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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第4章 二人のシグナル
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第35話  うんざりする質問



 あからさまに不機嫌な表情の成瀬君が早歩きで後ろから私に追いついて、その顔を見て、私は無言で前に向き直った。

 成瀬君は私を追い越すことはなく、半歩後ろをついてくる。

 まあ、目的地は部室と同じだから、ついてくるっていうのは語弊があるかもしれないけれど、私よりも歩幅が広くて、簡単に追いつくことができる成瀬君なら私を追い抜かしていってもいいのに。

 むしろ変に気をつかわないで、追い抜いてくれればいいのに……

 私はなんとも重たい沈黙に耐えかねて、成瀬君の方を見ずに口を開く。


「成瀬君も、自主練終わり? 早いね……」


 乾いた笑いが喉から出てくる。


「ああ……」


 成瀬君は素っ気なく答え、少しの間を挟んで苦々しい口調で言った。


「なあ、小森と神先輩って、ほんとになんにもないのか?」


 疑るような問いかけに、私はぴくっと肩を揺らしその場に立ち止まる。

 実は、成瀬君がこの質問をしてくるのは今が初めてじゃない。

 一週間くらい前、中庭で寝ていた神矢先輩と一緒にいるところに居合わせた成瀬君から「最近、神矢先輩と仲良いよな」と言われてから何度も同じようなことを聞かれている。

 最初は、なんでそんなこと聞かれるんだろうって純粋に疑問だった。

 一緒にいることが多いっていっても部活中くらいだし、他の先輩と大差はないと思う。あるように感じるなら、それは、私も神矢先輩もほとんど休まずに毎日部活に参加しているから――まあ、昨日は仕方なく休んだけど――、他の先輩よりは一緒にいることが多いように感じるかもしれないけど。それだって、他にも毎日出てる部員はそれなりにいる。

 他に思い当る理由としては、私が神矢先輩に練習を見てもらっているってことだけど、それが原因なら必然的と言うか、そう見えるのは仕方がないことだと思った。

 だから、なんでそんなこと聞いてくるのか、成瀬君の意図が分からなくて。

 でも。探るような眼差しで見られて、何度も同じことを聞かれ続けたら、さすがに私だって成瀬君が何を聞きたいのかは分かってくる。

 私と神矢先輩が“部内恋愛禁止”という部則に触れていないか……

 自分でそのことを考えて、なんともいえないやるせなさにぎゅっと唇をかみしめる。

 私と神矢先輩の関係は――? って聞かれたら、即答で「ただの先輩と後輩だ」って答えられる。

 部則に触れるようなやましいことは何もない。

 ただ、私の片思いってだけで……

 片思いは、部則には触れないもんね。

 だから何度、成瀬君に同じことを聞かれようと、私は「なんでもない」って答えるだけ。

 だけどさっ。

 なんでもないって言っているのに、何度も何度も同じことを聞かれ続けたら、さすがの私もうんざりしてくる。

 はぁーっと苛立ち交じりに吐息をもらして、振り返ってキッと成瀬君を睨みあげた。


「なにもないよっ! なんでそんなこと聞いてくるのっ!?」


 自分で言ってその言葉に傷ついてしまう自分に嫌になる。

 目尻がにじみ始めて、慌てて視線を横にずらす。


「私と神矢先輩は後輩と先輩。それ以上でもそれ以下でもない。部活に恋愛感情は持ち込まない」


 一息に言い切って、私はその場から駆け出した。

 私と神矢先輩の間には本当に何にもなくて、先輩と後輩の関係でしかなくて。

 私のただの片思いで、その先を望んではいけないって分かってる。

 なのに、自分自身の言葉に現実を思い知らされて、切なくてなる。

 きっと、キーホルダーを「いいな~」って言ったのが私以外の誰かでも、神矢先輩ならキーホルダーをあげたと思う。自分が特別だなんて勘違いしてない。でも。


「なんでそんなこと成瀬君に言われなきゃいけないのよっ……!?」


 走りながら、嗚咽交じりにやりきれない気持ちが溢れる。

 片思いだって嫌ってくらい分かってるのに……、涙が溢れてきてどうしようもなかった。

 無我夢中で駆けて、曲がり角を曲がったところで、前から歩いてきた人に思いきりぶつかってしまった。


「っ……」

「……!」


 勢いよくぶつかった拍子に後ろによろけそうになった私を、ぶつかった人が腕を伸ばして、支えてくれた。


「……ありがとうございます、すみませんっ……」


 恥ずかしさに消え入りそうな声で言うと、ぶつかった人が「あれ?」と首を傾げた。


「君、小森 深凪ちゃんだよね?」


 いきなり名前を言われ、知っている人かと顔を上げると、そこには端正な顔立ちの男子がいた。すっきりとした奥二重の瞳が印象的で、真面目そうな雰囲気を醸し出している。

 どこかで会った気がするけど、誰だったか思い出せない。

 こんなに綺麗な顔の人なら忘れないと思うんだけど……

 見た気がするのが気のせいなのかな……

 そんなことを考えて、じぃーっと食い入るように目の前の男子の顔を見つめていたら。


「大丈夫……?」


 気づかうように顔を覗きこまれて、一瞬後、泣き顔だったことを思い出して慌てて顔を伏せようとする。だけど。

 それよりも早く、男子の腕が私の手を引いて、直後、ふわりと抱きしめられていた。

 ――――……っ!!??

 ええっと、これはどういう状況なのでしょうかぁ……!?




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