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転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
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ゾンビは闇に囚われて

「なんのつもりだ、お前……!」


サザが怒鳴った。呼吸が荒い。黒い爪を振るいながら、目の前のファウストに向かって吠えていた。

でも、対するファウストは楽しそうに笑っていた。余裕のある、遊ぶような笑みだった。


「先ほどより、ずいぶん動きが良くなったな……」


そんなふうに言って、攻撃をいなす。

まるで遊んでいるような戦いぶりだった。


「くそっ……」


サザが悪態をつくのが聞こえた。

私はその場に駆け込んだ。


「サザ!」

「お前、なんで!?」


サザがファウストと戦いながら、こちらに目を向ける。


「リュカはどうした!」

「リュカさんは魔犬と戦って、ベルと一緒に屋根に落ちたの!今はそっちで戦ってる!だから、私がこっちに来たよ!一緒に戦う!」


サザは怒鳴った。


「バカ!!お前は下がってろ!邪魔だ!」

「ひとりじゃ無理だよ!」


私は叫び返した。私にだって、できることがある。

けど、サザはそれを拒絶する。


「ダメだ!いいから隠れてろ、ノア!!」


そのときだった。

ふっと、空気が冷たくなった気がした。

ファウストが、ふいに唇を吊り上げた。


「いいな、実に良い……ならばーー」


そう言うと、ファウストの体がボワッと黒い霧になった。


「なっ……!?」


サザが目を見開く。

霧はたちまちコウモリの群れになった。そして群れは一直線に、私の方へと向かってきた。

私は剣を構えて、それを叩き落すように剣を振った。けど、コウモリはそれを巧みにかわして、私の体にまとわりついてきた。


「――っ!?」


次の瞬間、私はファウストに後ろから抱き留められるようにして、捕まっていた。

剣を持つ右手を、ぐっと強くひねり上げられる。痛みが走って、思わず剣を取り落としてしまった。

カラン、と刀身の消えた剣は足元に転がる。

左手も、ファウストの冷たい左腕にぎゅっと抱え込まれるように押さえつけられる。

体が全然動かない。


「ノアッ!!」


サザが叫ぶ。

私は身をよじろうとするけど、ファウストの力は信じられないくらい強くて、全く動けない。


「離せッーーこの野郎ッ!!」


サザが猛然と飛びかかってきた。

でも、ファウストは翼を広げて、私を抱えたままふわりと後ろに避ける。


「……ああ、いいな。その瞳の色」


ファウストの声が、耳元でかすかに響く。低くて、深くて、背筋がぞわりとする。


「……あのとき、私が愛した目だ」


見上げると、その赤い目はサザを見据えて、愛おしそうに細められていた。

ゾッとして、私はもう一度、体をよじって逃げ出そうとするが、やっぱり動けない。

サザがまた飛びかかった。燃えるような勢いで、怒りのままに。

けれどファウストは、ダンスのステップでも踏むように、軽やかにそれをかわした。

ひらりと踊るように、サザの爪をすり抜ける。


「どうした?怒りで動きが乱れているぞ」


挑発するような声が響く。

私は、迫るサザの瞳を見た。

燃えさかる炎のような目。

強い想いの光を宿し、心の奥まで射抜くような、本気の殺意がこもった目。

ファウストは、この目が好きだと言った。

けれど……私はどうしようもないほど、胸が苦しかった。


サザは、ずっとこんな目をして戦ってきたんだ。


そう思うと、なぜだか泣きたくなった。


ファウストが、ふわりと舞い上がる。

翼をはためかせて、サザを見おろした。

サザが怒りに燃えた目でこちらを見上げる。

ファウストはその姿を、少しの間、じっと見つめた。

そして、小さくつぶやいた。


「足りないな……もう少し……」


足りないって、何がーー

そう思った瞬間だった。

ふいにファウストが私に顔を寄せた。

え、と思う暇もなかった。


――カプッ。


「ヒッ……!?」


全身に鳥肌が立った。

首筋に何かがーー食い込んだ。


「い、いや……!」


声が震えた。

痛みはなかった。なのに、全身がぞわぞわして、冷たいものが背筋を這い上がってくる。

血が凍るというのは、こういうことだと思った。


「やだっ!やめてっ……!」


叫んだけど、ファウストはそのままだった。

吸い付くように、首筋に唇をあて、

まるで……まるで私を“味わっている”みたいで……!

