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第三章 家族

「今日からこのクラスに編入になりました、高塚苺花さんです。

 みなさん仲良くするように」

 HRで担任から紹介をされた苺花は、今日から新しい制服を身につけていた。

「高塚です、よろしくお願いします」ぺこり、と頭を下げた。

「あー、じゃぁ席は神崎君の隣で」

 このあたり、全て折り込み済みである。礼子嬢は仕事の手際がとてもいい。彼女の両親への説得もスムーズに済んだ。しかしそれも、拓人の日々の努力の積み重ねによるところが大きかった。

 拓人の隣に座った苺花は、少し嬉しそうだった。少し、と言えば語弊がある。本当はとても嬉しかったが、それを押し殺してなお、漏れ出た嬉しさが見え隠れしていた、という方が妥当な表現だろう。

 休み時間になると、加藤を交えた三人で談笑していた。このまま何もなければいい、と誰もが思っていた。


 この状況に一番驚いているのは、このクラスの他の生徒だった。

 普段は殺伐として外面を取り繕い、級友から逃げるように学校生活を送っていた拓人が、生き生きとした普通の青年に変貌していたからだ。


 苺花と同じマンションに住んでいる女子生徒が声をかけてきた。

「あの、私高塚さんと同じマンションに住んでる横山です。

 ……その、高塚さんも、やっぱり避難してきたカンジ?」

 恐る恐る声をかけてきた。

「うん、両親と三人で避難してきたばかりです」

「そっか……。ところで、いつも神崎くんが送り迎えしてるよね。

 今朝なんか手つないでたし。やっぱ二人って付き合ってるの?」

「いえ」苺花は顔を赤らめ、うつむいた。

「うん」二人同時に答えた。

 一瞬気まずい空気が流れる。

「あーー……なんかいけないこと聞いちゃったかな……」

「いやいや、大丈夫。お前なに言ってんだよ。」

 コツンと苺花の頭を叩く拓人。いたい、と苺花。

 「俺たち昨日から付き合ってっけど、何かあるの?」と苺花を抱き寄せた。

「うふふ。神崎くん、よかったね。なんか前よりすごく明るくなったし。

 高塚さんのおかげだね」

「なんだか俺、すっごい根暗みたいな言われようなんですが……」

 拓人のアホ毛がげんなりしている。

「うち305号だから、何か困ったときとか声かけてね。高塚さん」

 拓人を無視して苺花に言う。

「ありがとう。うちは1015号です。こちらこそよろしく」

 じゃ、と言って横山は自分の席に戻っていった。

「多分、横山さんもテロ難民だから声かけてくれたのかも……」

 苺花は少ししんみりした。

「そうかもな……きっと、似たもの同士のシンパシーってやつかもな。俺にも分かる」

「せっかく戦争に勝って、頭の沸いてる連中から国も守れたってのにさ、なんでこんなイヤな時代になっちまったんだろうな」加藤が窓の外を眺めながら、独り言のように言った。


     ***


 神崎有人は、息子を襲撃した二名の来歴を調べていた。

 しかし、怪しい痕跡は一切出てこなかった。恐らく、巧妙に身分を隠匿しているのだろう。更に分かったことは、インプラントした筈の身分証チップが無くなっていることだった。本来、悪意をもってこれを除去するような可能性は当初から考慮されておらず、意図的に除去されたとしても市当局にはそれを知る術はなかった。拓人が始末をしたテロリストの一人も、身元が未だに掴めないでいる。今回、全くの後手に回ってしまったことを、有人は激しく後悔していた。

 

「礼子さん、拓に刺さってた金属片の分析終わった?」

 有人は理事長室の机に齧り付き、必死にPCの情報を何時間も精査していた。息子がボロボロにされたことで有人はかなり気が立っており、普段の冷静さを激しく欠いたまま作業をしていたので、非効率なこと甚だしかった。

 理事長室の机の上には、折り曲げ式の薄型PCモニタが机上を囲むように展開し、画面には様々な情報がリアルタイムで映し出されている。中には、不法入国者やテロで逮捕された者のリストもあった。

「いま化学部門が分析を急いでいます。もうしばらくお待ち下さい」

「時間かかりすぎだろう! 何時間経ってると思ってるんだ。この間に逃亡されたら手が打てないじゃないか」有人は拳で机を叩いた。

「済みません、司令……」申し訳なさそうな顔をする礼子嬢。

「……もう司令はやめてくれないか、礼子さん。今の俺はここの理事長だ。……こっちこそ、怒鳴って済まない。別に君のせいじゃないのに……」

 しゅんとする有人。彼はくるり、と椅子を反転させ窓の外を見た。

「拓人くんの証言にもあったワンボックスですが、停車していた場所は付近の監視カメラの死角になっており、特定も出来ていません。周辺の監視カメラのきっとジャミングもしくはステルス能力を有する者の仕業ではないかと思われます」礼子嬢が机の上にお茶を置いた。

