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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第4章 二人のシグナル
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第39話  必然だったのかもしれない



 四限目の移動教室が終わって渡り廊下をのんびりと教室に向かって歩いていく。

 今日は購買部でパンを買うからと、授業終了のチャイムと同時に紗和は教室を飛び出して先にいってしまった。

 一人、ぼんやりと窓の外を眺めながら歩いていたら、階段のある角から曲がってきた人とぶつかりそうになる。


「っ……」

「……! ごめんなさいっ……」


 ぶつかる直前でなんとか踏みとどまって、謝ってから顔をあげると、そこにいたのは綾部先輩だった。


「綾部先輩」

「やあ、深凪ちゃん」


 綾部先輩はいつもの爽やかな笑みを浮かべて私を見下ろした。


「なんだかいつもこんな会い方だね」


 くすりと笑われて、私は申し訳なさと恥ずかしさで視線を俯けた。


「移動教室の帰り?」

「そうですよー、綾部先輩は購買部にいく途中ですか?」

「うん、飲み物買いにね。そういえば、購買部横の自販機に新しい飲み物入ったって知ってる? メロン・オレ」

「知らなかったです」

「イチゴ・オレ、よく買ってるから、深凪ちゃん好きそうだよね」

「えっ」


 綾部先輩の言葉に、私は驚きに声をあげて先輩を仰ぎ見た。

 確かに甘い飲み物好きだし、だいたい買うのはイチゴ・オレだけど……

 それを見られていたことに驚く。

 綾部先輩と廊下とかで会うことは多いけど、購買部では会ったことはなかった気がするんだけど……

 不思議に思って首を傾げていると。


「あれ、違った? 甘い物苦手?」


 勘違いさせてしまったみたいで、慌てて首を振る。


「違くないです、甘い物好きです。ただ、綾部先輩とは購買部で会ったことないのにイチゴ・オレを買ってるとこ見られていたのにビックリしてしまって」


 そう言ったら、なぜだか綾部先輩は何とも言えないような困った苦笑を浮かべる。


「あー、会ったことない、ね……」


 ぽつりとつぶやかれた声を小さくて聞き取れなくて。

 綾部先輩はからかうような笑みを浮かべて言った。


「深凪ちゃんって、ほんっとに神矢のこと好きなんだね」

「えぇ……!?」


 突拍子もない話題変換に、すっとんきょうな声をあげてしまう。


「どこから、そうなるんですか……?」

「だって、購買部で何度か会ったことあるのに俺の事覚えてないのって、神矢の事ばかり見てたからだろ?」


 一瞬、なにを言われたのか分からなくてきょとんと首を傾げて、綾部先輩が言った意味を理解してかぁーっと頬が赤くなり、それから、さぁーっと血の気がひいていく。

 ずっと、もやもやしていた霧がはれるような感覚。

 初めて綾部先輩に会った時から、どこかで会ったことあるような気がしてたけど、それは気のせいなんかじゃなかった。

 よくよく思い出してみれば、記憶の中の神矢先輩と会った光景その横に綾部先輩がいることに気づく。

 綾部先輩が神矢先輩の友人なんだから当たり前なのに、いままで気づかなかった。

 つまり、綾部先輩に会ったのがあの部活帰りにぶつかった時だと、購買部では会ったことないと思い込んでいたのは、私の視線が神矢先輩しかとらえていなかったからで。

 自分の思い込みに恥ずかしくなり、ついで、綾部先輩に対してすっごい失礼なことに青ざめる。


「っ……、本当にすみませんっ」


 床に頭がつく勢いで謝ると、綾部先輩はあまり気にした様子もなく、にやにやとからかうような笑みを浮かべて私を見た。


「まあ、いっつも、深凪ちゃんが神矢の事しか見ていなかったのは分かってたから謝らなくていいよ。でも」


 そこで言葉を切って、それまでのからかうような笑みをひっこめて、すっと真面目な瞳で私を見据えた。


「片思い――、辛くない?」


 真剣な表情で尋ねられて、私は、こくりと喉を鳴らす。

 それまでの意地悪な雰囲気は霧散して、まっすぐにこっちを見下ろす綾部先輩を私もまっすぐに見返す。


「辛くないって言ったら嘘になりますけど、やめたいとは思わないですよ。それに、いまの関係を壊したくないとも思うんです」


 いままでは誰に何をいわれようと、絶対に認めてはいけないと思った。

 友人の紗和に神矢先輩とのことをからかわれても、ただ先輩として憧れているだけだと言い切ってきた。

 本当は、ここで、「片思いなんかじゃない」って否定しなければいけないんだろうけど。

 綾部先輩のなにもかもを見透かしたようなまっすぐな瞳には、私を心配するような光が揺れていて、ここで誤魔化しちゃいけないと思った。

 まあ、でも、はっきりとは言えないから、表現はぼやかして言ったけど、それでもちゃんと綾部先輩には伝わったみたい。

 はぁーっと大きなため息をついて、前髪をかきあげる。

 その姿はなんだか憂いを帯びていて、ドギマギしてしまう。

 俯き加減でちらっと上目づかいに見上げて、綾部先輩が言う。


「あー、めんどくさいね、弓道部の部則って」


 弓道部じゃない綾部先輩には無関係な事なのに、自分の事みたいに親身になってくれる綾部先輩に、へらっと笑い返す。


「最初は私には好都合だったんです」

「えっ?」


 渡り廊下の窓枠にもたれるようにして、私はどことはなしに空を見上げてぽつりと話しだす。


「中学の時、部内でいじめにあって、その原因が部内恋愛だったんです、まあ、実際は付き合っていたわけじゃないんですけど誤解されて、女子に総スカンですよ……」

「辛かったね……」


 私は何とも言えない曖昧な笑みを向ける。


「まあいろいろあって弓が引けなくなって、もう二度と弓道はやらないって決めてたのに、そんな私を見つけてくれたのが神矢先輩なんです。だから、必然だったのかもしれないんです……、私が神矢先輩を好きになるのは」

「雛が初めてみる人を親だと思うみたいに?」


 私の言葉に、面白がるように尋ねた綾部先輩。


「じゃあ、深凪ちゃんに一つ、昔話をしてあげよう――」




お待たせしましたぁ~<m(__)m>

更新遅くなってすみません。

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