文化祭3
体育館のステージ準備手伝いのため、上下ともジャージに着替えて体育館へとやってきた。
服装が服装なのでスポーツブラをして若干胸は盛り気味である。
……ブラジャーをするとある一線を越えてしまったかな、と少し思うけどいけない道へ進んだ感じはしない。
女装したら何かスイッチが切り替わってしまうのだろうか。
舞台袖の下手に待機して、今演奏している軽音部の片付けと、私たちは出ないけどダンス部の大ステージの準備手伝いをする予定である。
薄暗い中でモップを抱えて演奏を聴きながらひたすら待つ。
演奏されている曲は一昔前のバンドブームのころの曲だ。
今はバンドブームが終わり、全体的にノリ重視だったりダンスグループ系の曲が流行っているためそういうチョイスになってくるのだろう。
確か今年のランキングは100万枚越えは某男性アイドル事務所の物しかなかったはずだ。
演奏されている曲は大体歌えるのでモップのエアギターで演奏する振りをしてみる。
我ながら中々堂に入っているんじゃないのかな。
山田もこっちを見て笑っている。
不意に後ろから肩をつつかれて振り向くと、ダンス部長の中村さんがにっこりと笑っている。
何か雰囲気的に逃げた方が良さそうだけど、この後の予定もありそうも行かない。
「やっぱり来たのね、待ってたわ」
「私を、ですか?」
「ねえねえ、あなた何年生?どこのクラスなの?なかなか来ないから困ったのよー。 できればこっちのステージも出て欲しかったし打ち合わせ……」
「中村先輩!」
矢継ぎ早に質問してくる中村先輩を山田が静止した。
山田は苦笑いをして、まぁまぁ落ち着いてと言っているようなジャスチャーをした。
「中村先輩、この子結構シャイだからその辺にして貰えませんか」
「山田ちゃん、あんなステージが出来てシャイとかないっしょー。 大体……」
「あっ、先輩。 ステージ終わりますよ、幕が下りてきました」
中村先輩は少しムスッとした表情でうなずき、山田と一緒にステージの方を見た。
演奏を終えた軽音部の男子が肩くらいの高さがあるアンプの電源を切り、シールドケーブルを抜く。
幕が下りきってステージの電気が付くと、軽音部のスタッフ達が一斉に動き出しドラムセットや機材を一斉にステージからおろし出す。
機材が捌けたら一斉に僕らがモップを持って掃除をするって寸法だ。
僕はモップの先端をステージの方へ向け、一番乗りで掃除を出来るようポジショニングする。
ゴトゴトと音を立てて大きなアンプがこちらの方へ押されて来た。
もうそろそろステージに上がるタイミングかな。
ふとギターをやっていた男子がこっちを見た。
「あれ?君は……」
こっちを見て立ち止まるギター男子の後ろからドラムセットを運んできた二人組がぶつかり、よろけてアンプにもたれかかって倒れる。
ゴロリ、とアンプに付いたキャスターが転がる音がし始める。
まずい、山田は幕の方を見ているためステージから落ちそうになっているアンプに気づいていない。
僕はモップを離して山田の肩をとっさに掴み、アンプとは反対側、僕の方へ山田を思いっきり抱き寄せるようにして後ろに数歩ステップを踏んだ。
脚がもつれてバランスが崩れる。
僕は地面にぶつからないよう山田の頭を抱え、後頭部を打たないようとっさに頭を胸の方へと引いた。
ドカン、と大きな音が鳴りホコリが巻き上がった。
「ちょっ、たなっ……何なの?」
僕はゲホッと咳をした。
しばらくすると舞っていたほこりが落ち着いてきた。
大音響に驚き硬直していた周りの生徒や教師が動き出した。
山田は僕の上から離れて起き上がり、音のした方へと振り向いた。
「ちょっと、これ折れて……」
山田が僕を座らせる。
……アンプに挟まれたモップの柄が折れてしまったようだ。
それよりも、僕は思いっきりモップに付いていたほこりを吸ってしまった。
激しいせきとくしゃみ。
息が出来ない。
久しぶりの感覚、高校に入り体力がついたために起こっていなかった、ぜんそくの発作が起きてしまったみたいだ。
咳が止まらず、呼吸困難の為に頭がうまく回らない、目がちかちかする。
「ちょっと、大丈夫!?」
山田は僕の側にしゃがみ、心配そうにこっちを見ている。
僕は山田の耳元に口を近づけた。
「やま…きょうしつ……ゲホゲホッ ぼ…カバン」
「教室からアンタのカバン持ってくればいいの!?」
僕は返事をするのもおっくうなので、手首で頷くようなジェスチャーをした。
山田は「わかった」と返事をして、走っていった。
上手側から心配するように教師や千家さん達が集まってくる。
「先輩、大丈夫ですか?」
千家さんが心配そうに僕の背中をさする。
正直答える余裕がない。
「持ってきたよ!」
山田が僕の手にカバンを持たせる。
震える手でカバンを開けて、吸入薬を探す。
最初に一回吸い、反射的にすぐはき出してしまう。
少し落ち着いたので、今度はもう少し深く薬を肺の中に溜めてはき出した。
「大丈夫?」
「先輩、大丈夫ですか?」
山田は僕の背中をさすり続けている。
ひとまず酷い発作は治まってきたので状況を考える。
落ちてきたのは大きなアンプではなく、アンプの上に乗っていた小さなアンプで、それがモップを直撃し、ほこりが舞ったようだ。
……今は周りが慌てているので、抜け出すチャンスは今だということ。
ちょっとした事故があったので、教師に何か問われたらまずいのは僕だ。
僕は山田と千家さんに保健室に行くふりして抜けだそうと告げ、二人に抱えられたままその場を立ち去った。