「だろうな……ここまで尻尾を出さないとなると、通り一遍の方法ではもうムリなのかもしれない……さて、どうしたものか」有人は湯飲みを取り、一口緑茶を含んだ。


 答えが分からない、というような口ぶりにもかかわらず、彼は何かを見つけたのか、市警から特殊チームの選抜作業を始めていた。この街の警察は、ほとんどが戦争中に有人の部下だった者で構成されていた。市警というよりも私設部隊といった方がより実像に近いだろう。


「相手はおそらく愉快犯だ。常識的な行動は取らないと思った方がいいだろう。しかし、解せないのは危機管理能力がかなり低い点だ。未熟な模倣犯、という線は捨てきれないものの、あの一家がここへ来る直前にちょっかいを出していた連中の手口を考えると、ますます分からなくなってくる……。

 確かに最初は娘の殺害が目的だった筈なんだが、なぜ途中で目的が変化したのか? そもそも変化したのは目的なのか。手段が、追っている奴が変わっただけなのではないか。そしてそれが未熟だったとしたら。……ああ、分からない」

 有人は、指揮官として優秀であるが故に、思考のループにはまっていた。


 彼は万一を考え、苺花の両親の監視を指示、住居周辺に覆面パトカーを配置して要人さながらの警備を開始した。これらは高塚一家に不安を与えないように、という有人の配慮から、当人達には知らされることなく秘密裏に行われていた。また、苺花に関しては引き続き拓人が護衛をすることになるが、やはり彼女等に圧迫感を与えないようにするため、遠巻きな警護という煮え切らない手段を取らざるを得なかった。親として、せっかくの息子の恋路に干渉することは、やはりはばかられるからだった。


     ***


 転クラス初日は何事もなく終わり、拓人と苺花、加藤は苺花の家に向かった。

 三人が苺花のマンション前に到着したときに、急に加藤が口を開いた。

「じゃ、俺これから用事あるから、ここで帰るわ。また明日ね、苺花ちゃん」

 ウインクをする加藤。

「あ、そうなんだ。ありがとう、送ってくれて。またね」手を振る苺花。

「おう。また明日な」苺花に見られないように、こっそりと手を合わせる拓人。

 二人は加藤を見送ると、マンションのドアを通り、エレベーターホールに歩いて行った。


「ただいまー」

「おじゃましまーす」

 二人は同時にそう言うと、玄関で靴を脱いで上がった。

 居間の前を通るときに、拓人は苺花の母親に会釈をして、そのまま苺花について彼女の部屋に入っていった。


 正直、恋仲になって日の浅い彼等にとって、親のいる自宅での逢瀬はきゅうくつなことこの上ないが、家の外ではいつ何時テロリストの標的にされるかも分からない。

 狭い部屋で身を寄せ合って手を握り、夕方までのひとときをひたすら他愛もない会話で埋め尽くす。

 時折、若い体を持て余してまんじりとも出来ず、ただため息をつく事もしばしばだったが、それでも二人の心の絆だけは、時を重ねる度、綾を描くように織り上げられていった。


 その日、話題の尽きた拓人は、苺花の部屋の本棚を物色していた。人生経験も浅い二人では、さすがに毎日顔を合わせていると、いいかげん話題も尽きようというものだった。

「アトムってさぁ、親父曰くは昔のマイノリティ、つまり有色人種とか奴隷とかをロボットに置き換えた話だ、っていうんだけどさ、正直現代のマイノリティって俺等だよね。」

「うーん、多分そうかもね。」

 苺花は、ベッドに寄りかかり大きな猫のぬいぐるみを抱えて床のラグマットの上に座っている。投げ出された足の先は、たいくつそうにぷらぷらと左右に振られている。

「でも、実際にアンドロイドとかいても、きっと人間は彼等に人権なんて絶対に与えないだろうなぁとは思う。自分たちで勝手に命を産み出しておいてだよ。でも、そういうやつらだよな、人間ってさ。」

「そうかなぁ? 今は私たちみたいなのもいるし、っていうのはお気楽過ぎるのかな」

「俺等のほとんどは、付喪神つくもがみやホムンクルスでもなければ、別に人間に作られたわけじゃないし、もっと昔からいるからギリセーフだけども、ロボはなぁ。機械にも魂が宿る、っていうか俗っぽい言い方しちゃうとゴーストが宿るっていう概念を、事実として受け入れられるだけの精神的キャバシティがないんだよ」

