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転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
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ミイラ先輩と地下任務

魔王軍に入ってからというもの、私のゾンビ生活はなんだかんだで忙しい。

夜勤をしたり、ときどき森に出て訓練したり、奇妙な隣人たちとの付き合い方も、少しずつ分かるようになって来た。

そんなある日、ユエルに呼び出された私は、渡された巻物を見て首を傾げた。


「“地下迷宮、魔力汚染区域の調査”?え、行くんですかこれ?」

「うん。ゾンビだからね。汚染されてもあんまり問題ないでしょ?」

「雑な理由!」


しかし今回は、単独じゃないらしい。同行者がいると聞いてほっとしていたらーー


「……死者の気配、悪くないな」


現れたのは、包帯ぐるぐる、目だけがギラッとしている、以前回廊ですれ違ったミイラ先輩だった。


「君が噂の、新人ゾンビか……ふふ……腐臭の波動、嫌いじゃないぜ……」

「うわぁ、第一声がホラー……」

「俺はヴェリス。ミイラ歴112年。まぁ……先輩ってとこだな」

「年齢の重みがすごい」

「包帯の疼きが、今日の任務の“闇”を知らせている……」

「※これは中二病です」



―――



地下迷宮へと続く道は、魔王城の下層――地下農場のさらに奥だ。

進むにつれ、石造りの通路は特に古びていた。魔王城の中でも特に古い区域なのかもしれない。

床はひび割れ、天井からは地下水がポタリポタリと滴っていた。

ヴェリス先輩は包帯が濡れるのも気にせず、ずんずん進んでいく。


「すごいところですね……この通路、生きてたら絶対カビ生えますよ」

「死んでてもカビは生える」

「まじですか!?」

「俺、前に生えた。包帯の内側、きのこだらけになってさ……ふふ……俺の体は“発酵”してるのさ……」

「発酵してるミイラ!?いや、笑ってるけど、ぜんぜん笑えないですよ!?」



―――



歩いていると、迷宮の小部屋に到着した。そこに入った瞬間、明らかに空気が一変した。

じとっとした熱気。どろりとした魔力が、空間全体を包んでいる。


「ここが、魔力汚染区域でしょうか?」


小部屋のなかを観察すると、床に消えかけの魔法陣のようなものを見つけた。

五芒星のような図形の真ん中に、黒く焼け焦げたような跡がある。

ヴェリス先輩が片膝をつき、ゆっくりと片手でその魔法陣をなぞる。


「……召喚に失敗して、暴走した魔力が沈殿してる。今でも“なにか”がうごめいている」

「“なにか”って具体的に……?」

「知らん。あまりの魔力に、記録が読めなかった」

「何しにきたの我々!?」



とにかく、区域の奥へと進んでみることにした。

すると、先ほどよりはすこし広い部屋に着いた。

壁に古代の壁画が描かれ、土壷が部屋の隅に幾つかおかれている。

そして目を引くのは、奥に鎮座する石棺。

見たことがある。古代エジプトの王家の墓がこんな感じだった。

石棺の中にいそうなのはミイラだが、奇しくも隣にもいる。隣の先輩は、緊迫した表情でその石棺を見つめている。


「先輩、あれって…」

「シッ……来るぞ」

「え?」


視線を石棺に戻すと、ゴリゴリと音を立てて、重い石棺の蓋がゆっくりと横にずれていく。息をのむ私の目の前で、黒いもやのようなものが、どろりと石棺からあふれ出た。

それはゆっくりと形をなす。人型の、黒い影のようなものになった。

影は、石棺の前に佇んだまま動かない。


「動くなよ。あれは意思なき怨念の塊…こいつに捕まると、心の奥に巣食う“未練”が引き出される」

「えっ、なにそれ怖い。こっちは心残りしかないゾンビなんですけど…」


と、話していたときだった。急に黒い影が手を広げて、私に突進してきた。

いきなりのことによける間もなく…


ぐにゃああああっ


影が触れてきた瞬間、私は自分の生前の記憶を垣間見てしまった。

白いオフィス、終わらない残業、気づけば深夜。疲れ果てた帰り道。

「もし異世界転生できるなら、のんびりしたいなぁ」って呟いた自分。


「……ああ……そうか私、ほんとに疲れてたんだ……」

「おい!しっかりしろ!」


そんな私の耳に、ヴェリス先輩の声が響く。

はっとして、意識を取り戻した。


「未練、見えたか?」

「ちょっと、だけ……。やっぱ、こっちに来る前のこと、まだ引きずってるのかもしれません……」

「いいさ。“心の傷”こそが死者の証。俺たちは、未練があるから、立ち上がれるんだ」


それは重くて、でもどこか優しい言葉だった。


「先輩…ありがとうございます。包帯、ちょっとかっこよく見えてきました」

「ふっ……やっと俺の疼きを理解したか」

「でも歯ないですよね」

「……そっちには触れるな」


――その後、二人で影の魔力を分断・封印して、任務は完了した。


魔王城に戻る道すがら、私は思っていた。

こんなふうに、変な先輩たちと、変な任務をこなしていく毎日も案外悪くないかもしれないなって。

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