表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の彼女は三度目に俺を殺すーPQ: Rebirth Protocolー  作者: 深蒼 理斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第08話:YOU NEVER KNOW YOUR LUCK

 護衛というのは、待つ仕事だと思っていた。


 補給船が三隻、HELIOS回廊の外縁を定刻通りに進んでいる。VEGAはその後方に付いて、センサーを流して、宇宙を見る。何も起きない時間が二時間続いた。昴は少しだけ気を抜いていた。


 光点が現れた時、まだその気の抜けた部分が残っていた。


 一つ。二つ。五つ。


『五機。これは多いね』


 PQが言った。感想のような口調だった。昴の心拍が跳ねても、PQの声は変わらない。


「……多いどころじゃない」

『補給船を挟む動きをしてる。先行が一機、残り四機は補給船狙いだね』


 五機が扇形に広がった。補給船を三方から挟み、VEGAには先行の一機を当てる。教科書通りの包囲形成だった。昴は一瞬で状況を理解した。


「逃げられないな」

『補給船を捨てるなら逃げられるけど、それはないよね』

「ない」

『だよね』


 昴はVEGAを動かした。


 先行機が来た。通信が割り込んだ。

 《こちらAETERNUS、VEIL-09。交戦を開始する》

 女の声だった。感情が削ぎ落とされている。昴は応答しなかった。


 随伴四機が散開した。補給船の死角を突こうとしている。一機を放置すれば補給船が落ちる。一機を追えば先行機が来る。全部を相手にできる操縦技術が、今の昴にはなかった。


 先行機の射線を切りながら、随伴機の動きを追った。一機が補給船の後方へ回り込もうとした。昴がそちらへ向いた瞬間、先行機の砲撃が来た。


 回避した。補給船への対応が、半秒遅れた。


 随伴機の砲撃が補給船の外装を削った。爆発ではなかった。でも削れた。


「くそ——」

『右』


 それだけだった。昴は右を見た。随伴機が射角に入っていた。引き金を引いた。装甲が砕けた。一機が離脱した。


 残り三機と、先行機。


 先行機から声が来た。


 《VEGAか》


 交戦しながら話しかけてくる。感情の削ぎ落とされた声が、もう一度だけ言った。


 《噂通り、速い》


 昴は答えなかった。随伴機がまた補給船に近づいている。先行機の砲撃が続く。昴は回避しながら反撃しながら護衛しながら、全部を同時にやろうとした。


 全部、中途半端になった。


 随伴機が補給船の推進部を捉えた。小さな爆発が起きた。補給船の速度が落ちた。速度が落ちた船は、もっと簡単に狙われる。


『スバル、一個だけ聞いていい』

「今か」

『今じゃないと遅いから。RB-2、使う?』

「……何それ」

『Reverse Boost-2:Frame Release。VEGAの制限を一時的に解除して、

  機体性能を最大化する。僕も使ったことないけど』

「使ったことないのか」

『スバルが初めてだから、当たり前でしょ』


 砲撃が来た。昴は回避した。補給船の通信に被弾報告が入った。二隻目が削られていた。


「副作用は」

『機体への負担がある。スバルへの直接的な影響は、今のところ想定してない』

「今のところ」

『正直に言ってるだけだよ』


 一秒あった。


「使う」

『よし』

 

 最初に気づいたのは、音だった。

 

 機体の継ぎ目が展開する音。金属が金属を押す音ではなく、張り詰めていたものが解けていく音。VEGAが息を吐いたみたいだった、と後から思った。その時は思う余裕がなかった。

 

 次に、重さが消えた。

 

 操縦桿の重さではない。昴自身の重さが。肩に乗っていた何かが、すっと抜けた。抜けて初めて、ずっとそれを背負っていたと気づいた。

 

 視界は変わっていなかった。

 

 でも、見えるものが変わった。

 

 先行機が次にどこへ行くか、分かった。分かった、というより、もうそこに機体の影がある。随伴機三機の動きが全部、同時に、当たり前のように視界の中にあった。補給船の残り速度が、数字ではなく体感として入ってきた。

 

 昴は一度だけ、瞬きをした。

 

 全部、そこにある。

 先行機の砲撃を回避した。当たらない場所を通っただけだった。距離を詰めた。反撃した。先行機の武装が、砕けた。


 《——何》


 女の声が、初めて変わった。


 《速すぎる——》


 昴は随伴機へ向いた。三機が同時に来た。来るのが分かっていた。二機の装甲が砕けた。残り一機が離脱した。


 REGULUSから通信が入った。


 《VEIL-09、離脱しろ》


 男の声だった。静かだった。有無を言わさない静かさだった。


 《……了解》


 先行機が引いた。随伴機の残りも散った。五機が、それぞれの方向へ消えた。


 昴は追わなかった。


『RB-2を解除する。お疲れ様』


 締まっていたものがゆるんだ。何かが戻ってきた感触がある。戻ってきて初めて、それが制限だったと分かった。


 手が、震えていた。


 昴はその震えを見た。長い時間ではなかった。でも見た。


 怖かったわけではなかった。


 VEGAが動いていた時間、全部が見えていた。全部が間に合っていた。何が来ても、届かなかった。


 その時間が、楽しかった。


 その事実が——


『護衛船の状態確認して。三隻とも生きてるよ』


 PQの声が、軽い調子で入った。


 昴は震える手を操縦桿に戻した。


 ——


 REGULUSのコックピットで、ルシアン・ケイドは映像を止めた。


「解析しろ」

『処理中』


 映像を最初から見返した。随伴機が四機いた。VEGAは一機だった。護衛対象があった。条件として、悪い。結果は、随伴機の全滅だった。


 VEGAの機動が途中で変わった。変わったと気づいた瞬間、変わる前の動きがどれほど制限されていたかが分かった。


『機体性能に通常規格を超えた変動を観測。原因、不明』

「不明」

『データが不足しています』


 VEEは答えを持っていないから答えない。それがVEEの設計だった。


 マリアの撤退は正しかった。あの状況で無理をしても損害が増えるだけだった。


 ルシアンはVEGAの最後の機動を、もう一度だけ見た。


「次は私が出る」

『了解』


 あれを手に入れたい、と思った。その言葉が自分の中から出てきた時、ルシアンは少しだけ止まった。


 手に入れたい。


 あの機体を、あの性能を、こちら側に置く。それができれば、戦局が変わる。正しい目的だった。


 ルシアンは、それ以上は考えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