「まぁ、精神のキャパが狭量だ、っていうのはパパもいつも言ってるし。」

「だろ? たかだか数十年で死ぬような種族じゃ、そのへんが限界ってことなのかね」

「ふーーーん、あんまり難しくなると話わかんないよ~。もー。いいからここ座って。」

 そういうと、苺花は自分の脇の床をぽんぽんと叩いた。

「へいへい。苺花さんは、まだ俺に甘え足りないのかな?」

 苺花の方に振り返ると、にやり、と笑った。

「ふーんだ」苺花はぷい、と横を向いてしまった。

「しょうがないやつだなぁ……」

 そう言うと、拓人は苺花の傍らに坐り、彼女の顎に指を添えて自分の方に向けて、濃厚なキスをした。二人ともたくさん練習をしたのか、すっかりキスに慣れた様子だ。苺花は、甘い吐息を漏らしながら、拓人の首に腕を回している。拓人は、苺花の舌を弄びつつ、そのまま押し倒してしまいたい欲求と必死に戦っていた。

 拓人は大きく息を吐き、苺花の両肩を押し返した。彼女はひどく名残惜しそうな顔だ。

「もう、限界。か、勘弁してよ苺花」

 拓人は、頭を左右に振り、何かを追い払おうとしているようだ。

「な、何がよ」苺花は、意味が分からないという顔をしている。

「何と罵られてもいいけども、俺だって年頃の健康な男子なの。

 好きな女子と濃厚なチューなんかしてたら、

 欲情しまくって性欲を持て余すの、当たり前だと思わない?

  ていうか思って欲しいんだけどさ」

 苺花に背中を向けて体育坐りをしている拓人。

「あ、えと……ごめん。気がつかなくて……。

 私ばっかり甘えたくて……ごめん。」

「お前が悪いわけじゃないから。

 ただ、そういう生き物なんだって分かって欲しいなぁと……」

「うん……努力する……」少し淋しそうな顔になる苺花。

「ま、努力すんの俺だけど。こういうのを生殺しっていうんだろうなぁ……」

 拓人は、抱えた膝に突っ伏した。

「あ、そうだ。お茶、新しいの持って来るね」

 そう言って苺花は盆にカップを乗せて部屋から出ていった。

「正直すんげえしんどい……。

 俺ってこんなにエロ魔神だったっけ? はぁ……」

 拓人のアホ毛はぐったりしていた。


 しばらくして、苺花は入れ直したお茶とともに、白波名物のホワイトチュロスを持ってきた。

「さっきパパが帰ってきて、これ買ってきたの。拓と一緒に食べなさいって。」

 苺花は、両親が拓人を気に入っている事が嬉しいらしい。笑顔がこぼれている。

「おーー、それ俺すっげえ好物なんだよ!

  ラッキー! もちもちしてるのがいいんだよな、これ。

 いつも店が混んでるから、って言ってなかなかお袋が買ってきてくれないんだぜ?」

 好物の出現ですっかり気が紛れたのか、どうやら悶々とした気分はリセット出来たらしい。再びおしゃべりがはじまり、話題は再びさっきのロボットに戻っていた。

「あとさ、やっぱこういうロボット、っていうか意思のあるアンドロイドの実用化ってそう遠くはないと思うんだ。」

「へー。今のトコはまだ見た目だけで、中身はまだずっと先のことじゃないかと思ってたけどなー」苺花は、父親が理数系なせいか、SF的な話題にもそこそこついてこれる少女だった。

「伯父さんとこの会社、メインはバイテクだけどさ、最近ロボット関連の会社を合併したんだ。で、こないだ遊びに行ったときに開発中のロボットを見せてもらったんだけど、かなり精度の高いAIが入っていて驚いたよ。

 まぁ、そのAI開発してるのが人間じゃないからさ、本当にそう遠くないかもしれない。あとはそれを乗せる筐体の方がどこまで小型化出来るかっていう、そのへんの開発待ちっていう雰囲気だった」

