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執行フォクシー  作者: 荏胡麻
初ノ章
2/2

1/*お姉さんの心情は

手を伸ばせば、比較的背の低い桜の木の枝の先に、届きそうだ。


耳を澄ませば、がやがやと騒いでいる新入生の中から、生徒会長の演説が聞こえる。


目を凝らせば、新たな友達を次々に作っていく生徒の奥に、一人だけイヤホンを耳に押し当てて、周りの騒音を遮っている、彼の姿が見えた。


「苑、」


静かに、その名前を呼んだ。

その声に気づいたのか、彼はこちらを振り返ってから、苦笑いしながら、堅く、手を振る。


そのことから、彼がイヤホンで何も聞いていないのが分かった。じゃあ、しなくても良いのに、と言いたくなるが、プライドのまあまあ高い彼に、そんなことを言っていいはずがない。


……ただでさえ今、反抗期だというのに。


「……」


弟が、同じ学校に入った。

部活、何に入るのだろう。

私の部活に勧誘しても、大丈夫だろうか。


無意識だが、そっと、小指にはめている、ピンキーリングを見つめた。

緑色の宝石のついた、小さな指輪。

指輪の裏には小さく、canariaと掘られており、これは『チームカナリア』に所属している、という証なのだ。



『――と、いうわけでありまして、今年度の入学式を、終わります――』



「はは、」


ほとんどの人が聞いていなかったことについては、生徒会長も分かっているだろう。


だから、早く切り上げたかった、ということなのだろうか。


「ねー、モアの弟ってさー……」


「部活以外の時にその名前で呼ぶのはよしってって言ってるでしょ、琉李」


「もー、話の腰を折らないの!

そ、でー、モアの弟君って、あの子だなぁーって」


そうだけど、そう短く返すと、琉李はいつもの笑顔で、唇に人差し指を置きながら、目を鋭く尖らせた。



「……あの子、勧誘してもいい、よね?」


「……お好きにどうぞ。」



だめ。なんて言っても、きっとやめないだろう。

長年の付き合いから、それはもうわかっていた。

"好きにして"。この言葉はきっと、琉李にとっては、OKの意味を持つのだろう。



――私たちの部活に入って、苑がどこまでやれるのか、

少し楽しみでもありながら、少し、心配でもあった。


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