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フォレスト・ローン・ハリウッドヒルズ墓地。
遠い埋葬風景はスローモーションのようにいつ果てるともなく続いている。
アイク・サクストンは駐車場に止めた車のフロントガラス越しにその一部始終をずっと眺めていた。
「?」
助手席側の窓をノックする音。
振り返ると覗き込んだジェイミーの顔があった。
ドアを開けてやるとジェイミーはすぐ乗り込んで来た。今日もダボついたモッズコートを着ている。
二人並んで車のシートに座ったまま、暫く無言で葬送の様子を見ていた。
「あいつ、超メジャーな映画監督の息子だったんだって? オッドロキ! 新聞読んで腰抜かしたよ。まあ、いつも金回りはいいし、性格トロイし、いいとこの子だとは踏んでたんだけど……勘当状態で家飛び出して、気ままな暮らしの果てがこれか?」
フロントガラスを指で指すジェイミー。
「ほら、あれが親父と元女優のおふくろ。へえ、やっぱり似てるな? ロドニーはママ似だ!」
唇を歪めて悪意に満ちた顔でアイクを振り返った。
「挨拶に行かなくていいのか、アイク? 『この度はご愁傷様です。自分が最後に息子さんと愛し合った男です』……さぞ感動してもらえるぜ。抱きしめられてキスの嵐!」
「やめろ」
初めてアイクが口を開いた。苦悩を刻んだ静かな声で、
「よくそんな口が聞けるな? おまえこそ行って──ちゃんと送ってやれ。ロドニーはおまえのことマブダチだって言ってたぞ。本気でおまえのこと気遣ってた」
「フン、何処でそれを聞いたのさ? ベッドの中でか? お笑いだぜ。そら──」
少年は露骨にせせら笑った。
「あんたがその口で言ったんだ。『淫売は嘘つきだ』。ロドニーはあんたの気を引きたくていい子ぶりっ子してただけさ。そんなんにすぐコロッと騙されやがって。ミンク並みに見境がないのはおふくろさんじゃなくてあんたじゃないのか、アイク・サクストン巡査?」
「──」
「自分から脱いで、古傷まで見せて誘った俺を振って──その足でロドニーんとこ行くなんてどういう神経してるんだよ? OK、わかったよ、あんたは傷物は嫌いなんだろ? ロドニーは綺麗だったかい? まあ、今となっちゃあ俺なんかよりズタズタのボロボロ、いい気味だ!」
咄嗟にジェイミーは目を閉じた。
アイクの腕が伸びて、また殴られる、と思ったから。だが──
その腕は優しくジェイミーの頭に置かれ、縺れた髪に触れ、そのまま静かに押し下げただけ。
「いいから、黙って……追悼しな。ロドニーのために……祈るんだ」
「あんたは?」
「俺も祈ってる……こうして……さっきからずっと……謝ってるんだ」
ジェイミーの顔が強張った。
「じゃ、まさか──本当にあんたが殺したのか?」
「違う。だが、同じことかもな」
独り言のようにアイクは言った。
「俺は後悔している。またしても……凡ミスじゃ済まない。なんどやったら気がつく? 似たような失敗ばかり……」
それからポツリと、
「あの日、あいつを抱かなきゃ良かった……」
残酷な調子でジェイミーは同意した。
「そうさ!」
「あの日、おまえを抱けばよかった」
一瞬身動ぎした後、ゆっくりと頷いた。
「……そうさ」
「あれは代替の行為だった。ロドニーはそれを知っていたよ。だから、俺は今、こんなに後悔しているんだ。わかるか?」
アイクは繰り返した。
「わかるかよ? あんなのが最後になっちまうなんて……俺みたいなクソ虫野郎の相手が……」
首を折って深く項垂れるアイク。
「あいつは本当にいい子だったのに。おまえなんかの数万倍もな。おまえはホントに地獄に住んでやがる。おまえに比べたらロドニーは天使さ。おまえは性悪な悪鬼だ。だが、俺が愛してるのは──おまえなんだ」
決定的な言葉だった。
喜びを体中に迸らせてジェイミーはアイクを振り返った。
「……それ、本当?」
それから、わざと詰るような口調で唇を尖らせる。
「何故、もっと早く言ってくれなかったのさ?」
「ぬかせ。とっくに知っていただろ?」
あのBARでずっと見ていた時から……
ずっと見られていた時から……
遠い葬送の群れの中には一際大柄な身体を黒のスーツに包んだケイレヴ・グリーンの姿もあった。
「一つ聞いてもいい?」
アイクの家のベッドの中。
存分に愛し合った後の気怠い幸福感の中でジェイミーは尋ねた。
「ロドニーとの関係が発覚したのに、あんたがクビにならないのは何故だ? クビじゃないまでも──今やロドニーも含む〈白鳥の王子〉連続殺人事件の担当から、未だに外されてないのは何故さ?」
「……」
アイクは答えなかった。ジェイミーは身体を反転してしがみつく。
「やっぱり、アレ、〝特別なコネ〟ってやつか?」
「……」
天井を見つめたままのアイク。
実は、それに関してはアイク自身、皆目見当がつかず、答えようがなかった。