5、
さっきの木村さん、あの人は絶対、学歴主義の人だ。そうとしか思えない。
話が弾まなくて良かった。
「ねぇ、聞いてよ。あの王子様と話せたんだけどさ」
「やったじゃん! どうだったの?」
「何て言うか、ねぇ」
「え、何々? ヤバい感じなの?」
あたしがローストビーフのおかわりを盛っている後ろで、2人組の女性たちが、撫子の言っていた王子様と話せたと、話している。
(まぁ、あたしは興味ないけど)
ローストビーフを盛って、カナッペも盛って、ドリンクは、どうしようかな。
「すみません、スタッフさん。カクテルって、ノンアルコールもありますか?」
「はい。こちらのメニューからお選びください」
「じゃあ、ピニャコラーダのノンアルコール、お願いします」
「かしこまりました。少々、お待ちください」
黒いタキシードに蝶ネクタイのスタッフさんは、バーテンダーの如く、シェイカーを華麗に振っていく。
「お待たせいたしました。ピニャコラーダです」
「ありがとうございます」
席に戻ろうと私が振り返ると、すれ違う様に、男性が1人。
「あの方と同じものを」
ドラマでよくあるセリフ。ただ、あたしが頼んだのは、アルコールが入っていないピニャコラーダ。
「アルコールは入っておりませんが、よろしいですか?」
「はい。下戸なので、大丈夫です」
中々のイケボ。男性声優にこんな声の人、いたような気がする。
(誰だっけ?)
思い出せないから、そのうちでいいや。
それより、このローストビーフ食べよう。ホテルの料理って、何でこんなに美味しいんだろう。
「お話、良いですか?」
「はい。どうぞ」
今度は、さっきのベタなドラマのセリフの男性が話し掛けてきた。
「このカクテル、美味しいですよね。お好きなんですか?」
「この名前のカクテルしか知らないんです。でも、お酒飲めなくて、ノンアルコールです」
「僕も下戸なので、飲めないんです。一緒ですね」
「そうですね」
プロフィールシートを交換して、名前を見てビックリ。
「お名前、伊藤博文さん!? えっ、初代内閣総理大臣の!?」
「あー、やっぱり、そう読みますよね。博文じゃなくて博文です。濁りません」
「すみません!」
「いえいえ、よくあるので。多田野さちさんって、いうんですね。可愛らしいお名前ですね」
「ありがとうございます。母から聞いた話だと、母の好きな女優の、松川さちさんから名付けたらしいです」
「そうでしたか。僕の場合は、伊藤博文からなんです」
名前だけでここまで話せる人、初めてかも。
でも、そろそろ名前から離れないと。
「多田野さんは、同い年なんですね。ゲーム好きですか。何のゲームしてます?」
「ポ○モンとか、F○シリーズですね。最近だと、雪月蝶花やってます」
「ポ○モンの世代って、ダ○パですか?」
「そうです。チャンピオン戦のBGM が好きなんです」
「あのBGM 、カッコいいですよね。わかります」
この人とはかなり話しが弾みそう。
同い年だと、やってたゲームの話で盛り上がれるかも。




