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合宿

19部分でやっと山田の名前が判明w

学校で練習を終えた後、千家さんの家に戻ってきた。


僕は二人が汗を流すまで台所の手伝いを買って出て、夕食の準備をすることにした。

煮物用の野菜のカットや下ごしらえを中心にどんどんやっていく。

下ごしらえと洗い物に集中すれば特に難しいこともないので楽だ。

しかも台所が広くできているので作業もやりやすい。


あと、お願いして買ってきた鳥の胸肉を使って一品作らせて貰った。

鶏皮を取って、低温調理で仕上げたそれは、柔らかくジューシーに出来る。

鳥胸肉には疲労回復物質が有るらしく、ハードな練習の後にはとても良い……かも。

鶏皮は湯がいて油を抜いてから取り出し、千家さんのお父さん用に皮串を作ることにした。

残ったお湯は油を取りハーブやコンソメなどを加えてスープに仕立てる。

ご飯が丁度炊けた頃、丁度二人の風呂が終わったようだ。


「次、田中先輩も入って下さい」

「あ、僕は今日は帰るからご飯食べて宿題だけ手伝ったら帰るよ」

「えっ、泊まらないんですか」

(うち)も門限あるからさ」


……本当は門限などはないのだけど。

千家さんはちょっと不満らしく少し膨れていたが、流石に一緒に寝るのはまずいしね。

夕食は千家家と僕と山田で喋りながら楽しく過ごすことが出来たと思う。

食べた後は一息吐く(つく)前に勢いのまま全員で終わらせた。


――――――


食休みの後歯磨きを終え、僕たちは離れを貸して貰い40分ほど勉強をした。

山田も渋々ながらきちんと勉強をしてくれたので割とスムーズに勉強が出来た気がする。


「あの、先輩」

「何?」

「ん?」

「私はいつも寝る前や勉強の後、瞑想をしているのですが、そうすると記憶がうまくまとまる気がするんです」

「……ああ、何かやってから寝ていると、そのうちに記憶が整理されるって聞いたことがあるね」

「神道では音霊法(おとだまほう)って言うんですよ」

「マジで!? アタシも勉強楽になるのかな」

「宗教とは特に関係はありませんので、やってみませんか」

「僕は賛成だ」

「アタシもやってみるかな」

「じゃあ、背筋を伸ばして寄りかからずに、力を抜いて――ただ音を聞いて下さい」


目を閉じて脱力する。

目を開けていたときには気づかなかったけど、ヤモリや鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。

網戸だけ閉めた窓から、山特有の少し湿った涼しい風が流れてきた。

気持ちがよい。


スースーと……ん?スースー?

目を開けてみると山田が既に寝息をたてていた。


「山田、寝ちゃったな」

「ふふ、今日もいっぱい練習しましたからね」

「じゃあ布団敷いて解散にしよっか」

「田中先輩も泊まっていけばいいのですが」

「あはは、気持ちだけ受け取っておくよ」


布団を敷き山田を運んで寝かせている時、千家さんがジーッとこっちを見ている気がした。

違うんだ、これは断じてセクハラではないのだ、こんな固い床の間に寝かせたら山田が十分に休息を取れないかもじゃないか。

だからそんなジト目で見ないでくれ。


「あ、じゃあ僕は麦茶とコップ片付けるから」


逃げるようにしてコップ類を片付けて戻ってくると、千家さんも床のところで寝ていた。

まったく手間がかかるな、と思いつつ千家さんも布団に運ぶ。

敷布の上に横たえると千家さんが僕の首に手を回してきた。

――やはり狸寝入りか!


「先輩……汗臭いです。 ……ドキドキしますか?」

「いや、これはダメでしょ!」


不意打ちにしても酷すぎる、ドキドキで爆発しそうだ。

だめだ、目眩(めまい)が……不意に胸の奥が酸っぱくなってくる。


「ごめん!」

「あっ」


急いで千家さんから離れる。

ちょっと呼吸が荒すぎる、どうしたんだ僕は。


「ご、ごめんね。 びっくりしちゃってさ……今日は帰るね」

「すみません、驚かせてしまって。 やりすぎました」

「じゃ、じゃあ……明日は6時30分に来るから、朝練しよう」


千家さんのご両親に挨拶をして慌てて自宅へと帰った。

僕は、もう大丈夫だと思っていたあのときの(・・・・・)トラウマ(ゴシップ)から抜け出せてはいなかったのだ。

ひたすら自転車を全力で漕いで帰った。

……千家さんを傷つけてしまっただろうか? 少し胸が痛い。


自宅に帰りシャワーを浴びて髪とウィッグを乾かしベッドに入る。

とても疲れていたせいか僕の意識はすぐにベッドの中に溶けていった。

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