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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第6章 春が来るまで
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第56話  夏色の通り道

※ 三年生視点(前半は神矢視点、後半は吉岡視点)です。



 ミーン、ミーン……

 蝉の声が聞こえる中、じりじりと照りつける日差しから逃げるように木陰に入るけど、額にはとめどなく汗がにじんできて、無意味だと分かりながらも、止まらない汗を手の甲で拭った。

 三年の夏休み。

 高校に入学したのはつい昨日のようで、長い昔だったような気もする。

 長いようであっという間だった高校二年間が終わり、残り一年もあと残すところ半年になってしまった。

 三年になった瞬間、進路だ受験だって慌ただしくいろいろなものに追われる中、俺達は高校生活最後の総体に向けて今まで以上に練習に力を入れてきた。

 去年は準決勝止まりだったけど、今年は新一年に力のあるやつが入ったし、新二年も一年前とは比べ物にならないくらい上達してなくてはならない戦力になった。

 俺自身、ここ最近は今までにないくらい調子も良くて、このままいけば総体優勝も夢じゃないかもしれない。

 いまは総体前、最後の合宿に来ていた。

 午後練習後、夕食までの空き時間に、あまりの暑さに我慢できず、三年連中と一緒に合宿所近くのコンビニまで歩いてアイスを買いに行き、歩きながら食べているが、気温の高さに、どんどんアイスが溶けていき、棒から手に滴が滴ってくる。


「あっつぅ~い……」


 暑さに弱い吉岡が木陰に座り込み、ぐったりとした声で吐き出した。


「一、二年生には申し訳ないけど、お土産用アイスなんて買わなくて正解だったわね……」

「合宿所に着く前に跡形もなく溶けるな……」


 玉城と山崎の言葉に、俺も同意するように苦笑した。

 今年は猛暑だと言われている。

 この暑さをいかに乗り切るかも大会に関わってくると思うと、こんな暑さなんかに負けていられないと思う。


「あいっかわらず、神矢君ってこんな暑さでも涼しげな顔してるわよね、ほんっとムカつく……」


 首に巻いたタオルを握りしめながら、恨めしげに睨みあげる吉岡に、俺はなんともいえず苦笑する。


「そんなこと言われてもなぁ……」


 別に、俺だって暑いのには変わらない。汗だってそれなりにかくし。

 それなのに、他人に言わせると、俺は夏場でも涼しげな顔をしているらしい……

 俺から言わせれば、山崎の方がよほど涼しげな顔をしていると思うし、山崎なんか汗一つかいていない。小言なら山崎に言えばいいのにと思いながら、俺は暑さが苦手な彼女に想いを馳せる。

 今日もだいぶへばってたが、大丈夫だろうか――……



  ※



 私の八つ当たり的な愚痴を軽く流した神矢君は、ふっと、どこか遠くを見つめて黙り込んだ。

 その横顔を眺めて、私はほとんど溶けてなくなってしまったアイスの最後の一口を口に放り込み、立ち上がって両手を空に大きく伸ばしてうーんっと伸びをした。


「さっ、頑張って帰ろ~」


 コンビニを出てすぐにアイスを食べ始めたものの、アイスはみるみる溶けていき、歩きながら食べるのを断念して、見つけた木陰でアイスを食べることにした。

 合宿所では一年は夕飯の準備中、二年はミーティングをすると言っていた。

 邪魔をしてはいけないと思い、三年はアイスを買いにコンビニに行くことにしたけど、まだ日が高い中外を歩くのは無謀だったかもしれないと、ちょっと後悔しながら、先を歩く男子連中の後ろを玉城と並んで歩く。


