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転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
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いつか見た夜空

絵画の展示室から出て、向かいの展示室に足を踏み入れると、そこは本と巻物――スクロールが丁寧に飾られた、まるで図書館のような部屋だった。


白い壁に沿って、ガラスケースの中に並べられた本の数々。

床には深いグリーンのカーペットが敷かれ、ここもまた、落ち着いた空気に満ちていた。


「ベル?」


そっと近づいて、じっと展示物を見つめている彼女に声をかける。


「……これ、多分だけど、呪文書よ」


ベルはそう言って、ひとつの広げられたスクロールを指差した。

そこには、渦を巻くような図形や、幾何学模様が描かれていた。


「私も詳しいわけじゃないけど、この図形、魔法陣に似てない?」


ベルに言われて、私もそれをじっと見つめる。


「……うん、たしかに」


そう言われて、思い出した。

以前、沼地の拠点を開拓したとき、ユエルが転移用の魔法陣をスクロールに描いてくれた。あれに、どこか似ている。


「ってことは、この部屋は……」


私が言いかけると、


「魔法に関する本や記録を集めた展示室ってところじゃないかしら」


ベルは胸を張ってそう言った。


「なるほど」


それから私は、展示された本や呪文書をしばらく見て回った。

そのほとんどは古い書物のようで、本の題名も、図形と共に描かれた文字も、見たこともないものばかりだった。

ぐるぐると渦を巻くような、古代文字。

まったく読めない。


でも、もしここにユエルがいたらーー


――見て、ノア!これって失われたゲルシュタット文明の文字で書かれた呪文書だよ!信じられない……こんな貴重な文書が残ってるなんて。え?わからない?も~仕方ないな、じゃあ説明してあげる……


という感じで、きらきらした目でこの本を見つめ、延々と語っていそうな気がした。

そんな姿を想像して、つい口元がゆるんでしまう。

そのあと部屋を一周してみたけど、何かが光るとか、そういう異常は見当たらなかった。

仕掛けは、ここにもなさそうだ。

次の部屋に進むことにした。



―――



左右の部屋は見終わったので、回廊を進み、さらにその先の左右の部屋を調べることにする。

まずは、向かって左の展示室。

そこは、夜空のような絵が天井に描かれた、天文学に関するものを集めたような部屋だった。


展示室の真ん中には、大きな天体望遠鏡のようなものが置かれ、天井から吊るされたガラスの球体は、まるで星を模したようにきらめいていた。

展示物もたくさんあって、星の位置を示した古い図や、今までの天文学の歴史を記したような書物などが展示されていた。

その中で、サザが一枚の大きな絵画の前に立ち、じっと見つめていた。


「サザ、何を見てるの?」


声をかけると、サザは振り返らずに答えた。


「星座だ。ここに描いてある」


目の前の大きな絵画には、夜空のような絵が描いてあった。

それを指差しながら、サザは言う。


「……あれが、グリフォン座。むこうのが、エルマー座。あとはペガサス座に、グリム座……」


地球の星座では、聞きなれない名前ばかり。

けれど、どれも壮麗で空想の生き物みたいな名前ばかりだった。


「母さんが教えてくれたんだ。昔な」


ぽつりと呟いたその声が、静かな部屋に落ちる。


「星が見える夜に、指差してひとつずつ教えてくれてさ……全部、覚えてるわけじゃねぇけど」


サザの横顔は、少しだけやわらかい表情をしていて、だけどどこか遠くを見ているようだった。

それはきっと、サザにとって大切な思い出なのだと思った。


「……素敵だね」


私はそっと言った。


「こっちの世界の星座って、どれも壮大で幻想的で……すごくロマンがある感じ」

「……そうか?」


サザがちらりとこちらを見る。


「うん。私のいた世界では、聞いたことのない星座ばかりだよ」

「へぇ。お前の世界の星座って、どんなのがあるんだ?」

「カニ座、とか」

「……か、カニ?」


サザの眉がぴくりと動いた。


「う、うん……。あとは、みずがめ座とか」

「みずがめって、お前、あの水入れるやつか?」

「うん、そう」


私の言葉に、サザは少し怪訝な顔をして黙り込んだ。


え……変?なのかな?


サザは腕を組み、難しい顔で「そっちの世界、よくわかんねぇな……」とつぶやく。

私は考えた。

こっちの星座が“グリフォン”とか“ペガサス”に対して、“カニ”や“みずがめ”って……たしかに、ちょっと地味かもしれない。

こっちの感覚で例えるなら、“たわし座”って言われたようなものかも……。


私は難しい顔をしたままのサザに言う。


「あっちでは、たぶんそういうのが“親しみやすさ”だったんだと思う」

「ふーん……。星に親しみか……」


サザは、納得したのかしてないのか、そうつぶやいた後、もう一度壁の絵画に目を戻す。

今、サザの目に映っているのは、いつか母親と一緒に見た星空だろうか。

その記憶が今でも胸の中で灯っているのだとしたらーーとても、素敵なことだと思った。

私はそっとサザの隣に立って、同じ空を見上げた。

ここは知らない世界だけど、空を見上げて誰かを思う気持ちは、きっと同じだと思った。



挿絵(By みてみん)

リアクションとても嬉しいです。これからも頑張って書きます!

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