「すごいな~。あ、今度見学行くとき私も連れてってよ。ホントはパパが一番見たいかもしれないけど」苺花は拓人の腕にしがみついてきた。

「ああ、いいよ。おじさんとおばさんも連れて行こう。会社は外国だから、飛行機になるけどそれでもいいなら」

「飛行機? うーん、チケットいくらくらいするのかな?」

「え? ああ、そか。……えっと、自家用機だからいらないよ。操縦するのも親父だし」

「うっそーーっ、……なんかそういうの聞くと、キミが本当にセレブなんだってなぁって実感しちゃうよ。あーあ」苺花は拓人の肩に頭をくっつけた。

「べつに、なりたくてなったわけじゃねえし……。ていうか、そのせいで俺がイヤな思いしてるってこないだ言っただろ?」

「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど……。

 うち、ずっと貧乏だったから、なんかそういうの聞いちゃうと、

 雲の上の話っぽくて実感沸かなくて」

「いいよ、別に怒ってるわけじゃない。

 それに……セレブの嫁はいやか?」ふと、苺花の顔を覗き込む。

「具体的には考えたことないけど……

 まぁ、女の子なら漠然と、王子様との結婚とか、

 玉の輿、とか、そういうの考えない子っていないと思うよ?」

 下を向いてぼそぼそいう苺花。

「ふーん……。そうなんだ……」そう言って、苺花の額に軽くキスをした。

「じゃ、そろそろ帰るよ。お前んちもメシ時みたいだしな」

 苺花の頭を撫でると、荷物をまとめ始めた。

「うん……」まだまだ名残惜しそうな顔の苺花。


 二人が部屋を出ると、居間で苺花の父が科学雑誌を読んでいた。

「おじさんおじゃましてますー。俺もう帰りますのでー」

 そう言うと拓人は頭をぺこりと下げた。

「おお、気をつけて帰るんだよ、神崎くん」

「はーい。ではー」苺花を伴って玄関まで行く。

「じゃ、ここでいいから。また明日」

 ぐずる苺花を持て余しつつ、二人は玄関で別れた。


 拓人は、階下に降りると、マンションのロビーから加藤に電話をかけた。

「おう、俺。さっきは気遣わせてすまんな」

『いいって。大変な思いをしてるお前らへの、俺からのささやかなプレゼントだ』

「本当にお前ってマジ、仏的なヤツだな。愛してるぜ!」

『キモイからやめれ。まぁ、とりあえず安全そうなら、帰りもお前一人で付き添うってのでいいんじゃないのか?』

「そうだなぁ……。今晩にでも親父に聞いてみるよ」

『(はーい、今いく)すまん、おかんが呼んでるから切るぞ』

「おう、ありがとな」

『じゃ』

 拓人は携帯をパチリと閉じて、上着の内ポケットに入れた。


     ***


 自宅に帰ると既に日は暮れており、父も帰宅していた。

「ただいまー。親父、今ヒマ? だよなぁ……」

 拓人は、居間のソファで猫と遊んでいる有人に声をかけた。

「ん。なんだ?」ねこじゃらしを小刻みに振り、猫を誘っている。

「あいつらの居場所って分かったのか?」弁当箱を袋から取り出しながら言った。

「ああ、ちっともわからん」

 猫がシャーっと有人の手を引っ掻いている。

「相変わらず、猫と遊ぶのヘタだな親父は」

 そう言うと、拓人は猫のおもちゃ入れから別のねこじゃらしを持ち出して、ソファの前の床にあぐらをかいた。

「お前、彼女とうまくいってんのか?」

 二人して猫の気を引こうと、シャカシャカとねこじゃらしを振り合っている。

「まぁな。でも、二人でどこにも行けないから、あいつんちで毎日缶詰。お袋さんもいるし、正直しんどい」

 おもちゃをひらひらさせると、興奮した猫が立ち上がって、真剣白羽取りよろしくキャッチしている。明らかに有人よりも猫の扱いは上手だった。

「だと思ってな。いい物お前に持ってきてやったぞ」というと、有人はズボンのポケットから、皮のキーホルダーについた二本の鍵を取り出した。

「なんだ、この鍵」拓人の意識が鍵にいくと、猫はフリーになったねこじゃらしを咥えて、ダイニングテーブルの下へ一目散に走っていった。

「高塚一家の住んでいるマンションのペントハウス、最上階の部屋の鍵だ。好きに使っていいぞ」有人は息子の手を取り、キーホルダーを握らせた。

「好きにって……」

「俺も昔、経験があるから分かるんだよ。」

「どういう?」

「大昔、俺が実家を出て兄貴の統治してる島に移り住んだ時、今のお前みたいに、誰からも『領主の弟』って色眼鏡で見られていたんだ。彼女が出来てもそういう奇異の目で見られるもんだから、どこにいても気持ちが休まることがなくってさ。」

