Demon of slum.〜スラム街の鬼〜
王様の使い「では、帰還した勇者様のスピーチです!」
会場が沸く。
拍手喝采に包まれながらまだ、食べ足りないという表情をした勇者が、演説台の上に立つ。
一部からは、
「いい気になるなよ。」
という、罵声の声も聞こえる。
だが、拍手と罵声両方を断ち切る勇者の声が会場に響く、
「なにが聞きたい?」
予想外の第一声。
貴族とメディアが集まるこの会場に更なる熱気が漂う。
ただ、その熱気は海に浮かぶ丸太のようにゆらゆらと揺れ戸惑いも表しているようだった。
そして、ほんの僅かの沈黙の後、一人の青年が立ち上がる。服装からして、メディアで間違いないだろう。そして、問う。
「どんな、仲間さん達だったのですか?」
全員の顔が歪む。
これは、タブーだ。
青年の隣にいた、眼鏡をかけた中年メディアは、顔が引きつっていた。
メモ帳も閉じてしまっている。
これは、勇者にとって一番認めなくない現実だろう…
だが、勇者は陽気に話し始める。
「いやぁ、仲間はいい奴等だったよ。あいつらといた時間はかけがえのない物さ。」
一部の人は安堵の表情を浮かべるが、まだほとんどの人は、勇者の言葉一つ一つに恐怖を感じている。
いや、一つでも聞き逃すのが怖いのかもしれない。
「じゃあ、まず戦士の話をしようか。」
全員は、彼の話に吸い込まれるように聞き入った。
どこから話せばいいかな…
とりあえず、彼の名前はエギル・ゴート
エギルは、もともとスラム街の住人だった。
まぁ、僕もそうなんだけど。
その部分では共通点があって、一番信頼関係を築けていたと言ってもいいかな。
そんで僕は、ある日魔王討伐パーティの募集のポスターを見つけたんだわ。
だけど、最低でも自分を合わせて四人仲間が必要だって書いてあった。
ただ、勝率を上げるなら大人数の方がいい。
だけど、大人数で行けば馬鹿みたいに弾む報酬金は減るし、それによって仲間割れも起こりかねない。
そして、僕が選んだのは少人数だった。
なんで、そこまでしてお金が欲しいかっていうと、この腐ったスラム街を復興させるため。
今では、その考えが甘かったって酷く後悔してる。
あ、ごめん。
エギルの話だったや。
それで、誘ったのがエギルってわけ。
もともと知り合いでは無かったけど、ただ、強そうだったから。
ただ、当時の彼はかなり気難しい奴でね。
まぁ、きっと今もそうさ。
仲間になって欲しいなら、決闘で俺に勝てって言ってきたわけだよ。
正直、無理があると思った。
ただ、このチャンスを逃せばもうこんな強い奴を仲間に出来ないと思ったから、負けると知ってても戦ったよ。
まぁ、案の定ボロクソになったんだけど、
エギルの出してきた条件は、俺に勝てってだけで、僕が負けるための必要条件みたいなのがなくて、僕は勝つまで無限に戦えることに気づいたんだ。
それで、多分丸一日戦ったと思う。
そしたら、エギルの方が折れて仲間になってくれた。
その時は飛び跳ねて喜んだよ。
まぁ、両足は折れていて飛び跳ねるなんて無理な話なんだけどね。
本当に嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
その次の日、彼がスラム街の鬼と呼ばれるようになった出来事が起こった。
エギルと僕は昼ご飯を食べに行ったんだ。
ただ、スラム街のレストランなんざ、清潔感なんてあったもんじゃない。
まぁ、それでもあの店のオムレツは美味しかったよ。
それで、二人で色々話しながら食べてたら、
なんか僕達が言えたことではないけどいかにも悪そうな三人組のトリオが入店した。
そしたら、店をぐちゃぐちゃに荒らすわけ。
僕も腹はたったけど構ってられるかと思ってほっといたの。
こんな正義感の「せ」の字もないやつが、勇者やってたんだったのかって思うでしょ。
だけど、エギルは違った。
エギルは、その三人組を力ずくで止めようとした。
でも、それは暴力と言うには言い過ぎな感じのものだったの。
なんていうか…
先生が子供に少しキツく叱る時みたいな?
だけど、その三人組はもともと用意してあった傷を剥き出しにして、遠くまで聞こえる声で叫んだ。
「鬼だ!!!鬼が暴れてる!!!」
そしたら、あら大変。
あっという間に噂は広まった。
そして、エギルは街から追放されちゃったんだ。
というより、エギルが自ら出て行った。
それを当然僕も追っかける。
そして、二人で街から離れた小屋で暮らすことにした。
それでも、僕はちょくちょく仲間集めにいってた。
そこで見つかったのが、僧侶。
じゃあ、次は僧侶の話をしようかな。