街頭2
3曲が終わり、拍手がポツポツと聞こえるのを見つつ軽く息を整える。
山田が「ちょっと休んでて良いよ」と言うと、CDプレイヤーから知らない曲が流れ出した。
山田はピタリと足の位置を決めて、動かない。
精密な指の動きから始まり、主に前腕部で動きを決めていく。
――ディジッツ。
主に指先と腕で表現していくダンスだ。
山田は切れの良い動きで人々を魅了する。
ポーズが決まる度に見物客からパチパチと拍手がなった。
僕もちょっとした悪戯心で、山田の動きを見ながら一拍遅れで自由に指と腕を動かす。
千家さんも続いて付いてくる。
アドリブなのだがそれなりに見えてきた。
――以前、ダンス部内のコンテストで踊りを踊った際に指先の表現も含まれた曲だったため、山田が特訓のためにディジッツを教えてくれたからだ。
曲が終わり、動きを止めてキメる。
拍手が聞こえる中、山田がちょっとむくれてこっちを振り返ってきたので、右目の前にピースサインを横にして、てへっ、とジェスチャーをした。
「……アンタたち、もう次行ける?」
「僕は良いよ」
「私も」
数秒後、ついでに練習しているロックダンスの曲が流れ出した。
――――――
一通り踊り終え、千家さんは門限のため日が落ちる前に先に家に帰った。
僕たちは近くにあるモスドで軽く食事をして、ニホンバシカメラのあるビルの二階テラスまで来た。
「そろそろだね」
山田が時計を見る。
ニホンバシカメラに併設しているビルの照明が一気に落ちた。
テラス横のショールームに、僕たちの姿が映り込んだ。
「じゃあ、ちょっとはじめよっか」
僕たちは鏡となったショーウィンドウに姿を写しながら簡単に動きの確認を取る。
周りを見ると、ポツポツと同じ目的であろう人たちが集まってきている。
20分くらい確認した後場所を空けると、5人組の男が近づいてきた。
「ネェー、キミタチもダンスやってんだね? たまには俺たちと遊ぼうよ」
「カワイイしね! カラオケとかどーよ!?」
チャラそうな茶髪が山田の手を取ろうとしたので、前に出て腕を伸ばし静止する。
「ごめんね、僕たちそういうつもりじゃないから、余所あたってくれる?」
「ヘヘヘ、つれないねェー。 そっちのちっちゃい子も気が強そうでイイネ」
ちっちゃいとか言うな、伸び盛りなんだよ。
「これでも高校生なんだけど」
「ヘェー、そりゃいいや、俺らもソーだし」
「おいよしとけよ」
黒髪の男が茶髪を止める。
……こいつなかなかイケメンじゃねーか、悔しいけど。
「しょうがねェーな、リョウ君の言う事じゃナ」
茶髪も引いてくれたみたいで助かった。
リョウと言った男と4人もダンスの練習を始めた。
――ジャズダンスか、かなりうまい。
「山田、大丈夫?」
「アタシは平気、触ったらひっぱたいてやろうと思ったけどさ」
「山田らしいな」
「……来たね、情報は正しかったみたいだね」
暗がりの階段方向から背の高い一人の男がやって来た。
周りのダンサーは動きを止める。
「あの人、有名なダンサーなんだよね」
山田はポツリといった。
――――――
有名なダンサーの踊りを一通り見て、遅くなりすぎないうちに僕らは家に帰ることにした。
「山田、家までは送ってくよ」
「え、アタシん家遠いしいいよ」
「いや、山田も女の子だしさ」
「……アンタ、そのカツラ被ってると説得力ないよ」
「!!」
僕は慌ててウィッグを取り、自転車の前かごに乗せていた鞄に詰め込んだ。
「……ま、今日はありがとう」
山田がスピードを上げて先に行ったので表情は見えなかった。
……しかし、今日は有名ダンサーと言い、あのリョウだっけ? といい色々あったな。