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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第3章 恋の道しるべ
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第25話  一方通行の想い



 順番で残り二人の男子もやったが、後の二人は的に当てることは出来てもそれを倒すことはできなくて、景品はなしで残念賞のお菓子を渡した。


「結構、むずかしいな……」


 あてられなかった男子生徒がぼやく。

 内心、ちょっと申し訳なくなる。

 実は、子供用の弓はゴムが少し短くしてあって、ちょっとの力でもわりと飛ぶように細工してある。

 子供がとれないと可哀そうだからって配慮なんだけど、子供がお菓子を倒せていたのを見た後だし、高校生男子として悔しいのだろう。

 まあ、しかたないよね……


「もう一回どうですか?」


 にっこりと営業スマイルで尋ねたら、男子達はお互いに顔を見合わせた。

 さっき愚痴ってた男子が、すっと近づいてきて私を見下ろした。


「あんたがやって見せてよ」

「えっ、私がですか……?」


 思いもよらない言葉に、私は戸惑いがちに尋ね返す。

 私がやって、それってなにか意味があるのかな……?

 男子生徒がなんでそんなこと言ったのか計りかねてただ見上げていると、ふいに肩に手を乗せられた。


「ほらほら、やってよ」

「はぁ……」


 にやっと笑った男子がぐいぐいと私の肩を押して目印のビニールテープの場所まで連れて行く。

 まあ、やるだけならいいかな……?

 そう思って手に持っている弓矢に視線を落としてから、顔を上げる。

 ってか、やるのはいいけど、肩に置かれた手はいつどかしてくれるんだろう……

 内心で首を傾げながら男子生徒を見上げた瞬間。

 私の肩に置かれていた男子生徒の手がぱしんっと払い落とされた。

 子連れ家族の相手をしていたはずの神矢先輩が私と男子生徒の間に立ってて、底冷えのするような冷笑を浮かべていた。


「気安く触んないでくれる?」

「はっ? なんだよ、神矢。別にいいだろ」


 神矢先輩に手を払い落とされた男子生徒は不機嫌そうに神矢先輩を睨みつける。

 先輩の知り合い? 二年生なのかな……?

 けっこういい音がしたから、手、痛かっただろうな……

 ぼんやりとそんなことを考えながら神矢先輩を見上げた私は、苛立たしげに吐き捨てられた男子生徒の言葉にぽかんとしてしまう。


「お前の彼女だっていうのかよ?」


 あー、この人、きっと弓道部の部則のこと知らないんだろうな。

 彼女だなんてあり得ないのに。

 女子の間では結構有名だけど、男子は知らない人が多いのかな?

 そもそも、神矢先輩が好きなのは玉城先輩で……

 男子生徒のあさってな方向への突っ込みに、冷静にそんなことを考えていたから。


「そうだよ、俺のだよ」


 静かだけど威圧感たっぷりに言った神矢先輩の言葉に目を見張る。

 さっきまで平常心だった私の心臓が急に騒ぎ立てる。

 えっと、いまなんて言ったの……

 自分の聞き間違えかと思って神矢先輩を見上げると、先輩は真剣な眼差しを男子生徒に向けて言った。


「だから触るな」


 睨みつけた後、あっちいけとでもいうように男子を追い払う仕草をした神矢先輩に、男子生徒たちは悪態をつきながら去っていった。

 その後姿を呆然と見送る私の心臓はさっきからバクバクとうるさいくらい鳴っている。

 えっと、いまのって……

 見上げると、神矢先輩は何とも言えないような不機嫌そうな表情で私をじっと見る。

 なに……?

 一歩後ずさって身構えた私に対してため息をつき、神矢先輩はなにも言わないで視線をそらした。

 ええっと、さっきの言葉はなんだったんだろう……

 ゆっくり考える間もなくお客さんがやってきて、その対応に追われる。だけど。


『そうだよ、俺のだよ』


 そう言った神矢先輩の言葉が耳に甘く響いて、体の芯から甘い痺れが広がる。

 なんだったのあれはっ!!

 思い出しただけで火照る頬を隠すように俯いて、心の中で悪態をつく。

 だって私は神矢先輩の彼女じゃないもの――

 その事実だけははっきりと分かっているのに。

 嘘だと分かっていても、神矢先輩の言葉にいちいちドキドキしてしまう自分が悔しい。

 神矢先輩の一言に私がどれだけドキドキしてるかなんて、先輩は知らないんだ。

 一方通行の想いが切なくて。

 神矢先輩がどういうつもりであんなことをいったのか分からなくて、恨めしげに神矢先輩をこっそり睨みつけたら、不意にこっちをみた神矢先輩と視線があってしまい、私はぷいっと顔をそむけた。

 思いっきり視線をそらしてから、ちょっと子供っぽいことしたかなと思うけど、神矢先輩に対して怒っている気持ちがあるから神矢先輩のことを無視した。


「小森さん?」


 戸惑いがちに話しかけてきた神矢先輩に背を向けて、聞こえないふりをする。


「小森さん……」


 神矢先輩はもう一度私の名前を呼び、返事がないことに対してため息をついて離れていった。

 その後も、視線を感じて振り返ると、神矢先輩が何か言いたげな眼差しでこっちを見ていたけれど、私は気づかなかったように視線をそらした。

 学園祭終了間際になると三年生が手伝いに来てくれて店番の弓道部員が増えたおかげで、神矢先輩が話しかけてくることはなかった。




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