怖くて気持ち悪くて、涙目になった私は、


「……サザ……たすけて……」


自分でも驚くくらい、弱々しい声でそう言った。

その瞬間。


「この……クソがあああッ!!!!」


目の前に、燃えるような赤い目。

爛々(らんらん)と赤く燃え盛るように発光した、サザの瞳。

ベルが、魔法を放つときのそれよりも、もっと強く、もっと獰猛でーー

ひとことで言えば、ブチ切れていた。

黒い魔力に染まった爪、陽炎のような揺らめきを持ったその爪が、ぐっと振りかぶられる。すぐ目の前で。


「ヒッ……!?!?」


殺される!!!!


と、本気で思った。

けど、その爪は私には触れなかった。

ズバッ!!という鋭い風音。

ファウストの顔がーー切り裂かれた。

すると、ファウストの体が黒い霧に変わり、それは再び無数のコウモリになった。

バサバサと羽音を立てて、黒い群れは、玉座の方へと飛んでいく。

私はファウストの腕から抜け落ちてーー


「ひゃあ!?」


そのまま地面へと落下する。

衝撃を覚悟したが、地面に落ちるその寸前――ぐっと抱きとめられた。


「わっ……!?」


思わず驚いて声を上げると、すぐにわかった。

サザだ。

両腕で、私をしっかりと抱えてくれていた。


「おいっ!?噛まれたのか!?見せろ!!」


真剣な顔。

その勢いに私も焦って、


「なんか、首のところ……!」


と、あたふたしながら髪をかき上げた。


確かに、噛まれた感触はあったけど……血を吸われたような気は……いや、どうなんだろう!?

っていうか、私ゾンビだし!血ってそもそも、あんまりないよね!?

それに私の血なんて、吸っておいしいのかな!?

でも……でもでも、噛まれたら吸血鬼になるとか、そういうの……ある……?


「サザ、どう!?噛まれてる……!?」


声を震わせて問いかけると、サザは神妙な顔で、


「いや、噛まれては、ねぇけど……」


と、つぶやいた。


……え?

な、なんかもっとやばいことになってるの……!?

固唾(かたず)をのんで、サザの言葉の続きを待っていると、サザが言った。


「なんか……(あざ)?みたいになってる……」

「……」

「……」


数秒の沈黙。


…………え?


そして、私の頭に、ひとつの最悪な答えがよぎる。


「ちょっ……!?ちょっと、やだ!見ないでサザ!!」


反射的に、私はサザをドンッと思いっきり押しのけていた。


「うわっ!?なんだよ!?」


と、サザ。

けど、こっちはそれどころじゃなかった。

ちょっと、これって……これって……

キ、キスマークってやつじゃないの!?!?

思わず片手で首を押さえて、視線を逸らす。

顔が熱い。めちゃくちゃ熱い。

サザは、こっちを見てぽかんとしていた。

あんまり意味が分かってないみたいだった。


「なんだよ……どうしたんだよ……?」


と、戸惑ったような顔をしている。

そんな空気を割ったのは、玉座からの声だった。


「彼女には印をつけたのだ」


バッとサザが振り返る。

私もハッとして、そっちを見た。

そこには、何事もなかったかのように、優雅に玉座に座っているファウストがいた。

そして、ゆっくりと唇の端を吊り上げた。


「彼女は私のもの、という印をな」


私は思わず固まった。

心の中で、疑問と困惑と怒りが同時に沸いた。

なんか、さっきまでファウストのことは恐ろしいと思っていたけど、今はそれを上回る気持ちがある。


「こ、この……変態ッ!!!」


私はビシィッとファウストに指を突きつけて叫んだ。

一方のサザも、「は?」と底冷えするような声をもらして、ファウストを睨みつけていた。

ファウストは、さらに続けた。


「無知なるお前に教えてやろう。それは、愛する気持ちを女の身体に残すーー……」

「わあああ!??もうやめて!!??」


私は絶叫した。

なんてこと言うのこの人??

戦いの……公共の場なんだよ!??


「ちょ、ちょっとサザ!あいつ、倒そう!!今すぐに!!!」


言いながらサザを見ると、サザの目は強い赤の光を宿していた。


「なんかわかんねぇけど……俺、あいつすげぇ嫌いだわ」

「だよね!本当に変態だよ!!!」


私は地面に落としていた剣を拾い立ち上がった。

魔力を込める。拘束術も、いつでも放てるように魔力を練る。

深く息を吐いて、ファウストを見据える。


「サザ、いくよ……!」

「おう……ぶっ飛ばしてやる」


私たちは再びファウストに向き直った。

今度こそ、決着をつけてやる。

この最悪の、変態吸血鬼と。


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