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転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
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村長と孫娘


村長宅にてーー


「……待て、落ち着け、ベル!」


おじいちゃんーー村長さんの手が、ベルの腕をそっと掴んだ。

けれど、ベルはそれでも意思を曲げなかった。


「もう、我慢できないのよ!」


その声は震えていた。

怒りに、悲しみにーー強い感情に呑まれそうになりながらも、必死で我慢しているのが伝わってくる。


「行くって決めたの!私、もう……誰かを見送るだけなんて、嫌なの!!」


その言葉に、村長さんの表情がわずかに曇る。

私、サザ、リュカさんーー三人とも、言葉を挟めずに、そのやりとりを見つめていた。

しばらくの沈黙の後、村長さんは目を伏せ、低くつぶやいた。


「……言っても聞かぬというならば、仕方ない」


そして、ゆっくりと顔を上げた。


「かくなる上はーーわしを倒していけ」

「……え」


思わず、声が出た。

隣でサザとリュカさんも聞き間違いか?という顔をしている。

えっ、本気なの?


「表に出るのじゃ、ベル」

「……いいわ。今日こそちゃんと、私の気持ちを聞いてもらう」


ベルの声は静かだった。

静かすぎて、むしろ胸に響く。

私たち三人も、慌ててそのあとを追う。


家の前に出ると、夕焼けが地面を赤く染めていた。

空はゆっくりと夜に近付いていて、その間に立つふたりの姿が、なぜだかとても大きく見えた。


「そもそも!」


はじめに動いたのはベルだった。叫んで走り出し、地を蹴って高く跳ぶ。


「おじいちゃんが父さんを止めていればーーこんなことには、ならなかったのよ!」


そう言って、村長さんの顔面めがけて、拳を振りおろす。

けれど、村長さんは腕をクロスしてそれをがっちり受け止めた。


「止めれるもんなら、止めたかったわい!だがな、あやつの想いは本物じゃった!」


クロスした腕をブンッと力いっぱい開いた。

衝撃波が起こり、風と共に、砂埃が吹きすさんだ。

私は腕を顔の前に構えて、砂埃をなんとか防いだ。

ベルも吹き飛ばされたが、空中で一回転し、膝をつきながらしっかり着地した。


村長さんの目が、赤く光った。

まるで、吸血鬼の本気の戦闘モードといった雰囲気だ。


「お前は、わしのたったひとりの家族……!」


村長さんの両手に、黒いエネルギーが渦巻き始める。


「――そう簡単に、許すわけにはいかぬ!!」


両手を前に突き出すと、黒いエネルギーは波動球となって、ベルに向かってゴォッと真っ直ぐに飛んでいく。


「私はもう、子供じゃないわ!!」


一方のベルはそう言うと、自分の影を掴んでーーそこから、ハンマーを引きずりだした!?しかも、黒くて禍々しい、なんかすごくかっこいいやつだ。


ブンッと彼女のハンマーが円を描くように振られ、波動球にドガッと当たる。

村長さんの波動球は空の彼方に打ち返された。

矢のように飛んだ波動球は、空のはるか彼方で爆散する。

その煙の軌跡を見つめながら、私はぽつりと言った。


「……ねえ、ふたりとも、なんか……めちゃくちゃ強くない?」


リュカさんが肩をすくめた。


「長く生きた魔族は強いよ。あれは全部、吸血鬼の魔法だね」

「えっ、吸血鬼ってあんなことできんの?」


とサザが素で驚く。


「体術ばっかりやってるからでしょ。君も真面目に魔法の勉強してみたら?」

「まじかよ……」


と、話している間にもベルと村長さんの戦いは激しさを増していった。


「……もう、うんざりなのよ」


ベルの声が夕暮れに溶けた。


「こんな村の因習も、黙って従い続けるのも。なにもかも、全部!」


振り上げたハンマーが、怒りと悲しみをのせて唸りを上げた。

村長さんは、それに対して何も言わず、腕を前に突き出し、黒い光で盾のような魔法を展開した。

闇の魔力が凝縮して、まるで金属のような重厚さを持った、吸血鬼の最強のシールド。


「だから……私が壊す!」


ベルが叫ぶ。

足を踏み込んで跳び、全力で振り下ろされたハンマーが、村長のシールドを直撃する。

ビキビキビキッと、黒い盾に亀裂が走った。


「な、なにっ……!?」


村長さんの目が、驚きに見開かれる。


「おじいちゃんにだってーーそれは止められないんだからっ!!」


そしてベルの叫びと共に、ハンマーが弧を描くように振り抜かれた。

ガシャアアアン!!と、盾が砕け散り、衝撃で村長さんが吹き飛ばされた。

自宅の木造の壁を突き破り、姿が見えなくなった。

もうもうと舞う粉塵の中で、キッチンのフライパンが壁に掛かっているのが見えた。


「村長さんが!」


思わず私は叫んだ。


「し、死んだんじゃねぇか……?」


と、サザも顔を引きつらせる。


「いや、あのくらいでは死なないよ。吸血鬼はタフだからね」


リュカさんの言う通りだった。


崩れた自宅の床にめり込んだ村長さんの身体が、ゆっくりと瓦礫を押しのけながら起き上ってきた。

