文化祭6
命名に現実の72かは関係しておりません。
本当ですよ?
客席には3名ほどの教員、1年生の女の子やだるそうにしている3年生、同じクラスの顔も数名ほど。
まだ開演前といった雰囲気で、会話をしている生徒も多い。
客席に向かって右に山田、左に千家さん。
そして私は少し下がってセンターに立つ。
今回は狭い場所なので特に灯りは暗くしないので、観客達もこちらにあまり目を向けていない。
マイクを握り、天井にあるスピーカーの方へ腕をまっすぐグッと上げる。
キィン!という耳障りなハウリングの音に、全員がびっくりしてこちらに目を向けた。
「私たち、彩華です、よろしく!」
三人で随分悩んで決めたグループ名を告げ、挑戦的にマイクを客席の方へ向け、一瞬静止する。
1曲目のタイトルを告げた後、マイクのスイッチを切りスタンドに取り付けてギターを握った。
ステージ端にあるパソコンの演奏をスタートさせ、ギターのストラップはかけずネックをコードの形で握った。
開始のドラムに合わせギターをひとかきするとアンプからディストーションの聞いた音が鳴った。
二人が動き始めるのに合わせ、大げさに髪をかき上げ長いストラップを肩にかけた。
ドラムパートに合わせてリズムを刻む。
まだちょっとギターのリズムに固さが残っている感じがする。
そうしているうちに、Aメロが始まり――山田の元気なボーカルが耳から入り背骨へと抜けていった。
私は何を縮こまっていたんだろうか。
電気ショックを受け”スイッチ”が入った気がした。
体が、動く。
リズミカルにステップを踏み、メロディーに合わせて頭を軽く揺らす。
山田と交代して千家さんパート。
鈴の澄んだ音が抜け、余韻を持たせるような声。
声質の違う二人が調和し、心地よい。
この楽しい気持ち、お客さんには伝わるだろうか?
前席のメガネの女の子と目が合い、嬉しくなって微笑むと、その子は照れたように少し目を反らした。
間奏パートで私は少し前に出て、二人とじゃれ合うように向かい合ってコードを鳴らす。
そしてCメロ、予定された振りだけではなく、前の二人も首を動かし客席に視線を送っているようだ。
最後のサビでは1、2曲目は歌わない予定だったのに思わずコーラスを入れていた。
もっとも、マイクを通さないとお客さんには聞こえないだろうけども。
アウトロが終わり、軽く呼吸を整える。
余裕を持って振り返り、PCの再生を止めた。
そしてこっそり、少し引っかかるタンをPCの側に置いていたハンカチで取った。
お客さんの拍手がパチパチと聞こえるが、話し声はしない。
……良かった、結構届いてる。
山田と千家さんがこちらを見て「大丈夫?」といった表情をしたので、軽く微笑んで頷いた。
私はマイクを取りスイッチを入れ、一息吐いた。
「それじゃあ、メンバー紹介をします、こちらが……」
「どうも、莉緒です」
「というわけで元気だけが取り柄の莉緒ちゃんをよろs……」
スパンといういい音を鳴らして頭をはたかれた。
「……だけじゃなくてダンスができて可愛い莉緒ちゃんです! よろしく!」
「……てか、自分で可愛いって言ってるし」
観客の数人からアハハ、という笑い声が上がる。
「こちらは……」
「皆様、初めまして。綾乃と申します」
千家さんはももの内側にそっと手を添え日本式の綺麗なお辞儀をする。
「凜として素敵ですね~すごいな~憧れちゃうな~」
「ちょっと!アタシの時と違うくない!?」
「それはさておき……」
抗議する山田をひとまず置いておいて、自己紹介をしなきゃね。
「私は千早と言います、よろしくね」
「見ての通りちびっこです」
「ふ、体は心のでかさとは比例しないのだよ」
山田の反撃を軽くスルーする。
キッズに何を言われようとも余裕を見せるのが大人というものだよ。
「達子」じゃあまりにも雑すぎるということで貰った芸名。
千家さんが即答に近い形で考えてくれた。
……照れくさいけども人に名前を貰える事って嬉しいことなんだって思えた。
チラリと千家さんの方を見ると視線が合い、千家さんはにこりと笑った。




