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HERD ─群れ─  作者: sanpo
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#9


     9


 フォレスト・ローン・ハリウッドヒルズ墓地。

 遠い埋葬風景はスローモーションのようにいつ果てるともなく続いている。

 アイク・サクストンは駐車場に止めた(トーラス)のフロントガラス越しにその一部始終をずっと眺めていた。

「?」

 助手席側の窓をノックする音。

 振り返ると覗き込んだジェイミーの顔があった。

 ドアを開けてやるとジェイミーはすぐ乗り込んで来た。今日もダボついたモッズコートを着ている。

 二人並んで車のシートに座ったまま、暫く無言で葬送の様子を見ていた。

「あいつ、超メジャーな映画監督の息子だったんだって? オッドロキ! 新聞読んで腰抜かしたよ。まあ、いつも金回りはいいし、性格トロイし、いいとこの子だとは踏んでたんだけど……勘当状態で家飛び出して、気ままな暮らしの果てがこれか?」

 フロントガラスを指で指すジェイミー。

「ほら、あれが親父と元女優のおふくろ。へえ、やっぱり似てるな? ロドニーはママ似だ!」

 唇を歪めて悪意に満ちた顔でアイクを振り返った。

「挨拶に行かなくていいのか、アイク? 『この度はご愁傷様です。自分が最後に息子さんと愛し合った男です』……さぞ感動してもらえるぜ。抱きしめられてキスの嵐!」

「やめろ」

 初めてアイクが口を開いた。苦悩を刻んだ静かな声で、

「よくそんな口が聞けるな? おまえこそ行って──ちゃんと送ってやれ。ロドニーはおまえのことマブダチだって言ってたぞ。本気でおまえのこと気遣ってた」

「フン、何処でそれを聞いたのさ? ベッドの中でか? お笑いだぜ。そら──」

 少年は露骨にせせら笑った。

「あんたがその口で言ったんだ。『淫売は嘘つきだ』。ロドニーはあんたの気を引きたくていい子ぶりっ子してただけさ。そんなんにすぐコロッと騙されやがって。ミンク並みに見境がないのはおふくろさんじゃなくてあんた(・・・)じゃないのか、アイク・サクストン巡査?」

「──」

「自分から脱いで、古傷まで見せて誘った俺を振って──その足でロドニーんとこ行くなんてどういう神経してるんだよ? OK、わかったよ、あんたは傷物は嫌いなんだろ? ロドニーは綺麗だったかい? まあ、今となっちゃあ俺なんかよりズタズタのボロボロ、いい気味だ!」

 咄嗟にジェイミーは目を閉じた。

 アイクの腕が伸びて、また殴られる、と思ったから。だが──

 その腕は優しくジェイミーの頭に置かれ、縺れた髪に触れ、そのまま静かに押し下げただけ。

「いいから、黙って……追悼しな。ロドニーのために……祈るんだ」

「あんたは?」

「俺も祈ってる……こうして……さっきからずっと……謝ってるんだ」

 ジェイミーの顔が強張った。

「じゃ、まさか──本当にあんたが殺したのか?」

「違う。だが、同じことかもな」

 独り言のようにアイクは言った。

「俺は後悔している。またしても……凡ミスじゃ済まない。なんどやったら気がつく? 似たような失敗ばかり……」

 それからポツリと、

「あの日、あいつを抱かなきゃ良かった……」

 残酷な調子でジェイミーは同意した。

「そうさ!」

「あの日、おまえを抱けばよかった」

 一瞬身動ぎした後、ゆっくりと頷いた。

「……そうさ」

「あれは代替の行為だった。ロドニーはそれを知っていたよ。だから、俺は今、こんなに後悔しているんだ。わかるか?」

 アイクは繰り返した。

「わかるかよ? あんなのが最後になっちまうなんて……俺みたいなクソ虫野郎の相手が……」

 首を折って深く項垂れるアイク。

「あいつは本当にいい子だったのに。おまえなんかの数万倍もな。おまえはホントに地獄に住んでやがる。おまえに比べたらロドニーは天使さ。おまえは性悪な悪鬼だ。だが、俺が愛してるのは──おまえなんだ」

 決定的な言葉だった。

 喜びを体中に迸らせてジェイミーはアイクを振り返った。

「……それ、本当?」

 それから、わざと詰るような口調で唇を尖らせる。

「何故、もっと早く言ってくれなかったのさ?」

「ぬかせ。とっくに知っていただろ?」

 あのBARでずっと見ていた時から……

 ずっと見られていた時から……


 遠い葬送の群れの中には一際大柄な身体を黒のスーツに包んだケイレヴ・グリーンの姿もあった。


「一つ聞いてもいい?」

 アイクの家のベッドの中。

 存分に愛し合った後の気怠い幸福感の中でジェイミーは尋ねた。

「ロドニーとの関係(こと)が発覚したのに、あんたがクビにならないのは何故だ? クビじゃないまでも──今やロドニーも含む〈白鳥の王子〉連続殺人事件の担当から、未だに外されてないのは何故さ?」

「……」

 アイクは答えなかった。ジェイミーは身体を反転してしがみつく。

「やっぱり、アレ、〝特別なコネ〟ってやつか?」

「……」

 天井を見つめたままのアイク。

 実は、それに関してはアイク自身、皆目見当がつかず、答えようがなかった。

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