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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第1章 触れた指先
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第6話  振り返らない過去



 ――中学で弓道部に入部したのは、小学校からの親友に誘われたからだった。

 鎌倉に観光に行ったとき、偶然流鏑馬をやっているところを見て、「かっこいい」と思った。

 それまでは時代劇とか、そういう中でだけのものだった弓道が、リアルなものになった瞬間だった。

 進学した公立中学校に弓道部があって、名前を見つけた時はちょっと興味を持った程度だった。

 弓道をかっこいいとは思っても、イコール自分がやるという発想にはすぐに思い至らなくて。小学校六年間同じクラスで、一番といっていいほど仲良しな早河 弥生(はやかわ やよい)が一緒に弓道部に入ろうと言ってこなければ、たぶん、弓道部には入部していなかっただろう。

 そんな始まりだったけど、弓道部に入部した私は、すっかり弓道のとりこになってしまった。

 中学生は体の骨格などが発達途中のため、すぐには弓を引くことが出来なくて、実際、矢をつがえて的に射ることができるようになるのは三年生になってからだった。それでも、私は毎日部活に参加し、夢中で練習に励んだ。

 その甲斐か、三年で女子主将を務めることになった。成績もそれなりに良くて、二年間練習してきたことの成果をだせてすごく弓道が楽しくて、それまで以上に弓道にのめりこんで。

 たぶん、その時から少しずつ、歯車がきしみ始めたのだろう……

 自分は弓道に熱中して、気付いたら自分以外の女子部員の練習参加率が悪かった。特に三年女子があまり練習に顔話出さなくて、やっと実際に的に射ることができるようになったのに、後輩にも示しがつかないし、団体戦に出るには練習不足だと思い女子主将として悩んでいたら、同じ弓道部で男子主将の岡田(おかだ)君が相談に乗ってくれるようになった。

 同じ主将同士、お互いに相談し、大好きな弓道のことで話は尽きなくて。

 部活後にいつも最後まで自主練していくのは自分と岡田君の二人で、帰りの方向も一緒だから近くまで一緒に帰って。

 そんな日々が続いたある日。気がついたら、私は一人ぼっちだった。


「やよちゃん、今日は練習に来てくれたんだね、みんなも」


 久しぶりに三年女子が部活に顔を出してくれて嬉しくて声をかけたら、やよちゃんはちらっと私を見て、なにも言わずに行ってしまった。

 その時は特に気にしなかったんだけど、部活中も私以外の三年女子で固まって練習してて、私が近づいて声をかけようとすると、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

 なんで無視されるのか分からなくて、でも、いつもは練習に出てる三年女子は私ひとりだし、部活中はお喋りしている時間はないし、気にしないようにしてんだけど。

 彼女達の態度はその後も続いた。

 部活中、話しかけても聞こえていないように無視し、挨拶しても無視。帰りも私を残して先にさっさと帰ってしまうし、部活以外でも、廊下ですれ違った時に、無視された。

 なんで? どうして?

 その思いだけが胸に渦巻いて、苦しくなる。

 なんでって聞きたくても、声をかけようとすると避けられて理由も聞けなくて。

 せめてもの救いは、大会前に彼女達が練習に参加してくれたことだった。女子の団体戦は三人立ちだから、彼女達がいなくては団体戦に出られない。無視されても、団体戦に出られるだけで良いと思った。

 だけど。

 無視されても部活に出続けたことが、やよちゃん達には気に食わなかったらしい。

 いままでは無視だけだったのに、部活中、道場で私が弓を引きはじめると、後ろでくすくすと笑い声や囁き声が聞こえるようになった。

 小さな声だけど、まるで私に聞こえるように悪口を言われて、心が震えた。

 なにをそこまで彼女達をいじめに駆り立てるのか理由がわからなくて、悲しかった。

 まだ他の子はいい。何言われたって、本当の事は分かってないんだからって、自分を納得させられるけど。いじめの中心にやよちゃんがいるのが辛かった。小学校六年間同じクラスで、一番の仲良しだと思っていたのに。中学は三年間クラスは違かったけど、ほぼ毎日弓道部の練習で顔を合わせて、一緒に帰っていたのに。私のことを私の次に理解してくれていると思っていたやよちゃんに無視されて、堪えないわけがない。

 なんでやよちゃんがそんな態度をとるのかわからなくて、そんな自分ももどかしくて。

 でも、一番堪えたのは、部活中の悪口。

 練習中に私が弓を引きはじめると、真後ろで彼女達が悪口を言い始めて。弓を引ききり、会に入るとぴたっと彼女達の悪口が止まる。そして、離れで矢が的に向かって飛んでいくと、くすくすと蔑みの笑い声が聞こえる。

 それが耐えられなくて。

 なにも笑われるようなことしていないのに、会の静けさ、離れ後の笑い声が胸を切り刻んでいく。

 その笑い声が辛くて、離れが出来なくなって。

 弓を引いても、会までいって、その状態からフリーズしたように動けなくなって――

 それでも、何度も何度も弓を引いた。必死に練習して、今まで以上に練習をして、手の豆がボロボロになっても練習して。でも。

 私は二度と、弦と矢から右手を離すことが出来なくなってしまった。

 結局、最後の大会にも参加できず、中学三年の冬、部活を引退するまで、矢を放つことは出来なかった。

 後になってクラスメイトから、私と岡田君が付き合い出したという噂が流れたこと。やよちゃんが一年の時から岡田君を好きで、先に好きになったのは自分なのに私にとられたと言いふらしていたと聞いた。

 もちろん私は岡田君とは付き合っていない。同じ弓道部で、男子では仲がいい方だったし、主将同士ということで、いろいろ相談に乗ったり乗ってもらったりしたけど。それだけだ。

 それに、やよちゃんが岡田君を一年の時から好きだったなんて知らなかった……

 いじめの原因がそんな理由だったこともショックだったけど、やよちゃんが岡田君を好きだと教えてもらっていなかったことがショックだった。

 私はやよちゃんが一番の仲良しだと思っていたのに、やよちゃんにとって私はその程度の存在だったんだって思い知らされて、悲しかった。




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