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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第4章 二人のシグナル
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第37話  想いとはうらはらに



 体育祭を一週間後に控え、今日は合同練習の日。

 全体練習は体育祭の前日に行われるんだけど、その前に、学年ごとや色ごとの合同練習がある。学年ごとの練習はすでに二回ほどやっていて、今日は色ごとの合同練習で。

 体育祭はクラスを縦割にして四色対抗で行われる。ちなみに一組は赤色、二組は白色、三組は黄色、四組は青色。一年四組の私は、二年四組と三年四組と一緒に練習する。そして二年四組には神矢先輩と山崎先輩がいて同じ青組ということになる。

 二時限続けて行われる合同練習はちょっと大変だけど、遠目でも神矢先輩の姿を見られると思うと元気になる。

 もちろんそんな現金なことを考えているのは私だけじゃなく、紗和やその他の山崎先輩ファンの女子達も同じ。


「山崎先輩とおなじ色でちょーラッキーっ!!」


 って騒いでいるのは紗和だけじゃない。

 団長が今日の練習の流れを説明しているのを体育座りで聞きながら、紗和がこっそりと私に話しかけてきた。


「ねえねえ、山崎先輩はなんの競技に出るのかな?」

「さぁ? 神矢先輩も山崎先輩もリレーには出るって言ってたけど」

「リレーに出るってことは、山崎先輩やっぱり足早いんだね~」


 うっとりとして言った紗和に、頷き返す。


「みたいだよ。部活対抗リレーの選手を決めるって話になって、普通だったら三年生四人で組みそうなのに、神矢先輩と山崎先輩は足早いからって部活対抗リレーに出るように言われてたから」

「わぁ~、部活対抗リレー楽しみだね! 私、絶対、弓道部応援するから!!」

「うん、ありがと……」


 興奮気味に言われて、私は苦笑してしまった。

 団長からの説明が終わると、応援合戦の簡単な振り付けが書かれたプリントが配られた。まずは全体での応援練習をし、その後、各競技の練習をする人と応援練習をする人に分かれる。

 複数競技に参加している人もいるから、練習がかぶらないように練習する競技は一つずつで、それ以外の人は競技の邪魔にならない場所で応援練習をしながら待つ。

 うちの体育祭は、トラック競技のほとんどは個人競技だし学年別に行うけれど、フィールド競技は学年関係なく混合で行われる団体競技が多い。

 たとえば、騎馬戦は二、三年生男子で行われる。学年別に騎馬を組むよりも、体格に合わせて騎馬を組むグループをわけた方が戦力は上がる。

 他にも、大玉運びとかムカデ競争も人数調整とかの関係で学年混合でチームを組んでいるところもある。まあ、この二つは同学年で組んでも問題はないのだけど。

 それから、二人三脚。

 この種目だけは、「他学年の異性とペアを組まなければならない」という変なルールがあって、ちょっとややこしい……

 体育祭の種目決めの時に、二人三脚の種目と一緒に書かれたこのルールに一瞬、目が点になってしまったけれど、「部内恋愛禁止」という弓道部の部則に似たものを感じて苦笑してしまった。

 学校的には他学年との交流を深めようっていう目的らしいけど、この変なルールのせいで二人三脚は敬遠され、立候補してやりたがる人がほとんどいなかった。そのため、他の競技からあぶれた人がやることに。

 かくいう私も、本当は紗和と一緒にムカデ競争に出たかったんだけど、案の定というかなというか……、じゃんけんが弱い私は負けてしまい、二人三脚に出ることになってしまった。

 まあ、ここはお祭りだと割り切って楽しんじゃえばいいのだろうけれど、他学年のしかも異性って、パートナー決めどうやるのだろうと心配になる。

 山崎先輩か神矢先輩が二人三脚に出るならいいけど、それ以外なら知っている人がいないから困ってしまう。

 いくつかの競技練習を終え、二人三脚に出る人の招集がかかった。

 私も紗和を別れに分かれを告げて、集合場所に向かう。

 各学年で集まっていた場所からぱらぱらと二人三脚に参加する生徒が集まってきて、その中に、こちらに向かって歩いてくる神矢先輩と隣を歩く男子の姿に、私は驚きで目を見開いた。