「結局どうしたの?」

「俺は諦めて気にしないことにしてた。で、すぐに彼女と所帯を持った。そうしたら、もうだれも俺と彼女をあんまり気にしなくなった」

「そんなことがあったのか……」

「昔は逃げる場所もなかったからアレだが、今は便利なものがあるからな。

 ……窮屈な思いをさせて済まないと思ってるよ、拓」

「気にすんなよ。これ、有り難くもらっとくよ」

 拓人は鍵を上着のポケットに入れて立ち上がった。

「うん。あと――」

「何?」

「避妊はちゃんとしろよ」有人は親指を立ててにっこり笑った。

「アホ!」拓人は父の頭を殴って居間を出て行った。


     ***


 ここ数日、拍子抜けするほどこれといった面倒事もなく、今日も授業が終わった。

 この日は数学の宿題が出ていたので、拓人と苺花の二人は図書室で勉強をすることにした。苺花の自室のテーブルでは、低くて勉強がしづらいからだった。

 放課後の図書室は拓人と苺花の他に人影はなく、時折音楽室から流れる吹奏楽部の楽器の音色だけが微かに聞こえるだけだった。


「ねぇ拓人、ここのラノベコーナーってなんか蔵書が偏ってない?」

「うーーん、そうかもしんねえなぁ。親父が気合い入れて司書と目録作ってたから」

「スクラン、続スクラン全巻あるし。

 ……『おねがい☆女神ちゃん』も戦争で一時発行が止まってたけど、ここは戦後に復刊した最新刊まで揃ってるね。」

「うん」

「そういえばこの本の出版社って謎の外資系って言われてるけど、本当はGBIの関連会社なんでしょ? こないだパパが、多分そうじゃないかって言ってた」

「ああ、よくわかったね。なんで?」

「パパこっち来てからGBI社系の会社に再就職したでしょ?」

「うん」

「会社いったら、あっちこっちに『女神ちゃん』があったんだって。

 自販機のステッカーとか、受付の非売品マスコットとか、食堂のポスターとか、社内で配られている非売品メモ帳とか、見たことのない女神ちゃんグッズがいっぱいだったって。どおりで初日は機嫌が良かったわけだわ」

 拓人は、この会社の人はちょっとやりすぎじゃないかと思った。

「あー……もしかして、お父さんって、女神ちゃんのファン?」

「すごいファン。そっち系の本は全部自分の部屋にあるし。今度見る?」

「いや、遠慮しときます……」拓人のアホ毛がげんなりしている。

「ここだけの話だけど、『女神ちゃん』の作者って実は親父なんだよ。

「えーーーーっ、すごいね!」苺花の目がキラキラしてきた。

「いや……なんというか。昔、親父と伯父さんが何かの取引をしたらしくってさ、その報酬のひとつが『親父の同人誌を出す事』だったんだ。で、伯父さんは、親父のクソラノベだけを出版する会社を作った、ってわけ。ま、端から見れば意味不明だよな、あの会社。親父の本しか出版してねえんだもん」

「うっそ~……。やっぱりセレブのする事ってわかんないわ。でも、お父さんあんな可愛いラノベ書くんだね。なんか意外。」

「俺としてはキモイからこの世から消してしまいたいんだが」

「でもさー、十五カ国語に翻訳されて全世界で出版されてるし、アニメとかゲームとかも出てたじゃない? 戦前はアキバのビルというビルが女神ちゃん一色だったって、パパが言ってたもん」

「ふ~……。うちの親父のこと、頼むからキミんちのパパには言わないでくれ。なんかえらいことになりそうな気がするから……」

 宿題を始める前から、拓人は軽い疲労感に見舞われていた。


 二人は並んで座り、かれこれ一時間ほど数学の宿題をやっている。

「ねぇ、ここ……これで合ってるかな?」拓人が苺花に尋ねた。

「えっと、ちょいまってね。……うん、うん、あー……式が。これ」とマスコットのぶら下がった水色のシャープペンシルで拓人のノートをつついた。

「これが違ってる。でもなんで答え合ってるの? ヘンなの」くすくすと苺花が笑った。

「え? 俺にもわかんない(笑) しゃーない、消すか……」拓人は、該当部分の式と答えを消しゴムでごりごりと消し始めた。二人はまたしばし無言になった。


 ふいに、図書室のドアが開く。見回りの司書だった。

「あー、今いるの神崎くんたちだけかな?」図書室内を見回して司書の女性が言った。

「そう……ですね。多分。俺等いま宿題中ですけども……」拓人が答える。

「じゃぁ、終わったら閉めて帰ってくれる? カギここ置いておくから。じゃ、よろしく」

 職員たちからの全幅の信頼を置かれている拓人であればこそ、カギなどの重要な物を彼らは簡単に預けていくのだった。

「はーい」二人はそろって返事をした。ドアが閉まると、司書の足音が遠ざかっていく。

「俺等だけ……か」そう言われると、かえって意識をしてしまう。苺花がシャープペンシルをノートの上を走らせる音だけが聞こえる。それとともに、自分の鼓動も強くなっていた。

