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マオさんとユウさん

自サイトより大幅修正・改稿して転載

暗い暗い森の中。

その奥の奥にぽっかりと開いた場所がありました。

真っ暗な森の中でそこだけ太陽の光がさんさんと差し込み、小鳥や小動物の声が聴こえるそんな場所がありました。

そこには、今にも崩れ落ちてしまいそうなボロボロな家…まるで物語の中の魔法使いが住むような家がありまして、そこにはマオさんという男が一人住んでいました。

マオさんの家には畑が2つあり、マオさんはそこで野菜を育てて生活をしています。

今育てているのは、真っ赤なコネリにポータと呼ばれる芋の仲間、それからマメ科のホロホロです。


「さてさて、今日もいい天気だね」


ポクポクと畑を耕していたマオさんは、凝り固まった腰を伸ばしながら空を見上げると、「そろそろ昼時か」と真上になった太陽に目を細めました。

今日は本当に良い天気です。

あまりに良い天気が続くのも考えものだけれど、心配するほど雨が降っていないわけではありません。

マオさんが肩にかけていた手ぬぐいで汗をぬぐっていると「おう」と後ろから声をかけられました。

マオさんが後ろを振りかえると、そこにはユウさんが立っていました。

野良仕事姿のマオさんとは違い、ユウさんはまるで騎士様のようなキリっとした格好をしています。

「おや、ユウさん。お久しぶり」

マオさんが微笑んでいうと、あまり愛想がいいとは言えないユウさんは無表情のまま、また「おう」と言いました。

「今からお昼にしようと思うのだけど、君はもうたべたかい?」

「いいや」

「なら一緒にどうだい。といっても大したものはありはしないけれど」

マオさんはそういってユウさんを誘い、お昼にすることにしました。


マオさんが作った昼食は畑でとれたコネリにポータ、そして少しのベーコンの入ったスープ。それから少し固くなったぶっ格好な丸パンです。

質素な食事ですが、マオさんの食事はいつだってこんな感じです。

二人は台所にあるテーブルに向かい合って座り、質素な食事を口に運びます。

「うん。少し味が足りなかったかな」

マオさんがそう言うと、「足りないなんてもんじゃない。青臭いし、ベーコンについてる塩っけしか味がしない」と、むっつりとしたままユウさんは返します。

「そういえば、味付けを忘れていた気がするよ」

「お前はいつもそうだ」

「そうだったかな」

ぶっきらぼうなユウさんの言葉に、マオさんは首をかしげつつ味のしないスープを口に入れました。

味はやっぱりしませんでしたが、まずいわけではありません。

味がしないほうが、まずいよりマシです。

料理人によっては逆のこともあるかもしれませんが、マオさんが料理した場合はそうなのです。

そのことを二人は知っていましたからそれからは無言で食事を続けました。


「それで何かご用?」


食事を終えてマオさんがきくと、うんとユウさんは頷いた。

「用がなけりゃここになんか来ない。実はロマティ王国の侍女に呪いをかけてほしいんだ」

「呪いを?それは穏やかじゃないね」

「まぁね。ところで食後のお茶はでないのか」

口をムニムニさせながらユウさんが催促すると「あぁはいはい」とマオさんは立ち上がり、お茶を入れるためにヤカンコンロにかけました。

コンロといっても私たちが知っているIHでもガスでもありません。中に火の魔石が入った魔法コンロです。火の調整が難しいのが難点ですが魔力が無い人にも簡単に使えるためこの世界では広く普及しています。

「それでどうして呪いをかけるの?」

「うん。俺はね、彼女をロマティ王国の王子さまとくっつけたいのさ」

「人の恋路の手助けですか。ユウさんは相変わらずだね」

ふふふと笑ってマオさんが目を細めると、ユウさんは居心地わるそうに視線を反らしました。

「王子さまは侍女のことがずっと昔から好きなんだ。だけど侍女はそうじゃない。好きじゃないどころか、王子のことは嫌いなんだ」

「それはまたどうして?」

「王子が、殿様ガエルにそっくりだからだ」

「へぇ」

「すごく太ってて、唇が厚くておおきくて、目は小さくて、鼻は団子みたいで、顔には吹き出物があって、汗でてらてらしてて、手が短くて、指が短くて、足も短くて、頭が大きくて、首がないけど、顎がみっつくらいある」

それは確かに殿様ガエル…いえ、どちらかというとイボガエルではないでしょうか。

マオさんはユウさんの言うとおりに王子を頭の中で組み立ててみました。その結果、なんだかとても可愛らしい王子様がマオさんの頭には浮かびました。

玉座にふんぞりかえるカエル。頭の上には金色の王冠。

「…でも、ユウさんが彼を応援するくらいだからいい人なんだろうね」

マオさんが言うと、ユウさんは不機嫌な顔でコクりとうなずきました。

不機嫌な顔ですが、ユウさんは別に怒ってやいません。ユウさんは表情を表に出すのが苦手な上、とても照れ屋なのです。まぁこの場合は別に照れてはいませんが。

「王子は生まれたときから不細工だった。みんなに不細工だと嫌われていた。気持ち悪いとか、あっちいけとか、王子なのに石を投げられたり、池に落とされたこともあった。だけど腐らなかった」

