決定
結局その後一通り振り付けをレクチャーするハメになってしまい、帰宅したのは6時頃。
風呂に浸かってからゆっくり夕食を食べたかったけど、あいつのせいでとても腹が減っている。
一応レクチャー料としてチリドッグパンを一つくれたが、健全な男子高校生が食べるには少なすぎだ。
ふぅ、とため息を吐き、鼻の下辺りまで湯船に沈んでみる。
これからどうしようか。
時間が巻き戻ったのは良いが、何をすればいいのかまだ決めていない。
このまま青春をやり直したところで結局は元の木阿弥に戻ってしまうのである。
よし、と思い立って湯船から立つ。
「とりあえず飯だな」
――――
夕飯を終え、自室のベッド上であぐらをかいた。
これからどう行動していくのか決めないことには今回の人生も無駄になってしまう。
……無駄になる? 僕は何がしたいのか。
僕はアイドルに裏切られた気持ちで戻ってきた。
アニメのアイドルですら裏切る……それについては下手に現実とクロスさせるから悪い。
思い出すといらだちを覚えそうなものだけど、今現在は存在すらしていないからなぁ。
なんだか毒気を抜かれてしまった。
じゃあ何が欲しい?……アイドルとは無縁の生活? それも違うな。
第一戻した張本人の(多分)神様が納得しないだろ、奉納せいとか言ってたし。
ふとこの年代に始まった深夜アニメのセリフを思い出す。
「無ければ……作ればいいのよ」
作ればいいか、プロデューサーにでもなるか!
立ち上がり、リビングに置いてある共用パソコンに向かった。
――――
次の日、学校へ向かうバスの中。
……やると決めたものの、なかなかハードルは高いようだ。
目指すとすれば、A&Rプロデューサーか音楽プロデューサーが近いのだろう。
A&Rとはアーティストアンドレパートリ-、アーティストの発掘や契約、育成。 楽曲の制作担当。
音楽プロデューサーはレコードの制作、コンサートなどの仕切りって所か。
……滅茶苦茶ハードルが高い。
むしろその両方を統括してかなきゃいけないのか。
まず音楽経験とかも積まなきゃ行けない。
「とにかくやらなくちゃだな」
「何を?」
びっくりして振り向くと例の女、山田がいた。
僕はまた独り言を喋っていたのだろうか、山田はこちらを見てニヤニヤしている。
「ヒ、ヒミツだ。 大したことは無い」
「へえー、そうなんだ」
ジト目で山田がこっちを見ている。
なんだかやけに絡んでくるな、しかし一本バスずらしたのにまた会うとは運が悪い。
高校生だったころに山田と話したのってほんの数回だったような……。
明日は晴れの予報だし、バスを使うことはないだろう。
……あの神社の境内の場所を知られてしまっているのはちょっと痛い。