表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
62/269

堪えていたもの

翌朝、私たちはそれぞれ手分けして、村の人たちの話を聞いて回ることにした。

目的はひとつ。

ファウストの城、そして試練について、少しでも何か情報を得ること。

……だったんだけど。


「……うーん」


手元のメモを見つめながら、私は唸った。

なんだか、頑張った割には、「わからないことがわかった」って感じになっている。

例えば、わかったことその1。

村に住んでいる吸血鬼は、今はざっくり100人くらい。


その2。

ここに来た理由は人それぞれで、サザのように彷徨った末に辿り着いた人もいればーー


「人間の家族と暮らしてたんだけど、吸血鬼になってしまって……」

「恋人と来たけど、人間だったから先に死んじゃって……」


なんて話もあって、聞いてるこっちが胸に来るような話ばかりだった。


あと、その3。

城に挑戦しようとする人は、思っていたよりもずっと多いということ。

吸血鬼になったことを受け入れきれない人たちが、どうしてもファウストに会いたくて、城を目指す。

そういう人は、村に来てもそんなに長くは暮らさずに、城に向かうのだという。


そして肝心の試練の内容についてだが、


「何人で挑戦してもいいらしいよ」

「武器の持ち込みも別に制限されてないらしい」


とのこと。

でも、どんな試練かはやっぱり誰も知らなかった。

村長さんにもう一度聞いてみたけど、「分からんのう」と優しい声で言われてしまった。

無念。

私たちの旅は、謎だらけのままだ。


「こんなところかな」


ひとり呟いて、私は集合場所に向かって歩き出す。

リュカさんとサザが、何か有益な情報を掴んでくれていると良いけど……。

と、そのとき。


「……なにしてるのよ」


咎めるような声に、ビクッとなった。

見るとそこにはやっぱり、ベルがいた。

腕を組んで、こっちをじろりと睨んでいる。


「あ、ベル。えっと、その……情報を集めてたの。城の試練のこととか。でも誰も、よく分からないみたいで」


私がそう言うと、ベルはちょっと呆れたようにため息をついて言った。


「当たり前でしょ。ここに残ってる人たちは、誰も城に挑戦しようなんて思ってないんだから」


……それもそうか。

この村に住んでる人たちは、たぶん「ここで生きていく」って決めた人たちだ。

無理もない。挑戦する人たちは、たぶんもうーー


「だいたい、あなたはなんでついてきたの?」


腕を組んだまま、ベルがぴしゃりとそう言った。真正面からまっすぐに。

私は、ちょっとだけ言葉に詰まる。でも、気持ちは決まっていた。


「だって、サザが行くって言うから、ひとりで行かせられないよ。それに、ファウストって人がなんでこんなことしてるのか、知らなきゃいけない、って……」


そう言いかけたところで、ハッとした。


……あっ、しまった。

ファウストは“血の契約魔法”で吸血鬼たちを監視してる。

ってことは、私、今、けっこう危ないこと言いかけたんじゃない?

アラン様の指令で調査してるってことは、秘密のはずなのに……。

いや、待てよ?そもそもサザも、血の契約魔法を受けてるんだよね?

ってことは、サザの目を通して、全部筒抜けなんじゃ……?

いや、でも、これまで何もされてないってことは、たぶんそこまで気にしてないってことなのかも……?


考え事がぐるぐるしてきて、目までぐるぐるしてきそうなところに、ベルの声がかかった。


「……それだけの理由でついていくの?」

「え?」


私が見ると、ベルはどこか、思いつめたような表情をしていた。


「ファウストは……楽しんでるだけよ」


話す声には、苛立ちがこもっていた。


「そうやって無謀に挑戦する人たちを見て、にやにや笑ってるの。試練だって、本当は突破させる気なんてないに決まってる……!」


わずかに震える声で、ベルは言う。


「なのに、なんで行くのよ……あなたも、あいつも……それに父さんだって……!」


ベルは、怒ってるんじゃない。

やっぱり、すごく、すごく心配してくれているんだと思った。


「……ベル、ありがとう。でも、私は行くよ」


そう言ってから、胸の中にある言葉を、ひとつひとつ手渡すように続けた。


「大変なことになっちゃったってことは、ちゃんとわかってる。でも、ふたりと一緒なら。きっと乗り越えられる気がするんだ。だから……えっと、その……心配しないで。必ず、戻ってくるから」


