祭礼
高校生ダンスコンテストの予選は7月半ば、二日間に分けて行われた。
予選で会わなかったところを見ると、僕たちは初日であの連中は二日目だったらしい。
結局対決どころか相手の実力を見ることは出来なかった。
……結果をいうと、僕たちは無事にダンスコンテスト本戦の出場権を手にすることが出来た。
多分そこであいつらに会うことになるかもしれない。
……それはさておき、夏休みに入ってすぐ千家さんの神社でお祭りがあり、皆で楽しむことになった。
女の子のお誘いでお祭りに行くのは初めてなので、とてもテンションが上がってくる。
千家さんには特に言われなかったのだけど、昼間に行くとどうやら巫女舞が見られるというのだ。
男子たるもの見に行かなくてはなるまい。
……とはいえサプライズで行って驚かせることもないので変装していく予定だ。
山田にも行くか聞いてみたら、かなりノリノリで行く気になっていた。
僕は帽子にTシャツパンツで誤魔化して家を出た。
―――――
神社の階段を上がると丁度始まるところのようで、白い服を着た人たちが並んでいた。
演奏についてはよく分からないところだけど、聞いているだけで気持ちが澄んでいくような気がする。
演奏が途切れ、巫女服を着た少女が出てくる。
――千家さんだ。
右手には鈴の沢山ついた道具を持ち、左手には木の枝を持っている。
慎重な足取りでご神体の前にやって来ると、両手を前に出したままご神体の方へ向かいしゃがんだ。
舞の様子を見ていると声も出せないくらい見入ってしまう。
なによりいつもと違う千家さんはなんというか綺麗だ――今ちょっとこっちを見た気がする。
舞が終わり、千家さんは奥へと下がっていった。
「――聞いてる? ちょっと田中」
「ふぇ? ……いででで!」
痛みに我に返ると田中に頬を引っ張られていた。
「ってーな、何だよ」
「凄かったね、あやのっち」
「……ん、そうだな」
「っていうか田中も何か見惚れてなかった?」
「まあね-。 千家さんって綺麗だよな」
「ま、アタシも見惚れてたしね。 ところでアタシにも綺麗とかそういうのないの?」
どちらかと言えば元気で可愛いタイプだと思うが……調子に乗りそうなのであえて言わないことにする。
「山田も精進するように」
「はぁー? 何その上から目線。 むかつくんだけど」
「ところで、巫女さんってある意味最初のアイドルなんだってな」
「巫女さんが?」
「神様達の前で踊ったらしいぞ」
「ふーん。じゃあ、たまにここで踊ってるからアタシ達も巫女さんみたいなものなのかな」
「かもな」
「ぬしらも来ておったか」
びっくりして振り向くと、巫女服のままの千家さんが立っていた。
「それじゃあの、存分に楽しんでいくがよい」
「え、綾乃っち?」
「……神様でも降りてきたかもなぁ」
「まじっすか」
そのまま千家さんは社殿の脇の方へ走って行ってしまった。
後で本人に聞くと、突然意識を失ってしまいあの後のことを覚えていなかったらしい。
楽しい事、アイドルが好きな神様ってところなのか。
ま、とにかくこの後の夏祭りを全力で楽しむことにしよう。