訓練
部活動内の選考が終わり、新しいトレーニングを取り入れることにした。
心拍数を計りながら、最大心拍数の80%を20分維持するトレーニングである。
目的は一つ、文化祭までに3曲分歌いながら踊れる体力を得ることだ。
早さは関係ない、自分のペースである。
厳しい練習なので強制はしないつもりだったけど、二人もやるというので上限70%を目安にやってもらうことにした。
なんだか悪い気がしたので、二人には2000円くらいの心拍計を一つずつ買ってきて渡した。
いつも通りラジオ体操を終わって、ストップウォッチを押して心拍計をONにすると三人で走り始める。
ちょっと鼻歌で乗りながらゆっくりスタート、無理はしない。
「……田中ずいぶんと余裕じゃん」
「なんか楽しい気分になっちゃって」
「じゃあ、先輩引っ張って下さい」
千家さんが僕のジャージの背中をつまむ。
「下手に引っ張ったら千家さんのペースを越えちゃうかもしれないから止めたほうがいよ」
「可愛い後輩を見捨てるのですか」
「HAHAHA,ケチな先輩は先に行くよ。ペース守ってね」
「いけず……」
少しペースを上げて心拍計をチェックする。
まだもうちょっと歌っていたいな。
―――
走り終わってクールダウンも終了、水分を取って一回顔を洗ってから歩いて部室の辺りまで来た。
「あ~、だりぃ。 腕とか重いんですけど」
「そうですね、結構大変みたいです」
山田と千家さんの二人からジトっとした視線が投げかけられた。
僕はなるべく落ち着いて喋る。
「乳酸が溜まっているかもしれませんね、こうやって腕をシェイクしてみて下さい」
僕は腕をだらんと垂らして腕を数回シェイクし、肩を何回か回した。
二人も同じ動作をしている。
「ん、マシかも」
「なんだかタコにでもなった気分です」
「そうか?」
僕たちは部室に戻り、ダンスコンテスト予選の為の練習を始める。
曲も完成し振り付けも山田がやってくれ、フォーメーションで気になるところは録画・鏡を見て微修正も重ねてきた。
水分補給などの体調管理はしっかりして、あとはひたすら練習するのみだ。
―――
一通り練習を終え、ストレッチをしている。
こうやって見ていると二人の体の柔らかさがうらやましい。
「たーなーかー」
「何?」
「マッサージしてよ」
「やだ」
気だるそうに山田が言ったのを即時却下した。
山田はジトっとした目になって僕を見ている。
「あー、プロデューサーって健康管理も仕事なんだけどなー。 けがしたらどうするんだろうなー」
「あのさ」
それはトレーナーの仕事でしょ! と言いかけて飲み込む。
今の僕は統括して面倒を見ないといけない。
やると決めたらやるのだ。
「ちょっと待ってて」
僕は図書室に駆け込み、一冊の本を持ってきた。
スポーツマッサージ、と書かれているそれはなんだか古い装丁である。
「ねえ田中。 それ大丈夫なの?」
「へーきへーき」
本を開きながら山田の肩に手を乗せると、少しピクりとした。
無言でこちらを振り向く山田、なんだか山田の体が僕よりひんやりとしたように感じる。
黙って左手で本のページをめくった。
なになに軽擦法、要するに温めて血行をよくするのね。
「ん」
山田は口を押さえてプルプルしている。
「くすぐったいの?」
「へ、平気だし」
僕が一通り書いて有るとおりにマッサージをすると、若干痛かったのかガマンしてて面白い。
なんだか悪戯心が芽生えてきた、次はリンパでも存分に……
「先輩」
「ぎゃひぃ!」
不意に強くツボを押されて僕はのけぞった。
後ろからの奇襲に完全にしてやられている。
「可愛い後輩の体調管理も必要ですよ」
ジトッとした目で千家さんが睨んでいる、今日何回目だよこの視線。
あきらめてがっくり肩を落として息を吐いた。
「わかりましたやらさせて貰います」
僕は渋々承諾した。




