歌練習
僕は特にボイストレーニングを受けたことがない。
当然といえばそうなんだけど、僕はボイストレーニングを行っていない。。
一人でカラオケに行って、女性曲だってノンストップでも平気で4時間以上歌える。
だけど人に教えるには全く値しないものなのだ。
そもそも1人で歌っても誰かに届きはしないのだから。
……仮想のお客さんは考えているけどそれだけだもんな。
僕のやっていることは、ただ一つ一つの文節を意識して口をしっかり動かし、音を聞きリズムに乗せていつだけなんだから。
発声自体正しいものかは分からない、ただ胸のどのあたりで声を出すと楽か、その程度だ。
大きな声も出せるけど、正しい発声かどうかなんて分かっても居ないし人に教えることなんか出来ない。
……なんて湿っぽく言ってみたけれど、教え方が全然分からないというのが正直なところだ。
とにかく1回ボーカルスクールに行ってみよう!
充実してても無駄でもどっちに転んでも上達出来れば良いと思うし。
「……というわけでボイトレに行ってみようと思うんだけど」
「なんでアタシに言うの?」
「ん-、山田なら良いとこ知ってるんじゃないかなって」
山田はふぅ、と息を吐き頬杖をつく。
「アタシは専門外だけどさ、ダンススクールにボイトレ受けてる奴が居たはずだから聞いてみるよ」
「助かるよ」
山田は考え込むように黙ってしまう。
「どうしたの?」
「……いやね、そいつ滅茶苦茶チャラいんだよ。 歌はそれなりにうまいけどさ」
「チャラ夫か、まぁ僕は男だし問題は無いんじゃないの?」
「うーん、どうだかねぇ」
山田は口を濁した感じだ。
まあ会うことは無いだろうから問題はないのだろうけど。
ひとまずボイトレの方は練習が終わって神社で踊ってから調べることにしよう。
今日は千家さんと神社で練習だな。
――――――
翌日、朝の誰もいない教室でで山田は凄く嫌そうな顔をしていた。
例のチャラ男に何か言われたのだろうか? そうなったとしたら凄く悪い気がするので謝らなきゃいけないな。
「山田、昨日僕のせいで嫌なことでも言われたりした?」
「別にそんなこと無いけどさ」
「何かあったって顔をしてるけど」
「うっさい」
山田はムスッとして黙り込んでしまった。
うつむいて下を向いた山田にかける言葉が思い浮かばない。
「そんじゃ、また後でな」
僕は山田が座っている窓際の席から、廊下そばの自分の席へ戻ろうと後ろを振り向いた。
腰の辺りに違和感を感じて振り向く。
山田が僕のワイシャツの裾を掴んでいたために、シャツがズボンから出てしまっている。
「スクール教えるからカラオケ行こう、って言ってた」
「そういうことか」
なんだか腑に落ちた気がする。
アイドルであればチャラ男とカラオケに行くのは危険きわまりない行為だ。
僕がプロデューサーになったときは、そういう状況を許可するなんて事はまずあり得ないことだもんな。
流石は山田、分かってくれている。
「あのさ、アンタさ」
「うん」
「アタシも行くけどそいつとカラオケ行くときは女装して来てよ」
「えっ」
僕は一瞬にして山田の事がまた分からなくなった。