 だって、だって。

 神矢先輩の隣を歩くのは、昨日、曲がり角でぶつかって謎の告白をしていった華やかな顔立ちの男子だったから――

 驚きに、近づいてくる二人を唖然として見ていたら。


「また会ったね」


 私を見てくすっと目を細めて笑った男子を、隣にいた神矢先輩が意外そうに振り向く。


「綾部、小森さんと知り合いだったか?」

「うん、ちょっとね」


 意味深に微笑んだ綾部と呼ばれた先輩を、私は困惑して見上げる。

 昨日会ったばかりだし、今まで名前知らなかったし、知り合いってほどじゃないけど……

 なんとなく見覚えがあったのは神矢先輩の友達だからかな……?

 困って見上げていたら、私の視線に気づいた綾部先輩が鮮やかな笑みを浮かべる。


「俺は綾部 光(あやべ ひかる)。同じ青組同士仲良くしようね」

「小森 深凪です、よろしくお願いします」

「部活では深凪ちゃんって呼ばれてるんでしょ? 俺も深凪ちゃんって呼んでいい?」


 二人三脚の集合場所まで移動しながら綾部先輩に言われて、私はなんと答えたらいいか困ってしまう。

 たしかに、深凪ちゃんって呼ぶ先輩は多いけど、苗字で呼ぶ先輩も何人かはいる。

 ほとんど初対面の綾部先輩にいきなり名前で呼ばれるのは抵抗あるけど、綾部先輩の柔らかい雰囲気になんとなく嫌とは言えなくて、曖昧に笑い返す。

 綾部先輩はそれを肯定ととったのか、ふわりと目元に甘さを含ませて微笑むから、どぎまぎしてしまう。

 山崎先輩といい、神矢先輩といい、イケメンには見慣れているはずなのに、また違ったタイプのイケメンさんに微笑まれて動揺せずにはいられなかった。

 集合場所についてからは、神矢先輩とは少し離れた場所で、同じクラスの女子と固まって座って説明を受けた。

 っといっても、各自で他学年、異性のパートナーと組んで、パートナーが決まったら報告にくるようにという簡単なものだった。

 同じクラスの女子で、「どうしようね、誰と組んだらいいんだろう」って相談しながら、心の中では、神矢先輩が一緒に組んでくれたらいいなと思ったり。

 でも、そうなったらまた成瀬君がうるさいかなと不安にもなり、やっぱり神矢先輩以外の人と組んだ方がいいかなと、悩む。

 視線の先に綾部先輩と話す神矢先輩の姿があって、ふいに視線が重なり合う。

 神矢先輩は私を見たままなにか綾部先輩に言い、綾部先輩は笑って神矢先輩の肩を叩いてからまっすぐに私のところまで歩いてきた。


「深凪ちゃん、まだパートナー決まってなければ俺と組もうよ」

「えっと……」


 まさか綾部先輩からそんなことを言わせるとは思っていなくて、戸惑う。

 視線を彷徨わせて、神矢先輩を見つけるけど、神矢先輩はもうこっちを見ていなくて、私は俯いてぎゅっと唇をかみしめる。


「もしかして、誰かと約束してる?」

「いえ、そんなことは、ないですよ……」


 言いながら、だんだんと声が小さくなっていく。

 神矢先輩が二人三脚に出るって知った時から、先輩がパートナーになってくれたらいいなって思ってた。

 それを望みながら、そうじゃない方がいいっていう思いもあった。

 これ以上、成瀬君にあらぬ疑いをかけられたくないから。

 でも、本当は――

 想いとはうらはらに、私は顔を上げてへらと笑う。


「私で良ければ、よろしくお願いします……」




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