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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第6章 春が来るまで
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第67話  カレカノの事情



 注文していた謎解きの台紙に使う用紙を購買で受け取った私と紗和と唯ちゃんは教室に戻り、他の台紙作りメンバーと一緒に用紙や下刷りのチェックなんかをしていたら、あっという間に放課後になってしまった。

 きりのいい所で今日の作業を終わりにして、続きは明日の前日準備でしようと話しているときに、ガラッと黒板側の扉が開いて成瀬君が顔を出した。


「小森、終わったか?」

「もうだいたい終わったから、ちょっとだけ待って」


 そう言って、先に帰ることを台紙作りメンバーに伝えて荷物をまとめて、成瀬君の待つ廊下へと出た。

 二年に進級して成瀬君とはクラスが分かれてしまったのだけど、今日は放課後に弓道部の射的の景品のお菓子を買いに卸のお店に行く約束をしていた。去年の学祭一日目の帰りに神矢先輩と山崎先輩に誘われて卸のお店に行ったことを思い出す。その時はたまたま会ったのだけど、来年のために一緒に来たらどうかって山崎先輩に声をかけられて、その経験がちゃんと役立つ日が来たことに先輩の配慮をありがたく感じる。

 成瀬君と二人で並んで廊下を歩きながら、お互いのクラスの出し物の準備が進んでいるかどうかとかたわいない会話をする。

 成瀬君とは、一年生の後半にちょっとぎくしゃくして、というか、成瀬君が私の神矢先輩への気持ちに気づいて?? 疑ってきたというか。

 それが煩わしくって、成瀬君と口論することも時々あったけど、二年生になって新一年生が入部して先輩として指導することが増えたりして自然とぎくしゃくすることもなくなってきたと思う。これからは、三年生が引退してお互い新主将になって団結していかなければならないから、気まずい雰囲気がなくなって良かったなと思う。

 三年生が引退したといっても、学祭の弓道部の出し物は三年生も手伝ってくれるし、練習にも時々出てくれるという先輩たちの言葉を聞くと、まだまだ三年生が引退したという実感はわかない。

 そう思って、神矢先輩が付き合うことをしばらくは言わないと言った理由が少し分かった気がする――

 部内恋愛禁止という部則に触れるようなことはしていないし、なにもやましいことはないけど、神矢先輩が引退してすぐに付き合い出すというのは、部員に変な誤解を抱かせそうだと気づく。

 そういうことまでちゃんと考えている神矢先輩は、やっぱりすごいなと感心してしまう。

 成瀬君だって、私が神矢先輩を好きなんじゃないかって疑ってたくらいだから、付き合いだしたって知ったら、また態度が変わるかもしれない。

 それは嫌だな、と思う。

 だって、まだあと一年間、一緒に弓道をしていく仲間だから、疑いの目で見られるのは辛いし、わだかまりになるのを嫌だった。

 神矢先輩はもう引退して弓道部員じゃないから部則にはふれないって言ってくれたけど、はいそうですかって割り切って考えていいのかともやもやしてくる。


「小森……?」

「っ、えっ……?」


 自分の思考にふけっていて、成瀬君に名前を呼ばれてびっくりする。

 考え事をしながら歩いていたら、もう昇降口についていた。


「ごめん、ぼーっとしちゃってた……」


 謝ると、成瀬君は一瞬、眉間に皺を寄せて怪訝そうにしてため息をつく。


「だからさ、買い物リストって小森が持ってるよな?」

「えっ? 持ってないよ。成瀬君が神矢先輩から引き継いでるんじゃないの?」

「そうだったっか? 俺はてっきり、小森が聞いてるのかと思ってたけど……」

「じゃあ、神矢先輩に確認してみようよ」


 そう言って、私は鞄からスマフォを取り出して、『学祭のお菓子の買い出しリストを成瀬君が教えてもらってないみたいなんですけど教えてもらえますか?』って神矢先輩にラインを送る。

 うちの学校は自由な校風がうりで携帯電話を学校に持っていくことも禁止はされていないんだけど、授業中とかは携帯の使用は禁止されている。

 もう放課後だけど、今日は帰りのホームルームはなしで5、6限目は学祭の準備をすることになってて、神矢先輩はまだ教室でクラスの出し物の準備をしているかもしれない。だから、電話をかけるのはちょっと迷惑かなって考えて、ラインにしてみたのだけど。

 ピコンっと音を立てて、開いていたスマフォ画面の私のコメントの横に既読のマークがついた。

 あっ、神矢先輩、今、ライン見てくれたんだ。

 スマフォに替えてまだちょっとしか経ってないけど、ラインとか相手が読んだかどうか既読マークがついて分かるようになっているから、こういう時スマフォは便利だなぁ、買い替えてもらえてよかったなぁとつくづく思う。


『学祭の買い出しリストは会計の方で引継ぎしてるから市之瀬が知ってるはずだけど、成瀬にそのこと伝え忘れてた、ごめん』


「市之瀬君が知ってるって」


 神矢先輩のラインを成瀬君にも見せながら、そのことを伝えると。


「市之瀬、今日はバイトがあるって少し前に帰ってる」


 言いながら、成瀬君はすぐに自分のスマフォを取り出して、市之瀬君に電話をかけだした。

 隣に立つ成瀬君を見上げながら、かすかに聞こえる電話の呼び出し音に耳をすませるけど、いつまでたってもなり呼び出し音は鳴り続けている。


『これから買い出し?』

 

 ラインに神矢先輩からのメッセージが届く。


『その予定で、いま成瀬君と昇降口にいます』


 私が送ったメッセージの横にすぐに既読マークがついて、神矢先輩がリアルタイムでラインを開いて見ていることが分かる。神矢先輩はここにはいないのに、スマフォで神矢先輩と繋がっているという、ほんの些細なことが嬉しくてたまらない。


「ダメだ……」


 落胆した声で言った成瀬君を見上げれば、耳にあてていたスマフォを下ろして操作しているところだった。


「電車に乗ってるのか、もうバイトについてるのか、市之瀬にぜんぜんつながらない」

「そっか。バイトだったらしばらく連絡つかないかもだよね、どうしようか」


 お互いに妙案は思いつかず、途方に暮れていると手に持っていたスマフォが通話の着信を鳴らしながら鳴動する。


「あっ、神矢先輩からだ」

「出たら」


 成瀬君に頷き返しながら、通話ボタンを押してスマフォを耳にあてる。


「はい、小森です」

『リスト分かった? 市之瀬に連絡ついた?』


 電話越しで聞こえる神矢先輩の声はほんの少しいつもより高くて、そんなことにドキドキしながら、市之瀬君がバイトですでに帰っていて、連絡がつかないことを伝えると。


『じゃー、俺も一緒に買い出し行くよ。去年行ってるからリストなくても品物見れば大体の数は分かるし。クラスの方は抜けても大丈夫そうだし、リストがないならそれが一番無難な解決策でしょ』


 そう言われてしまったら、そうなのだけど。

 神矢先輩についてきてもらうのは申し訳ないとか、成瀬君は神矢先輩も一緒って聞いたらどんな反応するかなとか、頭の中でいろんな考えがぐるぐるめぐって、ちらっと成瀬君を見て。


「よろしくお願いします」


 ここに神矢先輩はいないのにぺこっと頭を下げて言った。




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