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imitation*kiss  作者: 滝沢美月
第2章 はじめての夏
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第17話  ため息がもれて side神矢



 合宿二日目。

 この日も道場に小森さんの姿を見かけないことに気づいて、俺はそっとため息をもらした。

 朝練が始まった時に、小森さんが俺の顔を見て気まずそうにしていたから朝のことを気にしているのだろうとは思ったけど、まさか避けられるとは思わなくてちょっと傷ついている自分いた。

 まあ、あんなことがあったんだから避けたくなる気持ちも分かるけど……

 俺だって、まさか浴室の窓が開いているなんて思いもしなかったし……

 その後、道場の裏で倒れそうになった小森さんを支えて一緒に倒れた拍子に唇が当たるなんて思いもしなかった。

 とりあえず、自分の中ではあれは事故であってキスではないってことになっている。

 それでも、小森さんにとってはビックリする出来事だったから謝ろうと思ったけど、謝罪の言葉さえ遮られてしまい、謝れないままだった。

 まあ、ね。お互いに恥ずかしくて気まずいのは仕方がないとは思うけど。

 今朝と道場裏での出来事を思い出してかぁーっと頭に血が上って、俺は首を大きく横に振る。

 なるべくぎこちなくならないように普段通りに話しかけたのに逃げられてしまったから、ため息がもれる。

 おまけに……

 俺を避けるように視線をそらした小森さんが俺の目の前で、成瀬に練習を見てほしいと頼むものだから、胸の奥が鈍く痛んだ。

 たぶん、小森さんがいつも俺を先輩として慕って「練習見てください」と言ってくるのに、合宿に来てから小森さんは一度も俺のところには来ないし、道場に姿が見えないと思ったら道場裏でなんだか成瀬と二人で練習していたみたいだし。

 それがちょっとだけ、気に食わなかったんだ。

 懐いていた子犬が他の人に甘えているのを見てなんだか悔しくなる気持ちだと思う。

 俺は、成瀬に射形を見てもらいながら的を射る小森さんの姿から視線が逸らせなかった。

 一本打ち終わって射場から出てきた小森さんは、俺の視線に気づいたのかこちらを伺うように見るから。

 その瞳がなんだか泣きそうに揺れているから、俺は小森さんから視線をそらして自分の練習に戻った。

 小森さんに慕われるのは、そりゃあ、嬉しいし。

 見てくださいと頼りにされれば、教えてあげたいと思う、けど。

 入部して四ヵ月、そろそろ一年同士で練習を見合うことも必要だろうから、小森さんが成瀬に練習を見てもらうのはいいことなんだと自分に言い聞かせて、もやもやする思考を無理やり追い出して、練習に集中した。



  ※



 神矢先輩を避けるようにして成瀬君に射形を見てもらった手前、その日は午後練も成瀬君に何度か射形を見てもらった。

 だけど、成瀬君のアドバイスではなんだかしっくりこない。

 お願いしておいてこんな言い方は失礼極まりないけれど、成瀬君は私の今の射形がどんなものなのかは教えてくれるけど、その先の改善点までは示してくれなかった。

 当然というか、弓道はじめてまだ四ヵ月の人がああだこうだとはアドバイスできないだろう。

 そもそも、私は弓道歴三年で成瀬君よりも経験と知識は多いはずなのだから、成瀬君にアドバイスを求めるのは間違っているのだろう。

 まあ、弓道歴が長いからと言って、イコール経験と知識が豊富とは限らないけれど。

 今の段階では、まだ成瀬君よりは私の方が経験量も知識量も多い方だろう。

 やっぱり、神矢先輩に見てもらわないとダメかも……

 何度考えても結局はその結論にいたって、私はため息をもらした。



  ※



 今度こそ神矢先輩に射形を見てもらおうと決意したのに、そういう時に限って、練習がなくなってしまうなんて……

 安土を照らすライトが壊れてつかなくなってしまい、的が見えなくては練習できないので、急きょ夜練は中止になった。

 本当なら練習している時間にすることがなくなってしまい、時間を持て余してしまう。

 先輩達はそれぞれの男子部屋に遊びに行ってしまい、女子部屋に一人になってしまった私はあてもなく部屋を出た。

 女子は一部屋、男子は三年生が一部屋で、一二年生で一部屋だから、玉城先輩達が二年の男子部屋に行く時に一緒に行くかって誘われたんだけど、昨日みたいに疲れて寝入ってしまって迷惑かけたら申し訳ないと思って部屋に残ることにしたのだけど。

 早い時間にお風呂に入ってしまって、かえって目が覚めてしまった。

 一度は布団に入ってみたものの、なんだか目は冴えてしまって眠れなくて、少しぶらぶら歩いたら眠くなるかなと思って部屋を出て、廊下を歩いていたら、階段を上がってきた神矢先輩と出会った。

 なんだか気まずくて、ぺこりと会釈して足早に神矢先輩の横を通り過ぎようとしたら、声をかけられた。


「もしかして、成瀬のとこ行くの?」

「えっ……?」


 感情の読めない静かな眼差しで見つめられて、私は瞬きして神矢先輩を振り仰いだ。




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