 しばしの無言の後、拓人が意を決して口を開いた。

「俺……親父よりは自虐的じゃないつもりなんだ」拓人は苺花の白い手を見つめている。

「……え? あの……どういう、話? 意味わかんないんだけど」苺花の手が止まった。


「苺花のこと、好きだよ」淡々と言う拓人。


「……うん、知ってる」あからさまに言われて、苺花の鼓動が早くなった。


「苺花とずっと一緒にいたいって思ってる」同じように続ける。


「……うん、それも知ってる」ノートの上で、シャープペンシルをくるくると回している。


「苺花が俺のこと……好きなの知ってる」恥ずかしさをかみ殺し、努めて淡々と語る。


「……うん、それも……知ってる……」ぱらり、とシャープペンシルが転がった。


 拓人は、息を吸い込んで言った。

「じゃぁ、これは知ってる?」


 拓人は苺花の方に向き直った。

「なあに?」


 拓人は苺花の両肩に手を置いた。

「苺花を、俺の嫁にしたい」


「え? ……あの……、えっと……」突然のプロポーズに動揺する苺花。

「俺じゃダメ?」哀願する眼差しで苺花を見つめる拓人。

「で、でも、普通は付き合ってすぐってないと思うんだけど……」目が泳ぐ苺花。

「それってさ、経済的にどうとか、お互いのことを良く知らないからとか、決心するには材料が不足しているからとか、そういう問題でしょ?」苺花の言に拓人は全く怯まない。

「今にしたって学生だし……私たち……」

「別に構わないよ。君のご両親が困るって言うなら、卒業するまでは婚約でもいい」

「でも……」

「俺にはお前が必要なんだ。絶対、幸せにするから。絶対、お前から離れないから。……俺が生きている間、俺の全てをお前に捧げる。――それでもダメなのか?」

「う、嬉しいよ……うん、すごく、嬉しい。

 私も、ずっと一緒にいたいって思ってる。

 でも……私なんかで本当にいいのかなって、不安なの」拓人の顔が見られず、下を向く。

 拓人は苺花を抱きしめた。

「俺、お前じゃないとダメなんだ……。ホントにダメなんだ。

 お前の事しか考えられない。いつもお前のことばっかり考えてる」

「私も同じ……だよ」

「お前は、俺の一番大事な『宝物』なんだ。だから、

 ……誰かに取られる前に、俺だけのものにしたい」

「拓人……」

「俺だけの苺花にしたい……」さらに抱く腕に力がこもる。


 しばしの沈黙の後、苺花が口をひらく。


「…………………………うん、わかった」

「苺花……」腕の中から彼女を解放した。

「じゃあ……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」苺花は深々とお辞儀をした。

「ありがとう。大事にするから。――よし、じゃ荷物まとめて。行こうぜ」

 拓人は机の上のノートを片付け始めた。」

「え? どこに?」

「いいからいいから、片付けて」

「うん……わかった」渋々荷物をまとめ始める苺花。


     ***


 図書室の鍵を職員室に置き、拓人は苺花の手を引いて理事長室まで駆けていった。

 いきなりドアを開けて入る二人。

「親父、いるか?」

「わ、びっくりした。なんだよ、ノックくらいしろよ」

 有人はソファに寝転んで、購買で買った早売りのジャンプを読んでいた。

「もう、ジャンプあとでちゃんと家に持って帰ってこいよ。って、そうじゃなくて!」

「なんなんだよ、もう。続き読みたいんだから、さっさと用件言えよ」ジャンプを開いたまま腹の上に置き、有人は不機嫌そうに言った。端から見ていると、兄弟の会話にしか思えないほど年が近く見える。

「ん? ……高塚さんも一緒? あやや、これは恥ずかしい所を……」

 有人は、拓人の後ろにいる苺花に気が付き、頭を掻いた。

「そう! あのさ、」

 拓人は苺花の肩をつかんで、自分の前にグっと押し出した。

「俺、彼女と結婚する!」

 満面の笑みで拓人は言い放った。思いっきり赤面する苺花。

「……え、ええーーーーっ? マジ?」

 有人はアホ毛をピンと立てながら、ソファからガバっと上半身を起こした。

 その拍子でジャンプが床に落ちた。

「超マジ。ていうかテラマジ。むしろギザマジ。」

 圧倒的なドヤ顔で言う拓人。

「ってカンジで彼に押し切られた、というか、なんというか……あはははは……」

 苺花がもじもじしながら苦笑いをしている。

「ふーん……」二人を交互に見る有人。

「なるほどな。……俺は祝福するよ。おめでとう、二人とも。

 まぁ、そんな所に突っ立ってないで、こっち座れよ」

 有人はソファから立ち上がり、床に落としたジャンプを拾い上げて自分の席に戻った。

「でさ、お前、彼女に婚約指輪とかあげたの?」

 有人が両手で頬杖をつきながら、ニヤニヤと聞いた。

「あはは……」苺花が苦笑している。

「あー……、すっかり忘れてた」拓人はアホ毛を垂れ下げながらうなだれた。

「えーー、ナシ?

