環境構築
帰りに神社に寄っていつも通り踊りの練習をする。
相変わらずこの時間は人がいない。
霧のような雨とはいえ若干寒く、2,3回咳が出た。
次は雨合羽を用意しておこうと考えていると、階段の方から声をかけられ振り向いた。
「こんにちは、あの……」
「あ、君は」
そこには今日案内した女の子がいた。
腰まで伸びたストレートの黒髪が印象的だ。
「ごめん、場所、借りてた」
「あの……凄いんですね」
「凄い?」
「踊り、素敵でしたよ」
「ああ、見てたんだ。 ちょっと恥ずかしいな」
「はい」
……笑った顔はとても可愛かった、清楚な感じがたまらない。
「ところで、君もここの神社に用があったの?」
「ここ、私のうちなんです」
「そ、そうなんだ。 ここで踊っていたら……迷惑だったかな」
「そんなこと無いですよ、神様は踊りがお好きでいらっしゃいます」
「え、会ったことあるの?」
僕は例のキツネ耳の神様を思い出した。
他にも会ったことがある人間がいたのだろうが。
「神様はいつもそちらにあらせられますよ」
クスクス、と笑って彼女は社殿の方へ手の先を流す。
「そ、そうだよね」
「近頃は参拝客も減ってきて……」
「そうなんだ……」
あの神様のことだ、参拝が少なくなると寂しがりそうだな、と思う。
「あのさ、これからもここで踊っても良いかな?」
「はい、その方が喜ばれると思いますよ」
「良かった」
そう言うと彼女はにっこり笑った。
「私、千家綾乃と申します、よろしければ先輩のお名前も教えていただけませんか」
「僕は、田中達也っていいます」
「田中先輩、これからも踊りの奉納をよろしくお願いしますね」
「は、はい」
滅茶苦茶照れる。
逃げるようにして僕は神社を後にした。
……それにしても前の人生では出てこない人物が良く出てくるものである。
そういえば神社に行くようになったのは卒業後の昼休み限定だったからなぁ。
――――――
そのままK市のニホンバシカメラへ向かった。
ひとまずギターを鳴らした感じでは問題無さそうなので、チューナーとシールド、換え弦セット、VVFケーブル2.0-2を2m、ストラップ手に入れた。
おおよそ4500円ほどだけど、年末年始郵便局アルバイトの残金を考えると痛い出費には変わらない。
毎月4000円はお小遣いは貰えるのだけど、無駄遣いは自分の首を絞めるのだ。
無駄遣いダメゼッタイ、さあお腹が空く前に帰ろう。
――――――
帰ってから、家族共用のパソコンを立ち上げる。
起動待ちの間にギターにチューナーをつけてチューニングする。
少しは触ったことがあるのでこの当たりは問題がない。
ノブが二つ割れてピックガードに大きなヒビ。
まるでちょっと前の自分のようだ、と思った。
パソコンが立ち上がり、フリーソフトのMIDIシーケンサをダウンロードする。
これで作曲の環境は一応出来た。
あとは、ひたすら作曲に集中だ。
……と言いたいけどまずは耳コピで幾つかの曲を打ち込んでソフトに慣れないと。
未来の曲をうろ覚えで打ち込んでいく。
……まあ、パクリになっちゃうから練習くらいにしか使えないけどね。
僕はギターを掴み、幾つかのコード進行を鳴らしてみた。
――――――