕掛けられている戦争に対して、抵抗しているということだけです」


 共和国外務省から派遣された外交官が尋ねるのに、ファルケンハイン元帥は首を横に振ってそう返した。


「ふざけている。現地にいたソルフェリーノ協会の医師の証言によれば、襲撃者は確かに共和国植民地軍だった。今回の件について我々はそちらの謝罪と誠意ある対応を要求する」


 王国の外交官は苛立った様子だった。


「それならば我々も言いたいことがあります」


 ファルケンハイン元帥はそう告げて、視線を共和国の外交官に向ける。外交官は小さく頷き、許可するというジェスチャーを行った。


「王国植民地軍が我々の後方基地を襲撃し、そこにいた負傷者たちを皆殺しにした件について、です」

「何?」


 ファルケンハイン元帥の言葉に、王国の外交官の表情が強張った。


「王国植民地軍は身動きすらままならない負傷者たちを焼夷弾で焼き殺し、榴弾で吹き飛ばし、機関砲弾でバラバラにしたのです。そんな暴虐を働いておきながら、よく根拠もない事件で我々を非難する気になったものですな!」


 ファルケンハイン元帥はドンと机を叩いでそう告げる。


 第8植民地連隊の後方基地が襲撃された事件はすぐに発覚した。警備を放棄して逃げ出した兵士が他の部隊に何が起きたかを告げ、それを聞いた部隊が直ちに偵察部隊を派遣したからだ。


 彼らが発見したのは死体の山。何百という死体が、破壊されつくされた基地の中に積み重なっていた。


 それが共和国植民地軍の仕業だというのは逃げた兵士がエリス型魔装騎士を目撃したという証言から分かっていたし、後方基地から僅かに離れた場所には爆破処分されたエリス型魔装騎士が放置してあった。


 共和国植民地軍は少数の魔装騎士部隊が友軍の哨戒線を擦り抜け、後方の基地を襲撃し、それから魔装騎士を爆破処分し、操縦士は平服に着替えてトランスファール共和国から観光客としてでも脱出するつもりなのだろうと考えた。


「我々は怒っている。殺されたのは共和国植民地軍の兵士だけではない。殺されたものの中には民間人もいた。共和国の国籍をもったソルフェリーノ協会の医療従事者たちだ。そちらは条約で守られているソルフェリーノ協会の人間まで皆殺しにしたのだ。恥を知れ!」


 ファルケンハイン元帥は大声でそう告げ、王国の外交官が思わず委縮する。


「我々の側ではそのような事実は確認されていない。王国植民地軍はそちらが言ったような作戦を実行した事実はない」

「では、誰がエリス型魔装騎士で負傷者たちを、ソルフェリーノ協会の医療従事者たちを殺したのだ?」


 王国の外交官が断固して事態を否定するのに、ファルケンハイン元帥が問い詰める。


「不明だ。少なくとも我々ではない」


 王国の外交官は険しい表情でそう告げた。


「不明では話にならない。我々は謝罪、及び賠償、そして責任者の処分を求める。あの虐殺に責任のある王国植民地軍のしかるべき人物を我々の側に引き渡し、法の裁きを受けさせてもらおう」

「王国植民地軍はこの件とは無関係だ。それより共和国植民地軍が我々の後方基地を襲い負傷者を虐殺した件について謝罪をいただきたい」


 ファルケンハイン元帥が告げるのに、王国の外交官は首を横に振り、この場で本来話し合われるべきだったものについて話を戻す。


「断る。共和国は王国が虐殺を行ったと認め、謝罪、賠償、責任者の処分を行うまで、その件について話し合うつもりはない。この件に関しては我々は被害者なのだからな。最初にビアフラ連邦からトランスファール共和国に侵入したのは、貴国だということを忘れたわけではあるまい」


 共和国の外交官も、ファルケンハイン元帥と同じように王国の外交官の要求をにべもなく拒絶して返した。


「話にならない。我々はやってもいないことで謝罪したりはしない」

「では、この話し合いの場は終わりだ。もう話し合うことなどない」


 王国の外交官が共和国の外交官とファルケンハイン元帥を睨むのに、共和国の外交官がそう告げて席を立ち、続いてファルケンハイン元帥も席を立った。


「後悔することになるぞ。王国の世論は共和国を許さないだろうからな」

「それはこちらも同じだ。共和国の市民は王国を許しはしまい」


 最後に王国の外交官とファルケンハイン元帥がそう言葉を交わして、この無意味な会談は終了した。


 王国も、共和国も、虐殺には関わっていないと関与を否定した。だが、無残な死体となった負傷者たちとソルフェリーノ協会の医療従事者たちは、紛れもない事実だ。


……………………

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