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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第3章 恋の道しるべ
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第22話  最悪のタイミング



 なんだか裏切られた気分だ……

 どんよりと沈んだ気分で、私は心の中で一人ごちる。

 たぶん、いまの心境を物語るなら、それが一番しっくりくる気がする。

 部内恋愛禁止っていう部則を聞いた時は、なんだそれって思ったっけ。

 だけど、いまいる弓道部員はみんな、そんな変な部則があると承知で所属してて、弓道馬鹿といっても過言じゃないくらい、弓道に一途で、恋愛とは無縁な人ばかりで。

 その中でも、神矢先輩は他の誰よりも本当に弓道一筋で、部内恋愛なんて絶対しないだろうと思っていたのに――

 その神矢先輩が玉城先輩と内緒で付き合っているだなんて。

 なんだか神矢先輩に裏切られたような気分で、ショックだ。

 しょんぼりとした気分のまま、何本か的前で打って、すぐに矢取りに向かう。

 保健室からそのまま部活に向かった私が道場についてから少しして、玉城先輩と神矢先輩も何食わぬ顔で部活にやってきた。

 今日の練習は学園祭の準備がある人も多くてあまり人数が集まっていなくて、いまいるのは一年は私と成瀬君だけ、二年生が六人、三年生が二人だけ。この後ももしかしたら途中参加で増えるかもしれないけど、出てくる時間もみんなバラバラだから、いつも二回ある立ちは最後の立ちだけやることになって、射込み時間が長いのだけど、私はほとんど巻き藁を一人で独占状態で使っていた。

 まあ、うちのクラスはほとんどの準備を明日一日でやれるから今日はそんなにやることもなくすぐに解散して部活に参加できているけど、他のクラスはいろいろと準備が大変そうだった。

 一年が私と成瀬君だけということで、すでに的前に上がっている成瀬君はずっと的前で練習してて、他に巻き藁を使う一年がいないから、一人で巻き藁を独占状態というわけ。

 本当は。

 いつもなら、部活に来たら素引きと巻き藁をしたら、神矢先輩にべったりで指導してもらうんだけど、今日はなんだか声をかける気分になれなかった。

 巻き藁に刺さった矢を抜きながら、視界の端に映った神矢先輩と玉城先輩の姿から視線をそらすように俯く。

 いつもならなんとも思わないのに、今日は神矢先輩と玉城先輩が二人で話している姿をみると、もやもやする。

 ただ同じ学年だから話しているだけなんだろうけれど、肩を叩いたりして仲良く話している姿を見ると、やっぱり、二人は内緒で付き合っているんだって思い知らされて、胸がざわつく。

 知らず、はぁーっとため息がもれて私は肩を落として……、ぱっと顔を上げる。

 やめようっ!

 気分を切り替えるように、自分に言い聞かせる。

 こんなこと考えてもきりがないし、神矢先輩と玉城先輩が付き合ってようと私には関係ないじゃないっ!

 神矢先輩は私にとって、尊敬する師で憧れの先輩で。それだけなんだから。

 私はただの後輩、後輩ですよー。

 こうやって言い聞かせるように繰り返していること自体が異常だということにも気づかず、何度も心の中で繰り返して、なんとかその日の部活をやり過ごした。

 っと、思ったのだけど。

 結局、立ちの時間になっても部員の人数が増えることもなく、十人という入部して以来初めての人数の少なさで立ちを行い部活は終わったのだけど。

 いつもなら率先して残って自主練をしていく私だけど、今日は居たたまれなくて、部活が終わったら速攻で帰ろうと決めていたのに、こういう日に限って、握り皮が破れたりするんだ……

 ちょうど、明日の前日準備と土日の学園祭は部活休みだから、握り皮を替えるには絶好のタイミングだけど、気持ち的には最悪のタイミングだった。

 なぜって……?

 道場の端の壁に弓を立てかけて握り皮を替えている私の後ろで、残って自主練をしているのが神矢先輩と玉城先輩の二人だからだ。


「……でしょう?」

「新宿から渋谷に行くのが内回りじゃないのか?」

「えっと、新宿の次が、代々木、原宿だっけ?」

「そうそう」


 くすくすと楽しそうに笑う神矢先輩の笑い声が聞こえて、胸がきゅっと痛む感覚に唇をかみしめる。

 聞き耳をたてているわけじゃないけど、二人の楽しそうな会話が聞こえてきて、とても居たたまれない。

 でも、いま握り皮を替えないと週明けに練習できなくなっちゃうし、いますぐ帰りたい気持ちを押し込めて、背後の神矢先輩達の会話が聞こえないことにして、一人黙々と作業に集中する。

 道場の床に膝をついて、膝の間で弓を支えるようにして壁に立てかけ、古い握り皮を剥がし、新しい握り皮を巻く位置を決めて形をはさみで切って整えて、ボンドを薄く塗って巻きつけていく。

 こういう時、経験者だと、いちいち先輩に聞かないで一人で出来ちゃうから助かる。

 今日なんて、絶対に、二人に話しかけたくないもの……

 なんだか、若干意固地な気分で黙々と握り皮を取り換えて、さっさと片づけをして道場を出ようとしたら、まるでタイミングを見計らっていたみたいに、神矢先輩と玉城先輩も自主練を終えたところで、的場に行って的を片付けているところだった。

 自主練では使っていた人が片づけをすることになっているから、私はこのまま挨拶だけして帰っても良かったんだけど、やっぱり一年として素通りすることも出来ず、片づけを手伝うために雪駄をひっかけて的場に向かった。

 神矢先輩と玉城先輩は的を片すために用具倉庫に入ったので、私は竹箒で安土の土を整える。


「あっ、深凪ちゃん」


 用具倉庫から出てきた玉城先輩が、私に気づいて微笑む。


「片付け手伝ってくれてありがとね」

「いえ……」


 私は小さく答えて、俯く。

 すぐ隣に、用具倉庫から出てきた神矢先輩が私と同じように竹箒を持ってきて安土の土をしゃっしゃっと払って整えてて。

 なんだか空気がピリピリと肌に痛い。

 竹箒を片付け、道場のシャッターを下ろして道場の扉の鍵をかけて、神矢先輩と玉城先輩と私の三人で部室に向かって歩く。

 私は並んで歩く先輩の後ろをぽつんと一人でついていく。

 片づけを手伝ったために、一緒に部室に向かう流れになっちゃったけど、今度こそ手早く片付けて先に帰ろう――

 そう心の中で決意した瞬間。


「深凪ちゃん、けっこう暗くなってきたし、駅まで一緒に帰ろうね」


 振り返った玉城先輩ににっこり言われて、嫌だとは言えなかった。

 私は曖昧に微笑み返して、視線を落とした。




新年明けましておめでとうございます。


今年も亀更新となりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです(^^)

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