ベルの顔がぎゅっと曇った。


「だからっ……!なんでそんなに、父さんみたいなこというのよ!」


その叫びは、怒りと言うよりーーほとんど泣き声みたいだった。


「“必ず戻ってくる”って言葉を、今まで誰も、守ってくれなかったんだから!」


私は返す言葉が出てこなかった。ただ、胸の奥がぎゅうっと締め付けられて、

ベル……と、彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。

そのとき、背後からのんびりした声が響いた。


「どーしたの~?」


振り返ると、リュカさんが手を振りながらこっちに歩いてきた。そしてーー


「……あー、むっとしてるベルちゃん発見~」


にんまりと笑って、まっすぐベルに目を向ける。


「なんかベルちゃんってさ、サザにちょっと似てるよね?」

「えっ!?!?」


思わず変な声が出た。な、なに突然言い出してるんだこの人!

今までの流れをちゃんと考えてほしい。

でもーーうん、サザか……たしかに、わかるような気もする。

言われてみれば、素直じゃなくて、強がりで、でも根はまっすぐで……たしかに、似てるかも。


「なによ」


ベルが低い声でそう言って、私とリュカさんを睨みつける。

それは、猫がフーッと威嚇するのにちょっと似ていた。

けど、リュカさんは全く気にせず、いつもの調子で笑って言った。


「そんな顔しないでよ~。ね?信じててよ。ちゃんと戻ってくるからさ」


その言葉に、ベルがさらにむっとする。


「……あんたもなの……」


そうしているうちに、もうひとりの足音が聞こえてきた。


「……うおっ」


ちょっとした悲鳴のような声をあげて登場したのはサザだ。

その顔には、何だろう、「やべっ」というか、「うげぇ」というか、まさに、めんどくさいものを見たという表情が浮かんでいた。

口も眉もへの字だ。

そんなサザの様子に、ベルがぴくりと眉を上げて、低い声で言った。


「……なに?」


その一言に、空気がぴんと張りつめるのを感じた。

サザは、すこし逡巡するように黙り込み、それから、はぁ、と諦めたように息を吐いた。


「……死ぬつもりはないからよ」


その言葉に、私は思わずサザを見た。


「俺は、ちゃんと戻るつもりだから」


サザの目は、まっすぐだった。

言葉に重みがあって、強がりでも、適当でもなかった。

ベルの気持ちがちゃんとサザにも伝わっていたのだと思うと、私はなんだか嬉しかったが……ベルは、静かに俯いた。そして、


「……もうやだ」


ぽつりと、ベルが言った。

小さな声だったけど、なんだかとても深いため息みたいだった。

そのまま、ベルの肩が震えはじめた。


「もう、ほんとうんざり……」


最初は独り言のようだった。

でもだんだん声が大きくなる。


「私が何年こうして人を引き留め続けてると思ってるの……?」


ベルがぎゅっと拳を握りしめる。


「……だれもかれも、帰ってくると言いながら、帰ってこない。なんのつもりなの?私は何人見送ればいいの……?」


言葉は疑問形だが、込められているのは疑問ではなく激しい怒りだと思った。

ベルから、黒いオーラが立ち上がっているかのように感じた。


「いいかげん、我慢の限界なのよ……!もういや!!」


そう叫ぶと、ベルは顔をぐっと上にあげてーー


「聞いてる!?ファウスト!!」


突然の大声。私は思わず背筋を伸ばす。


「あんたのこと、一回殴らないと気が済まないわ!!」


はっきりと怒りを込めて、村の空気を突き破るように言い放ったベル。

そして、そのままーー


「私も……城に行く!!!」


「ええええぇぇぇ!?」


思わず私も声を上げていた。

サザとリュカさんも、たぶん同じ気持ちだ。

完全覚醒してしまったベルは、もう止まりそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