服は破れ、髪は乱れ、ひげもぼさぼさになっていたが、それでもまだその目は、赤く光っていた。

そしてベルの前にもう一度、立ちはだかった。


ベルもかなりボロボロだったが、まだハンマーを持っていた。

村長さんを警戒し、もう一度、ぐっとハンマーを両手で握りしめる。

しかしそこで、村長さんがカハッと咳をひとつして、片膝をついた。

肩が上下し、荒い息が漏れる。


「はぁ……はぁ……こんなに強くなっていたとはな……ベル……」


息の隙間からふっと笑みがこぼれる。


「さすがは……バルトの娘じゃ……」


その言葉に、ベルがぴたりと動きを止めた。


「……おじいちゃん……」


ゆっくりと、手にしたハンマーを下ろす。


「ベルには本当に……たくさん我慢ばかり、させてしまったのう……すまん…すまん……!」


村長さんの声が震える。目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

ベルは、ガランとハンマーを取り落とし、村長さんに駆け寄った。


「おじいちゃんのバカっ!」


勢いよく、村長さんの身体を抱きしめる。

その小さな背中が、ぐっと震えた。


「おじいちゃんがいなきゃ……私だって、絶望してた。おじいちゃんがいてくれたから、今日までちゃんと生きてこれたのよ……!!」


「ベル……」


村長さんもまた、震える手でベルの肩を抱きしめ返していた。

しばらくして、ベルは村長の胸から顔を上げて、まっすぐに目を見つめた。


「……だから行くの。これから先も、胸を張って生きていくために」


その言葉を聞いて、村長さんは目を閉じ、ぐっと歯を食いしばった。

そして、静かにまた涙を流す。


「強くなったな……ベル。お前の父親よりも……わしよりも、ずっと」


すると、ベルが小さく笑った。


「当たり前でしょ。おじいちゃんの孫なんだから」



……私はそれを、涙をこらえながら見つめていた。


「うう……ベル……村長さん……」


気が付けば、鼻をすすっていた。涙が、ぽろぽろこぼれてくる。

隣でリュカさんは、にんまりしながら顎に手をやり頷いている。


「感動的だね~。これが家族の絆ってやつ?」


そのまた隣では、サザが腕を組んで考え込んでいた。


「……吸血鬼って、こんな感じなのか……?」


私たちはそれぞれ気持ちを受け止めながら、ベルと村長をいつまでも見つめていた。



―――



次の日の朝、私たちはベルの半壊した家で朝ごはんを頂いた。

焼いたパンとあたたかいスープ。

朝日の中で食べたご飯は、なんだかとても特別に感じた。


旅支度を整えて、城に向かう前、ベルは村長さんともう一度ちゃんと抱き合って、泣いて約束していた。

“絶対に戻ってくる”と。


――だから、今ここにいる。

私たちは一緒に山の上の城を目指して歩いていた。


「ねぇ、ベルちゃんってさ~」

「ベルでいい。ちゃん付けしないで」


即答だった。ピシッと、目が鋭い。


「……あ、はーい。じゃあベルさ~」


リュカさんがめげずに話しかける。


「ほんとは何歳なの?」

「…………は?」


その瞬間、ベルの目がスッ……と細くなった。

私はふと思い出す。

吸血鬼って、年取るのすごく遅いんだっけ。

ベルはこの村で生まれたみたいだし、ええと、実際は……?


「ベルは10歳だけど?ずっと前から10歳だけど?」


ビシイィ…とした、聞くなオーラがその視線と言葉から感じられた。

この話題は、もう二度と出さない方がいいみたいだ。

「そっか~」と、リュカさんは笑っている。

サザが、ぼそりと呟いた。


「……えらいメンバーになったな……」


私は思わず苦笑いしたけど、不思議と胸の奥が温かくなった。

大変な旅になるのは間違いない。でも、みんなとならきっと。


「……あそこね」


ベルが立ち止まり、山の向こうを指さした。

山道はすでに、緑の丘から岩だらけの急斜面へと変わっていた。

バルトサング山。

吸血鬼の村を囲むようにそびえる、いくつもの小さな山が連なったような巨大な岩山。

谷を挟んだ向かいの山の中腹に、私たちはそれを見つけた。


――黒い尖塔がいくつもそびえる、古城。

恐ろしくも、どこか優雅さを感じさせるその城は、ごつごつした岩山の中で異彩を放っていた。

城の足元には、蔦の絡まる跳ね橋があった。

私たちが見ている目の前で、それがギギギ……と音を立てて、ゆっくりと降りていく。

コウモリが、鳴き声を上げながら、その跳ね橋のそばを飛び立っていく。

冷たい風が吹き抜ける中、跳ね橋は、ゆっくりと降りていく。そしてーー


ズシン。


橋が完全にかかる音が、谷全体に響いた。

まるで私たちを歓迎しているかのように。


「ここが、ファウストの城……」


跳ね橋のそばで、城を見上げた。

それは近くで見ると、ずっと大きくて不気味だった。

この先に試練がーーそしてファウストが待っている。

私たちは、ついにその城に足を踏み入れるのだった。


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