 ……これだからお前はヌケてるっつーんだよ、バカ!

 しょうがねえなぁ。」そう言うと、有人は机の引き出しをごそごそとし始めた。

「ちょっと苺花さん」ちょっとちょっと、と言いながら有人は手招きをした。

「はい、手見せて。ふむ…………。あい、分かった。座ってていいよ」

 引き出しから、銀色の金属の塊と作業用ベース、工具数本を取り出した。

「礼子さーん、コーヒー3つとおやつもってきてーー」

 と、隣室にいる礼子嬢に声をかける。隣室からはーい、と返事が聞こえた。

「何すんだ?」ソファに座り直し、苺花の肩を抱きながら拓人が尋ねた。

「まぁ、おやつでも食ってDVDでも見ながら待ってな」

 そう言うと、有人は鼻歌を歌いながら、金属の塊をいとも簡単に高速で切り分けた。

「ねぇねぇ、何が始まるの?」苺花がぼそぼそと小声で拓人に聞いた。

「なんとなく分かった俺。まぁ見てなよ。希代の名工の匠の技をさ……」

 そう言うと、拓人はテーブルの上のリモコンを操作し、理事長室のテレビを付けた。


 テレビでは、丁度夕方のニュースが始まったところだった。

 数年前の戦争――広域領海紛争が終わってからこのかた、連日のように全国で殺人事件やテロが多発している。表面上、どの事件にも関連性が認められないため個別の事件として報道されてはいるが、そのうちの八~九割がNBノーブルブラッドや、連中に迎合する純血主義者、急進派などが起こした事件として、公安レベルでは認識されている。


「こんなニュースばっかり……テロなんて早くなくなればいいのに」

 苺花は暗い表情になった。

「大丈夫だよ、少なくともこの街にいる間はね。

 テロリストなんか入ってこれないさ。それに、俺も側にいるから」

「うん」苺花は頭を拓人の肩に寄せた。

 礼子嬢がコーヒーと菓子を持って隣室から入って来た。

「いらっしゃい。婚約おめでとう。お似合いよ、お二人さん」

 そう言うと礼子嬢は二人に微笑んだ。苺花は礼子嬢に会釈をした。

「どうもありがとう。いただきまーす」

 拓人は早速テーブルの上のクッキーに手を伸ばした。

 子供っ気が抜けないのは、親子共々のようだ。

「おい、拓。先方の親御さんにはもう挨拶したのか?」

 作業は続行したまま有人が言った。

「いや、まだ。さっきプロポーズしてOKもらって、

 そのまま親父んとこ来たから、これから言いに行くんだ」

 何かの段取りのように、淡々と語る拓人。

彼の思考は限りなくシンプルだ。

「え、これから報告? びっくりしちゃうよ、多分」小声でぼそぼそと言う苺花。

「あっそう……じゃぁ、アレも要るかな」

 有人は作業を一旦中断すると、机の中をかき回し一枚のICカードを取り出した。

 そして、別の引き出しから端末を取り出し、スリットにカードを差し込むと、キーボードで何かを打ち始めた。

「これ、持っていけ。手土産ナシじゃ、説得力もないだろうよ」

 端末からカードを抜き取り、机の端に置いた。

「なにそれ」クッキーをボリボリとかじりながら拓人が聞いた。

「――結納金だ。」

「結納金? なにそれ」拓人は古い日本の風習にはあまり詳しくないようだ。

「まぁ、結婚するときに新郎が先方の親に払う契約金みたいなもんだ。

 昔は、コンブとかスルメとかアワビなんかの、いわゆる縁起物を持っていったんだが、今時はもらった方も処分に困るから現金が一般的だ。

 とりあえず、一億入ってる。お前、使い込むんじゃねえぞ? 

