#27
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「私の推測はこうよ」
レイミー・ボトムズは語りだした。
「ホールデン家を襲った犯人はそれがどういう理由かまではわからないけど、末子のジェームズだけは殺さなかった。拉致した後、一緒に暮らし始めた。そして3ヶ月、犯人は〈白鳥の王子連続殺人事件〉と呼ばれるようになるおぞましい殺戮を開始する。小さなジェームズを傍らに置いたままで」
レイミーは強調した。
「文字通り傍らによ。ジェームズは犯人の側にいて犯人のすることを全て見続けて来た……」
すかさずペイジが訊いた。
「その犯人こそ、ケイレヴ・グリーンだと思っているんですね?」
「多分ね。体格的には一致するもの。唯、今の今まで自信がなかった。というのもグリーンのIDはどうつついても完璧なのよ。逮捕したわけじゃない一般人にこれ以上手のくだしようがないわ」
「だから? あの時俺にあれほど執拗に確認したのか。あいつら──グリーンとジェイミーがいつから付き合っているか」
「ええ。あの時、君は長くとも半年位だって言ったわ」
「ジェイミーがこの街に姿を現したのがその頃だとロドニーが記憶してたんだ。でも、それはロドニーだけじゃなく他のジェイミーと付き合いのある仲間みんなが口を揃えて言ってることだ。ジェイミー自身は、俺にはつい最近みたいな言い方をしたが」
「ジェイミーは嘘つきだわ。悪いけど彼の言葉はこれっぽっちも信用できない」
鋭い目でレイミーはアイクを見た。
「君もその点はとっくに気づいてるんでしょ?」
「……ああ」
アイクも認めざるを得なかった。
そもそも、あいつの言ってることはハナから嘘ばっかりだった。グリーンとの付き合いに関してだけじゃない。ミッキー・エヴァンスが自分たち男娼グループの仲間だったことも黙ってたし、ロドニーのことだって、同様に友達だったくせに、ロドニーの方はジェイミーを信頼し本気で気遣っていたのに、俺が知らないと思って聞くに耐えないほど好き勝手なことを並べ立てた。
だから、最初から思ってたんだ。あいつは悪魔じみてる。
でも、俺はそんなこと構いはしなかった。〝欲望〟? 〝愛〟? どっちでも同じことだ。
あいつさえいりゃいい。あいつが欲しくて他のことは見ないようにし続けた。
わざと? 気づかぬふりをしていたのか? あの時、シュンが〈未成年〉だというのから目を逸らし続けたように?
「クソッ……」
アイクは喘いで両手で顔を覆った。
レイミーは更に畳み掛ける。
「ジェイミーは大嘘つきよ。しかも意識的に嘘をついて来た。何故? 自分やグリーンの素性を隠すためだわ。そもそも内偵をするって君に近づいたのも」
一度唾を飲み込んでから、
「逆に警察の動きを知るためだったんだと思うわ。何が囮調査よ! その実、ジェイミーが探っていたのは私たちの方だったのよ!」
レイニーは言い募った。
「君はそうとも知らずに彼にこっちの情報を垂れ流した。グリーンの家の内部情報だってデタラメもいいとこよ! あの家に〈秘密の出入り口〉なんてないわ! 或いは、ジェイミーが言った場所にはないわよ!」
ここでペイジが首を傾げる。
「でも、君はどうやってそのことを知ったんだい、レイミー?」
口を閉ざすレイミー。ややあって渋々認めた。
「別の囮を使ったのよ」
「へえ! それは知らなかった。いつから? 何て名前です?」
「それは──」
チラとアイクを窺うが、アイクの方はそんなことに気を回す余裕がないほど動揺していた。
さりげなくレイミーは話題を変えた。
「そんなことより──これからどうするかが重要だわ。クラヴェル刑事は、今、何処?」
「午後からグリーンに張り付いています」
レイミーは腕を組んだ。
「私の内偵が聞き出したところではグリーンの出身地はメーン州らしいわ。こっちではグリーンは犯罪歴がないけれど、どうかしら、ケイレヴ・グリーンという名前が偽名の可能性も含めて今後州外の警察機関との連携捜査も視野に入れないと……」
FBIの介入もレイミーは覚悟した。だが、できればその前にカタをつけたい。
「それより、どうします? 先にジェイミーの身柄を押さえた方がいいんじゃないかな。このジャケットの血の件で任意に事情を聞くという方向で」
レイミーは、椅子に腰を落としたまま顔を覆って項垂れているアイクを振り返った。
「ジェイミーは、今、何処にいるの?」
「多分、俺のアパートだ。さっき電話があったし……」
「じゃ、すぐにパトロール警官をアパートに差し向けて──」
ここで警官が一人オフィスに入って来た。
「何やらお取り込み中、失礼。HERDの皆さんにこれを預かっています」
三人は動きを止めて警官の手の中を凝視した。
それは封筒で、〈HERDチーム御中〉と記されていた。
レイミーが凄まじい形相で質す。
「誰が、いつ、持って来たの?」
その剣幕に気圧されて警官は思わず後ずさった。
「え? 今さっきです。若い可愛い男の子でしたよ。サクストン巡査に言えばわかるからって。それを置くとすぐ帰っちゃいました。待たせとくべきでしたか?」
捜査用の手袋をはめてレイミーが受け取った。
そのことがまた素手で持って来た警官を狼狽させた。
「軽いわね? 危険物ではなさそう」
「そりゃもちろんです。金属探知機には反応しませんでした」
慎重にレイミーは封を開ける。
中には折りたたんだ紙片が一枚。
全面血だらけで、殴り書きに近い文字が書かれていた。
《 抜けてんな? 遅過ぎるんだよ。 何もかも。
次の犠牲者はダーレだ? サクストンが一番悲しむだろうな。
この予告はサービスってこと。
PS; あんたが一番愛し、愛された奴はこんな小指をしてるだろ? 》
封筒の底に左手の小指が入っていた。
切り落とされたそれが。