「もうこの合宿で最後なんて信じられないね……」


 少しの沈黙の後、玉城が哀愁を帯びた声でぽつりと言うから、私はわざとらしく明るい声を出して、バシっと玉城の背中を叩いた。


「いやだなぁ、玉城。しんみりするの早すぎっ、総体がこれからだっていうのに!」

「そうだけど……」

「まあ、それが終われば引退だから寂しく感じるのは分かるけど、出たければ秋季大会だってあるしさ」

「そうね、新一年生が三人も入ってくれたけど、補欠とか介添えとしては役に立つかな」

「玉城が補欠とか、謙虚すぎっ。まぁ、深凪ちゃんもかなり力つけてきてるからその辺は心配してないけど」

「そう、そうなの! 深凪ちゃんって教え上手よね! 高校入ってから弓道はじめたなんて思えないくらい!」


 玉城が勢いこんで絶賛する姿に、私は思わずゲホッと咳き込んでしまう。


「ちょっ、と待って! 深凪ちゃんって経験者でしょ!?」

「えっ!?」


 声を潜めて言った私に、玉城が本当に驚いたと言う顔で私を見つめた。


「気づいてなかったのか……」


 私は呆れてがっくりと肩を落として。


「えっ、えっ!?」


 目をぱちくりさせて動揺している玉城を落ち着かせるように肩を叩き、前を歩く男子には聞こえないように玉城に言う。


「入部の時に初心者って言ってたけど……」


 そこで私は言葉を切って、去年のことを思い出す。


「まだ一年生の仮入部が終わったくらいの頃かな、最後の立ちで神矢君が最後の一本だけ外して、去年の三年生が神矢君の事いじってたのよ、“スケベだ”って。そうしたら深凪ちゃんが苦笑して見ててさ。スケベの意味を知ってるなんて経験者以外考えられないじゃない? それに、あの子が持ってきたカケ、すっごい年季がはいってたんだよね。それ見て、経験者だって気づいてる二、三年多かったよ……? それにやたらと神矢君が深凪ちゃんを早く的前にあげたがっていたのも、たぶん、神矢君は経験者だって知ってたからなんじゃないかな……」


 今思えば、その憶測は確信に変わる。

 深凪ちゃんは他の誰よりも呑み込みが早かった。ただ単にセンスがいいからの一言では片付けられないとは思ったけど。

 大会出場ギリギリの部員数という女子部の状況としては、急かして深凪ちゃんを的前にあげる必要もあった。だから、神矢君が早く的前にあげたがっているのは当然のことで、経験者だということを上手くカモフラージュしていた。

 まあ、経験者とか初心者なんていうのは、入部時点の話で、入部しちゃえば、みんな同じように基礎からやって的前にあげるから、いままであまり気にしてこなかったけど。

 玉城が気づいていなかったことにはちょっと驚かされてしまった。

 っというか。


「私的には、深凪ちゃんが経験者かどうなのかよりも、神矢君との関係の方が気になるんだよね……」


 つい、ぽろっと本音がこぼれてしまった私に、玉城が困ったように苦笑した。


「それは、私も気になるけど……」

「ねぇねぇ、あの二人ってどうかなってるの?」


 私は玉城の耳元に顔を寄せて今まで以上に小声で囁く。

 うちの部にとって、この手の話題が致命的なのが分かっているから。

 それでも湧き上がってくる好奇心は抑えられなくて、いままで頑張って話題にはあげないようにしてきたけど、引退を目前に、やっぱり気になって仕方がなかった。

 玉城は女子主将として私よりも神矢君と喋る機会は多いだろう。なにか神矢君から聞いていないかと尋ねると、隣を歩く玉城は、先を歩く神矢君の後姿をじぃーっと眺めた。

 それから、本当に分からないというように首を傾げる。


「さぁ……? どうなんだろうね……?」


 そのなんとも曖昧な答えに、おいって突っ込みたくなる。


「えー、玉城にも分からないの!? 私的に、あの二人は何かありそうなんだけど」

「まあ、神矢君の深凪ちゃんの可愛がりぶりははた目にも丸わかりだけど、恋愛感情かって言われるとなんか違う気もするし……」

「バレンタインの後さぁ、なんか二人の雰囲気変わったと思わなかった?」

「それは私も思ったけど、春休みが終わって進級したら、なんか二人前以上に先輩と後輩って感じになってるし……」

「それは私も思った! お互い好き合ってるように見えたかと思うと、やけにあっさりしてるというか、あまりにも理想的な先輩後輩関係にしか見えないし……、あの二人ってどうかなってるの? ってかむしろ、どうかしてると言うべきなのかな!?」




更新がとても遅くなってしまって申し訳ありません<m(__)m>


なんとか踏ん張って、完結させます。

もう少しお付き合いください~!

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