「へぇ」

「いいやつなんだ。アホみたいにやさしいやつで、頭だっていい。きっと将来はよい王になるはずだ。ただ外見がわるいだけで…。外見が全部邪魔をしてる。みんな外見で誤解してるだけなんだ。王子が惚れてる侍女も含めて。だから応援したい」

「その侍女はどんなひと?」

「うん。外見は可愛らしい。そして野心たっぷりだ。彼女は次期王の嫁になりたいんだと」

「へぇ。だったら、その王子様のお嫁様ってことじゃないの?」

「彼女はそう思ってない。なにしろあの外見だからな。きっと彼の弟が王位につくと思ってるよ」

「へぇ。なかなか野心的みたいだね」

「あぁ、確かに性格はよろしいとは言えない。だけど、本当はいいこだ。今は家が傾いてて周りの事が見えなくなってるけど…。きっと二人ならうまくいくんだ」

ユウさんは難しいの顔をして唸りました。

マオさんは、本当を言うと彼の話はよくわかりません。

とうのカエル王子と侍女を直接は知らないのだから当たり前です。

ですが、マオさんはユウさんをとても信用していました。

だから「わかったよ」と彼の頼みをすぐに聞いたのです。

「でもどんな呪いをかけたらいいだろうね」

「それだ。それが問題だ」

そういったところで、やかんがピーとなきました。お湯が湧いたのです。

「濃いめにたのむ」

立ち上がるマオさんにユウさんがいうと、マオさんは「わかりました」と楽しげにいいました。

そうしてマオさんが入れたお茶はとってもどろどろとした緑色のお茶でした。

「これはなんだ」

ユウさんがきくと、「ピーだよ」とマオさんはいいました。

「自家製のピーの葉茶さ。他にもいくつか薬草をいれたスペシャルブレンド」

「飲めるのか」

「失礼だなぁ。飲めるよ」

マオさんはそういってどろどろを一口飲むと「やっぱり飲めないよ」といって、お茶を入れ直しました。

今度はほとんど色がついていない白湯に近いものでしたが、ユウさんは文句はいいませんでした。

少なくとも今度のものは飲めそうでしたから。

「そうだ。彼女をカエルにかえちまうのはどうだろうね」

ずずずっと白湯…お茶をすすってマオさんは言いました。

「カエルに?」

「そう」

「それでどうする」

「一言でいえば、カエルの王子さまの逆をやるのさ」

童話、カエルの王子さまを知っていますか?

知らない人は、目の前にある箱に聞いてください。

それすら嫌だという方の為にあらすじをのべますと、わがままなお姫様の元に、ある日カエルが友達になってほしいといいます。そしてすったもんだの末、カエルにお姫様がキスをすると呪いをかけられていたカエルが王子さまになって、二人は結婚する話です。

だいぶ端折っていたり、小道具が足りなかったりしますが、まぁ大体こんなかんじのお話です。

このお話の場合、わがままお姫様はイヤイヤカエルの友達になって、ついにはキスをするという流れなのですが…

「なるほどね」

ユウさんはマオさんの言いたいことがわかったように言います。

「きっとしゃべるカエルなんて酔狂なもんを囲ってくれるのは、カエル王子だけだろうね」

「そう。それで侍女がほだされればいいじゃないか」

「ほだされるというのは言葉が悪いぞ。マオさん。侍女は王子の内面の美しさに惹かれるんだ」

「あぁそうだろうとも。では、ちょっとまってて」

そう言って立ち上がったマオさんは隣の部屋にいくと、すぐに可愛いコブタをつれて戻って来ました。

コブタは酔狂なことにベビードールのような服を着ていて、頭にはお城に仕えるメイドがつけているようなレースつきのカチューシャをはめています。

「なんだ、お前はいかないのか」

ユウさんが言うと、「一応立場があるからね」とマオさんは言い、コブタをユウさんにもたせました。

コブタはおとなしくユウさんに抱かれプイプイと小さく鳴きます。

このコブタ、見た目こそコブタですが…

「呪いならリュディヴィーヌは得意だからきっと役にたつと思うよ」

正体はちょっと違います。

見た目よりずっと重く、大層な名前を持つコブタはつぶらな目をパチパチとまたたきながらユウさんを見ます。

「それで?呪いを解く方法はやはり思いの通じ合った相手とのキスか?」

ユウさんはコブタから嫌そうに目をそらしマオさんを見ました。

「うーん。カエル王子の恋がかなったら?っていうのは?」

マオさんの言葉にユウさんはいい考えだと頷きます。

「そうだな。それでいいだろう」

そしてすこしばかり意地の悪い笑みを見せます。

「では、リュ…」

「リュディヴィーヌ。ルディでいいよ」

「じゃぁルディを借りていこう」

「うん。いってらっしゃい。リュディヴィーヌも頑張って」

ユウさんは立ち上がると、「じゃぁまた来る」と言って帰っていきました。

マオさんはユウさんとコブタを手をふって見送ると、後片付けを後回しにして畑をポクポク耕す仕事に戻りました。

※マオさん = この世界の魔王様。

 ユウさん = この世界の勇者様。

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