 ちゃんと高塚さんに渡すんだ。いいな」

 金額を聞いた苺花が目を丸くした。

 有人は、交通カードにチャージでもするような感覚で、億単位の金を放り込む。

 使うべき場面では躊躇しない。そんな男だった。

「今、隣からのし袋持ってきてもらうから待ってな。

 ――礼子さん、のし袋持ってきて!」

「はーい」しばらくして、秘書室から礼子嬢が、立派な飾りのついた綺麗なお年玉袋袋のようなものを持ってきた。

「でかいお年玉袋だな、これ。飾りもなんかすごいね」

 拓人は、礼子嬢の持ってきたのし袋をしげしげと眺めている。

「アホ、これは『のし袋』だ。この飾りは『水引』っていって、贈答品につけるものだ。

 室町時代の日明貿易のとき、明の荷物に紅白の縄がついていたんだが、それを当時の日本人が贈答品につけるものだと勘違いしたのが始まりだ。

 俺リアルタイムで見たことあるぜ、それ。でもまぁ、こんなことは日本史の先生は教えねぇだろうけどな。ていうか知らねえかもしれんな。ははは」

「面白いお父さんだね(笑)」

「どうなんだか。……ありがとう、親父。

 本当に俺、なんにも知らないんだな……。ちょっと自信なくなってきた」

 拓人はICカードをのし袋に詰めながら、細工物を作っている父に言った。

「まぁ……なんだ。俺も、そういう事をお前に積極的に教えたわけじゃないし。

 俺がお前にしてやれた事は、戦闘訓練と生き物や武器の作り方を教えるくらいだ。

 俺にはそのくらいしか……お前にしてやれる事なんかないからな……。

 俺なんか……なんもない男だからさ……」

 有人は、そうぼそぼそと言いながら、手だけは動かしていた。

「あーーーもう、また鬱入ってんな?

 親父。これだから、この男は面倒くせえんだよ、全く。あーあ」

 のし袋を鞄にしまうと、ソファーに座って再びテレビに目をやった。

「拓人くん、お父さんにそういう事いっちゃだめだよ~」

「いいんですよー、苺花さん。もう、僕慣れてるから。僕は、嫁さんになぐさめてもらうからいいの、うん。根暗なのをマネして欲しいとも思わないしね。

 それに、いくら自分が悲惨な目に遭ってきたからって、息子に同じ経験をして欲しいと思う親なんかいないよ。いたらそれは親として、大人として失格じゃないのかな」

「そう……ですよね」

 普段は子供みたいなのに、この人もちゃんと親なんだな、と苺花は思った。

「別にね、もう過保護とか言われてもいいんだ僕は。

 若い人たちに、より明るくて楽しい未来を迎えて欲しいって、大人として願わなければいけない事だと思っているだけ。

 だから、この街を作ったんだ。悲惨な思いをするのは、もう僕たちだけで十分だと思ってるからさ。……はい、出来た」

 有人は、出来上がった作品に息を吹きかけ、細かい屑を吹き飛ばした。


「拓、こっち来い」有人は手招きをしている。

「うん……」

 拓人が父の前にやってくると、今しがた出来上がった物を手渡された。

「どうだ? 最新作だぜ」

 ドヤ顔の父。――確かに腕は鈍っていないようだ。


 作品をじっくりと見てみる。石こそ入ってはいなかったが、細かな彫刻が至る所に施してあり、宝石のような輝きを放っている。この短時間で彫り上げたとは思えない、アールヌーヴォー調の美麗な彫刻は見事のひと言だった。これは、有人が十九世紀にフランスで彫金師の仕事をしていた時に身につけたものだった。

 裏面には今日の日付と、拓人と苺花のイニシャルが彫刻されている。


「……さすがだな、親父。こればかりはあんたに敬服するよ。……ありがとう」

「すまんな、いま石のいいのがなくて、プラチナの無垢だが。

 その分細工頑張ったから。ほら、苺花さんに」顎で促す。

「うん」拓人は苺花の前まで歩いていくと、その場でひざまづいた。

 そして、苺花の手を取ると、薬指に出来たての婚約指輪を嵌めた。

「ありがとう、……拓人くん。

 私、正直あんな生活してたから、結婚出来るとか思ってなかった

 ……本当にうれしい」苺花は涙ぐんでいた。

「俺もうれしいよ」苺花の手を握って、拓人は微笑んだ。


 苺花は、改めて出来たてのリングを観察していた。

「…………すごい。こんなに綺麗な指輪、私見たことない。

 ありがとうございます、理事長」

 手のひらを少し反らせて指輪を嬉しそうに眺めて言った。

 それを、腕組みをしながら有人は満足げに見ている。

「いえいえー。それほどのものでもアルデスヨー」ドヤ顔の有人。

「よし、それじゃ俺等行くわ! ありがとな、親父!」拓人は荷物を持って立ち上がった。

「ありがとうございます」苺花はぺこりとお辞儀をした。

「あいあい、俺まだ仕事あるから送ってやれないけど、気をつけて帰れよ。

 親御さんによろしく。――まぁ、あとで俺からも連絡するけどさ」

 有人は息子たちに手を振っている。

「わかった、じゃ」

 拓人は苺花の手を引いて、そそくさと理事長室を出て行った。

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