第1話 1周目の異世界転生
「ユキ、起きなさいユキ」
「あぅ」
「あら笑ってる、笑ってるわよあなた」
「おお、可愛いな、ほれパパだぞー」
若い夫婦は俺に意識が無いと勘違いして幸せそうな笑顔をこちらへ向けた。
すまんな若夫婦よ、こちとらさっきまで44歳ヒキニートライフをやってたもんでな、全然笑えん。
しかし、赤ちゃんの体ってのは面白いな。
あらゆる筋力を感じない。
親に持ってもらいなんとか、寝ていられるけど、寝ている時になんとなく使っている筋肉もないから、無意識に腕がだらーんとなってしまう。
新しいママンには申し訳ないが、しばらくは逆介護の状態になってしまう。
まぁ、俺がこの新しいママンとパパンを介護するまであと40年くらいはあるがな。
さて、これからの人生どうすっかなぁ。
とりあえず勉強だけは頑張ろう、あとはまぁ適当に頑張ろう。
ーー1歳
「お、おいユキ、本当にこれがわかるのか」
「あう!」
俺は新パパンの目の前で簡単な足し算引き算を解いてみせた。
「大変だぞリリナ、この子はこの子はきっと天才だ!」
新パパンは、そう言って嬉しそうに笑った。
おいおい、3+3を解いただけでこれかよ。
パパンはチョロいなぁ。
ーー4歳
この時期になると、俺の中で親に対する反抗心というのが芽生え始めてきた。
別に中身は大人なので、ちょっとした怒りくらいなら普通に抑えられるのだが、たまに抑えることができないほどの悔しさや痛みを感じる時があり、その時はなるべくママンではなく
パパンに怒りをぶつけるようにした。
『バシッ』
「痛っ!」
「ちょっとやめろよユキ、お父さんに石を投げるなんて酷いじゃないかあ」
「ごめんなさい」
俺は可愛こぶって謝った。
「しょうがないなぉ、まったくユキは可愛いなぁ」
パパンは笑顔になり、怒るのをやめ俺を撫で回してきた。
ふっ、やはりパパンはチョロいな。
ーー7歳
「やーいお前、ユキって名前のくせに男なんだってなぁ、キモいんだよぉ〜」
年頃になり、村にある小さな学校に行き始めると俺はすぐ女男という不名誉なあだ名をつけられしまい、簡単ないじめにあった。
『バシッ』
学校の帰り道、ママンが作ってくれた鞄を背負い帰っていると、クソガキどもが石を投げてきた。
当たるとアザになりママンやパパンが心配するため、適当に躱しながら俺は家に帰っていた。
そして、家の近くの森まで来るとそのクソガキどもは帰っていく。
「今日のところはこんくらいにしてやるよ、また明日なユキ」
そうしていじめをしていたボス的な奴がそう言うと、奴らは帰っていった。
はぁまったく俺が何したっていうんだろう。
ただ勉強をしていたいだけなのに障害が多い、困ったな。
そんなことを考えていると、家に着いた。
「ただいまあ」
部屋に着くが応答がない。
畑か?2人は農家であり、日中は育てている野菜の面倒を見ている。
だが時刻は夕方、もう確実に家に帰っているはずだが。
「父さん?母さん?いないの」
やはり応答がない。
帰っていないのか、もしや出かけた。
いや待てこんな時間に俺抜きに外出なんて今まで一度もなかった。
どこにいるんだ、2人とも。
まさか夜逃げか、ふっ、ないなあのパパンが俺を置いて家を出るなんて。
「だってパパンは俺のことが、大……すき、え?」
玄関から続く廊下を抜け、リビングへ行くと血だらけのパパンがいた。
いや、え、そんな。
嘘だろどうしてこんなこと。
ママンは、あの優しいママンはどこなんだ……。
俺は急いで部屋の中を探したが、ママンの姿は見つからなかった。
……きっとこれは夢だ、夢。
目を閉じて開けば、皆んな元通りになってるはずだ。
そうして俺は目を閉じた。
1.2.3で開けよう、はは、そしたらきっと笑顔のパパンがいるはず。
「はは、なんだよやっぱり現実かよ」
目を開けても元通りにはなっていなかった。
「パパン、どうしてこんな……」
『グサッ』
「へ?」
「なんだよまだ生き残りがいたのかよ、ちっ、全員始末しないと後が面倒なんだよな、すまんな坊主、父さんと一緒におねんねしててくれ、母さんはもらっていくから」
そう話す男の言葉の端にママンが攫われたとあった気がする。
まずいママンがあぶない、あれ、気がだんだん遠のいて……あ、この感じ知っているぞ。
これは、死だ。




