勉強会
『今日はトレーニング前鞄を持って図書室に集合』
6月半ばの昼休みにその一文だけを送ると、山田が何をするのかメールで速攻聞き返して来たからシカトした。
そうしたら山田が僕の後ろまで来てずっと仁王立ちしている。
いつも山田とつるんでいる小城や河西が何やら怪しくね?とかヒソヒソと言っていたが、あえてそれもシカトした。
山田のクラスタに怪しまれないよう気を遣っているというのに、察しの悪い女である。
そのまま至近距離で有るにもかかわらず、背中越しにメールでやりとりを続ける。
『田中、なんで図書室なんだよ』
『今はまだ訳を話すわけにはいかないんだ』
『なんで?』
『大事な話がある』
背後からうっ、と聞こえ山田は早足で小城達の方へ向かっていった。
二人から何か冷やかされているみたいだけど、どう見てもただの不審なやりとりだったじゃないか。
なんだかキョドっているようにも見えるが、僕は特に気にしないで昼飯を食べることにした。
――――――
放課後の図書室前、千家さんは既に図書室前の柱の影で待っていた。
……? 気のせいか彼女も緊張しているような雰囲気を感じる。
「早かったね」
「こんにちは、田中先輩」
「先輩、大事な話ってなんでしょうか」
「それは――」
「よ、よう田中」
不意に後ろから声がかかる。
「丁度良かった……山田」
「よ、用ってな、何?」
僕は山田の目を見た。
「大事な話だ……今日は勉強会をするぞ」
「「は?」」
なんだか前後挟んでハモった気がする。
「勉学に励むのも大事なこ――ギャッ!」
前後から二人に挟まれて太ももに強烈なミドルキックをもらい、その場にくずおれる。
「ぼ、僕が何をしたって言うんだ……」
「べ、別に何もしてないけどさ」
「そ、そうですね」
二人の表情を見ると何故か耳まで真っ赤になってプルプルといる。
そこまで怒らせた原因はなんなの!? ちょっと理不尽じゃないかな?
「……練習までするんじゃなかった。 アタシ帰る」
「ふ、ふふ。 そうはさせんぞ……今日は山田がバックレる事を予想して秘密にしていたんだからな」
山田の脚にすがりつき帰るのを阻止する。
二年一学期の期末試験から既に受験・就職活動は始まっているのだ。
メジャーデビューでもないのにアイドルやって留年とかあり得ないのである。
「田中ァ! ちょっ! パンツ見える!」
「離さんぞ……勉強会を終えるまではな」
「先輩、こんなところで……不潔です」
「え?」
……僕が最後に見た光景は千家さんが手刀を振り上げた姿だった。
――――――
それから痛む両脚と頭をさすりながらなんとか勉強会をやり終えた。
勉強に関しては流石に二回目なので何とかなっている。
あと若い頭は吸収が早い。
「少年老いやすく学成りがたしだ」
「なにそれ? ジジ臭い」
「いいのいいの、さ、次問い2-3ね」
「ちょっと分かりやすいのがむかつく」
「……ですね、意外でした」
「酷いなおい」
今後は週1回は勉強会をすると約束させ、いつも通りトレーニングとストレッチをやった。
……僕だけ患部冷却してストレッチだったのだが。