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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第3章 恋の道しるべ
24/71

第24話  ほんのちょっと痛む胸



 この届かない想いはどこにいけばいいの――……?

 そんなの、いくら考えても答えは一つしかなかった。

 弓道部は部内恋愛禁止。

 それをやぶれば退部しなければならない決まりだ。

 もし、万が一に神矢先輩と玉城先輩が付き合ってなかったとしても、私は神矢先輩と両思いになりたいなんて願ってはいけないし、この想いは誰にも気づかれてはいけない。

 ただ、後輩として側にいられることに満足しなければならないんだ。



  ※



 慌ただしい前日準備もあっという間に終わってしまい、今日から二日間の学園祭が始まった。

 クラスの出し物は二日目の午前中に受付当番があるだけで、それ以外はほぼ部活の方の出し物に出っ放しの予定。

 ちなみに、我が弓道部の出し物は、空き教室の一部を借りて、壁側に並べたお菓子を射的ではなく弓矢で撃ち落とし、落としたものは景品としてもらえるというもの。

 弓矢といっても、部活で使っている本物の弓矢ではなく、おもちゃ屋さんで売っている小さなものだから子供でもできて、意外と毎年盛況らしい。

 格好も普段練習で着ている袴で、準備は教室のセッティングとお菓子だけなので、クラス展示との掛け持ちでもそれほど苦ではない。 

 といっても、店番をするのは基本的に一、二年生の仕事なので、持ち回りの時間が長いのだけど、部活の仲間とわいわいできるからそれなりに楽しい。

 午前中は当番じゃなくても暇な部員や三年生が弓道部の展示教室に来てくれて、それなりの人数で対応していたのだけど、午後になるとクラス展示の当番などで人数がぐんっと減ってしまい、いまいるのは山崎先輩と神矢先輩と市之瀬君と私の四人。

 成瀬君も午前中はいたんだけど、午後はクラスの当番にいってしまった。

市之瀬君も、もう少ししたらクラスの方に行かなければならないらしく、ちょっと心細い。

 お昼時間帯だからか客足が引き、手持無沙汰になって端に置いてある椅子に座って店番をする。

 ちらっと視線をあげると、私が座っている場所から、景品が置いてある机を挟んで反対側で、神矢先輩と山崎先輩は楽しそうに雑談している。

 私も、隣に座っている市之瀬君とクラスの出し物はどんなことやるのかとか、学園祭のパンフレットを見ながら、どのお店に行ってみたいとか話しているんだけど、なんとなく意識は神矢先輩の方にいってしまって、こっそりとため息をついた。

 神矢先輩と一緒に店番をするのはちょっと居心地悪いけど、二人っきりじゃないし、ここに玉城先輩がいないのはなによりも救いだった。

 たぶん、まだ二人が一緒にいるところを見て、平静ではいられないと思う。

 神矢先輩と玉城先輩が内緒で付き合っていることを、誰かに言うつもりはない。

 だって知られてしまったら、二人とも部活をやめなければならなくなってしまう。

 そうなったら、もう二度と神矢先輩に練習を見てもらえなくなってしまう。

 そう考えただけで、ぶるっと背筋を震わせる。

 二人が付き合っているのは辛いけど、内緒にしなければならない。

 神矢先輩に会うのは、二日前の部活後、神矢先輩の手を振り払って逃げ去って以来で、何か言われたらどうしようと思っていたけど、神矢先輩はその時の事はなにも言ってこなくて、私もその話題にはふれないようにした。

 自覚した瞬間、失恋って、どうなんだろう私……

 はぁーっと小さくため息をもらす。

 でも、恋愛とか、するつもりじゃなかったし。

 きっと、部内恋愛禁止っていう部則がなかったとしても、神矢先輩に告白しようなんて思わなかっただろう。

 だから、いままで通り、後輩としてなんでもない顔で接するしかないんだよね……

 でも、すぐは無理っていうか……

 ほんのちょっと痛む胸をそっと抑えた。



  ※



「見て見て、美術部は似顔絵描いてくれるんだってっ、ちょっと行ってみたいかも」

「あー、うちのクラスに美術部がいてそんなこと言ってたなぁ。俺はそれよりも三年一組の揚げパンアイス食いたいなぁ」

「おいしそう! ってか、市之瀬君って甘党なんだ?」

「わっ、悪いかよ……」


 ぽつっと呟いた市之瀬君に突っ込んだら、頬をほんのり染めて視線をそらされてしまった。普段はちょっと口が悪くてとっつきにくい印象の市之瀬君だけど、この数ヵ月で本当は人見知りするだけで打ち解けてくるとけっこうお喋り好きとか知っちゃっているから、甘党だってばれて恥ずかしがっている市之瀬君が可愛く見えてしまう。

 私は首を横に振り、微笑む。


「ううん、悪くないよ。男子だって甘い物好きだよね~」


 そう言った私をちらっと見て、市之瀬君は照れたのを誤魔化すように眉根を寄せた。

 その後もお客さんがいないときは市之瀬君とパンフレットを見てどこのお店が気になるかとか話して、二時を過ぎた頃に市之瀬君はクラス展示の手伝いのために行ってしまった。

 弓道部の射的は、お昼を過ぎるとぱらぱらとまたお客さんが来るようになって、市之瀬君がいなくなってからは、積極的にお客さんの相手をするようにしていた。

 だって、何かしていないと神矢先輩のことを意識しすぎてしまうから。

 山崎先輩は他校の女子二人組の相手をしてて、神矢先輩はおそらく生徒の家族だろう子連れの親子を相手していた。

 弓矢のセットはあと一組あるから、呼び込みをする。


「弓道部の射的どうですか~? 簡単にできますよ~」


 声を張り上げると、教室に入ってきた私服のを男子三人組――おそろくうちの生徒――がこっちに近づいてきた。


「あー、あったあった、弓道部の射的」

「へぇ~、結構あたるんだな」


 ちょうどやっていた子供がお菓子に上手く矢を当てたところで、男子三人組がそれを見ながら喋る。


「俺、やる~」


 のんびりした口調の男子が私に「はい」っと百円を渡してきたので、それを受け取り、代わりに矢を三本渡した。

 神矢先輩も玉城先輩も他のお客さんの相手をしているので、私が相手をする。


「やり方は説明しなくても大丈夫そうですか?」


 はじめから射的するつもりで来てくれたお客さんの相手をするのは結構楽なんだよね。


「たぶんね~」

「この線から前には出ないでくださいね」


 男子、女子、子供で、矢を打ち距離を少しずつ変えているから、床に張られたビニールテープを示して言う。


「わかった」


 そう言って矢をつがえて狙いを定める男子は、のんびりした口調とは裏腹に、真剣な眼差しをしてる。

 遊びだって分かっていてもこういう時、真剣になる男子は可愛いと思う。

 おもちゃの弓矢だから射法八節とかは関係なく、狙いと力加減だけなのだけど、この男子の弓を引く姿はわりと筋がいいように見える。


「あっ、はずした……」


 真剣に獲物を狙って矢を放った男子がぽそっと漏らした。

 まあ、うちも売り上げがかかっているからそう簡単に当てられたら困るけど。

 最初にやった男子は二本目は見事お菓子に当てることができたけど、三本目は外れだった。




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