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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第4章 二人のシグナル
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第36話  恋は突然に



 びっくりしすぎて、完全にパニック状態になった私の背後を、部活帰りらしい生徒の話し声が聞こえてきて、だんだんと遠ざかっていく。


「他の人には見られたくないだろ? こうやっていれば大丈夫」


 ええっと……、だいじょぶとかそういうことでなくて……

 だんだんとパニック状態が落ち着いてきて、でも、声に出しては反論できないで、なされるがままになっていると。

 背中に触れた手が、ぽんぽんっと落ち着かせるように優しく撫でるから。

 心配してくれてるのが伝わってきて、突き放すことが出来なくて。

 その安心させるような感触に、だんだんと荒れていた気持ちが凪いでいく。

 涙も引っ込んだのを確認して、顔を上げる。


「あの、もう大丈夫ですから……」

「そう?」


 にっこりと笑った顔は華やかな顔立ちでこの人には夏が似合いそうだと思う。

 やっぱりどこかで会った気がするけど……思い出せそうにない。

 こんなに綺麗な顔の人なら忘れないと思うんだけど……

 どうにか思い出せないかと記憶を探るためにじぃーっと顔を見上げていたら、それに気づいた男子が、にこりと微笑んだ。


「部活帰り?」

「えっと……」

「その格好のままどこか行くとこだった?」

「あっ……」


 指摘されて、袴姿のままだたことを思い出す。

 そういえば、着替えに部室に向かってる途中で、成瀬君に声をかけられて、ムカついて無我夢中で走ってきちゃったんだった……


「えっと、気分転換にランニングを……」


 苦しい言い訳だったかなと思ったけど、これ以上追及してほしくないという含みを感じとってくれたのか、彼はにこりと微笑んで話題をかえた。


「学祭の弓道部の出し物で君の姿を見たんだけど、すごく綺麗だった」

「あ、ありがとうございます……」


 綺麗な瞳に見つめられて手放しで褒められて、かぁーっと頬が熱くになる。

 どうやら学祭で自分はかなりいい射が出来たらしく、紗和や花塚さん以外にもいろんな人から褒められることが多かった。でも、やっぱり面と向かってこんなふうに褒められると照れてしまう。


「それですごく君に興味をもったんだよね」

「えっ……?」


 照れと恥ずかしさで彼の話をあまり聞いていなかった私は、彼を仰ぎ見る。

 なんだか雲行きが怪しいことに気づき、じりっと後ずさる。


「俺と付き合わない?」

「っ……」

「返事は今すぐじゃなくていいよ、ゆっくり考えてくれれば」

「ええっと、お気持ちはうれしいのですが、実はうちの部にはちょっと変わった部則がありまして……」

「ああ、あの面白い部則なら、知ってるよ」


 面白い……?

 心の中で首をひねる。

 が、とにかく話を続ける。


「その、部則で付き合うのとかはちょっと……」


 てんぱってて自分でも何を言っているのか、だんだん分からなくなってくる。

 だって、告白されたのなんて生まれてはじめてで動揺してしまう。


「あれって、弓道部内限定の事でしょ? 俺は弓道部員じゃないし、なにも問題ないよね?」


 にっこり綺麗な笑みを浮かべてそう言われて、数秒の間……

 目から鱗!

 あっ、そっか! って気づいて、何も言い返せない。

 唖然としているうちに。


「引きとめてごめんね。じゃあ、またね」


 あっさりと言って男子は駆けていってしまった。

 なんだか、最後の「またね」っていうのが意味深だけど……

 呆然と立ち尽くし、男子が走り去っていった後姿を眺めてしまう。

 ってか、名前も聞いてないし……

 これって、告白だったんだよね……?

 あまりにもあっさりとした引き際に、さっきのは自分の聞き間違いなんじゃないかと思えてくる。

 まあ、初対面の人に付き合おうって言われても無理だし。

 胸の奥底にしまって気づかれちゃいけないし、言えない気持ちだけど、私が好きなのは神矢先輩だもの。

 そもそも、あの人、私に興味を持ったって言ってたけど、好きとは言わなかったし。

 からかわれただけなのかな……?

 疑問ばかりが残って首を傾げる。

 だけど、いつまでもそこにいるわけにはいかなくて、踵を返して部室に向かった。

 すっかり暗くなった構内を歩きながら、成瀬君はもう帰っただろうと思い、ちょっと胸をなでおろす。

 さすがに、さっきのいまで顔を合わせるのは気まずいものね。

 はぁーっとため息をもらして、部室を目指した。




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